NHK杯戦囲碁 本木克弥8段 対 一力遼棋聖(2023年2月26日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が本木克弥8段、白番が一力遼棋聖の対戦です。序盤では白が右上隅の黒の一間高ジマリに横付けしてから、上辺で治まったのに対して、黒が左上隅で両ガカリしてから激しくなりました。黒は隅に潜り込み、白は左辺を破りましたが、白の一団に眼が無くなったのを黒がケイマで封鎖しました。白は中央の黒を攻めて反撃し、双方とも眼が無く、のっぴきならない攻め合いになりました。攻め合いは白の一手勝ちかと思われましたが、黒が左辺で取られている石から2線にハネたのが妙手で、これで黒の手が延び、逆に黒が攻め合い一手勝ちとなりました。しかし石を取れば勝ちでは無いのが碁の深い所で、白の左下隅を中心とする模様が立派になり、更に先手を取って下辺右の押さえに回ったので、形勢はむしろ白良しになりました。黒は中央で白模様の制限に向かいましたが、白の下辺押さえのもう一つの狙いである右下隅の黒の攻めに回られました。この黒を攻めながら自然に右辺の黒模様も制限出来ましたので、白の優勢が続きました。こうなると黒の狙いは、白の厚みに2箇所切りが入っているのを手がかりに下辺を上手く荒らせないかですが、結果的には不発でした。これで盤面でもどうかという形勢で黒はコミを出せず、投了となりました。これでベスト4が揃いました。

NHK杯戦囲碁 安斎伸彰8段 対 関航太郎天元(2023年2月19日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、準々決勝の第3局で、黒番が安斎伸彰8段、白番が関航太郎天元の対戦です。白が右上隅の黒の大ゲイマジマリの構えに星に付けていってから競い合いが始まりました。黒のハネに白が切っていってから激しくなりました。しかし黒は元々三間バサミで打った石を活かして上下の白を絡み攻めにしました。なおかつ白は上方の石でタネ石2子を当てられて継げないため、白だけが被告になり、この辺りは黒が優勢でした。その後黒が下方の白を分断して、白は忙しくなりました。中央で戦った後、白が右下隅に手を戻してここで大劫が始まりました。途中白が劫立てで右辺を出たのに黒が受けずに劫を解消していれば黒の優勢が続いていましたが、黒が受けたため、結局白は下辺の黒を取る劫立てを打ち、黒は劫を解消しました。黒は左辺下方の黒を上手くしのげば勝ちでした。ここで黒は白の左下隅にAIも予想していなかった上手い手を打ち、劫が残りました。ここで黒が右辺の白を切り離しに中央を出たのを、白が左下隅で2子抜いて劫を防ぎました。しかしこれで右辺は通しの黒地で100目以上となりました。後は残された左辺と上辺の白の模様の中で如何に白地を減らしながら活きるかですが、ここでちょっと黒の追及が中途半端で、左上隅、上辺、左辺といい白地が出来、白が勝勢になりました。終わってみれば盤面持碁の白の6目半勝ちでした。

NHK杯戦囲碁 高尾紳路9段 対 許家元9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が高尾紳路9段、白番が許家元9段の対戦です。布石は黒が右辺に大模様を築きましたが、黒は模様一辺倒ではなく、左上隅では三々に入り、また左下隅でも左辺から裾がかりし、バランスを取っていました。白は右辺は下方で浅い消しを打ちました。下辺の折衝でやや黒に誤算があり、あちこちに断点があって切れる可能性があり、白がリードしました。その後白が右辺上方に深く打ち込み、この石自体が単独で活きるのは難しかったですが、黒のダメヅマリを利用して、中央に利きを沢山作りました。そうしておいてから上辺の黒に対して1線に置いて眼を取ったのが真の狙いで、黒は劫に持ち込むことは出来ましたが、白の劫材は右辺に沢山あり、劫=死に、でした。黒はやむを得ず上辺を捨てて打ちましたが白の得が大きく、白の勝勢になりました。結局白の中押し勝ちになりました。許家元9段はこれまでNHK杯戦囲碁で高尾紳路9段に3連敗していましたが、ようやく1勝を返し、ベスト4に進出しました。

NHK杯戦囲碁 林漢傑8段 対 鶴山淳志8段(2023年2月5日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が林漢傑8段、白番が鶴山淳志8段という、YouTube「つるりんチャンネル」という囲碁のチャンネルの漫才のようか掛け合いによる囲碁講座で人気のある二人の対戦です。序盤は左上隅で黒が途中で手を抜いた関係で白が黒4子を取り込み、やや優勢になりました。黒は4子を犠牲にして左辺を囲おうとしましたが、すかさず白が入って行き、それを阻止しました。上辺に黒が打ち込み、取られている4子を連れ戻すと見せて利かそうとしましたが、白は逆手を取って渡らせる打ち方をしました。黒は結局渡って活きましたが、後手で自陣に一手入れての活きであり、白の優勢が拡大しました。その後白が左辺での連絡を強化するためハネたのが手拍子で、すかさず黒が切ったのが好手でした。この結果中央の白と下辺の白が分断され、なおかつ黒は右辺で地を増やすことが出来ました。その後白が下辺右で利かしにぐずんだのが用意周到な手で、黒は右下隅の黒に一手入れずに、下辺真ん中の4子を連絡すべきでした。黒が受けたので、白は4子取り(結果的に6子取り)を決行しました。この時先ほどのグズミが無いと黒に先手で切られて攻め合いが不利になるということでした。結局白は下辺で黒6子を取り、更にその下の黒も取り込んで30目弱の地を作り、白が勝勢になりました。黒はその後左下隅で何とか劫に持ち込みましたが、二段劫で白に余裕がありました。結局黒の投了となり、つるりん対決は鶴山淳志8段の勝利となり、ベスト4に進みました。

