白井喬二(厨井道太郎)の「銀の火柱」

白井喬二の「銀の火柱」を連載1号分だけ(博文館 淑女画報 大正10年{1921年}2月号)を読了。というか名義が「白井喬二」ではなく、「厨井道太郎」名義です!最初本当に本人が書いたのか疑いましたが、白井喬二の自伝の「さらば富士に立つ影」の巻末の年譜にちゃんと出ているので間違いないでしょう。また白井と「淑女画報」は、白井が学生時代に近松門左衛門の作品の現代語訳である「雨乞い小町」「恋のはやりうた」をこの雑誌に載せていますので、以前から付き合いがあります。また内容は時代小説ではなく、(その当時の)現代ものであり、しかも丁度この回はある男子学生が女性に恋の告白をする(「あなたを愛しています」ではなく「あなたを恋しています」が使われています)、という白井の作品としては非常に珍しいものです。白井は他にも「東遊記」とか「旧造軍艦」の時も、前者で飛鳥亭主人、後者で白井狂風という別名を使っていますので、この白井の最初期(連載は1920年4月-1921年3月、「怪建築十二段返しは博文館の「講談雑誌」の1920年1月号{おそらく発売は1919年12月}に掲載)に別名で作風が異なるものを書いていても特に不思議はないと思います。林不忘=牧逸馬=谷譲次のような例もありますし。

英語の手紙の結語(Complimentary Close)について

英語で正式なレターを書くという機会は、メールの普及でとても減っていると思います。
メールは多くの場合かなり砕けていて、あまり形式をうるさく言われることは少ないですが、手紙となるとそれなりに形式を守る必要があります。日本語の「拝啓-敬具」の敬具に当たる部分を英語では、Complimentary closeと言います。
20代の頃、会社の研修で「商業英語」の講座を週2回で半年ほど受講しました。ヘンリー中村という先生でした。(この先生、今ググってもヒットせず、どういう人だったのか不明です。でも色んな企業に対して商業英語を教えていたみたいです。)この先生によると、結語については”Very truly yours,”が一番正式であると力説されていました。
私も習った当初はこの結語を愛用していましたが、疑問が出てきたのは、ソフトウェア会社に移り、そこでワープロソフトに付ける英語の手紙文の監修を、早稲田大学の商業英語の長野格さんという先生と、ヤヌシュ・ブダさんという先生にお願いしてからです。実は長野先生は日本人とアメリカ人の実際のビジネスメールを何百通か集め、結語に何が使われているかを分析された論文を出されていて、それを読みました。それによると”Very truly yours,”は圧倒的に日本人ビジネスマンによって使われており、アメリカ人で使っている人はおそらく20%もなかったと記憶しています。どうもこの日本人ビジネスマンの多くがヘンリー中村に直接習ったか、または習った人から教えてもらって、”Very truly yours,”を墨守しているのではないかと思います。ネイティブの感覚では「私がここで書いていることは本当に本当のことですよ」という感じであり、あまりに硬すぎ、また逆に本当かな、という疑いを起こしかねません。実はアメリカ人でこの結語を多用するのはほとんどリーガル関係者、つまり弁護士です。普通のビジネスマンだったら、”Sincerely yours,”などの方がいいと思います。(イギリスだとYours sincerely,と逆。但し相手の名前を知っている場合のみ。知らない場合はYours faithfully,です。)
日本語だって、外人に正式な手紙の書き方を教えるのに、「謹啓-謹言」をいつも使え、と教えるのは不適切でしょう。それと同じだと思います。

宇宙家族ロビンソンの”Return from Outer Space”

宇宙家族ロビンソンの”Return from Outer Space”を観ました。今回のはおそらく第1シーズンの白眉といってもいいかもしれない話で、何とウィルが数話前に登場した人間みたいな宇宙人が残していった転送装置を使って地球に4時間だけ戻ります。(スタートレックの転送装置は、エンタープライズ号から目的の惑星に降りる程度の距離の転送ですが、この転送装置は何と4光年もの距離を瞬時に転送します。)しかし、ウィルが降り立ったのはヴァーモントの田舎町で、1965年とほとんどそのままという感じで、誰もウィルの言うことを信じてくれず、アルファコントロールに連絡してくれません。ロビンソン一家は全員死んだと思われていました。ウィルは、ある店で、ジュピター2号で食料の浄化に使っている四塩化炭素(例によってドクター・スミスが蓋を開け放しにして蒸発させてしまった)を見つけますが、わずか85セントのお金も持っていなくて、それをそのまま持って行こうとしてシェリフに捕まってしまいます。(ちなみに四塩化炭素は現在は発がん性があるので生産されていません。)最後になってようやく最初にウィルが出現するのを目撃していた少年がウィルの言うことを信じて四塩化炭素を買ってウィルに渡してくれます。ウィルはこの少年にアルファコントロールに連絡してくれるよう頼んで、再び元の星に戻っていきます。なのでこの少年がアルファコントロールにロビンソン一家が生きていてある惑星にいることを伝えてくれれば、救助隊が来る筈ですが、アーウィン・アレンのドラマは、脚本家が変わると話が引き継がれないのが特長なんで、結局救助隊は来ません。それに2話前のワンちゃんは一体どこに消えてしまったのか…

