白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」(1)

白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」の連載の第5~8回の4回分だけを読了。これも仏教雑誌の「大法輪」で1965年10月から1972年8月の間7年もの長期に渡って連載された作品(全83回)。この4回では、天海僧正のまだ少年時代の話です。天海僧正(南光坊天海)の出自については諸説あり、明智光秀の生き残りという説まであるのですが、白井は須藤光暉「大僧正天海」(1916年)と同じく、蘆名氏の女婿である船木兵部少輔景光の息子の兵太郎として天海の少年時代を描いています。全83回もあるので、4回分を読んだだけで論評するのは無茶ですが、白井の創作意欲というものはまったく衰えていないように思えました。白井の悲劇というべきものがあれば、白井の作風というものはデビューした1920年から晩年まで一貫していてほとんど変わっていないと思うのですが、大正から昭和の初めを過ぎると、徐々に飽きられていって以前の作品のように大受けすることがなくなってしまった、ということではないかと思います。もっとも本人はそんなことは苦にしていなかったことが、「さらば富士に立つ影」の記述などから伺うことができます。この「天海僧正」も掲載誌が特殊なこともあって、一般的にはほとんど無視されています。ただ、白井の「さらば富士に立つ影」によると宗教評論家の千葉耕道が愛読し、「この小説がおわるまでは死ねない」という感想を大法輪の編集部に寄せてきたそうです。しかし残念ながら同氏は連載が終了する前に亡くなったそうです。

NHK杯戦囲碁 青木喜久代8段 対 張豊猷8段

本日のNHK杯戦の囲碁、今日はTOEICでの外出だったので、先日買ったブルーレイレコーダーが初めて役に立ちました。黒番が青木喜久代8段、白番が張豊猷8段の対局。青木8段は、これまで女流タイトルを11期獲得した強豪です。これまで女性棋士の最高段位は8段までですが、是非とも9段を目指して欲しいと思います。将棋と違って囲碁では男女の差は大きくありません。張8段は王立誠9段門下の台湾出身で、名人戦リーグ在籍経験もある強豪で、ハードパンチャーです。(張8段の趣味はボクシングなので、両方の意味で。)
対局は青木8段の中国流からお互いに模様を張り合う、最近はやりのAI的な打ち方ではなくオーソドックスな布石です。白は左上隅から大ゲイマに打って黒に受けさせてから、右上隅の三々に入りました。これに対し、黒は定石通りではなく、一本押さえた後はケイマに外して先手を取りました。この先手で左下隅に掛かりましたが、白に一間にはさまれ三々入り。定石が進行しましたが、白は2線の石を捨てずに引っ張りだし、ここから戦いになりました。黒の青木8段はこの戦いで、ほとんど最強とも言えるような強気の手を連発し、張8段がその勢いに押されて受け一方になってしまったという感じで、結果としては白だけが弱石を中央に抱えた形になり、黒が局面をリードしました。黒は右辺の折衝でもうまく立ち回り、大場として残されていた右上隅のハネに回り、さらには左上隅の三々にも入って地合でもリードしました。しかし、右辺で守りの手を打ったのが緩着で、さらには白が右下隅にすべったのを止めようとしてツケコしたのが悪手で、地も損しましたし、何より下辺の黒がとたんに薄くなってしまいました。白がこの黒を攻めていた手どころで、右辺から中央で白2子をアタリにしたのが敗着で、白は受けずに下辺の黒に覗きを打ち、結果として下辺の黒の右半分をもぎ取られてしまいました。黒は左半分で白を取って活きようとしましたが、この部分は劫付きでうまくいきませんでした。最後は中央で白を分断し、右上隅の白を全部取ろうとしましたが上手くいかず、黒の投了となりました。青木8段にとっては惜しい一局でした。

