白井喬二の「珊瑚重太郎」の戦前での評価

この写真は、「キング」の昭和11年1月号にあった、同じ大日本雄弁会講談社の「講談雑誌」の広告で、そこで新連載となる白井喬二の「陽出づる艸紙」の広告です。そこに「『富士に立つ影』『新撰組』『珊瑚重太郎』等の大傑作によって大衆文学の大御所と仰がれる作者が…」とあります。私は「珊瑚重太郎」を白井の小説のベスト4に挙げております。戦前でも「珊瑚重太郎」が傑作と評価されていたことがわかってうれしいです。

長谷川伸の「日本敵討ち異相」

長谷川伸の「日本敵討ち異相」を読了。中央公論で昭和36年から37年にかけて13回連載された、長谷川伸の遺作です。長谷川伸というと「瞼の母」や「一本刀土俵入」の作家で、股旅物というジャンルを作った作家です。この作品は、日本史上での敵討ちの文献を長谷川伸が370件ほども集めて、その内の13件を改めて長谷川伸がまとめ直したものです。敵討ちで、卑属が尊属の敵を討ってもいいけど、逆は駄目、というのは知っていましたが、姦通を行った不義の妻と相手の男を討つ「女敵討ち」というのはこの作品で初めてそういうものがあったのを知りました。他には敵を討つまで実に35年もかかって、その時相手は82歳だったとか、なかなかすさまじい実例が出てきます。敵を討つ方も討たれる方もなかなかに大変だったということもよくわかりました。長谷川伸は、白井喬二と一緒に二十一日会に参加しています。また、池波正太郎の先生です。

国枝史郎の「煉獄二道」

未知谷から出ている国枝史郎の伝奇全集補巻に入っている「煉獄二道」を読了。国枝史郎の場合、全貌が未だに明らかではなく、今頃になって新発見の長篇が出てきたりするのは、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかわかりません。この「煉獄二道」は1930年に映画になっているようなので、今まで何故見つからなかったのか不思議です。物語は、天草の切支丹の話で、島原の乱で終わります。国枝史郎としては珍しく話に破綻がなく、筋立てとしても無理がなく最後まで行きます。波乱万丈という感じではないのですが、何故か不思議な魅力を持っていて、途中大胆にも20年の話の省略があり、最後まで飽きないで読むことができます。有馬直純の娘のるしや姫とその娘のまりあ姫と、るしや姫を一生慕い続ける竹富義之介らが、幕府から禁じられたキリスト教信仰を守り通して最期は原城で果てるお話しです。

下村悦夫の「悲願千人斬」(下)

下村悦夫の「悲願千人斬」(下)を読了。土岐家の忘れ形見の太郎頼秀を秘かに隠し育てている白雲上人とその腹違いの弟土佐青九郎は、甥である稲葉伊代守に頼秀を託そうとしますが、一抹の不安を感じて頼秀ではなく、青九郎の息子で頼秀によく似た多門光治を身代わりに伊予守の元に送ります。光治はそこでしばらく匿われて侍女の深雪と深い仲になりますが、それを嫉妬した男の奸計により、光治は敢え無く命を落とします。本物の頼秀は無事だった訳ですが、その頼秀の存在もやがて敵方につきとめられ、敵方より秘かに派遣された美女の間者の手により頼秀も敢え無く毒殺されてしまいます。で、そこからがタイトル通りで、仏門に帰依した高僧であった筈の白雲上人と、青九郎が斎藤家の侍を次から次に斬り殺して、最終的に千人を殺すことを目標とする、という陰惨な話になります。白井喬二は「悲願千人斬」という題名を「古今絶無」と評したそうです。実はこの作品はジョンストン・マッカレーの「双生児の復讐」を下敷きにした作品だということです。下村悦夫という作家は、「大衆文芸」という言葉が生まれる前の「新講談」の時代にデビューし、結局一生その引け目が抜けず、また手を抜いた仕事が目立ってしまったようです。(朝日新聞に連載された下村の「愛憎乱麻」という作品は、読者からの抗議が殺到し、2年の筈の連載が1年で打ち切られたそうです。)
この作品は面白くないとは言いませんが、私の好みではないです。こういう作品を読むと、白井喬二作品の健全さ、明るさがよりいっそう引き立つように思います。

下村悦夫の「悲願千人斬」(上)

下村悦夫の「悲願千人斬」(上)を読了。獅子文六も主なものは大体読んだし、さすがに獅子文六で手に入るものを全部読もうとは思わないので、次に移行。次のステップとしては、平凡社の「現代大衆文学全集」に収められた大衆小説の作家。既に「現代大衆文学全集」そのものも古書店で5冊ほど購入済みです。この「現代大衆文学全集」は白井喬二が編集に携わったもので、第1巻であった白井喬二の「新撰組」が30万部を超える大ヒットとなり、この全集の成功をもたらします。この全集の成功は作品が採用された多くの作家に多額の印税をもたらし、例えば江戸川乱歩はそのお金で家を新築しています。
この「現代大衆文学全集」にも収録されている下村悦夫は和歌山県出身の歌人で、与謝野晶子、北原白秋の指導を得ますが芽が出ず、伝奇小説の作家に転じます。そんな下村悦夫の出世作がこの「悲願千人斬」で、雑誌「キング」の創刊号から連載され、吉川英治の「剣難女難」と人気を二分します。今回読んだ「悲願千人斬」は「現代大衆文学全集」収録のものではなく、講談社の大衆文学館です。物語は、戦国時代の美濃で、斎藤道三に滅ぼされた土岐家の忘れ形見の太郎頼秀を、名僧である白雲上人と、その上人の腹違いの弟である豪傑の土佐青九郎(白雲上人とそっくりという設定)が守って、主家である土岐家の再興を図ろうとするという話です。白雲上人に腹違いでそっくりな弟がいるということは秘密にされており、そっくりなことを利用して、この二人は色々なトリックを駆使します。そこが上巻の読みどころです。