NHK杯戦囲碁 呉柏毅 5段 対 謝依旻6段


本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が呉柏毅 5段、白番が謝依旻6段の対戦です。解説は林漢傑8段で両対局者と併せ3人とも台湾出身という珍しい組み合わせです。最初は黒の呉5段が穏やかに打っていましたが、白が下辺を拡げた時黒が打ち込んで行って、そこから戦いが始まりました。打ち込んだ黒と、右下隅から延びた黒と、白は両ガラミでの攻めを狙いましたが、白も下辺の白が右下隅との連絡を絶たれたため、お互いが「そちらが攻められているんですよ」と主張しあう戦いになりました。その攻防で白が右下隅から延びた黒の飛びに付けていったのが強手であるのと同時に危険な手で、その後黒が右辺の白に割継いだ時、白が右辺を継いだのが打ち過ぎで、付けた石に黒から跳ね出され白も下辺からの石に眼が無く、攻め合い含みになりました。しかし黒は白の上方の石を取りかけに行きました。これは正しく打てば白の数子は取られていて、同時に白の下辺からの石が死ぬので、終わっていました。しかし、ここで黒の痛恨の読み抜けが出て、白の数子が黒2子を取って大いばりで脱出してしまいました。黒はそれでも何とか気を取り直し下辺の白との攻め合いに行きました。この攻め合いは劫になり、黒が劫に勝って白の15子くらいを取り、代償で白は黒地だった左下隅を取りました。この結果は白が優勢で盤面でもいいという形勢になりました。黒はヨセで逆転を狙いましたが、上辺と左辺の攻防ではお互い荒らし合いになりましたが、結果は白が得したようです。結局白の7目半勝ちでした。今期のNHK杯戦はこれで女流棋士3人が2回戦に進み、男性棋士に遜色のない実力を見せつけました。

NHK杯戦囲碁 張豊猷8段 対 石田篤司9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、高校野球(神奈川決勝)のため、15:30から。黒番が張豊猷8段、白番が石田篤司9段の対局です。石田9段は実に10年ぶりのNHK杯戦出場とのことです。序盤で右下隅で、白のダイレクト三々に黒が2目の頭をはねて、白が受けた後、すぐ斬り込んでいったのが、張8段の新手でした。結局黒が白1子をシチョウに抱えました。白は左上隅でシチョウアタリを打ち、黒が右下隅でAI風に1子を抜かずにふわってかぶせ、白が左上隅を連打する別れになりました。白はその後左辺で黒3子を取りました。その後の折衝で局面が動いたのは、黒が左下隅の白の三々にかかって下辺を拡げて来ましたが、白が受けて黒がさらに押した時に、白は手を抜いて下辺にすべりました。黒はそうすると左辺に割って入ることになり、その結果取られていた黒3子の動き出しが生じました。結果的に地合は白が良く、黒としては左辺で取られていた3子を動き出したことにより中央に浮いた白と、右辺の白の間を裂いて、カラミ攻めにし、どれだけ得を得ることが出来るか、という展開になりました。右辺の白は黒から打ってもギリギリで活きていましたので、黒は右辺の白に利かせてから、左辺の白の急所に置いて眼を取りました。結局、この白が活きるか死ぬかの勝負になりましたが、黒が打ったギリギリの手が奏功し、最終的に白はどうしても二眼が作れず、大石が死に白の投了となりました。張豊猷8段らしい、攻めの鋭さが光った一戦でした。

NHK杯戦囲碁 小池芳弘4段 対 鶴山淳志7段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が小池芳弘4段、白番が鶴山淳志7段の対戦です。小池4段は21歳で昨年19連勝という記録を作り、NHK杯戦に初出場です。先日プロ棋士でのAI風の手の流行を紹介しましたが、この碁でもダイレクト三々が2隅で出て来ました。そのせいもあってこの碁は右半分は打ち切ってしまった感じで左下隅~左辺~左上隅~上辺が戦いの場になりました。中でもポイントとなったのは左下隅の白で、黒に包囲され、単に活きるのは難しくありませんでしたが、逆襲気味に強く打ったのが奏功し、特に黒の一間トビに割り込んで当てに継がずに当て返して、更にじっと延びるかと思ったら抜かれた所に当てたのが強手で、結果的に成功しました。黒から切って劫にする手がありましたが、黒は劫材が少ないため決行出来ず、白の言い分が通りました。その途中で黒は上辺で白を切っている石を引っ張り出しましたが、中央の折衝で白が厚くなった結果、この動き出した石は最終的には取られた形になりました。それでも左上隅は劫にはなりましたが、2手ダメを詰めて更に2段劫であり、話が遠かったです。結局上辺の切った石だけでなく左上隅の黒も取られてしまい、ここだけで60目以上の白地になりました。黒は劫の代償で右下隅を地にしましたが足らず、白の中押し勝ちになりました。

