NHK杯戦囲碁 村川大介9段 対 河野臨9段(2022年9月18日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が村川大介9段、白番が河野臨9段の対戦です。両者棋士の中のポジション的には近い位置にありがっぷりかみ合う対局です。白は珍しく両三々の布石、黒は両小目でした。黒が左上隅に二間にかかり白がケイマに受けたのに、黒は左辺から両ガカリ風にはさみ、白がコスミツケて黒が立って、白が中央に一間トビして上辺と左辺を見合いにしました。黒が上辺で二間に開いたので、白が左辺の星下へ挟む展開になりました。ここで左下隅の三々に対し星に肩付きしたのがいわばAI風の打ち方でした。白の這いに軽く一間に飛び、白が割り込んで黒が上から当て、白が継いだところで黒は手抜きし、左辺の白にボウシしました。ここからギシギシと石の絡み合う戦いになりました。結局白は左辺を捨てて中央を厚くし、切り離された下辺の黒4子を小さく取るのは出来ましたが、右下隅の黒の肩を衝いて下辺を目一杯拡げました。こうなると黒は取られかけていた4子を動き出す一手でした。この後の黒のサバキが見事で、黒は中央への進出を見せながら巧みにサバキました。その代償として右下隅を若干利かされましたが、結果として白の一等地で無理なく活きて、ここで黒が優勢になりました。白はその後上辺の黒模様に打ち込んでいったりして挽回を図りましたが、差は縮まらず、結局白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 許家元十段 対 蘇耀国9段(2022年9月11日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が許家元10段、白番が蘇耀国9段の対戦です。この碁の焦点は、白が上辺左の黒3子に対し、10の3の黒の左横(9の3)に付けて行き、黒が上からはねて、白が切り違った所でした。お互いが頑張ればもつれた戦いになる可能性のある所でしたが、黒は簡明に黒3子を捨てて中央を厚くしました。この判断が明るく、全体で黒は弱い石が無くなり、打ちやすく局面をリードしました。その後右辺の攻防も、白は目一杯打って中央を厚くしましたが、黒は白1子を取り込んでつながり、更に局面を簡明にしました。その後黒は左下隅から中央に展開する白を攻めながら左辺から中央の模様をまとめ、白も中央の右下方向に地を作りましたが、盤面で黒10目以上のリードは変わらず、白の投了となりました。許家元10段の明るい打ち方が光った一局でした。

NHK杯戦囲碁 羽根直樹9段 対 林漢傑8段(2022年9月4日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が羽根直樹9段、白番が林漢傑8段の対戦です。黒は序盤各所で地を稼ぎ、余し作戦でした。上辺の白模様を消しに肩付き白の伸びに一間に飛んだのは、軽く捌こうということだったと思います。しかし白が更に伸びた時、愚直に継いで、更に押さえ込んで行ったのは、強情過ぎで誰が見ても重い打ち方でした。白の右側は非常に厚いため、白に中央から煽られ、結局封鎖されました。白が右辺の穴を出て切りを入れたのが当然とは言え機敏で、結局黒は中央を逃げるのに右上隅の黒を捨てるしか無くなり、白の儲けは30目程度あり、ここで白が優勢になりました。ここで白が下辺で中央に一間トビして備えておけば黒の付け入る隙はなかったのですが、ちょっと欲張って左辺の黒地の形成を妨げ気味にケイマで煽ったのが少し失着で、すかさず黒に下辺に打ち込まれてしまいました。ここの戦いで白は2子を捨てざるを得なくなり、若干黒が挽回しましたが、左側の白が安泰になって弱い石が無くなりました。黒は中央にどれだけ地をまとめられるかが勝負でしたが、2箇所侵入口が開いており、なかなか大きな地には出来ませんでした。最後に白が左辺に踏み込み、左辺の黒を分断し、上下どちらかの黒が取られるということになり、黒の投了となりました。この左辺の決め手が無くても、盤面で白が良い形勢でした。

NHK杯戦囲碁 田中康湧3段 対 佐田篤史7段(2022年8月28日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が田中康湧3段、白番が佐田篤志7段の対戦です。この碁は終始地味な応酬が続きました。しかし右辺の攻防で白が2箇所の断点の内、上を継ぎ、黒が下を切ってきた時にあっさり切られた右側の石を捨てたのは、ちょっと淡白な打ち方で、黒の右辺の地が大きく黒がややリードしました。しかし白も右下隅に潜り込んで下辺に展開して活きたのでやや挽回しました。しかし地合いでは黒のリードが続いていました。その後左辺の攻防から白が上辺左に展開しましたが、白に見落としがあり、取り込まれていた黒1子を逃げ出す手があり、ここに大きな劫が残りました。白は黒からの劫材を無くす手を打ってから劫を仕掛け、右下隅で損劫を打ってまでして劫に勝ちました。これで形勢は微細になり、半目勝負になりました。しかしその後の中央の攻防で黒に疑問手が出て、2目損しました。これが決勝点となり、白の2目半勝ちとなりました。佐田7段の形勢の悪い碁をヨセでひっくり返すという、得意のパターンの勝ち方でした。田中3段もヨセが得意ということでしたが、佐田7段に一日の長があったようです。

