白井喬二の「祖国は何処へ」[2]革新篇

jpeg000-9白井喬二の「祖国は何処へ」第二巻、革新篇読了。
第一巻の最初の方で、伊豆大島の近くの利島(としま)という離島に、真田幸村の末弟の子孫である真田搢達が住んでいて、金銀を蓄えて秘かに幕府の転覆を狙っているということが出てきました。この巻ではその「島将軍」を担ぐ一派の活動が描かれます。幕府側もこの陰謀に気付いており、それを取り締まる役に任じられたのが、第一巻で臺次郎に二度邪魔されて職務をしくじった水野忠七郎で、今度こそはと張り切ります。その「島将軍」を担ぐ一派の若侍で、南條芳之という者がいましたが、「島将軍」の秘密に気付いている中国人和鼎泰が、幕府にその秘密をしゃべってしまう前に、口を封じようとしますが、それに失敗し役人に追われることになります。それを助けたのが、越後を逃れ秘かに江戸に入っていた臺次郎でした。南條芳之の住まいには、ふとしたことから、これも越後を逃れていた金乃美が一緒に住むようになります。芳之は金乃美に恋して、そのためもあって、中国から将軍家に渡された国書(何者かによってそれは盗まれていました)を秘かに奪い取ろうとします。この国書が幕府によって取り戻されると、水野忠七郎の手柄となり、忠七郎は若年寄に出世し、そうなると金乃美は約束によって忠七郎のものになってしまいます。芳之は、臺次郎の活躍によってこの国書を首尾良く奪い取ることに成功しましたが、その後臺次郎と金乃美を引き合わせてみたら、二人が知り合いでしかも恋仲であることがわかります。幕府の島将軍一派への追及は激しくなり、多くの者が捕まります。芳之は、臺次郎を恋敵と思い、卑怯にも臺次郎を役人が待ち構える場所にわざわざ送り、臺次郎はついに幕府の役人に捕まってしまいます。

民人篇 革新篇 尖端篇 心影篇 島嶼篇 海奴篇 異邦篇 結晶篇 寸終篇 総評

三遊亭圓生の「牡丹灯籠~御札はがし」

jpeg000-8本日の怪談、三遊亭圓生の「牡丹灯籠~御札はがし」。
お露の幽霊に悩まされた新三郎は、家に御札を貼り、海音如来を肌身離さず持って、蚊帳の中に閉じこもります。しかしながら、隣に住んでいた伴蔵とお峰の夫婦が、金が欲しさに幽霊に頼まれるまま、海音如来を盗み出し、御札をはがしてしまい、幽霊は新三郎の部屋に入っていってしまいます。伴蔵が翌朝見てみれば、新三郎は幽霊にとり殺されていました…伴蔵とお峰は結局ばちが当たることもなく、100両を手に入れて生きていく、という後味の良くない噺です。

白井喬二の「祖国は何処へ」[1]民人篇

jpeg000-7白井喬二の「祖国は何処へ」、第1巻(全9巻、春陽堂の日本小説文庫版、昭和7年11月発行)の民人篇を読了。昭和4年6月から昭和7年5月まで「時事新報」に連載されたもの。「富士に立つ影」と並ぶ長編で、白井喬二はこの二作品の他もう一作品を書いて、三部作にする構想があったみたいですが、結局最後の長編作品は書かれずに終わりました。
お話しは、天明の飢饉の頃、品川の海産問屋で仲仕小僧をしていた臺次郎(だいじろう)がふとしたきっかけで、海産問屋の隣の屋敷に住んでいた老中の息子水野忠七郎がある策を秘めて上野と信濃の国境に出かけていくのに付いていって、江戸を出奔します。臺次郎はしかし、すぐに水野の一行にはぐれ、折からの飢饉もあって、道中で飢え死にしかかりますが、金乃美(このみ)というある農家の娘より芋粥を恵んでもらい何とか命が助かります。その後、臺次郎は鏑木鱗平という田沼意次の甥の家来となり、水野忠七郎が上野と信濃の間の領地争いで、漁夫の利を得ようとするのを妨害しようとします。しかし鏑木はすぐに忠七郎に丸め込まれてしまいます。忠七郎は、実は二つの国の争いに乗じて、地方の藩の地下資源の採掘を幕府の権利にしてしまおうと目論んでいたのですが、その目的の為には一般大衆の迷惑も顧みず、地下の調査のため川を堰き止めてしまったりします。鏑木は元々村人に頼まれてそれを解決する筈だったのですが、忠七郎に出世の餌をぶら下げられてすっかり寝返ってしまいます。臺次郎は自らの判断で、川の堰の鍵を盗み出し、堰を開放して水を流して農民を救い、越後に逃げます。越後からさらに船で北陸に逃げる時に、金乃美と再会しますが、船は難破して大破してしまいます。臺次郎は金乃美の命を救って、その祖母と共に幸せに一緒に暮らすようになります。ところが、そこにまた水野忠七郎が、今度は石油の採掘を行おうとしてやってきて、小作人から田畑を取り上げます。臺次郎は知り合いの農民の命を救うために、中国製の最新式の水揚げポンプの秘密を探るため、忠七郎によって仙台に派遣されます。四ヶ月かかって、首尾良くポンプの秘密をつかんで臺次郎は新潟に戻ってきますが、そこでは金乃美が忠七郎の囲い者にされるという悲しい現実が待っていました。臺次郎は、忠七郎が石油が出ない土地で誤魔化して石油が出るように装って幕府の検査の役人を騙そうとしたのを、証拠をつきつけてその嘘を暴き、再びどこかに向けて逃走します。まだこれからどうなるかはわかりませんが、臺次郎が民衆の味方となって、権力者と対抗する、という骨格が見えてきたように思います。
なお、戦前の版ですので、当然旧字旧かなです。読みにくいかと思いましたが、別に問題はありませんでした。漢字なんかはむしろ総ルビで読みやすいです。

