小林信彦の「合言葉はオヨヨ」

jpeg000 106小林信彦の「合言葉はオヨヨ」を再読了。大人向けオヨヨ大統領シリーズの3作目です。この「合言葉はオヨヨ」と「秘密指令オヨヨ」は週刊朝日に連載されたもので、どちらも海外の観光地を舞台にしています。「合言葉はオヨヨ」は、香港、マカオ、神戸、東京、釧路、根室と舞台が移っていき、「お宝」が移動していきます。香港、マカオといえば「麻薬」といったイメージがつきまとっていた時代のもので、現在の香港、マカオを知っている私から見るとかなり時代を感じます。
新しいキャラとして香港警察の楊警部補というのが登場します。この人物には明らかにモデルがあって、「袋小路の休日」の「北の青年」に出てくる青年がそうだと思います。何かと毛沢東語録を参照したりする所に共通点があります。
オヨヨ大統領は、この作品ではさらに凶悪性を増し、自らの手で殺人を犯しますし、また犯罪に含まれるトリックのレベルもシリーズ中最高ではないかと思います。
ただ、全体のお話しはジャパンテレビの細井ディレクターが香港のホテルのチェーンロックが中からかけられた自室に女性の死体を発見する所から始まりますが、この密室殺人のトリック自体はかなり陳腐です。
全体的に、日活アクション映画的で、かなりハラハラドキドキは楽しめる作品です。

古今亭志ん朝の「柳田格之進、干物箱」

jpeg000 97落語、今度は志ん朝の「柳田格之進、干物箱」を聴きました。
「柳田格之進」は正直なことこの上ない武士が上司に疎まれ浪人していますが、そのうちに質屋の主人と碁敵になり親しくなります。ある日月見の宴で質屋の家で碁を打ちましたが、その時に50両の金が紛失し、質屋の番頭は柳田が盗ったと決めつけ問いただします。柳田は盗った覚えはありませんが、役所で吟味になると色々都合が悪いこともあり、その50両を渡すことを約束します。柳田は自害して身の潔白を示そうと思っていましたが、娘に止められ、50両は娘が吉原に身を沈めて調達することになります。時が経って、柳田は元の藩に戻り江戸留守居役になることができましたが、娘は苦界に沈んだままです。そうしている内に、質屋では年末の大掃除をしていると、無くなった筈の50両が出てきます。それを聴いた柳田は娘の面目のため、質屋の主人と番頭を斬る、といい質屋に乗り込んできますが…という噺で、人情噺の傑作と思います。
「干物箱」は遊び人の若旦那が、自分が吉原に行くため、知り合いの善公に自分の声色を使わせ親父をだます噺です。身代わりになった善公と親父のやりとりがおかしいです。

筒井康隆の「モナドの領域」

jpeg000 86筒井康隆の「モナドの領域」を読了。作者曰く、「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」ということです。
タイトルの「モナド」はライプニッツのモナドロジーのモナドというより、「プログラムの集合体」といった意味のようです。
出だしは、切り落とされた女性の腕が河原に落ちているというミステリー風に始まりますが、途中からミステリーとはうって変わったある意味哲学的な内容になります。何故哲学的になるのかはネタばらしになるので書きません。
最近たまたまフレドリック・ブラウンの2つの長編、唯我論的な「火星人ゴーホーム」と、多元宇宙を扱った「発狂した宇宙」を続けて読みましたが、筒井康隆のこの作品はこのSFの2大相反テーマを一つにまとめたような内容です。
私個人は、この作品が筒井康隆の最高傑作だとは思いませんが、筒井の哲学的な思弁の集大成であることは認めます。作品としては「聖痕」のようなものの方が好きです。まあでも、「壊れかた指南」の時は本当に壊れてしまったのかと思いましたが、80歳過ぎてこれだけの作品をまだ書けるというエネルギーはすごいと思います。

