ロナルド・ニーム/アーウィン・アレンの「ポセイドン・アドベンチャー」

ロナルド・ニーム監督、アーウィン・アレン制作の「ポセイドン・アドベンチャー」をようやく観ました。1972年の映画なので私が11歳の時でその時から知っていますが、観るのは今回が初めてです。私の親はあまり映画が好きではなくて、子供の時映画に連れて行ってもらったのは一回だけでした。(その一回は「トラ・トラ・トラ!/フラバー」でした。亡父は子供の時、長崎の諫早にあった逓信省のパイロット養成学校にいたので、亡父にとって真珠湾攻撃は特別の思いがおそらくあり、これだけは観に行ったのだと思います。)アーウィン・アレンは役者の使い方が下手で、トカゲ恐竜とかモンスターとかメカに頼った画面作りの人というイメージがありますが、この作品に限っては別の監督に任せたせいか、人間ドラマの描写が素晴らしいです。特に太っていて10人のサバイルバル組の足を引っ張ってばかりいたベルが実に格好いいです。牧師のスコットがロープを持って水中をくぐってエンジン室に行こうとした時に、途中で倒れてきた鉄板にはさまれて動けなくなります。この時にベルが「私が行くわ!私はニューヨークの水泳大会で優勝しているのよ!(但し若い時)」と颯爽と潜り、スコットを救い出します。そしてスコットに「水の中では私はまだスマートな女性なのよ」と言いますが、その後心臓麻痺か何かで息絶えてしまいます。その助けられたスコットも、最後にスクリュー室に入ろうとした一行を高温の蒸気が邪魔したのを、神に対し「まだ犠牲者を求めるのか!もう一人が必要なら俺だ!」と叫んでバルブを閉めますが、力尽きて火の海へ落下していきます。最後にそのスコットを批判して文句ばかり言っていたロゴが、「あんたは警察官だろう!文句ばかり言っていないでスコットの最後の頼みを実行しろ!」とハッパをかけられて、最愛のリンダを失った悲しみを乗り越えて、一行の最後の脱出を援助します。という風にネタばらししてしまいましたが、古い映画だからまあ大目に見てください。

外国人労働者への支援

以前ここで移民問題についての書籍を何冊か紹介し、日本における外国人労働者のほとんど「奴隷制」ともいうべきひどい状態について書いたことがあります。あれから色々考え、またEigoxのレッスンでアメリカ人の先生にこの問題を紹介したりしました。その調査の過程で知ったある外国人労働者支援の労働組合の仕事を手伝うことにしました。具体的には英語関係で英訳・日本語訳のお手伝い、外国人労働者との面談の際の通訳、社労士としての労務問題のアドバイスなどです。