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三遊亭圓生の「牡丹灯籠~お露と新三郎」

jpeg000-8今日の怪談噺、六代目三遊亭圓生の「牡丹灯籠~お露と新三郎」。「真景累ヶ淵」を聴き終わったばかりですが、夏もそろそろ終わりなんで、手持ちの怪談のCDは消化しておこうと思って、続けて聴いています。
ご存じ、三遊亭圓朝が、中国の小説「牡丹燈記」にヒントを受け、舞台を日本にして作り直したもの。「真景累ヶ淵」は大河小説的に話が何代にも渡りますが、「牡丹灯籠」はストレートで話の進み方が速く、新三郎とお露は初めて会ったすぐ後、お露が死んでしまい、お露は死んでも新三郎を忘れられず、幽霊になって新三郎と逢瀬を重ねます。

NHK杯戦囲碁 黄翊祖8段 対 芝野虎丸2段

jpeg000-15本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が黄翊祖8段、白番が芝野虎丸2段の一戦。黄8段は3大リーグに参加している強豪、タイトル戦への登場も近いと期待されています。芝野2段は各棋戦で勝ちまくっていて、勝率No.1です。対局は、上辺で黒が開いた所にすかさず白が打ち込んで、序盤から戦いになりました。黒は白の二間開きの間を分断して白を上辺に閉じ込めようとしましたが、白はうまく頭を出して、上辺の黒と右上隅の黒を分断出来ました。この時点では白がうまく打っていました。その後、左辺と左下隅、下辺を巡る戦いになりましたが、結局黒は左辺を、白は下辺をそれぞれ相手の数子を取り込んでの振り替わりになりました。この結果は互角でした。しかし黒は右下隅から下辺の黒を取り込んでいる白の壁に向かって開き、取り込まれている黒を攻め取りにさせることを狙いました。白もその危険性は察知し、下辺から右辺に向かって頭を出しました。その後、右辺の折衝に移り、白は地をえぐって儲けたのですが、その代わり、下辺からの白石を分断されてしまいました。黒は攻め取りを狙いましたが、一手寄せ劫でした。しかし黒は白4子をウッテガエシで取る手を打ち、これに白が受けると手が詰まって本劫になるという局面になりました。実は上辺の白は黒に攻められて両劫で活きていました。これは黒からすれば無限大の回数の劫立てが利くことになります。このため白は下辺を本劫にすることは出来ず、黒が白4子を先手で取って、なおかつさらに締め付けが利くことになり、ここで黒がはっきり優勢になりました。結局、黒の中押し勝ちでした。

白井喬二の「忍術己来也」

jpeg000-6白井喬二の「忍術己来也」を読了。「自来也(じらいや)」ではなくて、「己来也(こらいや)」です。1922年(大正11年)に「人情倶楽部」に連載されたもの。芥川龍之介が賞賛した作品です。
お話しは、忍術を良くする大泥棒の「己来也」と、面師「烟取下衛門(けむりとりくだりえもん)」の二度に渡る忍術勝負を描いたものです。「己来也」は攻める術を得意とし、「下衛門」はこれに対し守る術を得意とし、二人の戦いはがっぷりとかみ合います。1960年代に忍術ブームがあって、小説では山田風太郎、漫画では白土三平らが活躍しましたが、そうした忍者ブームの原点みたいな作品です。主人公が面師ですが、「富士に立つ影」でも面師が出てきましたし、「神曲 左甚五郎と影の剣士」でも彫刻師の左甚五郎が主人公でした。白井喬二の好きな設定ですね。

