曲亭馬琴・白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(下)読了。
なんせ、八犬伝のオリジナルは、全98巻、106冊もあるそうですから、それがこのボリュームで読めるのは幸いです。それでも普通の文庫本の4冊分くらいありますが。私は伝奇小説が好きなんですが、考えてみればこの八犬伝が元祖ですよね。
とにかく八犬士が八人集まるまでがはらはらどきどき、そして最後の犬江親兵衛が現れると、この人が年は一番若く、再登場時(4歳の時に神隠しに遭い、行方不明になります)の時もまだわずか9歳。しかしながら武芸抜群で、再登場後は胸が空くような大活躍です。しかも美少年という設定です。後は出てくる悪役の名前が素晴らしいです。鰐崎悪四郎猛虎(わにさきあくしろうたけとら)、暴風左衛門舵九郎(あかしまざえもんかじくろう)なんてのはすごいです。
全体に白井喬二の訳はとても読みやすく、そして格調も失っていません。お勧めです。
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三遊亭圓生の「錦の袈裟、猫怪談」
曲亭馬琴作、白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(上)
曲亭馬琴作、白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(上)を読了。白井喬二関係の著作で、現時点で一番売れているのはどうも「富士に立つ影」ではなく、この八犬伝のようです。Amazonのレビューを読む限り、白井訳は非常に評判がいいみたいなんで、読んでみました。「八犬伝」は子供の時、子供向けの翻案を読んでいますが、ちゃんとしたのは読んだことがなかったので、丁度いい機会と思いました。白井喬二は学生時代から、近松門左衛門や井原西鶴の作品の現代語訳を手がけていて、手慣れたものです。白井の現代語訳は、非常に読みやすく、リズムもいいと思います。そして白井は馬琴からストーリーテリングの手法を学んでいるように思います。
上巻では、八犬士のうち、六人までが判明し、七人目と思われる人物が出てきた所で終わっています。
古今亭志ん朝の「犬の災難、三枚起請」
梶原一騎・川崎のぼるの「男の条件」
梶原一騎・川崎のぼるの「男の条件」読了。
「巨人の星」のゴールデンコンビが1968年に少年ジャンプに連載したもの。漫画家を主人公にして、梶原流スポ根をやったものです。
川崎のぼるの絵というのが、ワンパターンで、主人公は星飛雄馬そっくり。ライバルは花形満、親友のギャグ漫画家志望は伴宙太そっくりです。星一徹のそっくりさんは、ドヤ街で無銭飲食の男として登場します。(笑)ストーリーはあの当時の梶原一騎のいかにも時代がかったもので、ひたすら熱いです。ちなみに主人公の名前は旗「一太郎」です。一太郎は、ある旋盤の工員を主人公にした有名漫画の漫画家に、旋盤の絵が間違っている(そんな旋盤は存在しない)と指摘し、漫画家に工場に見学に来るように要求します。漫画家を工場に連れて行くため、一太郎は漫画家が酒場で酒を飲む間待っていますが、やがて喧嘩に巻き込まれ、頭を怪我します。その出血のため、工場に行くことができなかったため、一太郎は「自分の血で」床に旋盤の絵を描きます。それを見た漫画家は「まるで雪舟だ」と感動します…それから、一太郎は師匠と仰ぐ漫画家と一緒に紙芝居を描いて日銭を稼いでいましたが、ある時ヤクザに因縁をつけられます。この辺りがいかにも梶原一騎。
ともかく、「ああこういう漫画の時代もあったんだ」と懐かしいです。
三遊亭圓生の「ちきり伊勢屋」(下)
白井喬二の「東遊記」