佐々木力の「東京大学学問論-学道の劣化」

佐々木力の「東京大学学問論-学道の劣化」を読了。この本を読んだきっかけは、先日の折原浩先生の「東大闘争総括」の書評会で、偶然私の左隣に座ったのが佐々木氏だったことです。それだけだったら佐々木氏の名前も記憶することはなかったと思いますが、氏自身が質問に立たれたのと、その氏に対し、おそらくこの本にも出てくる「労働者の力」(第四インター日本支部のなれの果て)の人と思われる人が更に発言し、まず折原浩先生に対し「父兄」という言葉を使ったことを非難しました。折原先生は当時の学生の親から「息子(娘)を大学闘争に巻き込まないで欲しい」と言われたことを語っただけで、当時一般的だった「父兄」という言い方をしただけだと思いますが、そんなことにとがめ立てするPC派が日本にもいるんだ、とちょっと驚きました。さらに続けてその人は佐々木氏の過去の「セクハラ」事件について改めて糾弾し、日本人以外で女性という二重のハラスメントだ、みたいなことを言っていました。(ちなみにこの「労働者の力」が女性問題にこだわるのは、かつて三里塚闘争の時に、ここのメンバーが4人が女性活動家に対して強姦・強姦未遂を起こした、という過去があるからです。やれやれ。)
それで、その「セクハラ事件」の真相について、佐々木氏の言い分はどうなのかを確認したくて本書を読みました。ちなみに後書きは折原浩先生が書かれています。
結論から言えば、被害を主張している台湾からの学生のある意味思い込みによる一方的告発という感じがします。ただ、佐々木氏の方にも誤解を招くような行動が多く、それは善意から成されているのでしょうが、瓜田に履を納れず、的な慎重さに欠けていることは否めません。例えば、この女子学生が深夜に男性から電話がかかってきただけで大騒ぎするようなある意味病的な潔癖症であるのに対し、この女性が病気になった時に、食事を作ってあげるために家にまで押しかけている(佐々木氏自身はお金を出しただけと言っていますが)のは明らかにやりすぎです。しかし、私としてはE・M・フォースターの「インドへの道」を思い出しました。(「インドへの道」はイギリス人独身女性のアデラが婚約者を訪ねてインドへ行き、そこでヒンズー教のセクシャルな石像を多数見てちょっとおかしくなり、インド人男性医師のアジスの誘いでマラバー洞窟に出かけた時、その中で一種のヒステリーを起こして叫びながら出てきてしまいます。その結果アジズがアデラを洞窟の中で襲ったのだということになってしまい、アジスが冤罪で裁かれるという話です。)
そういうことで、被害者(と称している人)から話しを直接聞ける訳でもないので、セクハラの吟味については保留にしますが、問題はその後の東大側の対応の異常さです。おそらく普段から自分の業績について率直に語り、かつトロッキストという佐々木氏に対するある種のそねみみたいなものが存在したのは事実でしょうが、しかしその程度のことでここまでやるか、という思いを禁じ得ません。折原浩先生が東大闘争時の東大側の対応を鋭く批判しましたが、結局体質はその後も変わっていないように思います。(特に法学部)要するに未だにムラ社会そのもので、そこでは村八分的な陰湿なイジメが今でも横行しているということです。
後は悲しい思いをしたのは、東京大学の駒場のレベルの激しい低下です。大学院大学化と大学の法人化はダブルパンチで、駒場だけでなく東大のレベルの低下を促進したようです。もしかすると私が教養学科で学んだ頃(1983年10月~1986年3月)は、教養学科のピークの頃だったのかと正直な所思いました。確かに、折原浩先生だけでなく、廣松渉先生、杉山好先生、中根千枝先生(その当時は非常勤)、野村純一(民俗学)、石井不二雄先生(ドイツ文学、ドイツリート)などなど、錚々たる方々から自由に好きなことを学べた環境というのは本当に素晴らしかったな、と思います。

半揚稔雄著の「惑星探査機の軌道計算入門 宇宙飛翔力学への誘い」

アポロ11号50周年ということもあって、半揚稔雄著の「惑星探査機の軌道計算入門 宇宙飛翔力学への誘い」という本を買ってみました。じっくり読むつもりはありませんが、つまみ読みしてみます。映画「ドリーム」(Hidden Figure)で、人工衛星の地球周回軌道が楕円で、それが大気圏に再突入する時は放物線軌道になることは前に紹介しました。もう一つの円錐曲線として、双曲線がありますが、双曲線は宇宙船が地球から他の惑星に向けて飛び立つ時に双曲線の軌道になるとのことです。面白いですね。

ストレートレザー16本目

すっかり、ストレートレザージャンキーが止まらず、16本目を入手。ClassicShaving.comでのお買い物。An American Razor & Cutlery Co. という会社のHART STEELという製品。クオーター・ハローとありましたが、断面みたらほとんどベタです。ベタ刃はDovoとかThiers-issardのカタログにはありますが、実際には売っていないことがほとんどで、逆にこの会社のようなマイナーメーカーのはベタ刃のことが多いようです。今回、本体以外に、プロフェッショナル研ぎサービスというのも付けて、カリカリに仕上げてもらったものを買いました。その研ぎという点では確かになかなかなのですが、残念ながら剃り具合はイマイチで、顎髭が何度剃ってもツルツルになってくれずに残ってしまいます。おそらく私がまだベタ刃による剃り方を体得していないせいでしょうが。ちなみに、ClassicShaving.comで前回買ったのもそうでしたが、先端部にRを付けていなくて危ないので、砥石で削って自分なりにRを付けてから使いました。

