飯田洋介の「ビスマルク」を読了。この稀代の政治家にして外交家についてもっと知りたいというのが動機でした。しかしこの本は最新の研究に基づいてはいるのでしょうが、単なる事実の羅列の印象が強く、もう少しビスマルクの人物についての突っ込んだ描写が欲しいと思いました。ビスマルクというと鉄血宰相ということで戦争で物事を解決して来た、というイメージが強く実際にデンマーク、オーストリア、フランスと3つの戦争に全て勝ち、オーストリアを除く小ドイツ主義に基づく、プロイセン主導のドイツ統一を成し遂げています。しかしその裏にはある意味天才的な外交努力があり、結局ドイツの悲劇というのはビスマルクの後に彼のような天才的な外交家である政治家を持てなかったことではないかと思います。またオーストリアとの戦争では初戦の勝利に更なる戦線拡大を図る軍部を押さえてわずか7週間で戦争を終わらせており、決して軍国主義一辺倒の人ではありませんでした。またカトリック教徒や社会主義者への弾圧で悪名高い一方で、その当時の欧州としてはもっとも進んだ普通選挙制度を導入し、更には健康保険、労災保険、年金という今日まで続く社会保障を世界で初めて導入したのもビスマルクのドイツでした。そういう意味で一時はドイツの軍神みたいな存在になるのですが、第2次世界大戦でのドイツの敗戦以降は今度は犯人捜しとして全ての責任を押しつけられ、と毀誉褒貶の激しい人物ですが、今の世界には見当たらないタイプの政治家です。