吉川英治の「宮本武蔵」(戦前版)(二天の巻)

吉川英治の「宮本武蔵」の「二天の巻(全六巻中の第五巻)」を読了。この巻でも特に武蔵に愛国的な発言がある訳ではなく、多少目立つのは、小手指の古戦場で足利尊氏と新田義貞の戦いを振り返って、尊氏を明らかに逆賊として描写していること。足利尊氏が逆賊とされるようになったのは、水戸光圀が「大日本史」を表してからで、この武蔵の頃にそんな考え方はまだ存在しません。また、武蔵の弟子の伊織が朝日を見て「天照大神」と叫ぶこと。いずれの点もGHQに検閲される程のものではありません。
ちなみにこの巻では、佐々木小次郎が主人公が強くなるのに合わせてこちらも強くなり、ついには小野派一刀流の始祖であり、柳生家と並んで将軍の師範であった小野次郎右衛門忠明まで破ります。もちろん史実にそんなことはないと思います。ちょっとこの小次郎の描写で思うのは「巨人の星」に出てきた速水譲次の性格設定と良く似ていることです。これまでの日本の大衆小説では、机龍之助のようなニヒルで冷酷な剣士か、あるいは富士に立つ影の熊木公太郎のような明朗快活な剣士かでしたが、それに比べると新しいキャラクター設定のように思います。
後一巻になりましたが、Wikipediaに書いてある、「武蔵が愛国心を語る場面」は最後まで出てこないように思います。削除されたのは、残酷さが行き過ぎている描写とかそういう所ではないかと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA