角田喜久雄(つのだ・きくお)の「髑髏銭」(どくろせん)を読了。角田喜久雄は、白井喬二より7歳年下の、伝奇小説・時代小説・探偵小説作家です。この「髑髏銭」は伝奇小説での代表作です。
主人公が徳川家の血を引くという意味では白井喬二の「伊賀之介飄々剣」を思わせますし、また主人公に複数の美女が思いを寄せ、その内の一人が女盗賊で、さらには主人公を助ける大泥棒という登場人物設定は三上於菟吉の「雪之丞変化」に非常に良く似ています。「雪之丞変化」は昭和9年から読売新聞に連載、「髑髏銭」は昭和12年から読売新聞に連載で、同じ媒体であり、もしかすると読売新聞の側が大ヒット作である「雪之丞変化」と似た構成を求めたのかも知れません。そういう訳で登場人物はやや類型的な気がするのですが、それに浮田家に伝わる「髑髏銭」の謎を絡めたのがうまくいっており、なかなか読ませる作品に仕上がっています。ちょっと時代のせいもあって、いきなり黒猫の死骸が出てきたりと、ちょっとグロの趣味も入っています。最初に悪役として登場する銭鬼灯(ぜにほおづき)は、途中から実は子供好きであるなど、本当の悪人ではないことが示されます。そういう意味では本当の悪人として描かれるのは銅座の赤吉だけです。またチャンバラではなく、古銭の古さと貴重さで勝負する闘花蝶というのはちょっと白井喬二的です。そういう風に、色々な伝奇小説のエッセンスを詰め込んだような作品で完成度は高いと思います。