手塚治虫の「グリンゴ」

手塚治虫の「グリンゴ」を読了。これは手塚の正真正銘の遺作です。確かビッグコミックだったと思いますが、連載をリアルタイムで読んでいました。主人公の名前は「日本人」=ひもとひとし、つまり「にほんじん」です。手塚の人生の最後になって日本と日本人を改めて書こうとしたものです。その日本が南米のある大国に総合商社の支店長として赴任し、派閥のボスの失脚でたちまち左遷され、政府軍とゲリラが年中戦っている国へ飛ばされ、そこでレアメタルの鉱脈を発見して功績を挙げるものの、ゲリラがアメリカの援助を受けた政府軍に敗れ、ジャングルの中を逃げている時にインディオの部族に助けてもらい、最後は日本人ブラジル移民の「勝ち組」がジャングル奥地に作った村に捕まって…とかなり波瀾万丈のストーリーです。そして主人公が背が低いものの、相撲が得意で、というのが手塚漫画の主人公としてはかなりユニークです。その主人公が日本人村で奉納相撲に出て10人抜きすればフランス系カナダ人である奥さんと娘がその村で受け入れられる、その試合が始る直前で惜しくも終ってしまいます。手塚はこの連載中に一度入院し、開腹手術して手の施しようのない胃がんであることが分り(本人は知らされず)一度退院してまた入院し最後の方はベッドの上で描いて連載を続けます。巨匠に合掌です。本当に最後まで読みたかった作品でした。最後の日本人村ですが、手塚にとって戦時中の振り返りたくない記憶であるのと同時に、それでも懐かしさを抑えきれない、そういうものとして描写されているような気がします。

手塚治虫の「アドルフに告ぐ」

手塚治虫「アドルフに告ぐ」を読了。私の大学生時代に連載されていたものですが、掲載誌が週刊文春で漫画誌ではなかった関係で未読でした。総じて手塚の晩年の大人向けは重厚な名作が多いですが、これも「まあ」 その一つに入ります。
物語の中心になっているのは「アドルフ・ヒトラーにユダヤ人の血が混じっている」ことを証拠付ける文書です。ちなみに、この説は機密だったのではなく、第2次世界大戦中から連合国の間でも知られており、例えばアメリカに亡命したユダヤ人作曲家のクルト・ヴァイル(カート・ワイル、「マック・ザ・ナイフ」や「セプテンバー・ソング」で有名です)は、1942年に「シッケルグルーバー」という歌曲に曲を付けています。


その歌詞の内容はまさにヒトラーの父方の祖母の姓がシッケルグルーバーで、その子であるアロイス(ヒトラーの父)にユダヤ人の血が流れている=同時にヒトラーにも、ことを揶揄したものです。ちなみにヒトラー自身も自分の血統についてははっきりしたことは知らず、こうした噂が出てから調査させたようです。それに関係した一人の弁護士がニュルンベルク裁判の時に、ヒトラーの祖母が働いていたのはユダヤ人の家で、そこの息子の一人とヒトラーの祖母の間に生まれた私生児がヒトラーの父である、という証言をしています。この証言はその後の調査で、その街にユダヤ人が住んでおらず、またヒトラーの祖母が働いていた家もユダヤ人ではなかったことが分り、虚偽とされています。ちなみについ最近ロシアがユダヤ人が大統領であるウクライナをナチ扱いする理由として、ヒトラー=ユダヤ人説をまた持ち出し、イスラエルとウクライナがそれに激しく抗議しており、現代まで生き続けている風説です。

そういう意味で物語の中心を成す文書は、歴史的には存在しませんし、またお話の全体が史実に基づく以上、ヒトラーがユダヤ人の血統であることを暴かれて失脚する、などということは起こる筈が無いので、その辺りが今一つと思います。更には峠草平という主人公兼狂言回しが、最後までその文書を隠し通すだけであり、何故さっさと公表される手段を取らないのか、場合によっては英米ソ他のスパイに売っても良かった筈ですが、最後まで疑問が残るまま、ヒトラーが死んで文書は無意味になります。
ただ、同じアドルフという名前を持つ日本人とドイツ人の混血と、ユダヤ人が、幼馴染みでありながら対立する立場にしたのは手法としては上手く、その二人が最後はイスラエルとPLOに別れて殺し合う、というのもさすがに手塚らしいスケール感があります。

白井喬二の「日本刀」(序曲)

白井喬二の「日本刀」(序曲)を読了。雑誌「現代」の昭和13年6月号に掲載。これで終わりではなく次回以降も続くのですが、それがどういう内容なのかは不明です。「序曲」の内容は、「日本刀」を書くことを出版社が予告したら、親戚の陸軍中将から電話が掛かって来た、とか、日本刀や普通名詞ではなく固有名詞であるとか、また人に日本刀の役目を聞いたら、外国人は「斬る」しか言わないだろうが日本人は色々なことを答えるだろう、とか正直どうでもいい内容です。まあこの時期は白井喬二もかなり時局に阿るようになった来たので、このエッセイ?もそんな感じで、いくら白井喬二の大ファンの私でも続きを探して買って読みたいとは思いませんでした。

