読売新聞社の「第21期 竜王決定七番勝負【激闘譜】」(渡辺明竜王 対 羽生善治名人)

読売新聞社の「第21期 竜王決定七番勝負【激闘譜】」を読了。2008年に、渡辺明竜王と羽生善治名人が激突した世紀の対局です。これまで囲碁の七番勝負の本はかなりの冊数を読んでいますが、将棋はまだないので、試しに読んでみたものです。どうせ読むなら一番盛り上がったのをと思ってこれを選択しました。この時は、勝った方が「永世竜王」の資格を得るという戦いで、羽生善治名人の方は、同時に永世資格を全タイトルについて取る、という史上空前の快挙がかかっていました。その戦いは、出だし羽生善治名人が三連勝して渡辺明竜王を追い詰めます。しかし、渡辺竜王が4局目に開き直って新手を指して勝ち、そこからペースをつかんで三連勝を返します。最後の第7局は、非常にもつれた終盤になり、どちらに勝負がころぶか分からない戦いでしたが、最後は渡辺明竜王が勝利を手にします。囲碁ではこの時までに3連敗4連勝は5回起きていました。(林海峰名誉天元2回、趙治勲名誉名人3回)しかし、将棋ではこの時が初めてでした。
将棋の観戦記は初めてちゃんと読むので、局面を追っていけるかどうか心配でしたが、何とかなりました。

伊藤智義原作、松島幸太郎画の「永遠の一手 2030年、コンピューター将棋に挑む」

伊藤智義原作、松島幸太郎画の「永遠の一手 2030年、コンピューター将棋に挑む」を読了。原作者は、昔ビジネスジャンプ誌で、「栄光なき天才たち」の原作者をしていた人で、後に天文学用の重力計算にだけ特化した高速コンピューターのGRAPE1号機を1980年代の終わりに開発した伝説の人。松島幸太郎は私の好きな野球漫画「ショー☆バン」の絵を描いた人です。2020年のオリンピックの年に、圧倒的な強さの名人の羽内将史(羽生善治+森内俊之+豊島将之+堀口一史座?(^_^))が、突然現れた「彗星」というソフトと対局し、名人が敗れる。名人と「彗星」を開発したプログラマーは共に姿を消し、将棋界は七大タイトルが廃止され、ソフト開発会社と専任の棋士がチームを組んだチーム制に移行、そんな中棋士の増山一郎だけはコンピューターソフトと組まずに独力での戦いを続ける…といったストーリーです。実にタイミングの良い内容で、原作者がしっかりしているので、非常に面白いです。少年チャンピオンって時々こういう漫画を載せるので侮れないです。結末は、将棋が好きな人の「こうあって欲しい」という願望が込められたもので、まずこうはならないと思いますが、コンピューターソフト同士の対局が増えていくと人間には解説不能の手ばかりが出るようになり、コンピューターソフト同士の対戦が禁じられる、というのは何かありそうな気がします。とにかく楽しめる内容で将棋とコンピューターが好きな人にはお勧めします。

大川慎太郎の「不屈の棋士」

大川慎太郎の「不屈の棋士」を読了。コンピューター将棋に対する考え方を11名の棋士にインタビューしたもの。奇しくも電王戦で、佐藤天彦名人が、現役の名人としてポナンザと対局し、いい所なく敗れるという報道がありました。このように、既にコンピューター将棋は、タイトルホルダーのような超一流のプロ棋士の実力をも超えていることは明らかだと思いますが、11名の中には佐藤康光9段のようにそれすら認めていない人もいるということがわかりました。個人的には千田翔太6段のように、コンピューターを積極的に活用して、自分の棋力を向上させようとしている人の方がはるかに好感が持てます。個人的なことを振り替えれば、私の囲碁の力は、最初の頃は棋書をたくさん読み、プロの棋譜を並べ、また亡父(アマチュア7段格)に打ってもらうことで、すぐに3級くらいにはなりました。でもそこから先の初段へ、そして現在の3~4段くらいの棋力になる上では、コンピューター囲碁との対局が本当に役だっています。将棋でもこれから出てくるプロは、ほとんどをコンピューターとの対局で腕を磨いた、という人が出てくると思います。また、文字を書くことで考えても、ワープロやパソコンの仮名漢字変換が出てきて、「漢字が書けなくなる」などのネガティブなことをいう人はいました。でも、後から考えてみると、コンピューターは人間の書く力を強めてくれた、と思っています。本書のサブタイトルには、「人工知能に追い詰められた「将棋指し」たちの覚悟と矜持」とありますが、過剰な「矜持」は感じられても、「覚悟」の方はあまり感じられなかったです。

