白井喬二の「祖国は何処へ」[1]民人篇

jpeg000-7白井喬二の「祖国は何処へ」、第1巻(全9巻、春陽堂の日本小説文庫版、昭和7年11月発行)の民人篇を読了。昭和4年6月から昭和7年5月まで「時事新報」に連載されたもの。「富士に立つ影」と並ぶ長編で、白井喬二はこの二作品の他もう一作品を書いて、三部作にする構想があったみたいですが、結局最後の長編作品は書かれずに終わりました。
お話しは、天明の飢饉の頃、品川の海産問屋で仲仕小僧をしていた臺次郎(だいじろう)がふとしたきっかけで、海産問屋の隣の屋敷に住んでいた老中の息子水野忠七郎がある策を秘めて上野と信濃の国境に出かけていくのに付いていって、江戸を出奔します。臺次郎はしかし、すぐに水野の一行にはぐれ、折からの飢饉もあって、道中で飢え死にしかかりますが、金乃美(このみ)というある農家の娘より芋粥を恵んでもらい何とか命が助かります。その後、臺次郎は鏑木鱗平という田沼意次の甥の家来となり、水野忠七郎が上野と信濃の間の領地争いで、漁夫の利を得ようとするのを妨害しようとします。しかし鏑木はすぐに忠七郎に丸め込まれてしまいます。忠七郎は、実は二つの国の争いに乗じて、地方の藩の地下資源の採掘を幕府の権利にしてしまおうと目論んでいたのですが、その目的の為には一般大衆の迷惑も顧みず、地下の調査のため川を堰き止めてしまったりします。鏑木は元々村人に頼まれてそれを解決する筈だったのですが、忠七郎に出世の餌をぶら下げられてすっかり寝返ってしまいます。臺次郎は自らの判断で、川の堰の鍵を盗み出し、堰を開放して水を流して農民を救い、越後に逃げます。越後からさらに船で北陸に逃げる時に、金乃美と再会しますが、船は難破して大破してしまいます。臺次郎は金乃美の命を救って、その祖母と共に幸せに一緒に暮らすようになります。ところが、そこにまた水野忠七郎が、今度は石油の採掘を行おうとしてやってきて、小作人から田畑を取り上げます。臺次郎は知り合いの農民の命を救うために、中国製の最新式の水揚げポンプの秘密を探るため、忠七郎によって仙台に派遣されます。四ヶ月かかって、首尾良くポンプの秘密をつかんで臺次郎は新潟に戻ってきますが、そこでは金乃美が忠七郎の囲い者にされるという悲しい現実が待っていました。臺次郎は、忠七郎が石油が出ない土地で誤魔化して石油が出るように装って幕府の検査の役人を騙そうとしたのを、証拠をつきつけてその嘘を暴き、再びどこかに向けて逃走します。まだこれからどうなるかはわかりませんが、臺次郎が民衆の味方となって、権力者と対抗する、という骨格が見えてきたように思います。
なお、戦前の版ですので、当然旧字旧かなです。読みにくいかと思いましたが、別に問題はありませんでした。漢字なんかはむしろ総ルビで読みやすいです。

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