白井喬二の幽閉記(2)

白井喬二の「幽閉記」を読了。昭和5年の日曜報知に10回くらい連載されたもので、以前1~6回と8回の分だけを読んでいます。幸いなことに、平凡社の白井喬二全集の第5巻に収録されていて、全部読むことができました。お話は、かつて権勢を誇ったけれど、ある時殿様の不興を買って6年間も高楼の中に閉じ込められている氷駿公について、関口と大久保という二人の武士がそんな人生なら死んでしまった方がましか、いやそれでも生きていた方がいいかを論争します。結局決着は付かず、二人は直接氷駿公に聴いてみよう、ということになり、10日の内にそれぞれが高楼に登って氷駿公に問いかけるということになります。それで関口が夜中に高楼に登ってみたら、そこに閉じ込められていたのは氷駿公ではなく、大坪園勝郎というまだ30歳くらいの若い武士でした。その武士はかつて藩内を騒がせた桃林事件の首謀者が自分であったことを告白します。
その後のお話は、桃林事件の後藩内に発生した朱蘭組という謎の集団と、氷駿公の妾であったお多摩、また氷駿公の部下であった早月郷太郎などがからんで進んでいきます。お多摩と郷太郎は高楼の中から氷駿公を救いだそうとしますが、中にいたのは大坪園勝郎で、この園勝郎がかつてお多摩に思いを寄せ、それが受け入れられなかったから桃林事件を起こすことになったと告白します。一方で関口と大久保はお多摩らの氷駿公救い出しの現場に居合わせ犯人と間違えられて捕まってしまいます。
そういった感じで話は進むのですが、最後は何故か登場人物の多くが殺害されて、氷駿公は一体どこに行ったのかの謎も一切明かされないまま終わってしまいます。ちょっとすっきりしない展開で、出だしは良かったですが、成功作とは言い難いと思います。

中里介山の「大菩薩峠」第15巻

中里介山の「大菩薩峠」第15巻を読了。この巻で面白かったのは、質屋に蛇を持ち込んで、本当は名刀だけど自分以外が見ると蛇になる、と言って金をだまし取るという話が出てきたことで、白井喬二の「十両物語」に出てきた話です。どうやら白井喬二の創作ではなく、ある程度知られた話だったようです。
それは置いておいて、この巻も話が進むような進まないような不思議な展開で、宇治山田の米友は道庵先生を見限ってお銀様にくっつきますし、そこにお雪ちゃんもやってきて、何と龍之助も一緒になるというご都合主義的展開です。一方で駒井能登守は蒸気船を操って奥州の月の浦までやってきます。そうしている内に裏宿の七兵衛は、伊達家の秘宝を盗み出しますが、瑞巌寺に隠れている内に捕まります。しかし護送される途中で逃げ出します。また能登守の船に乗っていたマドロスともゆるも駆け落ちで船を逃げ出します。
駒井能登守の目的は、どこか外国の地に行って平和な国を築くことですが、一方でお銀様も不破の関で地元の士族から土地を買って、そこに自分の理想の地を建設しようとします。そういった感じで何か一種のユートピア小説めいて来たのがこの巻です。これで3/4を読んだことになります。後5巻です。

白井喬二の「紫天狗」

白井喬二の「紫天狗」を読了。大日本雄弁会講談社の「講談倶楽部」の昭和25年の秋の大増刊(8月発行)です。ヤフオクで落札したものです。「日本の古本屋」よりも最近はヤフオクの方が白井喬二の新しい作品が見つかる確率が高いです。お話は沙門明智という怪しげで好色な聖者と称する男が、奇跡を行う振りをして人々をだまして金儲けや女漁りをするのを、篠原兵馬という若い武士(紫天狗)が懲らしめるという話です。しかし結末で沙門がやっつけられるのがあまりにもあっさりしすぎで、これは失敗作と思います。とある後家さんと兵馬の師匠である中山陣兵衛の娘の胡夜(こよ)という二人の美女が登場してどちらも沙門に苦しめられますが、さして劇的な展開もなく終わってしまいます。

中里介山の「大菩薩峠」第14巻

中里介山の「大菩薩峠」第14巻を読了。この巻でも前巻に続き動きがあり、お雪が飛騨高山の新任の代官に見初められ、拐かされてその屋敷に連れ込みます。龍之助がその後を追って代官屋敷に忍び込み、出てきた代官の首をはねて、その首を橋の上に放置します。それだけでなく、その代官の淫蕩な妾であったお蘭を連れて出奔します。まったくお雪の妊娠疑惑はどうなったのかまったく語られませんが、お雪はその後尋ね当てて来た弁信と一緒に旅に出てしまいます。一方で駒井能登守はようやく蒸気船を完成させることが出来、お松やお君の忘れ形見の登、清澄の茂太郎やマドロスを乗せて、船を出帆させます。
という具合に話は進展しましたが、さてこの後どのようにまとまるのか、あるいはまとまらないのか、おそらくまとまらないのでしょうが、ともかくそのダラダラした展開を焦らずに楽しむことが読み続けるコツのようです。これで全体の7割を読了したことになります。