橋本崇載の「棋士の一分 将棋界が変わるには」

橋本崇載の「棋士の一分 将棋界が変わるには」を読了。羽生さんの本を買ったら、Amazonがレコメンドしてきて、見てみたらレビューでものすごい悪評たらたらなので、どんなもんかと思って買ってみました。Amazonで酷評される程ひどい本ではないと思いますが、例の三浦弘行9段のソフトカンニング疑惑で、「ほぼクロ100%」とか断定したせいで、かなりブーイングを喰っているようです。この人どういう人か知りませんでしたが、Wikipediaを見たら「NHK杯戦で二歩を打って負けた人」とあったので、ああ、と思いました。
気になるのは、コンピューター将棋に対してかなりネガティブなことで、将棋をプロ棋士のいわば既得権益みたいに捉えていて、コンピューター将棋はその領域を侵すもの、みたいに考えているようでした。囲碁の世界で、アルファ碁とMaster、DeepZenGoの打つ手を積極的に評価しようとする態度が多く見られるのとは対照的です。
しかし、この人が危惧しているように、今のように新聞社が棋戦に大金を出すことが続くかどうかは、極めて危ういでしょうね。羽生さんの本によると、コンピューターが打ち出した手を「矢倉定跡」ではどうしても打ち破ることができず、そのためかつては本格将棋の代名詞だった「矢倉」を指す棋士が激減したそうです。また、昔「燃えろ!一歩」っていう将棋漫画があって、ある少年棋士が先手番で「完全将棋」(先手必勝の手順)を編み出して、そのために名人が引退してしまう、という話がありましたが、コンピューター将棋がこの少年棋士の役割を果たしてしまう可能性は十分考えられると思います。

羽生善治+NHKスペシャル取材班の「人工知能の核心」

羽生善治+NHKスペシャル取材班の「人工知能の核心」をざっと読了。2016年5月に放送された、NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」のために、世界中を取材した内容をまとめたもので、羽生さんが本文書いて、NHKのディレクターが章末にレポートを追加しています。忙しい羽生さんが本当に全部書いたのか疑問にも思いますが、もしかするとゴーストライターが羽生さんに取材して書いたという可能性も否定できません。あまりじっくり読んでいませんが、NHKらしく浅く広くで、突っ込みが足りないという感じを受けました。特に折角羽生さんなんだから、コンピューター将棋、コンピューター囲碁についてじっくり語って欲しかったですが、そこはかなり控えめです。1996年に将棋年鑑のインタビューで、「コンピューター将棋がプロ棋士を倒す日が来るとしたらいつか」という問いに、多くの棋士が「そんな日は来ない」と回答したのに(映画の「聖の青春」でもそのシーンが出てきました)、羽生さんは2015年と答えたそうです。羽生さんは、アルファ碁を見て、コンピューターが「引き算の思考」をやり始めた所に感銘を受けたそうです。羽生さんはそこをアルファ碁の強さの秘密、みたいに書いていますが、私はちょっと違うと思います。モンテカルロ木探索では、全部の手を制限時間内に読むことはできないから、どちらにせよ読む手は制限するしかないだけだと思います。後、面白かったのは、日本のコンピューター将棋が、今回Googleがアルファ碁でやったような大量の資金をかけて一気に作り上げるというのの対局で、個人が細々と延々と努力して作り上げてきた、と振り返っている所。この点はZenなどの日本のコンピューター囲碁ソフトも同じでしたが、アルファ碁出現後は、ドワンゴがZenの開発者を資金支援し、コンピューターリソースを提供するなど、流れが変わりました。また、将棋の場合、ディープラーニングをするには、棋譜の数が日本だけなので十分ではないそうです。その他、色々と書いてあって、テキストの形態素解析の話まで出てきますが、全体では散漫な印象を受けました。