NHK杯戦囲碁 三村智保9段 対 安斎伸彰8段(2023年1月22日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が三村智保9段、白番が安斎伸彰8段の対戦でした。最初に局面が動いたのが左下隅から左辺で、黒がかかりっぱなしの石を放置して、白がかけて来たのにも受けず、白が小さく取るのではなく、左辺上方の黒に付けて大きく取ろうとし、更に左辺から中央に飛んで完全に地です、と主張してから黒が動き出したのがどうだったんでしょうか。結局左辺の中で生きるスペースは無く、黒は下辺から利かして左辺を捨てようとしました。しかし白はその利かしに来た石も含めて大きく攻めようとしました。結局白は左辺の黒だけでなく、下辺左の黒2子も取り、さらに中央で黒3子を取っているということになり、40目程度の地と中央に素晴らしい厚みが築けました。これに対し黒は下辺で1子噛み取って下辺右側を地にしましたが、これの収支は明らかに白が上回り優勢になりました。ただ黒は先手は取ったので、上辺右の2線に潜行していた石から一間飛びし、白2子を攻めました。これに対し白は右辺に打ち込み、どちらかがしのげればいい、的な感じで打ちました。しかしその後の折衝で結局白は両方を逃げ出すことになり、中央と上辺の黒とのねじり合いになりました。黒は上辺右からの白を攻立てましたが、ここで左下隅方面で得た厚みが十分働き白は連絡することが出来ました。そうなると中央の黒に眼が無く、右辺の白との攻め合いを目指すことになりました。しかし中央の黒は既にかなりダメが詰まっており、攻め合いは3手ぐらい白が勝っていました。黒は何とか劫には持ち込めましたが、中央に匹敵する劫材は無く、また手数で余裕がある白に冷静に劫材を消され、結局中央を全部取られて黒の投了となりました。前半で左下隅方面に非常に強い厚みを与えた盤面で、ねじり合いの碁にしたということで、三村9段の打ち方に無理があったように思います。

トワイライト・ゾーンの”Shadow Play”

トワイライト・ゾーンの”Shadow Play”を観ました。アダム・グラントは殺人の罪で裁判所で電気椅子による死刑を宣告されます。その判決に対し「また俺を殺さないでくれ」と叫びます。彼はそれは現実ではなく、彼が見ている悪夢だと思っています。彼はそれを弁護士や他の死刑囚にも説明しますが、誰もそれを信じようとはしません。12時になって電気椅子に座らされまさに処刑されようとした瞬間、彼はまた判決の場にいます。しかし今度の裁判官は、先ほどの死刑囚の一人だった人に変わっています。彼はこうして毎晩同じパターンの夢を繰り返し見ている、という奇妙な話です。まあトワイライト・ゾーンらしい話ではありますが。中二病というか哲学で言う唯我論、フレドリック・ブラウンの「火星人ゴーホーム」と共通する主題のエピソードでした。

アウター・リミッツの”The Guests”

アウター・リミッツの”The Guests”を観ました。何というか、いわゆるゴシック・ロマン+SFです。ウェイド・ノートンという放浪の若者が、車を運転中に老人が森の中の道路で倒れているのを発見します。その老人を助けるため人手を借りようと森の中に入って行き、そこで古い洋館が丘の上に建っているを発見します。その中には奇妙な老夫婦、女優、若い女性がいました。しかし彼らは助けを求めるウェイドの要求を鼻で笑い、その老人の年齢だけを尋ねます。その家を出て行こうとしたウェイドですが、何故かどこも出口が無くなっており、さらに彼自身は奇妙な力で上の階へと引っ張られます。そこにはブヨブヨした軟体動物のようなエイリアンがいました。この洋館自体がそのエイリアンが作り出した幻影で、その中に人間を閉じ込めている理由は人間というものを完全に理解するためでした。そのエイリアンはウェイドの心の中に他の館の住人にはない何かを発見したため、彼を殺さず館に留めました。ウェイドは洋館の中の若い女性が彼が森の中で拾った懐中時計の中にあった写真と同じであることを発見します。そしてウェイドはその女性テスに一目惚れします。テスはウェイドに実は逃げる道はあるので、手遅れにならない内に出ていくように言います。しかしテスを愛したウェイドは彼女となら一緒に洋館にいても良いと言います。ウェイドを目覚めさせるため、テスは洋館の門から外に出ます。実はテスはもう90歳以上でしたが、洋館の中では時が止まっていたため若い姿だったのですが、外に出たとたん時に追いつかれたちまち老婆となりまた灰になって消えます。エイリアンはそんな二人を見て、「愛」と「自己犠牲」という人間の特性を理解し、ウェイドを解放します。その瞬間洋館は巨大な脳になり、そのまま中の住民と共に消滅します。
しかし、SF+ゴシックロマンというのはスタートレックにも宇宙家族ロビンソンにもそういうエピソードがありましたが、アングロサクソンのオカルト好きの一つの変形版という感じです。