白居喬二の「由公の回顧録」(「盤嶽の一生」別篇)

学藝書林の白井喬二全集は全16巻の内半分くらいを所有していました。他で読んでいる巻の分は買わなかったのですが、各巻に付いている「月報」を全部読んでみたかったため、古書店で月報付きの全16巻を重複覚悟で新たに買い求めました。それで思わぬ収穫だったのが「盤嶽の一生」で、巻末に「由公の回顧録」という未読の番外篇があって、読むことが出来ました。未知谷から出ている「盤嶽の一生」は盤嶽がある不正を暴こうとして却って彼自身が捕らえられて牢に入れられ、そこを盤嶽が破牢するところで終わっています。「由公の回顧録」はその後の盤嶽を描いたものです。由公は、盤嶽が浮浪者であったのを引き取って世話した一人です。読んで嬉しかったのは、盤嶽に恋して田舎から出てきたお稲について、盤嶽は逃げ回ってしまってお稲の気持ちに応えることはなかったのですが、この回顧録ではその後12年経ってから二人が夫婦になったことが描かれています。(盤嶽43歳、お稲28歳)この結果はとても気持ちがいいです。また色々と苦労し浪々の身であった盤嶽が、幕府に対し「参勤交代廃止」の建白書を出し、それが採用されることは無かったものの、その見識の立派さが評価されて、ある幕府に仕える学者の相談役みたいなものになっていることが示唆されています。
この阿地川盤嶽は、言ってみれば白井喬二の分身みたいなキャラクターです。そして盤嶽の物語は戦前から戦後へと書き継がれました。「正義」というものの基準が大きく変った戦前と戦後で、盤嶽のキャラクターがまったく変更なく書き継がれている、というのはある意味すごいことだと思います。これで盤嶽ものの未読は、昭和26年12月の「オール読物」に掲載された「盤嶽の仇討」だけになりました。

NHK杯戦囲碁 安斎伸彰7段 対 山下敬吾9段


本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が安斎伸彰7段、白番が山下敬吾9段の対戦です。この2人の特徴はどちらも激しい戦いが好きだということになりますが、その特徴通り最初から最後まで戦いになりました。特に左辺と左上隅で黒がかなり頑張った打ち方をし、白がその2つをカラミ攻めにするという展開になりました。しかし黒は白の厳しい攻めをうまく受け止めて、最強の手を打ち続けました。特に中央に切り離されて残された黒2子を捨ててしまわずに担ぎ出したので、盤上眼の無い石がからみあう乱戦になりました。そんな中黒は上辺から右上隅、さらに右辺でも地を稼ぎまくりました。ただ白もうまく右上隅で手を付けて、黒数子を取り込みました。しかしそれでも地合は黒リードであったため、白は左辺からの黒と中央の黒を切り離して、どちらかを取っていく勢いで打ちました。しかし黒は左辺の石を比較的容易に生き、また中央の石も蜂の巣のように石が斜め斜めに展開していて、なかなか眼を取るのが困難でした。しかし、黒がある意味最強手を打ち続け、右辺下の白石を切り離して攻めに行ったのが打ち過ぎで、結局劫になりました。この劫を白から解消するには2手かかるため、白が大変そうに見えましたが、実際には白は左辺からの黒の大石に対し、かなりの数の劫立てが利くため、白が解消に2手かかったとしても黒は劫には勝てませんでした。結局上辺右で取られていた石を取り戻す劫立てで妥協しましたが、中央をそっくりとそれに加えて4子も取られてしまった黒の方がはるかに被害が大きく、ここで形勢は完全に逆転しました。最終的に左下隅でも劫が始まりましたが、黒の形勢の挽回には至らず、黒の投了となりました。