NHK杯戦囲碁 本木克弥8段 対 佐田篤史7段(2023年1月29日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が本木克弥8段、白番が佐田篤史7段の対戦です。黒が下辺に展開して地模様を作ったのに白が左下隅への渡りを見ながら2線に置いて侵略を図ったのに、黒がカウンターで左下隅三々に入って、結局白の下辺の石は渡れず、競い合いになりました。その競い合いの中、白が黒の右下隅にプレッシャーをかけた結果、黒が裂かれ形で突き抜かれた格好になり右下隅を単独で活きなければならなくなりました。この時の白の踏み込みがやり過ぎで、黒は先手で活きました。これで黒はピンチを脱し、足早に左辺に展開出来て、黒の打ちやすい碁になりました。その後白は右辺を大きく囲いましたが、黒も中央の白3子を切り離すことが出来て、黒が優勢を維持しました。更に白は左下隅から延びる石に眼が無く、劫がらみで黒に攻められました。特に白が中央で取られていた白1子を助ける劫立てを打ったのに黒が受けずに下に延びて白の左下隅と中央を切り離したのが機敏でした。このため白は左下隅の劫を一手で解消出来ない一手ヨセコウになりました。劫材は黒が多く、右下隅で黒が白4子を取って得をしてなお劫が続くという局面で白の投了となりました。今回思ったのは、AIの形勢判断は序盤のは当てにならないと言うことです。AIは決して神の次元には到達していません。以前も書きましたが、AIは複雑な戦いは避ける傾向にあります。これはアルゴリズムを考えれば、読み切れない複雑なことになる手より、簡便な打ち方の方が限られた時間の中では上位に来ると言うことです。これでベスト8が出揃いました。

NHK杯戦囲碁 三村智保9段 対 安斎伸彰8段(2023年1月22日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が三村智保9段、白番が安斎伸彰8段の対戦でした。最初に局面が動いたのが左下隅から左辺で、黒がかかりっぱなしの石を放置して、白がかけて来たのにも受けず、白が小さく取るのではなく、左辺上方の黒に付けて大きく取ろうとし、更に左辺から中央に飛んで完全に地です、と主張してから黒が動き出したのがどうだったんでしょうか。結局左辺の中で生きるスペースは無く、黒は下辺から利かして左辺を捨てようとしました。しかし白はその利かしに来た石も含めて大きく攻めようとしました。結局白は左辺の黒だけでなく、下辺左の黒2子も取り、さらに中央で黒3子を取っているということになり、40目程度の地と中央に素晴らしい厚みが築けました。これに対し黒は下辺で1子噛み取って下辺右側を地にしましたが、これの収支は明らかに白が上回り優勢になりました。ただ黒は先手は取ったので、上辺右の2線に潜行していた石から一間飛びし、白2子を攻めました。これに対し白は右辺に打ち込み、どちらかがしのげればいい、的な感じで打ちました。しかしその後の折衝で結局白は両方を逃げ出すことになり、中央と上辺の黒とのねじり合いになりました。黒は上辺右からの白を攻立てましたが、ここで左下隅方面で得た厚みが十分働き白は連絡することが出来ました。そうなると中央の黒に眼が無く、右辺の白との攻め合いを目指すことになりました。しかし中央の黒は既にかなりダメが詰まっており、攻め合いは3手ぐらい白が勝っていました。黒は何とか劫には持ち込めましたが、中央に匹敵する劫材は無く、また手数で余裕がある白に冷静に劫材を消され、結局中央を全部取られて黒の投了となりました。前半で左下隅方面に非常に強い厚みを与えた盤面で、ねじり合いの碁にしたということで、三村9段の打ち方に無理があったように思います。

NHK杯戦囲碁 一力遼棋聖 対 辻󠄀篤仁4段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が一力遼棋聖、白番が辻󠄀篤仁4段の対戦です。布石は白が左辺、黒が上辺と右辺の模様の張り合いみたいになりました。しかし白が右上隅方面で高く消しに行った所から、相手のノゾキに継がずに外すというのが連続し、戦いは上辺から中央に、更に左上隅と左辺にも拡大しました。形勢は白が上手く黒模様を消した一方で白が左辺を大きく地にし、更に中央も厚く白が優勢になりました。黒は中央を消しに深く侵入しましたが、この黒に眼がありませんでした。それで白を分断して攻め合いを目指すと思いきや、白をつながらせました。その結果中央の黒は単独で活きる必要がありました。これで黒が苦しいかと思いきや、黒は右側の白にワリコミ2発を決行し、これで中央の黒は右側の白を取って生還しました。白も振り替わりで黒3子を取り、下辺の黒地を大きく削減しましたが、全体の収支は黒の儲けが大きく、逆転で黒が勝勢になりました。ヨセでも黒が先に上辺に回りリードを拡げました。最後は盤面で黒が15目くらいよく、白の投了となりました。辻4段は中央右側のワリコミ2発をうっかりしていたようですが、一力棋聖を途中まで良く苦しめました。