三遊亭圓生の「真景累ヶ淵~聖天山」

jpeg000-5本日の怪談噺、三遊亭圓生の「真景累ヶ淵~聖天山」。
新吉はお累の死後、お賎の元に入り浸っていましたが、お賎から旦那の惣右衛門を殺してくれと頼まれ、またしても人殺しを犯してしまいます。惣右衛門の葬儀の時に、土手の甚蔵がやってきて、惣右衛門の首に縄の跡があることに気付き、新吉を問い詰め、白状させてしまいます。新吉とお賎は、土手の甚蔵に金をせびられたのに嫌気が差し、今度は甚蔵を殺そうとします。新吉は聖天山の山頂に、惣右衛門が金を埋めていたと甚蔵を騙して連れて行き、甚蔵を崖から落として殺します。しかしながら甚蔵は生きていて、新吉を殺しに来ます。新吉があわや殺されようとした時に、一発の銃弾が甚蔵の体を貫きます。圓生の「真景累ヶ淵」はここまでです。

白井喬二の「兵学大講義」

jpeg000-2白井喬二の「兵学大講義」を読了。1924年(大正13年)1月にサンデー毎日に掲載され、12月に玄文社から刊行されたもの。この1924年こそは、白井喬二の「傑作の森」の年で、実におびただしい作品が書かれており、「富士に立つ影」も「新撰組」もこの年に連載が始まっています。
お話しは、藤堂高虎に仕えて勇名をはせた軍学者の諏訪友山が、年を取って信州に引っ込んでいましたが、由井正雪の謀反を軍学の力で察知し、江戸に出てきて、弟子で幕府の兵書館である「勾律館(こうりつかん)」を管理している大村春道と協力し、同じく軍学者である由井正雪と軍学の戦いを交わすものです。この時代、時代小説というとチャンバラが主流でしたが、「新撰組」の独楽勝負、「富士に立つ影」の築城術と同じく、チャンバラではなく軍学の勝負とした所が、白井喬二の面目躍如です。(白井喬二はもちろんチャンバラものもたくさん書いています。米子中学の時剣道部に所属し、中学の時に剣道二段を取っている達人です。)この「軍学の戦い」が実に面白く、お互いに相手を騙したと思ったら、逆手を取って騙し返して、と丁々発止の勝負が続きます。最後は、由井正雪の仲間であった丸橋忠弥が、軽率にも資金調達にあたって謀反のことをしゃべったため、謀反が幕府の知ることになり、いわゆる「由井正雪の乱」となって失敗するのは歴史通りです。

白井喬二の「さらば富士に立つ影」

jpeg000 236白井喬二の晩年になってからの自伝(出版は没後)「さらば富士に立つ影」を読了。一言で言うと、非常に育ちの良い人で、白井喬二の書く主人公に明朗型が多いのは、作者自身の性格を反映していると思います。またお父さんが警察官で全国色んな所を移り住んでいるのも、作者の幅広い視点につながっていると思います。白井喬二は米子中学(今でいえば高校)時代から、既に新聞で小説を連載していて、非常に早熟です。ちょっとまんが道の藤子不二雄の二人がやはり高校時代に新聞に漫画を連載していたのを思い出しました。
この本で知ったことで、驚いたのは、「富士に立つ影」の登場人物の赤針流の熊木伯典と、賛四流の佐藤菊太郎が歴史上実在の人物だということです。ちゃんと子孫もそれぞれいるそうです。
また、学芸書林の白井喬二全集が第一期で終わって、第二期が刊行されていない理由ですが、白井喬二自身が第二期の刊行を断ったということです。学芸書林はその頃の新興出版社で、色々と不手際が多かったようです。今思うと返す返すも残念なことです。

三遊亭圓生の「真景累ヶ淵~お累の自害」

jpeg000-5今日の落語、じゃなくて怪談噺、三遊亭圓生の「真景累ヶ淵~お累の自害」。新吉とお累の間には男の子が生まれましたが、それが死んだ兄の新五郎とそっくりで、二人の仲も冷めてしまいます。そうこうしている内に、新吉は名主の妾のお賎と知り合いいい仲になります。三蔵はこのことについてお累に意見をさせますが、新吉はこれを逆恨みし、お累に冷たく当たるようになります。お累は病になりますが、新吉は家の蚊帳さえ質に入れてしまい、子供が蚊に喰われても意に介しません。三蔵が見かねて、家から蚊帳を持ってこさせますが、新吉はその蚊帳さえ質に入れてお賎と飲むお金に変えます。その時に言い争って、誤って熱湯を男の子にかけてしまい、男の子は死んでしまいます。お累は、一人残された後、新吉がお久を殺した鎌を取って喉を切って死にます。お賎の所にいた新吉には、お賎の幽霊が死んだ子を弔ってくれるように頼みに来ます。
どうもシリーズ中でも一番の陰惨な噺です。圓生の「真景累ヶ淵」は後「聖天山」を残すのみです。