最近のプロ棋士の碁でのAI風の手の流行について

プロ棋士による「AI風」の手の流行について。
ずっとNHK杯戦の囲碁を見ていますが、最近のプロ棋士の間での、AI風の手の流行ってかなりのものがあります。そういう手が一手もない対局はもうほとんど無い、と言っていいと思います。それらの代表が、5つほど画像でアップしたようなものです。(いずれも局面によっては今までもあったものですが。)これらの手に共通して言えることは、「相手の応手が極めて限定されており予測しやすい」ということだと思います。最近のAIの碁のアルゴリズムの特長は、モンテカルロ法+ディープラーニングだと言われています。この内、モンテカルロ法は、「全ての手を最後まで読み、それにより優劣を判断する手法」と言われます。しかしこの説明は半分間違いで、いくらコンピューターが進化したといっても、19X19の着手点がある囲碁において、着手可能な手の組み合わせを限られた時間ですべて網羅してシミュレートすることは不可能です。なので何らかのアルゴリズムを使い、候補手を絞り込んだ(枝刈りを行った)上での限定モンテカルロ法です。この場合、AI囲碁にとっては、相手がどう応じるか分からないような手であると、それだけ読む量が増えてしまい、結果的にはそれぞれの候補手を十分計算出来なくなります。従ってAI囲碁にとっては、ともかく相手の次の応手がはっきりして限定されている手の評価が必然的に高くなります。それがここに挙げたような5パターンの手であり、いずれも相手の応手はかなり限定されます。例えば肩付きであれば、手抜きを除けば相手の着手は這うか押すかのどちらかです。このことはAI囲碁の候補手の刈り込みにとって大きなメリットがあります。


しかし問題なのはある局面において、そういうAI囲碁にとって都合の良い手が、その局面における最善手とは限らない、ということです。一番最後の画像は、有名な棋聖秀策の「耳赤の一手」(黒27の手)というもので、古来より3つの目的を持って打たれた名手と言われています。しかし、おそらくAI囲碁から見れば、こうしたぼんやりした手は相手の応手が極めて幅広いため、必然的に候補からは排除されてしまうのではないでしょうか。(もちろん時間制限が緩ければ、こうした手を読むことは可能でしょうが、通常はほぼ無いと思います。)故安永一氏は、この一手に対し「つくづく碁は単に計算だけの問題でない気がする。」とコメントされていますが、まさに同感で、AIではない人間が打つ碁はこうあって欲しいと思います。
AIが登場以後、プロの碁である局面の形を決めてしまわず、後の展開によって打ち方を決めるために残しておく、という味わい深い打ち方が減ったように思います。これはある意味では退化だと思います。まあAI囲碁に関してはそのあまりの短時間での進化でショックが大きかったのは分かりますが、もうそろそろ醒めた見方をする棋士が増えて欲しいように思います。故藤沢秀行名誉棋聖は、神様から見たら人間の碁は100の内の2か3ぐらいだと言いました。AI囲碁についてはそれを4か5ぐらいにし、人間を凌ぐようになりましたが、決して神のレベルになったのでは無いと思います。