NHK杯戦囲碁 三村智保9段 対 余正麒8段(2022年8月21日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が三村智保9段、白番が余正麒8段の対戦です。この碁は最初から最後まで黒の打ち回しが冴え、黒の名局と言ってもいいかという内容でした。左上隅で白が厚みを築いたので、白の右上隅の黒の星への上辺からの掛かりに対して黒は上辺を三間に挟み、結果的にこの上辺の黒白の競い合いになりました。上辺の黒が2線に付けて根拠を確保しほぼ活きたのに対して、白の上辺からの石はまだ活きていなくて黒から攻めを狙われていました。これを睨みながら、黒は右辺で通常大ゲイマに開くところを三間に開きました。上辺からの白が弱いので白は右辺には打ち込めないだろうという主張でした。しかし白は三間に開いた黒の肩を付き、黒が反発して中央に伸びたので白が押さえ込んでここから戦いになりました。右辺の黒の下方の石は白の1子を切り離して右下隅につながったので、後は右辺上方の黒だけが問題でしたが、こちらも白にプレッシャーをかけつつ巧みに左辺に連絡しました。こうなると黒の確定地の方が多く黒が優勢になりました。後は白が中央に地をどの程度まとめられるかが勝負でしたが、結局黒も中央に同等レベルの地を作ったので、差は縮まらず、黒の中押し勝ちとなりました。最後まで打てば黒の4目半~6目半ぐらいの勝ちだったと思います。ともかく三村9段の完勝譜であり、余8段はちょっと手が伸びなかったようです。

NHK杯戦囲碁 伊田篤史9段 対 関航太郎天元(2022年8月14日放送)


8月14日のNHK杯戦囲碁は、黒番が伊田篤史9段、白番が関航太郎天元です。実は伊田9段は天元戦の挑戦者に決まったので、この戦いはその前哨戦です。また今をときめく一力遼棋聖を倒して20歳にして天元位を取った関天元がどのような碁を打つのか興味がありました。布石は伊田9段が得意としているかなりの変則布石で、右上隅が三々、右下隅は目外しから普通の小ゲイマジマリより一路高く構えるというものです。黒が左下隅に下辺からかかったのを白がはさんだことにより、ここから戦いが始りました。途中の競い合いで、黒が下辺から一転して左辺に展開し、白は当然その間を裂いていったので、下辺から中央に延びる黒の石は弱くなり、その後ずっと攻め続けられるという、二人の棋風からすると反対の展開になりました。白はこの黒を攻めた代償に中央が非常に厚くなりました。また黒を攻めながら上辺にも地を確保した後、更に右下隅の黒の変則構えに付けていってここを活き、地合で先行していた黒を追い上げます。右辺で劫争いが起き、黒が右下隅に劫立てしたのに白は受けずに劫を解消し、黒模様だった右辺に白が居座り、この別れは白が良かったようです。白は結局厚みを活かして中央にも地を作り、黒はコミを出せない形勢となり投了となりました。関天元の自在の打ち回しが冴え、これなら一力遼棋聖に勝ったのはまぐれではないなと思いました。この二人の天元戦が楽しみです。タイトルは防衛してこそ一人前と言われますので、関天元にとっても大事なタイトル戦です。

NHK杯戦囲碁 上野愛咲美女流立葵杯 対 一力遼棋聖


本日のNHK杯戦囲碁は、黒番が上野愛咲美女流立葵杯、白番が一力遼棋聖の対戦です。この碁が動いたのは上辺と右上隅の攻防で、白が右上隅に置いていって、どちらかの白に渡る手を見せた時、黒は上辺に渡る手を打ちました。白は右上隅の地をえぐって右辺の白に連絡しました。黒はそれに対し、上辺の白を下から地を取りながら追い立てました。その後黒が上辺の白の一間飛びに覗きましたが、白は継がず右側から中央に飛出たので、黒は覗きを生かして白を2つに分断して攻める姿勢を見せました。この結果、上辺で黒と白で眼がない石が4つ絡み合うという展開になりました。黒がここでハンマーパンチと呼ばれる強烈な攻めを見せようとした時、白はまず左側の一団を左辺に展開してくつろがせました。それでは、ということで黒が右側の白を包囲する手を見せた時に、白は黒のケイマの連絡の薄みを付きながら巧みにしのぎ、右側の一団も包囲網を破ってほぼ安泰になりました。そこで黒は今度は左辺にまるでハサミのような打ち込みを決行しました。白はこの黒を包囲し、黒は活きに行きましたが、白の置きが利かしになっていて、場合によっては劫を決行すると脅かしながら、中央をうまく打ち回し、地合では白のリードになりました。最後下辺の攻防で、白はあちらこちらが薄い黒を割いていく手を打ち、黒は何とか下辺は活きたもの、中央のL字型の6子が結局飲み込まれてしまい、地合で大差となりここで黒の投了となりました。一力棋聖のハンマーピンチのかわし方が巧みでした。