宇宙家族ロビンソンの”Welcome Stranger”

宇宙家族ロビンソンの”Welcome Stranger”を観ました。ロビンソン一家がどこかに出かけて謎に遭遇するというより、向こうから色々なものがやってくるというこのシリーズの特長の最初の回です。それでロビンソン一家が漂着した星にいきなりやってきたのは、何と地球人のロケットで、1982年に土星を目指して打ち上げられたものです。色々な意味で矛盾があって、ジュピター2号は少なくとも地球から普通に行ける範囲の星ではなく、ワープというか亜空間飛行というかそういうもので、地球とはかけ離れた遠い星にたどり着いた筈で、それがそのような飛行の技術がない1982年打ち上げのロケットがどうやったらやってこれるのか。大体土星に行くのが失敗した後に小さなロケットで燃料や食料をどうやって補給したのか。酸素はどうしたのか。それに何より謎なのは、フライデーのナビゲーション装置をそのロケットに渡しますが、それによって地球に帰れるということになっていること。だとしたら、ジュピター2号も地球に帰れる筈です。このアルファ・ケンタウリ星移住プロジェクトは最初の所で既に失敗している訳ですから、私なら一旦地球に引き返します。またロビンソン夫妻はこのロケットにペニーとウィルを乗せて地球に連れて帰ってくれ、と頼みますが、ジュピター2号でさえドクター・スミスの体重で大きく進路を狂わせてしまったのに、子供とはいえ定員外が2人も乗ってどうやってまともに飛べるのか。という具合で突っ込みどころは満点ですが、やって来た宇宙飛行士のハップグッドの性格が明るくてほとんどカウボーイみたいなので、まあまあ楽しめる回ではあります。それからジュピター2号にやって来た何かに自分だけ地球に戻れるように頼むドクター・スミスというのもこの回からです。

宇宙家族ロビンソンの”The Hungry Sea”

宇宙家族ロビンソンの”The Hungry Sea”を観ました。
脚本家の中に、”William Welch”の名が…この回は最初に作られたパイロット版(ドクター・スミスは登場しない)がかなりの部分転用されているようです。そういった既にあるフィルムに適当なストーリーを付けるのはWelchの得意技、ということで起用されているようです。
古代遺跡みたいなのは結局何だったのかの解明もなく、一家はそこを抜け出して南へ進みます。途中凍り付いた海にたどり着きますが、気温が-80℃くらいということで凍り付いており、チャリオットが乗っても大丈夫だろうということで、その上を渡ることを決めます。一方ジュピター2号に残ったドクター・スミスは段々下がる気温に震えていましたが、ある瞬間から気温が逆に上がりだしたことに気付きます。ロボットがチェックしたこの星の軌道は長い楕円で太陽に近づくと100℃を超え、遠ざかると-80℃になるということが判明します。ここで何故かドクター・スミスはロビンソン一家を救おうとし、最初は無線で連絡しますが、電波干渉でうまく行かず、結局ロボットを一家の乗っているチャリオットに向けて出発させます。ロボットはチャリオットに到着しますが、ドンがドクター・スミスのやることは信用出来ないとしてロボットをレーザーで撃ち停止させます。しかしロボットの中のデータを解析してこの星の軌道の異常さ(しかしどう考えても自転と公転軌道がごちゃごちゃにされているように思いますが)に気がつき、もうすぐ灼熱に襲われることを予想し、シールドの設置を一家に命じます。何とか灼熱の熱さは耐えた一家でしたが、ジュピター2号に戻るのに今度は氷がすっかり溶けた海を渡らないといけません。(チャリオットは水陸両用です。)渡っている途中で渦巻きに巻き込まれ、更にチャリオットの電源が0になります。ドンが太陽電池の接続を修理に天井部に昇りますが、海の中に落ちてしまい…といった感じで危機が続きます。やっと何とかジュピター2号にたどり着いた一家は、どこかに無線で連絡出来ないかを試します。それは無駄でしたが、しかし偶然ドクター・スミスが捉えたレーダーには、ミサイルのようなものがジュピター2号目がけて進んで来ています…という所でまた来週。

