小林信彦の「怪人オヨヨ大統領」

jpeg000 80小林信彦の「怪人オヨヨ大統領」を再読。「オヨヨ島の冒険」に続く、ジュブナイルシリーズの第2作です。マルクス兄弟のグルーチョ、ハーポ、チコがそのままの名前で探偵役で登場。(グルーチョのみグルニヨン、これは映画「ラヴ・ハッピー」での役名。)ギャグもマルクス兄弟の映画のそのままで、発表当時権利関係への意識が弱かったのが伺えます。まあこの頃は、マルクス兄弟なんて少なくとも読者である子供はほとんど知らなかったのでしょうが。解説には「パロディ」とありましたが、パロディにするなら、少なくとも名前くらいは変えるべきだと思います。(小林信彦自身が、あるミステリー作家が自分の作品に、東西の有名探偵を名前をそのままで登場させたことを批判しています。)マルクス兄弟キャラの3人が活躍するのに比べると、オヨヨ大統領はいまひとつキャラが立っていないように思います。

古今亭志ん朝の「三枚起請、お若伊之助」

jpeg000 76落語、今度は古今亭志ん朝の「三枚起請、お若伊之助」を聴きました。
三枚起請は異なる三人の男に起請(将来一緒になるという誓約の手紙)を渡しそれぞれを手玉に取るしたたかな花魁のお話で、三人の男と花魁の演じ分けが見事です。
「お若伊之助」は根岸の御行の松のほとりにあった因果塚の由来のお噺で、ちょっと怪談じみていますが、根岸と両国を行ったり来たりする勝五郎の大変ぶりが面白いです。

小林信彦の「ビートルズの優しい夜」

jpeg000 74小林信彦の「ビートルズの優しい夜」を再読了。「ビートルズの優しい夜」、「金魚鉢の囚人」、「踊る男」、「ラスト・ワルツ」の4篇を収録。
このうち、「ビートルズの優しい夜」と「金魚鉢の囚人」は「決壊」にも収録されていてそっちで読み直したので、今回は「踊る男」と「ラスト・ワルツ」を再読。特に「踊る男」が面白く読めました。別の名前にしてありますが、明らかに萩本欽一がモデルで、コント55号としてデビューして一世を風靡し、その後売れなくて充電の期間を過ごし、その後またTVで大成功するまでが描かれています。個人的に、この萩本欽一が売れていない充電の時代に、ニッポン放送のラジオで「欽ちゃんのドンといってみよう!!」というラジオ番組をやっていて、それをよく聴いていたので懐かしいです。この番組に合わせて萩本欽一は「パジャマ党」というブレーン集団を結成しています。この「欽ちゃんのドンといってみよう!!」をTVに持って行ったのが「欽ちゃんのドンとやってみよう!!」でこれが萩本欽一のTV復活のきっかけとなって大成功します。「踊る男」ではこのあたりまでが描写されていますがラジオのことは書かれていません。
「ラスト・ワルツ」はTVの脚本家がある映画監督にだまされて映画の脚本のネタをぱくられそうになるお話です。このころから権力を持ち始めた広告代理店がある意味不気味に描写されています。最後に、主人公がザ・バンドの「ラスト・ワルツ」を観るところで終わっていて、懐かしかったです。

古今亭志ん朝の「寝床、刀屋」

jpeg000 77落語、今度は古今亭志ん朝の「寝床、刀屋」を聴きました。志ん朝の「寝床」は、柳家三語楼-古今亭志ん生バージョンが混じっています。このバージョンは元の噺をより過激にスラップスティック化したもので、義太夫を語る旦那が嫌がって逃げる番頭を追っかけ、番頭が土蔵の中に逃げ込んで中から鍵をかけます。旦那は土蔵の回りをぐるぐる回って義太夫を語り続けますが、そのうち土蔵に出窓を見つけ、そこから義太夫を「語りこみ」ます。旦那の義太夫は狭い土蔵の中で渦を巻いて番頭に襲いかかります。これが三語楼-志ん生バージョンですが、サゲは番頭はたまらず逃げだし、「今はドイツにいます」というものです。さすがにサゲだけは志ん朝は普通のバージョンのにしています。
刀屋は、自分のことを放っておいて結婚しようとしているお嬢さんと相手を斬り殺そうと、主人公の徳三郎が刀屋で刀を求めようとするのですが、それをじっくり話して止めようとする刀屋の旦那の語りが見事に演じられています。

小林信彦の「時代観察者の冒険」

jpeg000 73小林信彦の「時代観察者の冒険」を再読了。小林信彦の1977年から1987年のコラムを集めたものです。この時代の小林信彦は、「唐獅子シリーズ」、「夢の砦」、「ビートルズの優しい夜」、「ぼくたちの好きな戦争」、「極東セレナーデ」などの代表作を発表しており、一番脂がのった頃だと思います。エッセイで取り上げられているテーマは多岐に渡りますが、中でも1985年の「アイドルの時代」が鋭いと思います。その中で指摘されているように、この頃は色々な分野で活躍する人物のアイドル化が進んでいました。本家の芸能界を見ても、中森明菜、小泉今日子、南野陽子、中山美穂、岡田有希子、浅香唯といったアイドルが活躍していました。今から見てもアイドルの全盛時代でした。個人的に覚えているのは1985年頃のニッポン放送のラジオで土曜日の19時から、中山美穂、南野陽子、小泉今日子の番組が続けてあったということです。アイドル化は学問の世界にも及び、この頃、浅田彰、中沢新一といった「アイドル」学者が流行していました。

