白井喬二の「帰去来峠」

jpeg000 225白井喬二の「帰去来峠」(ききょらいとうげ)を読了。1933年(昭和8年)の作品で「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」に連載されたもの。
いわゆる「猿飛佐助」物ですが(この作品では「佐介」の表記)、主人公的な人物が少なくとも三人出てきます。つまり野武士の生駒八剣と、その八剣に父親を殺された鯉坂力之助、そして猿飛佐介です。
物語は、真田幸村の真田家と、平賀源信の平賀家は、一触即発の状態で対立していましたが、両家に「銅鈴」と呼ばれる宝器がそれぞれ伝わっています。しかし、両家ともその鈴には「舌」と呼ばれる音を出す部分が欠けています。この「舌」を手に入れて音を出すと、この鈴の上には、真田家、平賀家のそれぞれの城にまつわる秘密が浮かび上がってくるとされるため、この「舌」をどちらが手に入れるかが、両家の戦いの行方を左右することになります。鯉坂力之助の父親はその「舌」を首尾良く見つけて持ち帰ろうとしていたのですが、帰りの山中で追い剥ぎとなった生駒八剣に殺され、「舌」を奪われてしまいます。このため、鯉坂家は、論敵であった砂田胡十郎からあらぬ非難をあびせられ、力之助は胡十郎と「舌」の行方を巡って争うことになります。そういう訳で、最初は力之助と胡十郎の争いで、それに生駒八剣がからむのですが、途中から中々見つからない「舌」の行方を巡って、猿飛佐介が山の中から召し抱えられて、「舌」の争奪戦に加わります。「舌」はしかしながら、平賀家の帆足丹吾という一騎打ちの得意な武将の手に落ち、佐介と丹吾が対決します。この対決は引き分けに終わりますが、丹吾は何とか「舌」を平賀家の城に持ち帰ります。佐介はそれを取り返すため、単身平賀家の城に忍び込みます。ここがこの小説のクライマックスですが、平賀源信の娘でお呱子(おここ)というのが出てきて、男勝りで才気煥発で勇気もあり、忍術書を研究して佐介対策を立て、佐介をあわやという所まで追い詰めます。
佐介のキャラクターが、山育ちで、真っ正直で思ったことを何でもずばずば言ってしまい、また世の中の不正を許せないと思うという感じで、「富士に立つ影」の熊木公太郎と、「盤嶽の一生」の阿地川盤嶽を併せたようなキャラクターとなっています。
後面白いのが、作中に歴史上の有名な築城家に言及する所があります。赤針流熊木伯典、賛四流佐藤菊太郎、と自身が「富士に立つ影」で創作した人物をちゃっかり歴史上の人物みたいに紹介しています。

春風亭柳枝の「子ほめ、喜撰小僧、堪忍袋、元犬、宗論」

jpeg000 216今日の落語は、八代目春風亭柳枝の「子ほめ、喜撰小僧、堪忍袋、元犬、宗論」。
八代目春風亭柳枝は初めて聴きましたが、大変端正な語り口でそれでいておかしみがある、という語り口です。才能のある人でスピード出世をして5年くらいで真打ちに昇進していますが、53歳で若死にしています。
「子ほめ」は前座噺で一番よく語られるもの。
「喜撰小僧」は、「悋気の独楽」という噺の前半部を独立させたもので、小僧が長唄の「喜撰」を歌いながら女将さんの肩たたきをするので、このタイトルになっています。
「堪忍袋」は、明治時代に作られた噺です。
「元犬」はこれぞ落語というナンセンスな設定で、白犬が21日間の願をかけて人間になるが、色々とトンチンカンなことをしでかす噺です。
「宗論」はこれも明治時代に作られた噺ですが、商家の旦那が浄土真宗を信じ、その息子の若旦那がキリスト教信者で親子で論争をするという、ある意味ぶっ飛んだ落語です。

小林信彦の「和菓子屋の息子 -ある自伝的試み-」

jpeg000 223小林信彦の「和菓子屋の息子 -ある自伝的試み-」を再読了。「小説新潮」に1994年3月号から1996年3月号まで連載され、1996年8月に出版されたもの。
「自伝的試み」であって、ノンフィクションであり、「東京少年」や「流される」などの「自伝的小説」とは違います。しかしながらその辺りの境界線は流動的です。作者は集団疎開を描いた「冬の神話」を「東京少年」で書き直し、また父方の祖父を描いた小説「兩國橋」を「日本橋バビロン」で書き直しといったことを延々とやっていて、そういう「しつこさ」が小林信彦の特徴の一つです。
作品は、小林信彦の母親の玉が青山という山の手から、両国という下町へ嫁に行く所から始まり、1988年にその玉が亡くなる所で終わります。ですが、中心となっているのは小林信彦が生まれた昭和7年から太平洋戦争の終わる頃までです。その頃の「中流の上」の下町の商家の暮らしや町の様子が描かれています。小林信彦は生まれ育った両国という町を戦争で無くし、それにも関連して生家であった九代続いた名門の和菓子屋「立花屋」の終焉という二重の喪失を体験しており、基調としては詠嘆的にならざるを得ません。小林信彦の弟の小林泰彦がイラストを描いており、当時の様子を理解する助けになっています。

三遊亭圓生の「三人旅、小言幸兵衛、洒落小町」

jpeg000 209本日の落語、三遊亭圓生の「三人旅、小言幸兵衛、洒落小町」。
「三人旅」は、そのタイトル通り、三人で旅する噺で、圓生が演じているのはその一部です。中山道の宿屋で「おしくら」と呼ばれる女を買う噺です。
「小言幸兵衛」は家主の幸兵衛が、家を借りたいとやってくる人に対し、色々と難癖をつけて断る噺ですが、このCDでは仕立屋の所だけが語られています。
「洒落小町」は、亭主の浮気が頭に来ている女房が、在原業平の妻の例を教えてもらって、和歌で亭主を諫めようとするけど、間違えて別の歌を使ってしまう噺です。

NHK杯戦囲碁 鈴木歩7段 対 余正麒7段

jpeg000 233本日のNHK杯戦の囲碁は黒が鈴木歩7段、白が余正麒7段です。鈴木7段は1回戦で淡路修三9段を見事破っての勝ちあがり、余7段は1回戦シードです。対局は序盤鈴木7段が右下隅に厚みを築きます。それに対し白が左下隅にかかって行きましたが、黒はこの白を攻める展開になりました。結果的に白は黒の包囲網の中で治まり、黒は中央で厚みを築きました。上辺が黒模様になったので白は上辺に打ち込みました。この白を攻める過程で、黒は左上隅の白に対し、地をえぐって攻めましたが、白はここで挟み付けを打って黒の厚みを分断しました。その後の折衝で大きな劫になりました。白は左上隅に潜り込んだ黒の眼を取る劫立てを打ち、黒はそれを受けずに劫を解消しました。黒の課題としては左上隅で取られた黒をうまく利用して締め付け、上辺の白を取ってしまうことでしたが、結果的にうまくいかず、ここで白が優勢になりました。ヨセでは白は固く打ったので黒は頑張って追い上げ、一時はかなり形勢が接近しました。しかしながら、白が左上隅から上辺に渡ろうとしたのが大きく、黒はこれを劫で阻止しようとしました。しかし劫立ては白の方が多く、劫は白が勝ってここで白が再度優勢になりました。終わってみて、白の2目半勝ちでした。今期のNHK杯戦で女流が3人2回戦に進みましたが、2人が敗れ、残りは謝依旻6段のみとなりました。