NHK杯戦囲碁 林漢傑8段 対 山下敬吾9段(2023年1月8日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が林漢傑8段、白番が山下敬吾9段の対戦です。黒の初手が天元で、白の2手目が5の5、とまるで新布石時代の初期の頃の碁のようでした。左下隅で劫含みの攻防が始まり、黒が白の右下隅に手を付け、劫立てを作ろうとしました。しかしここの攻防で黒は明らかに損をし、更に劫立てで左辺上方の白に迫りましたが、白が手を抜いて左下隅の劫を解消したので、黒は左辺上方の白への攻めでよほど得をしないと苦しい形勢になりました。しかし左辺上方の白も上手く黒の薄みを突いて中央に進出し、簡単には死なない形になり、形勢は白のリードとなりました。しかも黒の一等地である上辺への白からの出口が止まっておらず、すかさずそこを追及されて黒は益々劣勢になりました。しかし白が左下隅に残った黒を取りに行き、ついでに下辺左方で浮いている黒5子を攻めた中で何かの誤算があり、黒がその浮き石を逆に捨て石として取らせ、中央で締め付けが効いたのが大きく、右上隅、右辺、上辺、中央の黒模様の規模がかなり大きく地としてまとまりそうになりました。白は右上隅に付けて隅を一部地にしましたが、結局白の下辺からの中央への進出も黒に上手く止められ、黒が優勢でヨセに入りました。白はヨセで最善を尽くしましたが結局黒の1目半勝ちという逆転勝利となりました。林漢傑8段は次の準々決勝では鶴山淳志8段と当たり、いわゆるツルリンコンビの対決になります。なお、今回からAIの次の手の予想が座標ではなく、実際の盤上表示に変わりました。ただ盤が小さいので見にくいです。

NHK囲碁新春スペシャル


今日のNHKの囲碁の新春スペシャル、「定石対決」というのがあって、プロ同士の対戦に出題されたのは結果を白石だけで並べたものを再現するというもの。これ自体は確かに難しいですが、出題されたのは「大ナダレ定石」の一つの形です。びっくりしたのは右の女性プロ初段が、「この定石は存じ上げません」と言ったこと。しかも大ナダレ定石の途中の変化の多い所が分らないのではなく、小ナダレ定石と大ナダレ定石の分岐点で止まっていたので、そもそもナダレ定石というのをまったく知らないようでした。別にプロは定石を覚えるのに注力しなくてもいいと思いますが、ナダレ定石を知らないということは、呉清源さんとかの時代の棋譜をほとんど並べたことがないということでしょう。(ナダレ定石が生れたのは1930年代の戦前、そして戦後も流行廃りはあるものの{プロはナダレ定石や大斜定石のような手順が長い定石は嫌う傾向にあります。}盛んに打たれ多くの変化形が生まれました。)それはいくらAIの時代だと言ってもプロとしては恥ずかしいことだと思います。(故に武士の情けで名前はぼかしました。)なお、左の木部夏生三段はちゃんと最後まで再現出来ていました。

なお、左の棋譜は、1958年4月30日~5月1日の第1期日本最強位決定戦で、黒番が木谷実9段、白番が呉清源9段(互先、コミ無し)の棋譜で、実に右下隅、左下隅、左上隅の3隅で大ナダレ定石が出現しています。(白16は黒5の上、黒27は白26の右)

NHK杯戦囲碁 張栩9段 対 許家元9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が張栩9段、白番が許家元9段の対戦です。序盤の打ち方で面白かったのは、右上隅で黒が二間に低く挟んだのに、白が13の5にケイマした手で、初めて見ました。個人的には黒が上辺を受けて黒地がほぼ固まったので打ちにくい手に思いました。局面が動いたのは白が下辺左方に深く打ち込んでからで、結果として白は下辺を捨て石にし、左辺の黒を取りました。この結果は黒が一部左辺を突き抜くことが出来ましたが全体では白の成功で形勢は白に傾きました。その後黒は白の右下隅の構えを固めてもいいと付けたのですが、白は跳ね出して反発しました。しかし結局跳ね出した石からの一団が取られ、白は損をしました。しかし白から当てが利いて厚くなり、右辺の黒が危なくなりました。ここで右辺の黒をまともに逃げ出したのがまずく、読みに抜けがあり結局劫にもならず全部取られてしまいました。最初から尻尾を捨てて本体を逃がすか、あるいは劫に持ち込めれば黒が有望でした。その後ヨセで黒が猛追しましたが、右辺の損が大きく、結局白の2目半勝ちになりました。