NHK杯戦囲碁 黄翊祖9段 対 谷口徹5段(2022年7月31日放送)


本日のNHK杯戦囲碁は、またも高校野球で受難の季節で、時間変更で15:00から。黒番が黄翊祖9段、白番が谷口徹5段の対戦です。両者初対局で、谷口徹5段は昨年度に続き2回目の出場です。谷口5段は重量級のパンチ力の持ち主で。黄9段はどちらかというと足早な碁ということで、谷口5段の攻めを黄9段が軽くかわしてしのぐ碁かなと思いましたが、この碁は黄9段も足を止めて打ち合い、但し両者顔面を打たれたらボディーを打ち返すような意地の張り合いの応酬となり見応えがありました。下辺で黒の左下隅にかかった構えと右下隅から大ゲイマジマリした構えの中間に白が4線に打ち込んでから戦いになりました。白が右下隅の大ゲイマガカリに利かしに行ったのに黒が受けず、それではと白が続けて2線に付けて白を分断し、お互いに活きていない石が複数もつれあった戦いになりました。黒が右下隅から右辺に展開した白にぶつかって攻めに行った時、白は思い切りよく右下隅を全部捨ててしまいました。右下隅の黒地は30数目となり、白はそれを中央で取り戻そうとしました。しかし黒は下辺左方から中央に延びる大石を早逃げして左辺に展開し、白の攻めを未然に防止しました。また白は黒が右上隅でカケを打ったのに対し受けていないという借金も残っていて、局面が進むに連れ黒が優勢になりました。そして黒が中央で取られていた種石の4子を復活させたので、下辺の白も実は眼が薄く色々と利かされそうで、また中央右半分の白の眼がありませんでした。白はこのピンチの局面でまた中央の十数子の石を捨てるという大胆な決断をし、その代償に右上隅から中央に延びる黒を全部取ってしまおうとしましたが、そもそも右上隅の白自体もまだ活きていないということもあって、黒は左辺から延びてきた自軍に連絡出来、ここで白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 謝依旻7段 対 阿部良希4段(2022年7月24日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が謝依旻7段、白番が阿部良希4段の対戦でした。阿部4段はNHK杯戦初出場であり、また二人は初手合いです。対局は黒が地で先行し、白が左辺から中央にかけての模様で対抗という進行になりました。形勢が動いたのは右下隅で、白が黒のカカリに手を抜いて、黒が両ガカリしてからの折衝で、白が左辺からの模様の拡大をかねて、下辺で大ゲイマで黒を封鎖に行ったのがある意味打ち過ぎで、黒は待ってました、とばかりに出切り、ここから戦いが始りました。この戦いの結果として、黒は右辺と下辺で地を持ってほぼ治まり、白はその2つの黒の間に入って後で攻められることになりました。特に下辺の黒は白1子をシチョウに取って厚くなり、これが自然に白の左辺からの大模様を牽制する形になりました。その後白は模様を可能な限りまとめ、また左上隅で黒地を減らすなどして、懸命に挽回を図りました。また中央で黒3子を取り込んだため、形勢はかなり接近しました。しかしながら全体では黒が少し厚い碁形で、終ってみれば黒の1目半勝ちでした。

NHK杯戦囲碁 小池芳弘7段 対 常石隆志5段(2022年7月17日放送)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が小池芳弘7段、白番が常石隆志5段の対戦です。小池7段は、挨拶で序盤は完璧に研究して来た、と言い切りました。しかし、左辺から左上隅の攻防で、白が左辺と左上隅を地にし、黒は取られている隅の2子にもう一手かけた理屈で、AIは白が優勢と判定しました。しかしそれはAIがまだ左上隅の石が活用可能なのを見ていなかったからで、その狙いは黒が上辺で詰めた後に炸裂し、左上隅の黒は単独では活きない形ですが、それを取りに行くと、上辺の白も眼が無く、攻め合いで劫になります。劫材は黒が多いため、白は左上隅の黒を活かさざるを得なくなり、黒が互角以上に持ち直しました。白も中央の黒地を半分くらいに値切れたため、後はヨセ勝負になりました。中央の黒も眼がなかったため、下辺で攻防が続き、黒が若干上手くやって細かいながら勝勢になりました。結局黒の2目半勝ちでした。小池7段が左上隅の帰趨を全てあらかじめ研究していたならすごいですが、おそらくは多少の誤算があったのを上手く挽回したのかなと思います。