TOEIC Listening & Reading 第221回テスト受験

TOEICのL&Rテストの第221回を受験してきました。会場は明大の生田キャンパスで、一昨年と同じです。小さな教室で人数も35人くらいでリスニングで聴き取りにくいということはありませんでした。これで通算5回目の受験です。
リスニングは一部迷った問題もありましたが、昨年より全体に易しく感じました。これは問題が易しくなったのか、こちらのリスニング力が上がったのかはどちらか分かりません。
これに対し、リーディングは途中までは順調で時間も残り50問で55分くらい残していてペースとしては上々でした。しかし後半の読解で結構時間を消費し、残り10問で丁度10分というきわどい展開に。特に最後の5問が難しく、結局2問は「塗り絵」になってしまいました。まったく、Hassanって誰だよ。(3つある文書の最初のアーティクルでHassanはどのように書かれていますか、っていう問題がありましたが、そのHassanがどこに書かれているのかが見つけられませんでした。)一応昨年はリーディングで465点、その前は455点で受験者の上位2-3%に入っていてこれですから、多くの人が塗り絵だったのではないかと思います。

白井喬二の作品での女性の主人公

白井喬二の作品の中で、女性が主人公である作品は、私がこれまで読んだ範囲では「露を厭う女」、「東海の佳人」と「地球に花あり」のわずか3作品だけです。しかも面白いことに、この3作はすべて1935年から1939年の5年間で書かれており、あまつさえ「露を厭う女」と「東海の佳人」はまったく同時期に平行して書かれていました。当時は婦人雑誌が多数の読者を持っていた時代で、大日本雄弁会講談社が「キング」を創刊するまでは、婦人雑誌が売れ行きのNo.1でした。そういう意味で、大衆小説の読者には女性が多数いたと想定されますので、もっと女性が主人公の作品があっても良いように思いますが、3作だけです。

露を厭う女 婦人公論 1935年(昭和10年)1月-12月
東海の佳人 キング 1935年1月-1936年3月
地球に花あり サンデー毎日 1939年(昭和14年) 17号-59号

これら3作品の主人公の造形には違いがあります。「露を厭う女」の主人公のお喜佐は、父親が借金を抱えて死に、運命に流されるままに女郎になり、最後はアメリカ人の客を取らされるのを嫌って、有名な「露をだに厭う大和の女郎花 降るアメリカに袖は濡らさじ」という歌を詠んで自害します。この歌は日本女性の意気を示したとして維新の志士等には高く評価されたのですが、この作品でのお喜佐はただ悲しい運命に逆らえず死んでいくだけ、という弱い女性として描かれています。
これに対し「東海の佳人」の以勢子は、父親を死に追いやった幕府軍路隊長の細木原幹丈が泥酔している所を刃物で刺すなど、はるかに行動的な女性として描かれています。最後の方で幕府が行ったトンネル工事が適切でなかったことを堂々と論じ立てて兄を救います。
「地球に花あり」の卯月早苗になると、この以勢子をさらに進めたような近代的で理知的な女性として描かれており、島崎博士の次男の国際スパイ容疑を、それを告発したスパイの研究家と堂々と論争して勝ち、それだけでなく島崎博士の研究を助ける助手として活躍します。

白井喬二は女性に関しては比較的進歩的な考えを持っていた人で、自身の妻に対しても結婚した後家に閉じこもっていないで何か仕事をすることを勧めていたりします。そういう意味で、もっと女性が主人公の作品が多くあってもいいと思うのですが。

白井喬二の「外伝西遊記」(1)

白井喬二の「外伝西遊記」を雑誌連載の1回+4回分だけ読みました。仏教雑誌である「大法輪」に1975年1月から1977年10月まで連載されたもので、確認しうる限りで白井喬二の最後の雑誌連載です。白井は1940年に「東遊記」という「西遊記」のパロディ作品を書いていて、天竺ではなく地竺に行く話なんですが、晩年になって、再度西遊記の世界に戻ってきています。この白井版西遊記では、おなじみの登場人物以外に、石族の吾呂という少年(孫悟空と同じく仙石から生まれたけどより小さい仙石から生まれたという設定です)を登場させて、語り部みたいにさせています。またお話もオリジナルの西遊記のストーリーを活かしつつ、随所に白井オリジナルのお話を入れているようです。というか5話分だけ読んだだけですが、とても面白く、晩年の白井が肩の力を抜いて楽しんで書いているのがよくわかります。「大法輪」での連載には他には「天海僧正」もあります。どちらの作品も、「大法輪」のバックナンバーは古書店では全部揃わず、また出版社にも残っておらず、全部読むためにはたぶん国会図書館に行くしかないと思いますが、将来の課題として取っておきたいと思います。