小林信彦の「ドリーム・ハウス」

jpeg000 126小林信彦の「ドリーム・ハウス」を再読了。1992年の作品です。ある作家が、死んだ母親が残した土地に新しい家を建てて恋人と住もうとして巻き起こる様々な事件をホラー風に書いた小説です。
小林信彦の作品で、明示的に主人公がちゃんとした作家(放送作家ではなく)というのはこの作品以前では珍しいのではないかと思います。この作家の独白で興味深いのは、モデル無しに人物を造形することが不得意と言っていることで、これは私が小林信彦に対して感じていたことと一致します。小林信彦の小説に出てくる人物は、まったくフィクシャスなものが少なく、どこかにモデルがいるようなものが多いように思います。
この作品については、文芸評論家の福田和也が「52点」という低い点をつけているみたいです。私はそこまでは悪くないんじゃないかと思って読み進めていましたが、唐突な終わり方には疑問を感じました。また、「世界でいちばん熱い島」に続いてまたしてもフェティシズムが取り上げられていますが、「世界でいちばん熱い島」と同じくフェティシズムを素材として使う必然性が感じられません。この「フェティシズム」は主人公の高校の同級生というDDの特性として使われていますが、このDDの性格がいまひとつはっきりしません。にも関わらず、さらにはこのDDの偽物が登場しますが、この偽物の謎については最後まで明らかにされていません。この作品が文芸誌に掲載された後、読者からそれについて質問があったようなのですが、それに対し作者は後書きのようなもので「読者のレベルが低い」のようなことを述べており、傲慢さに鼻白みました。
なお、新築の家で裏庭が大雨で崩れるというのは、小林信彦が葉山の家で実際に経験したことが元になっています。
「東京で家を建てるのにまつわる苦労」を書こうとした着想は評価できても、全体としては求心力に欠けていて、成功した作品とは言い難いと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です