黒先:桑原秀策 白:井上因碩幻庵 「耳赤の一手」

NHK杯戦囲碁 佐田篤史3段 対 上野愛咲美女流棋聖


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が佐田篤史3段、白番が上野愛咲美女流棋聖の対戦です。二人ともNHK杯は2回目で、どちらも初出場で一度勝っています。対局は左辺で競い合いが始まり、上野女流棋聖が再三強手を放ち、黒がやや利かされているという感じでした。戦いは中央から上辺へと拡大しました。上辺を白は延びておけば普通だったのをハネていったため、勢い黒も切り結び、お互いの大石の攻め合いの可能性もある複雑な局面になりました。結局左辺は活き活きになりましたが、その過程で下辺では黒が白2子を取り込んだ結果、右下隅から下辺の黒地が大きくなり黒が盛り返しました。しかし先手は白に回りました。その際に右辺を守りながら地を確保するのが普通で、それで白が悪くなかったと思いますが、白は右上隅に右辺から低いカカリという目一杯の手を打ちました。黒は当然間を割いていき、またももつれた局面になりました。その後上辺へと戦いが拡大し、結局黒が上辺の白の種石を取り、白は右上隅を全部地にするという振り替わりになりました。この結果は右上隅は30目以上で大きかったものの、他の黒地も大きく形勢不明で細かくヨセ勝負となりました。白はその後下辺に手を付けていきましたが、これは無理で結局下辺左側から少しヨセただけでした。黒はその後左上隅に置いていってそれを利用して上辺の白数子を更に取り込みました。しかし左上隅の持ち込みもかなりの損で、形勢不明は続き、結局左辺の劫が最後の勝負になりました。黒は白が劫立てで右辺の黒4子を当てたのに継がず劫を解消しました。更に左上隅で先ほど置いていった石を動き出し手にしようとしました。黒の狙いは劫に持ち込むことでしたが、白が1線に飛んで受けたのが好手で、黒の手にならず、ここで黒の投了となりました。先週に続き女流棋士の連勝です。

最近の碁石

久し振りに卓上の碁盤と碁石をAmazonで買いました。碁盤は想像通りで特に問題が無いのですが、碁石の方がひどいです。碁石の値段というのは黒石はどの価格のを買おうと那智黒という石で出来ていて同じで、白石(蛤製)で決まりますが、30号(厚さ8mm)で¥9,250という価格で写真のようなレベル。石を置く度に綺麗な面を選ばないと使えません。日向のハマグリは私の学生時代から絶滅寸前と言われていましたが、ここまでひどくなっているとは思いませんでした。こういうレベルのものは、昔は不良品であり、販売される事は無かったと思います。

NHK杯戦囲碁 趙治勲名誉名人 対 藤沢里菜女流本因坊


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が趙治勲名誉名人、白番が藤沢里菜女流本因坊の対戦です。趙名誉名人は藤沢女流本因坊のお祖父さんである故藤沢秀行名誉棋聖と第7期の棋聖戦(1983年)で激闘を演じました。その時、趙名誉名人は3連敗の後の4連勝で見事初の棋聖位を獲得しました。しかしその時藤沢秀行名誉棋聖は癌を患っていたことが対戦後に報道されました。その趙名誉名人が36年後に今度は秀行さんのお孫さんと対戦するというのは感無量です。対局は趙名誉名人が地を稼ぎまくり、藤沢女流本因坊が左辺に大模様を張りました。こういう展開は趙名誉名人の得意パターンで、地を稼げるだけ稼いで後からドカンと模様の中に打ち込んでしのいで勝ち、というやり方で、特に宇宙流の武宮正樹9段との対戦で多くの実戦例があります。しかしこの対戦では趙名誉名人が左辺で取り残された黒1子からはねて手を付けていったのに対し、白がコスミツケて受けたのが冷静な好手でした。これで黒はしのぎが困難になり、結局左辺は捨てて下辺の黒地を盛り上げる方針に切り替えました。しかし白の左辺の地は80目レベルになり、黒が大変な形勢でした。しかし左辺から下辺の黒に付けていったのが余計でぼんやり飛んでいる方が優りました。黒は中央をひたすら押していって壁を作り、右辺の白への攻めに賭けました。(写真は右辺の白に打ち込んだ場面)この右辺の白はプロなら死ぬような石では無く、白はあまりいじめられずに活きれば勝ちでした。しかし白が中央の黒を切っていって策動したのがまずく、一時は生死不明になり、黒のチャンスが来ました。しかし黒は決め手を逃し、結局白は眼二つながら、黒の右辺の地を大きく破って活きたのでこれで白が勝勢になりました。結局左辺の地は上辺で振り替わりがあって白が地を増やし、最後は100目の地になりました。結局白の4目半勝ちになりました。

