蘇耀国の「定石のマル秘ノート 打たれなくなった形と新常識」

蘇耀国の「定石のマル秘ノート 打たれなくなった形と新常識」を読了。ここの所続けて読んでいる定石の本3冊目です。前の本のレビューで日本の定石の本は全盤面が載っていない、と書きましたが、この本は2014年刊の最新版だけあって、ちゃんと全盤面がすべてのページで出ています。この本でかつて盛んに打たれたのが、最近まったく打たれなくなった定石が頻出します。まず最近は足早な碁を良しとする風潮があって、一つの隅でごちゃごちゃ戦うのを避けるような傾向があるように思います。また、昭和の時代にはかなり流行っていた、小ゲイマガカリに二間や三間にはさんで、二間トビするようなある意味曖昧な打ち方も最近はあまり好まれないようです。先日紹介した、韓国国家代表チームの本よりも変化が少なめな分、わかりやすいです。

NHK杯戦囲碁 一力遼7段 対 高尾紳路名人

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が一力遼7段、白番が高尾紳路名人の対局です。この二人はどちらも最近タイトル戦で井山裕太棋聖に挑戦し、高尾9段は4勝3敗で見事名人を奪取、井山棋聖を6冠に後退させました。一方、一力7段は19歳での7大タイトルの天元戦初挑戦でしたが、1勝3敗で惜しくもタイトル獲得はなりませんでした。この二人の対戦成績は3勝3敗で既に五分です。前々回のNHK杯戦でもこの二人はぶつかり、その時は一力7段が勝っています。さて、対局は最近珍しい各所で定石が進行したじっくりした布石です。高尾名人が上辺の黒模様に深く打ち込み、ここから競り合いが始まりました。一力7段は右辺の白模様に打ち込み、これをからめて上辺の黒を攻めようとしました。白は右辺から中央にケイマに打ちましたが、すぐに黒に右辺を肩付きされ、今打ったケイマの白石を切り離されてしまいました。これで黒が打ちやすくなった感じです。その後白は左辺を詰め、さらに左辺の黒の二線に置きました。黒は上から押さえ、白は地を稼ぎましたが、黒は中央が厚くなりました。その後黒が下辺をいっぱいに詰め、白はケイマで中央に出ていこうとしましたが、後に黒から分断を狙われ、結局白1子を黒に取り込まれて地を損しました。さらに左下隅の白全体を狙われたのですが、これは何とかしのぎました。しかし黒は中央の白を出切ることに成功し、白の大石を二つに分断しました。この結果、中央につきそうだった白地が消え、白は連絡するだけの手を打たされました。これが決定打で、黒の優勢になりました。ヨセでは黒はかなり固く打ち、中央で黒地が5目くらいつきそうだった所が逆に白地2目になってしまうなど、ミスもありましたが、それまでのリードが大きく、結局白の2目半勝ちでした。

三上於菟吉の「雪之丞変化」(下)

三上於菟吉の「雪之丞変化」(下)を読了。一言、面白かったです。結末は最初から分かっている訳で、読者としては、その過程で作者によっていかにはらはらどきどきさせてもらえるかですが、この作品はその点実に良くできていると思います。ファーストガンダムも言ってみれば、シャアの敵討ちの物語ですが、敵討ちというものは、古の曽我兄弟以来、人の心を捉えるものがあるようです。雪之丞が付け狙う敵の土部三斎の娘で、将軍の側室であった浪路が、雪之丞の計略もあって、雪之丞を心から恋するようになるのですが、その浪路が父親が敵を討たれる前に、悲劇の死を遂げてしまいますが、浪路の純心を受けて心が揺れる雪之丞を描いて、読者を惹き付けます。この辺りのストーリー廻しが素晴らしいですね。

「第36期本因坊戦 全記録」

「第36期本因坊戦 全記録」(毎日新聞社)を読了。この棋戦が私が囲碁を覚えて最初に経験したリアルタイムの7大タイトル戦なのでとても印象が強いです。1981年の5月から7月頃にかけての対局です。また、趙治勲二十五世本因坊が碁界のトップに上り詰める途中の非常に大きなステップという感じです。武宮正樹9段、趙治勲二十五世本因坊の二人とも本因坊戦には相性のいい棋士です。武宮9段は、本因坊を合計で6期取っていますし、趙二十五世本因坊はそのタイトル通り、本因坊を合計12期、しかも10連覇しています。実は1989年の本因坊戦もこの二人の激突で、武宮9段は、それまで本因坊戦を4期連覇していて、名誉本因坊の称号がかかっていましたが、趙二十五世本因坊に0-4で負けて阻止されてしまいました。そしてその時から趙二十五世本因坊の10連覇が始まっています。この1981年はそんな二人の最初の本因坊戦での対戦でしたが、今改めて棋譜を追ってみた印象では、二人ともかなり出来が悪い対局だということで、全局を通じて双方に多くのミスがあって決して名局ではありません。そういう双方とも問題がありながら、趙二十五世本因坊の方が勢いと必死さが上回っていたと思います。

三上於菟吉の「雪之丞変化」(上)

三上於菟吉の「雪之丞変化」(上)を読了。三上於菟吉は大正から昭和初期にかけての大衆小説の人気作家で、多作を誇りましたが、この「雪之丞変化」で人気の絶頂だった昭和11年に脳塞栓で倒れ、以後創作も減り、昭和19年に53歳で亡くなります。昭和9年から東京朝日新聞に連載されたこの「雪之丞変化」が代表作で、実に6度も映画化されています。主人公で妖艶な姿を誇る上方芝居の名女形である雪之丞が、実は親の敵として5人の者を狙っていて、そのために優男に見えながら実は剣の腕は免許皆伝という設定が、映画になりやすいのだと思います。その雪之丞を秘かに助けるのが、大泥棒ながら義賊でもある闇太郎と、雪之丞に横恋慕するこれも泥棒の軽業お初など、登場人物がちょっと変わっています。雪之丞の親は長崎の実直な豪商でしたが、長崎奉行と、その財産を付け狙う商人の陰謀によって、密貿易の罪を着せられ、一家は没落し、雪之丞の父は狂い死にします。子供だった雪之丞は、同じ長屋に住んでいた役者の菊之丞に引き取られ、女形としての修行を積みながら、同時に武芸の腕も磨き、親の敵を討つ日を心待ちにしています。