TOEIC L&R 試験の参考書

TOEICを今回までで5回受けましたけど、その勉強で参考書を15種類くらい買っています。その中で3つ紹介しておきます。

1.TOEICテスト公式問題集
まあこれは基本中の基本ですね。特に昨年から問題形式が変わったので、新しい問題形式に慣れておかないと本番で大変です。この公式問題集で取れたスコアと本番のスコアはあまり一致しませんが、解くのにかかる時間はほぼ本番と一緒です。結構値段が張りますが、必買でしょう。

2.植田 一三 TOEIC(R)TEST 990点満点英文法・語彙 (アスカカルチャー)
リーディングの部の文法問題を克服するのに一番役に立った参考書です。というかこの問題集の文法問題は、TOEICの本番テストよりはるかに難しいです。TOEICで850点未満の人は手を出さない方が無難です。でも英語学習の最終目標がTOEICではない人にはお勧めです。私はこの問題集を3回繰り返してやりました。その結果、TOEICのリーディング前半の文法問題はほとんど間違わなくなりました。

3.神崎 正哉 990点満点講師はどのようにTOEICテストを解いているか
これは試験本番の時の問題の解き方のノウハウです。リスニングの試験の時は一つの問題を解き終わったら、写真選択でなければ次の問題の文をあらかじめ読んでおくことなど、実戦的ノウハウがいっぱい詰まっています。

白井喬二の「外伝西遊記」(3)(完読)

白井喬二の「外伝西遊記」の全34回の連載を全部読むことが出来ました。オリジナルとは違う始まり方をしますが、最初に登場するのは孫悟空ではなくて石族の吾呂です。この吾呂というキャラクターを登場させたのが、果たしてプラスになっているかと言えばかなり微妙です。はっきり言って語り部としてしか機能していません。三蔵法師の三人の弟子があまりにもキャラが立っているのに比べると、吾呂はまるで目立ちませんし、特技も姿を消すことが出来るくらいです。もっとも悟空と同じく、蟠桃を盗んで食べてしまったので、不死という設定ですが。そういう訳で、始まりはオリジナルと違いますが、途中天竺への旅を始めてからは、ほとんどオリジナルと似た進行になります。しかし、オリジナルでは悟空が最も苦戦した金角・銀角大王との戦いは、こちらでは悟空があっさり瓢箪の秘密を見抜いて、簡単に悟空の勝ちになります。また、三蔵法師と八戒がある国の水を飲んだら妊娠してしまったという話が出てきて、これは白井一流のほら話かと思ったら、これはオリジナルにもある話でした。小さい頃読んだ子供向け西遊記では省かれていただけでした。ただ、以前も書きましたが、各妖怪との戦いで悟空が使う仙術は結構白井のオリジナルが多いように思います。ちょっと忍術己来也を思い出します。また、びっくりするのは、天竺に入る直前で「地竺」の話が出てきたことです。白井は1940年に「東遊記」という西遊記のパロディを出しており、それは天竺ではなく地竺に行く話でした。それをまた持ち出しています。しかしこの作品での地竺は妖怪が作り出した「反天竺」という設定になっています。
この作品を読んでオリジナルの「西遊記」について、子供向けの翻案しか読んでいないことに気がついて、Amazonで、岩波文庫の10巻物はさすがに重いので、平凡社から出ている2巻物をポチりました。これもダイジェストですが、日本で作られたダイジェストではなく、元々明代に出されたダイジェストを元にした日本語訳です。

堀口茉純の「江戸はスゴイ」

「ほーりー」こと堀口茉純の「江戸はスゴイ」を読了。「大菩薩峠」を続けて読んでいると、いい加減うんざりしてくるのでちょっと息抜き。「ほーりー」は江戸文化歴史検定一級を最年少で取ったぐらいの江戸通です。タレント本というと、名前だけで実際はゴーストライターが書いたというのがほとんどでしょうが、この本はたぶん本人の著作でしょう。浮世絵とか色々な図会を使って江戸文化を解説しようという試みで、浮世絵も大好きな私としてはなかなか読んでいて楽しい本です。Twitter調とでもいった感じの口語的な書き方がいい感じです。この本で初めて知った、というような内容はあまりないのですが、江戸時代を通じて男性の比率の方がずっと多かったとか、それ故に外食文化が発達したというのはなるほどでした。女性の江戸好きというと、故杉浦日向子を思い出します。

白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」(4)