NHK杯戦囲碁 小池芳弘4段 対 鶴山淳志7段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が小池芳弘4段、白番が鶴山淳志7段の対戦です。小池4段は21歳で昨年19連勝という記録を作り、NHK杯戦に初出場です。先日プロ棋士でのAI風の手の流行を紹介しましたが、この碁でもダイレクト三々が2隅で出て来ました。そのせいもあってこの碁は右半分は打ち切ってしまった感じで左下隅~左辺~左上隅~上辺が戦いの場になりました。中でもポイントとなったのは左下隅の白で、黒に包囲され、単に活きるのは難しくありませんでしたが、逆襲気味に強く打ったのが奏功し、特に黒の一間トビに割り込んで当てに継がずに当て返して、更にじっと延びるかと思ったら抜かれた所に当てたのが強手で、結果的に成功しました。黒から切って劫にする手がありましたが、黒は劫材が少ないため決行出来ず、白の言い分が通りました。その途中で黒は上辺で白を切っている石を引っ張り出しましたが、中央の折衝で白が厚くなった結果、この動き出した石は最終的には取られた形になりました。それでも左上隅は劫にはなりましたが、2手ダメを詰めて更に2段劫であり、話が遠かったです。結局上辺の切った石だけでなく左上隅の黒も取られてしまい、ここだけで60目以上の白地になりました。黒は劫の代償で右下隅を地にしましたが足らず、白の中押し勝ちになりました。

AEONのDiscussionコース、2年修了、ついでにAEONのProsとCons

本日のレッスンで、AEONのDiscussionコースの2年目を修了しました。これにてAEONについては終わりで継続しません。今後は、今やっているIELTSのスピーキング特訓コース全50回(週2回、これまで13回済み)が終わったら、Eigoxのレッスンを毎日予約出来るものに変えます。
一応最後なのでAEONのProsとConsを。
Pros
1.最初ベルリッツを検討したけど、ベルリッツが生徒2人のコースで年間20数万円なのに比べると、AEONは2年目で143,000円くらい(1年目は継続割引が無いのでもう少し高い)でまあリーズナブルです。一クラスの平均の出席者は4人くらい。(最大で8人、最小で2人)
2.スタッフと先生の雰囲気がフレンドリーな感じで良い。そのせいなのか、「10年続けています」という人が数人クラスにいました。
3.Discussionコースの教材は、AEONの先生が書いているオリジナル教材ですが、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダと色んな国の先生が執筆していて、色んな語彙を覚えるのに良く、また話題もなかなかバラエティーに富んでいました。
4.オプションのライティングコースが、全20回で3万円くらいと、これもリーズナブルでした。
5.火曜日と土曜日の2回のレッスンがあり、土曜日が出られない時は火曜日に振り替えることが出来、欠席しないで済みました。

Cons
1.Prosでベルリッツより安いと書きましたけど、オンライン英語に比べるとはるかに高いです。AEONに払う月額でEigoxでネイティブの25分レッスンを毎日受けることが出来ます。誰がどう考えたって、一週間に1回の50分のレッスンより、毎日25分のマンツーマンレッスンの方が英会話力の向上には効果的です。
2.先生が選べない。また先生は3人経験しましたけど、若い人が多く、英語を教える技術という点ではちょっと疑問を感じる人もいました。
3.ライティングでの添削内容が、例えば今やっているIELTSのライティングの添削に比べるとレベルが低かったです。しかも、「フォーマルな文章では1人称は使わない」などのカビの生えたルールを言う先生が2人もいて、また”spend much money”ではなく、”spend a lot of money”に添削する理由が「だってmoneyはcountableだからmuchは使えない」とある先生から言われたのには本当にあきれました。(moneyは言うまでもなくuncountableです。正しい理由は、平叙文では”much money”とは言わない。疑問文や否定文ならOK、です。文法的な問題ではなく、ただ英語ではそういう慣習だというだけです。)また、essayにおけるロジカルな文の構成についての指導もまったくありませんでした。
4.上級コースと言いつつ、レベルの低い生徒が混じっていて、こちらがディスカッションで何か言ってもまったく反論出来ないで終わり、というのが何回かありました。
(実際私より英語がうまいという人は2年間で2人くらい、同等レベルが数人、後はレベル的に落ちる人が多かったです。)
5.ディスカッションコースと言いつつ、実際生徒に勝手に議論させるだけで、議論の仕方についての指導はほとんどなかったです。英語の勉強にはなるでしょうが、いわゆるディベート技術の訓練にはあまりなりません。

