長山靖生編の「明治・大正・昭和 日米架空戦記集成」

長山靖生編の「明治・大正・昭和 日米架空戦記集成」を読了。タイトル通り、その時代の架空戦記を11作集めたもの。荒唐無稽過ぎたり、きわめて幼稚だったりというものも多いですが、いくつか印象に残るものがあります。まずは福永恭助の「暴れる怪力線」で、何が印象的かと言うと、東京がアメリカの大空襲を受けて4万人が死ぬという描写をしていることと、それと連合艦隊がアメリカ艦隊と対戦してこちらもほぼ全滅するという、ある意味現実に近いことを予想していることです。最後は秘密兵器の「怪力線」が出てきて日本が勝つわけですが。2番目は立川賢の「桑港けし飛ぶ」で、昭和19年に新青年に載った作品ですが、何と原子力エンジンによる飛行機と原子爆弾を的確に描写しています。その原子力エンジンによる飛行機でサンフランシスコを爆撃し、一発の原子爆弾でサンフランシスコを壊滅させ、アメリカを降伏に追い込むという内容です。日本も理研などで原子爆弾の開発をやっていたと聴いていますし、一般にも「ウラニウム爆弾」というのは知られていたみたいですから、さほど不思議ではないのかもしれませんが、軍部は最初は原子爆弾に関する小説は検閲で落としていて、戦況が悪化すると逆に許可するようになったということです。国民に最終兵器による逆転の夢を見させようとしたのでしょうか。最後は横溝正史の作で「慰問文」で、これは架空戦記というより、慰問袋を作って戦場に送る少女と、その慰問袋を受け取った兵士達との交流を描いたもので、露骨な戦争賛美はありません。しかしあの横溝正史も戦争中(昭和17年の作品です)はこんなのを書いていたんだと、ちょっと驚きです。作中に主人公の少女が焼夷弾が落ちてきたのを布団その他で消す、というシーンがありますが、今から考えるととんでもない危険なことですが、当時はこのように空襲に対処する、ということが信じられていたんだと思います。

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