白井喬二の「祖国は何処へ」は白井喬二の二番目の大長編作です。白井喬二自身によれば、単行本は「富士に立つ影」の1/4も売れなかったとのことですが、「富士に立つ影」が300万部超ですから、1/4弱としても70万部程度売れたことになります。十分ベストセラーだと思います。また、この作品は「時事新報」という新聞の朝刊に連載されたものですが、連載回数は「富士に立つ影」と同様に1000回を超え、この連載が終わった時には時事新報の購読者が一気に14万人も減ったそうです。
お話しとしては、スケールが大きく、物語の舞台も江戸、信州・上州、越後、江戸、下総、伊豆諸島、中国(清)、そしてまた江戸と移り変わります。ただ、中国(清)でのお話しは、あくまでも日本人が見た中国そのもので、中国らしさはあまり出ていないように思います。また、安藤昌益の「自然真営道」に基づく、原始共産制、農本主義みたいな思想の主張が珍しく、よく戦前に許可されたなと思います。
この作品は出版上では冷遇されていて、戦後は扶桑書房から最初の3巻だけ出て終わってしまったようです。故に完全版としては旧字・旧かなの戦前のものしかありませんし、古書店で入手するのもかなり困難です。(私は春陽堂書店の日本小説文庫版全9巻を25,000円払って購入しました。)
もう少し再評価されてもいい作品ではないでしょうか。
ピンバック: 白井喬二作品についてのエントリー、リンク集 | 知鳥楽
ピンバック: 白井喬二作品についてのエントリー、リンク集 | 知鳥楽/ Chichoraku
『富士に立つ影』を祖父の蔵書の中から見つけた小学生の頃から白井喬二のファンです。古本屋で『祖国は何処へ』を見つけたときからタイトルに惹かれて各巻を細々と蒐めていましたが、「海奴篇」だけ手に入りませんでした。60を過ぎたら無性に読みたくなりました。国会図書館に登録して入手機会を待っていますが、なかなか本登録になりません。読むだけでもできないでしょうか。
大山様:
戦前の平凡社の白井喬二全集の中に「祖国は何処に」は全編収録されています。この全集は栃木県立図書館が持っていますので、お近くの大き目の図書館経由で頼めば貸し出してくれます。以下を参照してください。
https://shochian2.com/archives/2446