結論としては、中級者までの人ならAEONはそれなりにいい英語学校だと思いますが、上級者にお勧めかと言うと、ちょっとコスパ的に微妙です。

最近のプロ棋士の碁でのAI風の手の流行について

プロ棋士による「AI風」の手の流行について。
ずっとNHK杯戦の囲碁を見ていますが、最近のプロ棋士の間での、AI風の手の流行ってかなりのものがあります。そういう手が一手もない対局はもうほとんど無い、と言っていいと思います。それらの代表が、5つほど画像でアップしたようなものです。(いずれも局面によっては今までもあったものですが。)これらの手に共通して言えることは、「相手の応手が極めて限定されており予測しやすい」ということだと思います。最近のAIの碁のアルゴリズムの特長は、モンテカルロ法+ディープラーニングだと言われています。この内、モンテカルロ法は、「全ての手を最後まで読み、それにより優劣を判断する手法」と言われます。しかしこの説明は半分間違いで、いくらコンピューターが進化したといっても、19X19の着手点がある囲碁において、着手可能な手の組み合わせを限られた時間ですべて網羅してシミュレートすることは不可能です。なので何らかのアルゴリズムを使い、候補手を絞り込んだ(枝刈りを行った)上での限定モンテカルロ法です。この場合、AI囲碁にとっては、相手がどう応じるか分からないような手であると、それだけ読む量が増えてしまい、結果的にはそれぞれの候補手を十分計算出来なくなります。従ってAI囲碁にとっては、ともかく相手の次の応手がはっきりして限定されている手の評価が必然的に高くなります。それがここに挙げたような5パターンの手であり、いずれも相手の応手はかなり限定されます。例えば肩付きであれば、手抜きを除けば相手の着手は這うか押すかのどちらかです。このことはAI囲碁の候補手の刈り込みにとって大きなメリットがあります。


しかし問題なのはある局面において、そういうAI囲碁にとって都合の良い手が、その局面における最善手とは限らない、ということです。一番最後の画像は、有名な棋聖秀策の「耳赤の一手」(黒27の手)というもので、古来より3つの目的を持って打たれた名手と言われています。しかし、おそらくAI囲碁から見れば、こうしたぼんやりした手は相手の応手が極めて幅広いため、必然的に候補からは排除されてしまうのではないでしょうか。(もちろん時間制限が緩ければ、こうした手を読むことは可能でしょうが、通常はほぼ無いと思います。)故安永一氏は、この一手に対し「つくづく碁は単に計算だけの問題でない気がする。」とコメントされていますが、まさに同感で、AIではない人間が打つ碁はこうあって欲しいと思います。
AIが登場以後、プロの碁である局面の形を決めてしまわず、後の展開によって打ち方を決めるために残しておく、という味わい深い打ち方が減ったように思います。これはある意味では退化だと思います。まあAI囲碁に関してはそのあまりの短時間での進化でショックが大きかったのは分かりますが、もうそろそろ醒めた見方をする棋士が増えて欲しいように思います。故藤沢秀行名誉棋聖は、神様から見たら人間の碁は100の内の2か3ぐらいだと言いました。AI囲碁についてはそれを4か5ぐらいにし、人間を凌ぐようになりましたが、決して神のレベルになったのでは無いと思います。

黒先:桑原秀策 白:井上因碩幻庵 「耳赤の一手」