白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」を、大量に買ったヤフオクの「大法輪」の出品のおかげで、全83回の連載の内65回分を読了しました。(全体の78%です。)お陰でこの長大な連載のかなりの部分が読め、話が大部分つながりました。惜しむらくは連載第33回から連続9回分が欠けています。連載のこの部分で、天海僧正が家康と知り合い、家康に対し数々の政策の進言をすることにより家康に次第に重用されるようになる筈なのですが、その部分が残念ながら読めていません。ただ、「大法輪」のバックナンバーを全部揃えている図書館は判明していますので、近いうちにまた神奈川県立図書館を通じて貸し出しを申し込むつもりです。
ただ今回読んだ分で天海の少年時代、兵太郎と呼ばれていた時代の話は全部読むことが出来ました。兵太郎は船木兵部少輔景光の息子であり、その母親は会津に近い高田の城主の姉でした。そのため、兵太郎は従兄弟のほぼ同世代の男の子と次の城主の座を争うことになるのですが、家老であった峰淵玄蕃の謀略で父親を毒殺されてしまい、日陰の身になります。このため兵太郎は武芸の腕を磨いて、玄蕃を殺して敵を討とうとしますが、僧舜幸がその計画を見抜いて邪魔をしたために、不首尾に終わります。結局その舜幸に匿われて、その間に僧侶になる決意をします。しかし一方で高田の藩自体は、武田信玄の圧力を受けて城主(兵太郎と争った子が城主になったもの)と峰淵玄蕃は結局武田の捕らわれ人となり、お家は断絶してしまいます。
天海僧正というと、一時期の「風水」ブームのせいで、江戸の地を風水の観点から選んで都市設計した人としてやたらに有名になったような気がしますが、これまで読んだ範囲では白井はまったく風水については触れておらず、むしろそれが清々しい感じです。前にも書きましたが白井は天海僧正を徹底して偉大な人物として描写しています。

中里介山の「大菩薩峠」第13巻

中里介山の「大菩薩峠」第13巻を読了。この巻では前巻と違って多少ストーリーに進展がありました。と言っても、相変わらずダラダラとしたどうでもいい話も多いですが…房州の洲崎で蒸気船を作っていた駒井能登守は、外人のマドロスを匿っていることなどについて、駒井能登守を目の敵にしている勢力から様々な邪魔を受け、蒸気船を動かして洲崎の地を立ち退く事を計画します。それについて、甲州の沢井の机の道場に住んでいるお松と能登守の息子の登を呼び寄せようとします。お松は与作も当然行くものと思っていたら、与作は郁太郎を連れて全国を旅すると言ってお松の誘いを断ります。一方で白骨温泉を出たお雪と龍之助の方は、飛騨高山で思いがけない火事に焼け出されて難儀します。しかし、龍之助は白骨では出なかった辻斬りの癖がまた出てきて、夜な夜な高山の町を彷徨います。などと言った感じなのですが、停滞していた水が少しずつ流れ始めた感じではあります。しかしこれで全体の約2/3を読んだことになり、残りの1/3で色々な伏線が全て片付くとはとても思えません。前巻から、「ピグミー」と称する変なものが登場しています。実在のピグミー族とはまるで関係なく、一種の悪魔のようなものとして描かれていますが、龍之助に一刀両断にされたりして、悪魔にしてはひ弱いです。また盲目でおしゃべりな僧の弁信ですが、一種の超能力(テレパシー)みたいな能力を時々発揮します。このあたり、幻想的とも言え、ちょっと不思議な展開です。

中里介山の「大菩薩峠」第12巻

中里介山の「大菩薩峠」の第12巻を読了。この巻辺りになると、本当にどうでもいいような話がダラダラと続きます。妊娠疑惑のお雪ちゃんは、その妊娠がどうなったのかさっぱり明かされないままで、何故か白骨温泉を去って龍之助と二人で白川郷へ行こうと思い込み、実行に移します。そのお雪は高山までの旅の途中で、白骨で死んだ筈の淫蕩な後家さんが戸板に乗せられて運ばれるのを目撃します。水死して死体が発見されていなかったのが今見つかって、故郷の地に戻される所だったのですが、その後家さんが実家に戻されて葬儀を行おうとしたら、集まった人が毒キノコにあたって狂乱状態になり火事になります。この辺り物語の進行に必要なお話とはとても思えない、不可思議な展開です。一方ではまたも順列組み合わせの総当たり的なストーリー展開が出て、宇治山田の米友とお銀様が何故か旅先で知り合って一緒に名所見物をすることになります。また道庵先生は、名古屋で大モテで江戸から来た偉い先生とチヤホヤされますが、調子に乗って講演会?で尾張の人間の批判をやらかして、あわや袋叩きに遭いそうになります。また米友は旅の途中でたまたま関わった熊の子を買い取ろうとします。ここまでどうでもいいような話が続くとある意味シュールです。後8巻ですが、なかなか大変そうです。