古今亭志ん生の「稽古屋、後生鰻、らくだ、巌流島」

jpeg000 95落語、本日は大ネタの「らくだ」が聴いてみたくなって、古今亭志ん生の「稽古屋、後生鰻、らくだ、巌流島」を取り寄せて聴いてみました。
稽古屋は音曲噺で、志ん生のいい喉を聴くことができます。
後生鰻は志ん生が得意とした噺で、殺生を嫌う旦那が鰻屋からうなぎを買い取って川へ放してやっていたのが、ある日うなぎがないので代わりに…というお噺。
らくだは、屑屋が酒を飲んで態度を豹変させる所で終わっているショートバージョンです。体が大きくて無法者で「らくだ」というあだ名のお兄さんが、フグにあたって死んでしまって、その兄貴分が葬儀を出そうと大家や八百屋を脅かす噺です。酔っ払いの描写に関しては志ん生以上の落語家はいません。
巌流島は「岸柳島」とも表記されますが、乗合船に乗り合わせた無法な侍を年取ったお武家がうまく謀って川中島に侍を置き去りにする噺です。元は上方の噺で、志ん生がくすぐりを多数追加して滑稽なお噺に変えたみたいです。

小林信彦の「大統領の密使」

jpeg000 84小林信彦の「大統領の密使」を再読。オヨヨ大統領シリーズで、初めての大人向けの作品で、ジュブナイルの「オヨヨ島の冒険」「怪人オヨヨ大統領」に続いて3番目に書かれたものです。内容はドタバタコメディでありながら、本格的なミステリーにもなっていて、ミステリーマニアの「SRの会」が1971年のベストミステリーに選んでいます。内容は、DJの今似見手郎(実在のアナウンサー今仁哲夫がモデル)がホテルのギデオン聖書を出来心で持ち帰った所、その聖書にはマイクロフィルムが隠されていてオヨヨ大統領の組織が登場して、という話です。丹下左膳の「こけ猿の壺」や映画の「マルタの鷹」のようなお宝争奪戦です。宍戸錠の「エースのジョー」と「あしたのジョー」をパロった「きのうのジョー」とか、日本テレビの有名プロデューサーの細野邦彦(「裏番組をぶっとばせ!」「ウィークエンダー」)と井原高忠(「ゲバゲバ90分」「11PM」)をモデルとする細井忠邦とか、007ことジェームズ・ボンドの遺児(いいのか?ジェームズ・ボンドは「007は2度死ぬ」の中で浜美枝が演じていた日本人の海女のキッシー鈴木との間に子供ができたことになっています)とか登場します。その他、今似DJのファンだという謎のキャラクターである「青木の奥さん」が神出鬼没に登場して狂言回しの役を演じます。オヨヨ大統領も、ジュブナイルでは単なるお笑いキャラ的でしたが、本作品でようやく悪役らしくなります。
他の特長としては、両国生まれの作者らしく、登場する場所が下町に集中しているのと、きのうのジョーが昭和20年代を回顧するのが興味深いです。

古今亭志ん朝の「百年目」

jpeg000 93落語、今日は志ん朝の「百年目」。店の中でいつも小言ばかり言っている商売一筋の堅物に見える番頭さんが、実は大変な遊び人で、ある日芸者と花見に出かけてそこで店の旦那とばったり会ってしまい、遊びをやっていたことがばれて…というお噺です。
登場人物が大変多いのですが、志ん朝の演じ分けが見事ですし、長い噺ですが志ん朝のトントントンと噺を運ぶテンポが実に気持ちいいです。

小林信彦の「セプテンバー・ソングのように 1946-1989」

jpeg000 82小林信彦の「セプテンバー・ソングのように 1946-1989」を再読。この本は小林信彦のエッセイを集めた本ですが、特筆すべきは「1946-1989」となっているように、1946年の当時13歳で中学2年生だった小林信彦の夏休みの日記(学校に提出したもの)がそのまま掲載されていることです。戦争が終わり「平和になって初めての夏休み」ですが、それは明るさに満ちたもので、小林少年は先輩たちが開いてくれた夏期スクール、昆虫採集、映画、読書に熱中します。
タイトルの「セプテンバー・ソングのように」というエッセイは、映画評論家の荻昌弘さんへの追悼文です。
「セプテンバー・ソング」は作詞マクスウェル・アンダーソン、作曲クルト・ワイルによる名曲で、日本では1952年に公開された映画「旅愁」のテーマ曲として使われてから有名になりました。「9月になると日は短くなっていく」と歌われていますが、これが人生のたとえにもなっています。
表紙のイラストは江口寿史です。江口寿史は最近復刊された「極東セレナーデ」でも表紙を描いています。

