Erin Meyerの”The culture map”

Erin Meyerの”The culture map”を読了。(日本語訳は、「異文化理解力」)
エリン・メイヤーは、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールであるINSEAD客員教授です。この本を知ったきっかけは、English Journalにエリン・メイヤーのインタビュー記事が載っていたことです。そのインタビューで、メイヤーが日本の企業について、日本はこの上ない階層社会だけど、決定プロセスは合議とコンセンサスに基づくもの(つまり稟議システムのこと)、そこで決定されたものはDecision(Big-D)でなまじ皆で時間をかけて決めたため、一度決まるとフレキシブルに変更することが難しい。一方でアメリカはフラットな平等主義の社会だけど、企業の決定プロセスはトップダウンで上から降ってくる。しかしそこで決まったものはdecision(small-D)で一度決めても状況が変わればすぐ変更される。といった内容に興味を覚えてこの本を買ってみたものです。
メイヤーは色々な国のビジネス文化を評価・比較するために8つのスケールを持ち出します。
1.コミュニケーションのやり方-簡単で直接的なコミュニケーションを良しとするか、高度な文脈を持った含蓄のある(けどわかりにくい)コミュニケーションが一般的であるか。
2.人の評価方法-ネガティブな評価をダイレクトに伝えるか、遠回しに伝えるか。
3.説得の仕方-原理原則で相手を説得するか(演繹的)、具体的な事実・意見を先に行って説得するか(帰納的)。
4.リーダシップのあり方-平等主義的なリーダーシップか階層的・権威的なリーダーシップか。
5.企業での決定方法-全員のコンセンサスを重視するか、トップダウンでの決定か。
6.人への信頼-あくまでビジネスライクか、個人としての付き合いをビジネスでも重視するか。
7.意見が違う時-対立的か、それとも全体の和を重視するか。
8.時間感覚-きちんとスケジュール化してそれに従うか、成り行きに任せてフレキシブルに対応するか。
日本については、
(1)この上ない程、高度な文脈を持ったコミュニケーション(空気を読む、忖度)
(2)ネガティブな評価はオブラートにくるんで直接的な非難の表現をほとんど使わない
(3)具体的な事実・意見を重視した説得プロセス、原理原則から論じない
(4)かなりの部分階層的で平等主義ではない
(5)コンセンサスを世界でもっとも重んじる
(6)仕事に割切った人間関係というより個人での関係をかなり重視する
(7)ともかく対立を忌み嫌うことでは最右翼
(8)かなり時間に几帳面で正確
となっています。
この本を批判するとすれば、(1)この8つの尺度を持ち出すのが適当であるかどうか(2)その尺度に従った各国の評価がどの程度当てはまっていて、またその国全体に一般化してOKかどうか、という点で可能と思います。私の意見では(1)についてはこの8つはかなりいい線を行っていて、実際にビジネスを行っていく上で非常に重要な尺度が良く集められていると思います。(2)については、個別の会社ではそれぞれ文化が違いますし、過度な一般化は危険なようにも思いますが、ある程度は参考になる評価だと思います。細かく見ると、8.の時間感覚で、ドイツの方が日本より時間にシビアで正確となっているのはまったく納得できませんが。(ドイツに行ってドイツの鉄道の運行時間の適当さにはうんざりしましたから。)また、日本の「コンセンサスを重んじる」ってのは、ちょっと稟議制だけを見た表面的な見方のようにも思います。
ともかく、中にちりばめられた具体的な文化の違いによるビジネス上のトラブルがとても面白く参考になります。たとえば欧州の人とアジアの人を集めたチームで、最初懸念された「欧州人対アジア人」ではなく、実は「中国人対日本人」の対立が一番問題になったとか。(8つの尺度で比較すると、中国と日本は実は同じアジアの国でありながらかなり違います。)国際的なビジネスに携わる人にとっては、ある意味必読の本と思います。
なお、オリジナルの英語版で読みましたが、辞書を引かなければならないのは1ページ辺り1~2回のレベルであり、Newsweekの記事なんかに比べるとはるかに読みやすいです。

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