小林信彦の「ムーン・リヴァーの向こう側」

jpeg000 184小林信彦の「ムーン・リヴァーの向こう側」読了。1995年の作品で、「ドリーム・ハウス」「怪物がめざめる夜」と合わせて、東京三部作だそうです。
話の内容は先日読んだ「イーストサイド・ワルツ」と重なる部分が多いです。ただ、結末が「イーストサイド・ワルツ」みたいに暗くないので、こちらの方が好感を持てます。といいつつも、この作品にも下町と山の手を巡ってのいつもの小林信彦の持論が噴出してきて、ああまたか、とうんざりした気になります。タイトルの「ムーン・リヴァー」も、たぶん隅田川(大川)のことなんだろうなと思って読んでいたら、その通りでした。正直な所、小林信彦の恋愛小説は概してうまくないですねえ。

白井喬二の「新撰組」[下]

jpeg000 181白井喬二の「新撰組」[下]を読了。
タイトルの「新撰組」は下巻の半分くらい、全体の3/4を経過したところでやっと登場します。それで池田屋事件とかも出てくるのですが、新撰組はあくまで背景に過ぎません。メインは、但馬流の織之助、金門流の紋兵衛、そして京都の伏見流の潤吉、この3人の独楽勝負を巡るお話しに、勤王の志士の妹であるお香代がからみます。織之助は、最初紋兵衛と戦い、その後潤吉と戦います。そして最後にお香代をどちらが妻にするかをかけて、潤吉と再度、肉独楽という占い独楽で決着をつけようとします。とにかくはらはらどきどき、織之助の人生も波乱万丈で読んでいて非常に楽しいです。ポケモンgoもいいけど、やっぱり本もいいです。

白井喬二の「新撰組」[上]

jpeg000 181白井喬二の「新撰組」[上]を読了。タイトルは「新撰組」ですが、上巻を読んだところでは、近藤勇も沖田総司も土方歳三も登場しません。主人公は、但馬流独楽師の織之助で、お話しは、この織之助と金門流の紋兵衛との独楽勝負です。すなわちどちらの作った独楽がより長く回っているかを競うものです。この独楽勝負の結果で、二人の美人のどちらかが異人に差し出されてしまうという緊迫した勝負です。さて勝負の行方は…

伊藤祐靖の「国のために死ねるか 自衛隊『特殊部隊』創設者の思想と行動」

jpeg000 177伊藤祐靖の「国のために死ねるか 自衛隊『特殊部隊』創設者の思想と行動」を読了。たぶん片山杜秀の右翼に関する本を買ったので、そのつながりでAmazonがおすすめで出してきたもの。強烈なタイトルに惹かれて購入。
筆者は、海上自衛隊で、イージス艦「みょうこう」の航海長在任時に、北朝鮮の工作母船と遭遇し、その船を威嚇銃撃しながら追撃し、一度は停船させましたが、結局取り逃がすという能登半島沖不審船事件に遭遇しています。この時、工作母船の船内を調査することが必要でしたが、この時点ではその任務にふさわしい技能を持ったものは自衛隊にはいませんでした。これをきっかけに自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に関わります。その後、特殊部隊について自衛隊の幹部と考え方が合わず退官、フィリピンのミンダナオ島に移り、そこでもさらに特殊部隊としての技能を磨いて、現在は各国警察や軍隊への指導を行っている人です。
まず、この人のお父さんがある意味異常な人で、陸軍中野学校の出身で、戦前に蒋介石殺害の命令を受け、終戦時にもその命令が解除されなかったという理由で、戦後も新たな指令に備えて、毎日射撃訓練を続け、それは1975年に蒋介石が死ぬまで続いたというそういう人です。
そういう父親を持つ人が海上自衛隊の特殊部隊の創設に深く関わるのですが、意外だったのが、アメリカの特殊部隊がある意味世界最弱で、まったく参考にならず、日本独自の特殊部隊を考案したということです。
そういう特殊部隊創設時のエピソードよりももっと興味深いのが、ミンダナオ島に移ってからの体験で、ラレインというおそらく反政府ゲリラ出身の20過ぎの女性で、この女性の「殺し」についての根性がすごいです。筆者にとって射撃は的に当てることですが、このラレインにとっては、相手の顔を吹っ飛ばすことです。また筆者とこのラレインが水中で格闘戦をやった時に、筆者はラレインの肩にまたがって、自分は水面から顔を出し、ラレインは水中に押し込められて呼吸ができないという姿勢になったのですが、ラレインはふりほどけないことがわかると、筆者を水の中に引きずり込んで、そちらも呼吸ができないようにし、結局我慢比べに勝って、不利な闘いを打開します。
そのラレインが、戦争中の日本の沈没船から、大正天皇が関東大震災の時に出した詔勅の額を引き上げてきて、筆者に訳してもらいます。それを聞いた感想が、大正天皇はエンペラーではなく、部族長だということです。何故なら命じるのではなく、ただ「こいねがう」ことしかしていないからです。
筆者の「思想」は正直な所、私には受け入れがたい部分が多いのですが、強烈な本ではありました。

小林信彦の「イーストサイド・ワルツ」

jpeg000 174小林信彦の「イーストサイド・ワルツ」再読完了。
1993年4月27日~10月3日 毎日新聞朝刊に連載されたもの。朝日新聞に連載された「極東セレナーデ」は一応成功作だと思いますが、この作品は毎日新聞の読者に歓迎されたか疑問です。特に終わり方の暗さと来たら…
作者は後書きで、「初めての恋愛小説」だと説明していますが、それはないと思います。1988年の「背中合わせのハート・ブレイク」(原題は「世間知らず」)はどうなるのでしょうか。その「ハート・ブレイク」と結構共通点が多いです。主人公がどちらも「世間知らず」であること、主人公の若い時の恋愛が自分は振られたと思っていて、相手は逆に主人公に振られたと思っていること、そしてどちらもハッピーエンドではないこと、等々。また、1992年の「ドリーム・ハウス」とも、一緒に住んでいる女性が結婚した後自分を殺して家と土地を自分のものにする、という心配をする所がかぶっています。
後、山の手の男性と下町の女性の恋愛ということで、「東京の街」論がたっぷり出てきますが、恋愛小説には不必要な詳細さであるのと、小林信彦をずっと読んできている読者にはある意味うんざりするような感じです。
この作品は、知らなかったのですが、「イーストサイド・ワルツ 悦楽の園」としてVシネマになっているみたいです。ここで予告編が見られますが、意外と忠実な映像化をしているように見えます。