古今亭志ん朝の「品川心中、抜け雀」

jpeg000 91落語、今度は志ん朝の「品川心中、抜け雀」を取り寄せて聴きました。
「品川心中」は、品川で売れっ子だった遊女が、寄る年波で段々人気がなくなり、移り替え(衣装替え)をしたくてもお金を出してくれる客がなく、それをはかなんで客のうち人の良い貸本屋の若旦那と心中しようとします。しかし土壇場で、若旦那を海に突き落とした後、お金を出してくれる客が見つかったと連絡があり、遊女は若旦那を海の中に落としたまま帰ってしまいます。突き落とされた若旦那は幸い海が浅かったので助かり、世話になっている親分の所に行きますが、子分共は博打の真っ最中で、手入れが入ったと勘違いして慌てふためくさまを志ん朝は見事に演じ分けます。実際の品川心中はこの後、若旦那が遊女に復讐する話があるのですが、これは現在では演じる人がいないようで、この志ん朝のCDも前半までです。
「抜け雀」は、一文無しで旅籠に泊まった絵師が、宿代の形に衝立に雀の絵を描いたのが、朝日を浴びると雀が絵から抜け出して餌をついばみにいってまた戻ってきます。これが評判になり旅籠は大儲けしますが、ある日老人がやってきて、その絵に欠陥があると言い出して、というお噺です。噺として面白いですし、サゲも決まっています。

小林信彦の「名人 志ん生、そして志ん朝」

jpeg000 79小林信彦の「名人 志ん生、そして志ん朝」を再読了。2001年10月に、古今亭志ん朝が63歳の若さで亡くなったことをきっかけにして、作者の志ん朝・志ん生に関するエッセイをまとめ、なおかつ「小説世界のロビンソン」に掲載されていた夏目漱石と落語の関係を論じたものを再掲したものです。
作者は、志ん生、志ん朝の親子、特に志ん朝を贔屓として、その早すぎる死を惜しんでいます。私もこの所ずっと志ん朝の落語をCDで聴いていますが、私も志ん生より志ん朝の芸の方を高く評価します。
作者は日本橋の商家の生まれで、志ん生-志ん朝に関しては特に江戸言葉の素晴らしさを讃えています。伝統的な下町の言葉は1960年代に絶滅してしまったようで、今後志ん朝のような素晴らしい江戸言葉をしゃべれる噺家というのは出てこないのではないかと思います。

NHK杯戦囲碁 本木克弥七段 対 清成哲也九段

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本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が本木克弥七段、白番は清成哲也九段の対戦です。本木七段は初出場ですが、NHK杯戦では3年間記録係の経験があります。清成九段は出場回数30回以上のベテランです。対局で黒本木七段が上辺右の白に上から覗いて仕掛けていき、白が反発したことから、白石は2つに分断されて白が苦しくなりました。しかしながら清成九段は両方ともしのぎ、黒に決定的なリードは与えません。白は下辺を確定地にしながら、左上隅の黒の大ゲイマジマリに手をつけていき、左辺を白の勢力圏にしました。この結果、白優勢でのヨセ勝負かと思われましたが、ここで黒が白の左下隅に切り込みを入れたのが鋭い手で、部分的に地は損ですが、外から締め付けることが出来ました。これを利用して上辺の白と左辺の白を分断しました。白は両方をしのぐことはできず、白の投了になりました。本木七段の一瞬の隙をついた攻めが成功しました。