下村悦夫の「悲願千人斬」(上)を読了。獅子文六も主なものは大体読んだし、さすがに獅子文六で手に入るものを全部読もうとは思わないので、次に移行。次のステップとしては、平凡社の「現代大衆文学全集」に収められた大衆小説の作家。既に「現代大衆文学全集」そのものも古書店で5冊ほど購入済みです。この「現代大衆文学全集」は白井喬二が編集に携わったもので、第1巻であった白井喬二の「新撰組」が30万部を超える大ヒットとなり、この全集の成功をもたらします。この全集の成功は作品が採用された多くの作家に多額の印税をもたらし、例えば江戸川乱歩はそのお金で家を新築しています。
この「現代大衆文学全集」にも収録されている下村悦夫は和歌山県出身の歌人で、与謝野晶子、北原白秋の指導を得ますが芽が出ず、伝奇小説の作家に転じます。そんな下村悦夫の出世作がこの「悲願千人斬」で、雑誌「キング」の創刊号から連載され、吉川英治の「剣難女難」と人気を二分します。今回読んだ「悲願千人斬」は「現代大衆文学全集」収録のものではなく、講談社の大衆文学館です。物語は、戦国時代の美濃で、斎藤道三に滅ぼされた土岐家の忘れ形見の太郎頼秀を、名僧である白雲上人と、その上人の腹違いの弟である豪傑の土佐青九郎(白雲上人とそっくりという設定)が守って、主家である土岐家の再興を図ろうとするという話です。白雲上人に腹違いでそっくりな弟がいるということは秘密にされており、そっくりなことを利用して、この二人は色々なトリックを駆使します。そこが上巻の読みどころです。
下村悦夫の「悲願千人斬」(上)
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