ウルトラQの「鳥を見た」

ウルトラQの「鳥を見た」を観ました。これもウルトラQの中のつまらないエピソードのワースト5に入るかも。普段は文鳥の格好をしていて、突然40mにまで巨大化する古代鳥ラルゲユウスの話。と言っても動物園から動物を逃がしたり、また閉じ込められていた警察署を巨大化して壊したりするだけで、何のために現代にやって来たのかも不明ですし、また去り方も唐突です。しかも造形はリトラの流用じゃないでしょうか。誉める所が無いです。

トワイライト・ゾーンの”Silence”

トワイライト・ゾーンの”Silence”を観ました。何とまたも弁護士訳でドクター・スミスのジョナサン・ハリス登場。あるクラブのメンバーであるテイラー大佐は、同じクラブのメンバーのテニソンの絶え間ないおしゃべりが大嫌いです。そこで彼に50万ドルの賭けを持ちかけます。それは彼が外から見えるガラス張りの部屋で一年間を過ごし、その間に一言もしゃべらなかったらその50万ドルを進呈するというものです。テイラー大佐は、テニソンが数ヶ月で我慢できなくてしゃべるだろうけど、その間だけでも彼が静かにしていれば儲けもの、と考えていました。しかし賭けに乗ったテニソンは数ヶ月どころか、半年、10ヵ月と無言の行を続けます。焦ったテイラー大佐は、彼の奥さんが若い男と歩いているのを見た、などの汚い手を使ってテニソンに喋らせようとしますが、それでもテニソンは喋りません。そしてついに1年が経ち、テニソンは賭けに勝ちます。賞金を受け取ろうとしたテニソンに対し、大佐は実は数年前に破産し、お金は無い、と言います。それに対しテニソンは筆談で何かを伝えようとします。人々は何故彼が喋らないのか訝りましたが、実はなまじのことでは賭けに勝てないと知っていた彼は、何と声帯につながる神経を切断していました…
何だか後味の悪い嫌な話でした。ジョナサン・ハリスを見られたのは良かったですが。

アウター・リミッツの”The Mutant”

アウター・リミッツの”The Mutant”を観ました。またも悪趣味なグロいキャラクターが登場します。宇宙探査の結果、地球に良く似た星が発見され、Annex 1(第1別館)と名付けられます。ただ一つの地球との違いは、その星は常に昼で夜が無いということです。さらに研究者の一人がその星の放射性物質を含んだ雨に打たれたため、その研究者はミュータントと化し、眼が飛出て、また彼が触るだけでその人間を殺すことが出来、また人の心を読むことが出来るようになりました。他の研究者はそのミュータントのファウラーの症状が感染することを恐れ、彼を残して地球に帰ろうとしますが、心を読まれてそれを察知され、ロケットは壊されます。そういった事態を訝しく思った地球側から心理学者マーシャルが一人派遣されます。偶然その心理学者はAnnex 1の科学者の一人ジュリーの元恋人でした。ジュリーともう一人の科学者は、マーシャルがファウラーに心を読まれないため、ファウラーのことを説明した後、催眠術をかけ、ファウラーがミュータントであるということを忘れさせます。しかし、結局催眠術を解くある言葉が偶然話されたため、マーシャルの催眠術は解けてしまいます。皆が自分を殺そうしていることを察知したファウラーはマーシャルとジュリーを洞窟の中に追い詰めます。しかしミュータントのファウラーは暗闇の中ではおかしくなり、洞窟の中でロウソクの灯を追い求めますが、結局その火も消してしまい、悲鳴を上げつつ死んでしまいます。しかしこのミュータントの造形、忍者ハットリ君の実写版(これもキモかったです)を思い起こさせます。

ウルトラQの「地底特急西へ」

ウルトラQの「地底特急西へ」を観ました。これに出てくる人工生命体M1号が、相撲の朝潮関に似ていると、その昔「東京大人倶楽部」という月刊アスキーの編集長をやった遠藤諭(エンドウユイチ)氏とか中森明夫が作っていた雑誌のウルトラQ特集に出ていました。まあ確かに目元は似ていますが、唇はいくらなんでもこんなに拡がっていません。
この話はウルトラQの中でももっともシュールなもので、時速450Kmのイナヅマ号の試運転にたまたま人工生命体のM1号が持ち込まれ、車内で大きくなって運転席を占拠し無茶苦茶いじったので、イナヅマ号が暴走して、最後は強制停止装置でも止まらず宇宙に飛び出して、衛星軌道を漂うM1号が「私はカモメ」と言うという最後です。(これも説明しないと若い人は分らないと思いますが、「私はカモメ」ロシア語でЯ — Чайка{ヤー・チャイカ}はソ連の初の女性宇宙飛行士テレシコワが衛星軌道を周回中に語ったセリフです。)ちなみに上海で実運転しているリニアモーターカーが時速430Km、JRのリニアモーターカーが時速500Kmですから、ようやく時代がドラマに追いついたということです。イナヅマ号はリニアではなく、ジェット噴射で走っています。