櫻井忠温の「肉弾」

jpeg000 68櫻井忠温(さくらいただよし)の「肉弾」を読了。日露戦争で中尉として、旅順攻囲戦に参加し、第1回の総攻撃で瀕死の重傷を負いましたが、奇跡的に一命を取り留め、その戦いの記録を文書にしたものです。戦前1000版を超える大ベストセラーになったものです。この本のことは、乃木将軍経由で明治天皇に伝わり、明治天皇はこの本を読んで感動し、櫻井忠温は拝謁の栄を賜ることになりました。また英語を始め15カ国語に翻訳され、アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトはこの本を自分の二人の息子にも読ませ、また作者に感謝状を送っています。さらにはドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は、この本をドイツ軍の全将兵に配布したといいます。なお、「肉弾」という言葉は、櫻井忠温が初めて使ったもので、後に日本軍の行きすぎた精神主義の象徴的な言葉になります。ただ日露戦争当時の、多大なる犠牲を伴いながらも日本軍が志気の高さを維持したことはこの本を通じて伝わって来て、現代の眼で読んでも感動を覚えます。櫻井忠温はこの本が有名になったこともあって、戦前少将にまで出世しますが、戦後は公職追放になり苦労します。
櫻井忠温は四国松山の出身で、松山中学の時は夏目漱石に英語を教わっています。

天頂の囲碁6

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天頂の囲碁6が発売されたので、早速取り寄せました。今回のはアマチュア7段だそうです。アルファ碁には及びませんが、アマチュアとしては最強クラスです。早速、九路盤定先で対局してみましたが、持碁になりました。(一手30秒の設定です。)このソフトは学習が進まないと強くならない感じです。天頂の囲碁5は持っていなくて、4との比較になりますが、4は序盤でかなり踏み込んだというかぎりぎりの手を打ってきますが、6はそれに比べると穏健な打ち方をしているように思います。(後で調べた所によると、最高棋力を発揮させるには1手120秒の設定にしないといけないみたいです。ただ120秒はかなりかったるくてやる気がしませんが。)

NHK杯戦囲碁 王銘エン九段 対 藤沢里菜三段

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NHK杯戦の囲碁、本日は黒番王銘エン九段と白番藤沢里菜三段の一戦。王九段は本因坊獲得歴もあり、隅より辺を重視する銘エンワールドと呼ばれる独特の棋風で有名です。藤沢三段はあの藤沢秀行の孫で碁界のサラブレッドです。まだ17歳ですが、既に女流タイトルの獲得歴もあります。(15歳9ヵ月で会津中央病院杯を、16歳1ヵ月で女流本因坊を獲得しています。)対局は序盤は黒の王九段がうまく打ち回し白は真ん中が薄くなりました。それでも白は右上隅にかかっていき、中央に連絡しようとしましたが、黒にその間を分断されてしまいました。結果的に白は中央で2子をポン抜いて厚くなりましたが、その代わり右上隅の白5子をそっくり取られてしまいました。この右上隅の地が大きく、黒が大優勢かと思いましたが、ここからの白の打ち方が見事で、取られた5子にからめながら上辺に打ち込みました。黒は白5子を取り切るために2手かけましたが、この間に白に中央に連絡されてしまいました。(写真はこの場面です。)この結果、左辺の黒が切り離されて薄くなり、白からいじめられました。ここで形勢は大逆転して白の優勢になりました。その後、白は右下隅の三々に入り、地合はさらに白有利になりました。ヨセで左上隅が劫になりましたが、白は劫立てにほとんど意味のない手を打って10目くらい損しました。その後もヨセでは白はかなり損をしました。でもまだ白が盤面でも優勢で終わってみれば白の7目半勝ちでした。藤沢三段は次は山下敬吾九段との対局で楽しみです。また、今期のNHK杯では女流4人のうち3人(謝依旻、鈴木歩、藤沢里菜)が1回戦で勝ちました。

古今亭志ん朝の「居残り左平次、雛鍔」

jpeg000 75落語、今度は志ん朝の「居残り左平次、雛鍔」。「居残り左平次」は、川島雄三監督の「幕末太陽伝」の元になっているお噺。品川の遊郭でさんざん遊んで、そのまま居残ってしまい、結局お金を払わないで出てきてしまう、佐平次の口のうまさ、たくましさが志ん朝によって生き生きと描写されています。「雛鍔」はお武家の子供が、穴開きのお金を知らないで、「お雛様の刀の鍔だろう」としたものを、町家の子供がちゃっかり真似をしてお金をせしめるお噺です。

小林信彦の「オヨヨ島の冒険」

jpeg000 69小林信彦の「オヨヨ島の冒険」を再読。いうまでもなくオヨヨ大統領シリーズの第1作で、最初は子供たちに向けて書かれて、小学五年生の女の子が主人公です。この女の子は、小林信彦の長女がたぶんモデルで、私とほぼ同年齢なので、この作品に出てくる1970年当時のギャグはほとんど説明不要でわかります。逆に今の子供だったら、ニコライとニコラスのモデルがコント55号だっていっても何のことだかわからないでしょう。パパのあだ名がヒゲゴジラっていうのも。
ルミのおじいちゃんが瀬戸内海の孤島で一人暮らしているという設定は、ちょっと高橋和己の「散華」を思い出させます。