読売新聞社の「激闘譜 第二期棋聖決定七番勝負 藤沢秀行 VS 加藤正夫」

読売新聞社の「激闘譜 第二期棋聖決定七番勝負 藤沢秀行 VS 加藤正夫」を読了。故藤沢秀行名誉棋聖は、1977年に新たに賞金最高の棋聖戦が創設されると、「初物食いの秀行」と呼ばれた通りに、橋本宇太郎9段を破って第1期の棋聖になります。以下、加藤正夫、石田芳夫、林海峯、大竹英雄、林海峯を破って6連覇を達成し、名誉棋聖となります。その6連覇の中で一番苦戦し、追い込まれたのがこの第2期の加藤正夫戦です。棋聖になる頃、秀行さんは競輪で作った1億円を超える借金で身動きが取れない状態になっており、1回目の棋聖の賞金1700万円(2017年現在は4500万円になっています)でも焼け石に水、で自宅を競売にかけられるような状態でした。また相当のアルコール依存症でしたが、この棋聖戦の対局の時だけは、酒を断って臨み、幻覚に悩まされながらも、しらふで戦い抜きました。しかしそうして臨んだ第2期の棋聖戦も、相手の加藤正夫はこの頃本因坊を3連覇するなど、絶好調であり、第4局を終わった所で藤沢から見て1勝3敗と追い込まれました。第5局が始まる前に、藤沢は負けたら首を吊ろうと、枝振りの良い木を探しながら対局場に来たということです。この第5局で、藤沢は右辺に中国流から発展させた大模様を張ります。白の加藤正夫はこの模様に打ち込んで行きますが、黒の藤沢が打った手は一部の白を取るのではなく、白全体を丸取りする手でした。加藤は「殺し屋」というあだ名があり、相手の大石を殺すのを得意としておりましたが、この時は逆になりました。黒が白を殺すか、白がしのぐかのぎりぎりの攻防が続きましたが、ついに黒は白を全滅させ、藤沢がカド番をしのぎました。この後第6、7局にも藤沢が連勝し、ついに逆転で棋聖を防衛します。
また、この時の7回の対戦では、黒を持った方がいずれも「中国流」という布石を採用する、という珍しい対戦でした。