NHK杯戦囲碁 安斎伸彰7段 対 山城宏9段


本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が安斎伸彰7段、白番が山城宏9段の中堅と大ベテランの対戦です。布石では左辺がポイントとなり、ここでどちらが主導権を握るかが最初のポイントでした。山城9段が左上隅の黒を上辺から挟んで活きを促したのに対して黒が手を抜いて左辺から中央に進出したのが機敏でした。しかし白は手厚く打って下辺に利かしを打ってから中央で出切りを敢行し、左辺の黒を封鎖しました。しかし黒は上手く先手で活きを確保し、右上隅と右辺で先行しました。白は右下隅に置いていって黒地の侵略を図りました。しかし白は封鎖され、黒が隅へ跳ねた時、2線にへこめば最低限効にはなりました。劫材は左辺の黒の活き死にに絡めていくつかありましたから、劫に行くのはあったと思います。しかし白はそれを選ばず右下隅の包囲網を出切っていき、左辺から延びる黒の一団を脅かしつつ一仕事しようとしました。(写真は白が左辺からの一団に対し、下辺で付けを打った所。)しかし白が出切った所を上から当てを決めたのがおそらく疑問手で結局右下隅は効にもならず黒地となり、また左辺からの一団もはっきり活きました。代償に白は下辺を破りましたが、この結果は黒の満足でした。その後しかし白は右上隅を侵略し、そこも効にして頑張り、上辺から右上隅の黒の全体を狙いました。しかし効の結果は継ぎ継ぎになり、白の右辺の一団が孤立しました。最後にこの白の一団が死んでしまい、白の投了となりました。

TV囲碁アジア選手権決勝戦 丁浩6段 対 シンジンソ9段

本日のNHK杯戦囲碁は、TV囲碁アジア選手権のためお休み。そのTV囲碁アジア選手権決勝戦です。残念ながら日本の井山裕太四冠王と一力遼8段は一回戦でそれぞれ敗退しました。決勝戦は中国の丁浩6段と韓国のシンジンソ9段の対戦になりました。
ともかくねじりあいに次ぐねじりあいの難解な碁で、正直な所私の棋力ではついていくのが大変でした。右辺の戦いで黒が中央を厚くし、それによって白の中央の7子を取り込んだ時は黒が優勢かと思いました。しかし、白は中央への利きを利用して下辺から左下隅を目一杯囲いました。黒は白模様に突入し、そこでまた攻め合い含みの難解な戦いになりましたが、結局双方が活き活きの形で収束しました。その形は白の利益の方が優りました。そこからヨセに入りましたが、盤面ギリギリくらいの形勢で差は縮まらず、最後は黒の投了となりました。国際棋戦でのトップクラスの碁はこのような本当に激しい戦いの碁が多いように思います。日本だと井山四冠王が形勢がいい時でも目一杯の手を打つので有名ですが、国際棋戦だとそちらの方がむしろ普通です。

NHK杯戦囲碁 清成哲也9段 対 関航太郎2段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が清成哲也9段、白番が関航太郎2段の対戦です。関2段はまだ17歳で、初出場です。清成9段は確か私と同じ歳で57歳だったと思いますので実に40歳の年齢差です。まあ囲碁棋士には90歳を超えて現役の方もいらっしゃいますが、NHK杯戦という選ばれた棋士だけの舞台では比較的珍しいかと。布石は清成9段の初手が目外しで、後で白がかかって来た時に大斜ガケより一路広い大大ケイマガケを打ったのがちょっと珍しかったです。白がコスんで頭を出し黒が右辺を受けた後、白が黒の左上隅の大ゲイマシマリに付けていったのが今風でした。ここの折衝で黒は左上隅にかなりの実利を稼ぎ、白は代償に上辺で厚みを築き上辺を目一杯開きました。この上辺の折衝で黒が白の厚みの断点を覗いていったのに白が反発し、結局攻め合いになり、白が黒の数子を取り込みました。黒は取られた石を活用し上辺から利かすかと思いましたが、中央から利かしました。この結果黒は中央と左辺がつながり厚くなりましたが、白も上辺と右上隅がつながりました。その後黒は中央右の石の安定を図るため白2子を切り離して取り込みましたが、黒が何手かかけている間に白は下辺を大きく模様にしました。しかし黒は中央に眼の無い白の一団がありこれを攻めることで下辺は荒らせるとのことで、まず右下隅の三々に入りました。黒は上辺で劫立てが多く効には負けないとのことで下辺をハネた後効は歓迎とのことでカケツぎました。白は効には行けず妥協した手を打ちました。黒は白を切っている石を動き出し、この辺りは黒が順調だったと思います。この碁の焦点はその後の下辺の折衝で、下辺中央に開いた白に黒が付けていった時です。普通は白は伸びるくらいですが、白はハネ返しました。その後黒は今度は左下隅に付けていき、黒が上手くさばいたかと思いましたが、下辺で黒が白1子を当てた時、継ぎを打たずに中央の白に連絡したのが白の勝負手でした。その後色々ありましたが黒が下辺の黒を攻められた時、右辺を重視して下辺を捨ててしまったのが不可解でした。左下隅もすべて白地になっていたため、下辺と左下隅で90目くらいあり、多少右辺を地にしてもこれでは黒は勝てません。結局白の中押し勝ちで、関2段は初勝利を挙げました。