白井喬二の「東遊記」を読了。飛鳥亭主人のペンネームで1922年に「人情倶楽部」に連載したもの。名前から分かるように、「西遊記」のパロディーで、三蔵法師が一念法師、お供が孫悟空、沙悟浄、猪八戒の代わりに、蛙舎麟(あしゃりん)、土竜星(どりゅうせい)、爬六甲(はろくこう)が付き添い、天竺ではなく地竺にお経を取りに行くという話です。孫悟空の如意棒に相当する武器は蛙舎麟、筋斗雲に相当するものは土竜星がそれぞれ所持していて、一対一の対応にはなっていません。活躍の仕方も最初は蛙舎麟が活躍しますが、土竜星が登場してからはもっぱら土竜星が活躍します。こういう偽古典的な大ぼら話を書かせたら、白井喬二の右に出る人はいません。1940年4月に単行本になってから、再版されておらず幻の本となっていましたが、1999年にようやく出たのが今回読んだ版です。本来は学芸書林の全集に入る筈でしたが、第二期の全集が中止されて日の目を見ませんでした。
それ以外に、白井狂風名義での「旧造軍艦」も収録。こちらは全5回の子供向けのお話し。残念ながらクライマックスと思われる第4回の分が欠けています。1886年にフランスで建造され、日本に回航される途中、南シナ海で行方不明になった、防護巡洋艦の「畝傍」の話をベースにしています。
白井喬二の「雪麿一本刀」(下)
白井喬二の「雪麿一本刀」(下)読了。上巻では、仇と付け狙う青江霧太夫の手下の剣士10人ばかりをばったばったとなぎ倒して来た雪麿ですが、下巻に入るとようやく霧太夫の正体を突き止め、直接渡り合います。しかし、その戦いは邪魔が入ったり、霧太夫が逃げ出したりしてなかなか本懐を達することができません。そうこうしている内に、霧太夫は偽の切腹騒ぎを起こして死んだふりをし、その間に講武所の後釜を募集するという名目で、名だたる武門の秘伝書を集めて、それを自分のものにしてしまうという陰謀を企みます。霧太夫はある屋敷に隠れているのですが、それが「怪建築十二段返し」の再来のようなからくり屋敷で、その仕掛けにはまって雪麿は苦戦します。しかしながら奉行所の助けも借りながら、再度その屋敷に忍び込んで、見事秘伝書を取り返します。その時手伝った奉行所の者が忍術の心得があって、とこれは「忍術己来也」の再現。そして最後は奉行所公認での御前試合で、霧太夫と真剣勝負をして見事勝つ、という王道的展開です。全体的に深みはまったくないのですが、肩の凝らない理想的大衆小説です。雪麿を巡る女性も、最後に雪麿の妻となる香鳥、雪麿が世話になる大名家の鏡姫、年増のお壺、料亭の女お琴など、たくさん出てきて鞘当てを演じて飽きさせません。
なお、1961年にNETでTVドラマになっていて、主題歌を村田英雄が歌っています。
三遊亭圓生の「ちきり伊勢屋」(上)
白井喬二の「雪麿一本刀」(上)
白井喬二の「雪麿一本刀」(上)を読了。昭和31年から32年にかけて京都新聞に1年半連載されたもの。タイトルからもわかるように、雪麿という主人公が刀を執って剣の腕をひたすら奮っていく話です。「国を愛すされど女も」の大鳥逸平、「神曲 左甚五郎と影の剣士」の森十太郎と同じく、雪麿も何故強いのかがよくわからない(剣はちょっと習っただけで後は自己流)のに、次から次に現れる名剣士達をばったばったと倒していくという展開です。白井喬二も戦前の初期の作品では「新撰組」の独楽勝負、「兵学大講義」での兵学勝負、そして「富士に立つ影」での築城術での勝負のように、チャンバラに頼らないストーリー展開を主として来たのですが、戦後の作品は一転してチャンバラ主体の話が多くなったようです。後もう一つの特徴は、エロチックなお話しが多く含まれるようになったことで、雪麿の養父の為永春歌が、16歳の美人の弟子の裸絵を描いて、あげくの果てはその女性を犯してしまおうとしたりします。さらにはお壺という中年女性が出てきて雪麿を誘惑したりします。白井喬二も戦後になって、自己流の制約を取っ払って、伸び伸びと書いているように思います。