宇宙家族ロビンソンの”Attack of the Monster Plants”

宇宙家族ロビンソンの”Attack of the Monster Plants”を観ました。かなりの美人ながら、何故かロビンソン一家の中では一番存在感のないジュディがメインの初めての話です。ロビンソン一家は惑星の中で見つけた放射性物質を精製して、ジュピター2号の燃料を作り出します。その過程で謎の植物に砂の中に引き込まれそうになったロビンソン博士とドンをドクター・スミスが見捨てて逃げ出したため、ドクター・スミスはこの星に置いていかれることになります。ジュピター2号から追い出されて野外で寝ていたドクター・スミスが見つけたのは、物質をそっくりそのまま複製する植物でした。ドクター・スミスはこの植物を使って燃料を複製するからという条件でジュピター2号に乗り込もうとします。しかし植物が複製した燃料の缶の中味は植物に過ぎませんでした。その内、夜中にジュディーが何かに誘い出されたようにふらふらと出ていき、複製機能を持つ謎の植物の花の中に身を横たえます。ドクター・スミスはそれを目撃し、今度はジュディーの居場所を教える条件でジュピター2号に乗り込もうとします。しかし、そこに現れたのはジュディーでした。しかしのジュディーは様子が変で、夜中に燃料を盗み出して謎の植物に与えてしまいます。それをまた目撃したドクター・スミスは、燃料を2本だけ残してくれたらそれでドンとドクター・スミスが地球に行き、残ったロビンソン一家がまた燃料を作るから、と取引します。ロビンソン一家は次の朝、ジュピター2号が謎の植物に取り囲まれているのを知り、それを中性子銃で取り除こうとします。そこに偽のジュディーが現れそれを止めようとして正体がばれます。ウィルが植物は44°F(約7℃)で凍り付くことを以前発見しており、ロビンソン博士とドンは植物をその温度で凍らせて、無事にジュディーを救い出します。しかし燃料は偽のジュディーが植物にまいてしまったため、一家の脱出はまたも失敗に終わりました。

文藝通信 昭和9年5月号「仕事部屋を覗く3 白井喬二氏」

文藝春秋社から出ていた「文藝通信」という薄い雑誌の昭和9年(1934年)五月号の「仕事部屋を覗く3 白井喬二氏」を読了。白井喬二の普段の仕事振りが分かる貴重な記事です。それによると朝は書生よりも早く5時頃起き、それから仕事で9時、10時まで続け、その後朝食。その後はまた仕事をしたり客に会ったり。午後の2時・3時くらいにパンの軽い昼食を取って、そこから欠かさず毎日30分~1時間の昼寝。その後は来客と会う時間など。それから夕食で、白井喬二の夫人は栄養学の専門家ですが(結婚する時に、白井が女性も職を持つことを奨励した結果です)、意外なことに白井喬二はかなりの大食漢で、洋食皿が3~4、更に夫人特製の皿が2~3皿で、それをペロリと平らげるんだそうです。平凡社の「大衆文学全集」を手伝った時、この大食がたたって胃潰瘍で倒れたんだそうです。大食もあるんでしょうが、この全集の仕事はかなりハードだったんでしょう。夕食後は音楽を聴いたり、子供たちと剣道の稽古をしたりで、9時か10時には就寝。でも12時にはまた起きてそこから2時くらいまでが読書の時間だそうです。合計すると1日の睡眠時間は6~7時間です。
仕事の量はこの記事の10年前は1日原稿用紙60枚も書いていたようです。この頃はさすがに1日20枚くらいに落ちていたようです。といった感じです。

Laravelの認証:6で変更

今会社でPHP/Laravelであるシステムを作ろうとしています。
使用しているLaravelのバージョンは5.8ですが、ユーザー認証のやり方が、最新版の6(2019年9月3日公開)では変わっています。具体的には”php artisan make:auth”がエラーになります。
$ composer require laravel/ui
でパッケージをインストールし、
$ php artisan ui vue –auth
とやれば、認証システムがインストールされるようです。

