小林信彦の「つむじ曲がりの世界地図」

jpeg000 137小林信彦の「つむじ曲がりの世界地図」を再読了。1976年に出版されたもので、1974年から1975年にかけてミステリマガジンで連載されていたもので、「パパは神様じゃない」の後の連載です。
数十年ぶりの再読ですが、この本の中に出てくる「ド・セルビイ」方式の旅行という言葉は覚えていました。それだけ印象が強かったということで、この頃の小林信彦のエッセイには切れがあると思います。「ド・セルビイ」方式の旅行とは、元々フラン・オブライエンの「第三の警官」に出てくるド・セルビイ氏という物理学者兼哲学者にちなむもので、旅に出る振りをして、実際はその期間近くのホテルなどに立てこもり、行き先に予定した場所の絵はがきやガイドブックを読んで過ごして、行ったつもりになる、そういう旅です。
このエッセイでは、本来的には「ド・セルビイ」方式の愛好者であった筆者が、ニューヨークを始め、色々な所に実際に旅した時の経験が語られます。

古今亭志ん朝の「酢豆腐、鰻の幇間」

jpeg000 136今日の落語、志ん朝の「酢豆腐、鰻の幇間」。
「酢豆腐」は三遊亭圓生のでも聴いていて2枚目。「酢豆腐」っていうより前半は「糠味噌」といってもいいかも。圓生も志ん朝も甲乙付けがたい出来です。
「鰻の幇間」は幇間の一八が素人の旦那にまんまとはめられるお噺。幇間の調子の良さを快く思っていない人が作ったお噺かもしれません。

石毛直道の「麺の文化史」

jpeg000 133石毛直道の「麺の文化史」を読了。オリジナルは1991年に出版された「文化麺類学ことはじめ」。
世界各地に伝わる「麺」という食品、食品の中でもっともグローバルな広がりをもつものの、その発祥と世界各地への伝播を、フィールドワークを行い、特に実際にその食品を食べて研究したもので、他に類がない画期的な研究と思います。
「麺」は中国の北部の騎馬民族と接触する地帯で生まれ、それから世界各地へ伝わっていった様子が描かれます。日本へは朝鮮半島経由で伝わったものと、素麺のように中国から直接伝わったものとの2種類があるとしています。
誰もが気になるのが、イタリアのパスタと中国の麺の関係ですが、一般的はマルコ・ポーロが伝えたという俗説があります。筆者はこれに対し、中国→中央アジア→中近東→イタリアという仮説を提示します。ただ起源がよそから来たものであっても、イタリアのパスタはトマトソースとの組み合わせが発明されるなど、独自の発展を遂げています。

三遊亭圓生の「鰍沢、猫怪談、汲みたて」

jpeg000 135本日の落語は、三遊亭圓生師匠の「鰍沢、猫怪談、汲みたて」です。「鰍沢」は先日、NHKの「おはよう日本」で、この落語の舞台になっている山梨県の富士川町が、この落語で町おこしを図っているという報道を見て、興味が出て取り寄せてみたものです。四代目橘家圓喬が得意とした噺で、色々と伝説的な話が残っているみたいです。ただ、実際に聴いてみると大して面白い噺ではなかったです。
「猫怪談」は、与太郎の養父が死んでしまって、お弔いをして死体をお寺に持って行く途中で魔に魅入られて、死体が踊り出すお噺。圓生師匠の与太郎の馬鹿っぷりがいいです。
「汲みたて」は清元の師匠を巡るさや当てのお噺ですが、サゲ(題はサゲから来ています)が汚いのでちょっとマイナス評価です。

池井戸潤の「仇敵」

jpeg000 128池井戸潤の「仇敵」を再読。池井戸潤については、出版されている作品はすべて読んでいると思います。Amazonで久し振りに「池井戸潤」で検索したら、新刊としてこれが出てきたので取り寄せてみたのですが、既に読んだことがあるものでした。
池井戸潤の「銀行もの」としては、典型的な作品と思います。また短編を集めながら話が連続しているという構成は、他にも「シャイロックの子供達」があります。
地方銀行の庶務行員として働く恋窪商太郎は、かつて都市銀行でエリート社員として働いていましたが、ある銀行幹部の陰謀を追及していたところ、逆にその幹部にはめられて都市銀行を退職することになります。その恋窪が、あくまで庶務行員の立場で、地方銀行の若い行員の相談に乗りながら、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)のように、銀行にからむ犯罪を追及していきます。その中にかつて自分を陥れた敵の存在を感知し、復讐のためその悪を追い詰めていく、というストーリーで、池井戸作品らしいカタルシスが結末部にはあります。
なお、この「仇敵」の中の話が、TVの「花咲舞が黙ってない」に使われているとのことです。ちなみに、私は「花咲舞」の直接的な原作になる「不祥事」はあまり評価していません。池井戸潤が描く女性は、男性から見たある種類型的な性格をしていることが多く、あまりうまいとは思えないからです。私が池井戸潤の作品で一番評価しているのは、「空飛ぶタイヤ」と「鉄の骨」です。