Udemyの「PHP7/Laravel」初級コースを受講してみました。

IT関係のオンライン講座がたくさんあるUdemyってどうなんだろうと思い、「はじめてのPHP7 X Laravel入門」というのを受けてみました。全体のボリュームは動画(といってもほとんどPCの画面ですが)で6時間程度、料金は1,600円とリーズナブルです。(ただこの価格はキャンペーン価格だったようで、今チェックしたら10,000円以上になっていました。Udemyの講座は価格がしょっちゅう変わるようです。)動画の時間は6時間ですが、実際に自分で動かしながら見る場合には、色んなもの(php, Laravel, jQuery, composer, sqlite3など)をインストールする必要があり、それぞれそれなりに時間がかかります。お盆休み中から始めて少しずつやって、2週間ちょっとかかりました。また全体が6時間といっても、Macの例とWindowsの例の両方が説明されているので、重複がかなりあり、正味は4時間半ぐらいではないかと思います。また、MacとWindowsで設定する内容はファイルパスの書き方とかを除けばほぼ同じ筈ですが、何故かデータベースの名前が違っていたりするのがあって、戸惑いました。(単なる講師のミスです。)また余計なものの説明が多く、たとえばjQueryの説明で、HP上で写真のスライドショーを実行させる、という例が出てきますが、phpとLaravelを使いたい人は要するにデータベースの操作ページを作りたい人が多い筈であり、こんなのはほとんど無関係と思います。実際にLaravelが登場するのはようやく半分を過ぎたあたりからです。
また、この講座で習得できるLaravelはあくまでも概要でしかなく、例えばページの外観を設定するbladeファイルというのがありますが、実際にそれを書く訳ではなく、既に出来ているファイルをダウンロードして、適当なフォルダーに配置するだけです。また、その中味の説明も概要だけです。
それからこの手の講座の宿命かもしれませんが、教材が作られたのは2016年で使っているLaravelのバージョンは5.2.31、2019年9月現在の最新バージョンは6です。一緒にやってみる場合はバージョンの同じのをわざわざ入れないと、あのファイルが無いとか、あのフォルダーがない、コマンドでエラーになる、などが発生します。特に一番時間をかけて教えてくれるroutes.phpというルーティング設定のファイルは現在のバージョンにはありません。(5.3から変りました。詳しくはここを参照。)
同じような例で、最後の補足講義の所で、scaffoldを入れて、データベースの登録・修正・削除画面を簡単に作る、というのがあるのですが、l5scaffoldという講義の中で使われているものは既に開発中止で、最新版に合わせてメンテもされておらず、(1)インストール時 (2)php artisan 実行時 (3)実際のデータベーススキーマ作成時、の全てでエラーが出ます。私は(1)と(2)はWebで調べて何とかクリアしましたが、(3)になって馬鹿馬鹿しいので諦めました。ちなみにLaravelの書籍を2冊持っていますが、l5scaffoldについてはまったく記載がありません。
という感じで、まあ値段安いからあまり文句を言うべきものではないのでしょうが、「Laravelを習得した!」というような修了感はまったくないです。

白井喬二の「江戸から倫敦へ」(連載三回分)

白井喬二の「江戸から倫敦へ」の連載三回分を読了。大日本雄弁会講談社の「現代」の昭和6年(1931年)二月号・三月号と昭和7年(1932年)一月号です。(ちなみに亡父が生まれたのが1932年の1月26日です。)
読んでみてびっくり、白井喬二の猶太禍捕物帳の第二弾です!
第一弾というのは、「傀儡大難脈」で、何故かユダヤ人が日本の色々な伝統芸能の家の秘伝書を盗んでいくのを、名与力の千面小三郎が暴いていくという話でした。この話を収めた「至仏峠夜話」という本の後書きで、白井自身が「猶太禍捕物帳」を更に書いていく予定があるようなことを述べていました。しかし私はそれで終わったのだと思っていたら、恐るべし、白井喬二、ちゃんと書いていました!
しかも、ユダヤ人が伝統芸能の家の秘伝書を盗んでいくという設定はそのままこの「江戸から倫敦へ」でも使われています。それどころか更に陰謀はこれを入れて全部で10あり、他は日本語を乱れさせる、教育を頽廃させる、機械により人間の職を奪う、風紀を紊乱する、女性の良い所を無くす、武術を貶めて文弱にする、国土をならす、重職にある武士の暗殺、という実に恐るべきものです。しかしいくらなんでも、江戸時代の日本に対して何故ユダヤ人がそんな陰謀を企むのかその辺りはまったく書いていないように思います。
ともかく一話読んだだけでも、荒唐無稽の極地で、ユダヤ人差別はいただけませんが、ストーリーとしては実にわくわくさせる展開でした。この頃の「現代」は日本の古本屋さんサイトで後2冊見つけて取り寄せ中ですが、全部(18回)読んでみたいものです。