本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が山下敬吾9段、白番が富士田明彦7段の対戦でした。この碁の黒の布石では、最初は普通でしたが、右上隅の出切りからのシチョウを見て、シチョウアタリ的に左下隅で6の6に打ったのがさすが山下9段でした。それでこの左下隅で最初の戦いが始り、白が黒を分断するのに出ではなくハネで打ちました。そして黒が少し自重して左辺に三間に開いたのに、白がすかさずその間に打ち込んで行きました。結果として白は黒1子を抜けましたが、先ほどのハネの所は黒に切られてしまいました。それでこの左下隅は双方活き活きという手順もあったようですが、どちらもそれは選ばず攻め合い含みになりました。結果的にセキまたはコウということになりました。この場合黒はこれを取られたとしても小さく、それより中央が厚くなった方が大きく、ここで黒がリードしました。そこから今度は黒は左辺の先ほど黒1子をポン抜いた白の一団を攻め、その攻めを次は左上隅に転じ、更には今度は再度中央の戦いになりました。その戦いで白も一杯の手を打ちましたが、そのタイミングで黒が左下隅のコウをしかけ、白はこのコウは負けられず、結局黒が中央で白6子くらいを取り込みました。白はそれでも中央を手抜いて右辺で開いて地を稼ぎましたが、黒から左辺の白を再度攻められ、途中で黒が白の半分を取ることはもう確定していましたが、黒は白の全体を取りに行き、白のシノギも上手く行かず白の投了となりました。この碁は山下9段の一貫した攻めが光った碁でした。
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NHK杯戦囲碁 藤沢里奈女流本因坊 対 鈴木伸二8段(2023年12月3日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が藤沢里奈女流本因坊、白番が鈴木伸二8段の対戦です。この二人の対戦成績は藤沢女流本因坊から見て5勝1敗と、鈴木8段は藤沢女流本因坊を苦手にしているようです。
布石は非常に独特で、黒が同じ方向の小目、白が両三々と初めて見ました。局面が動いたのは、黒が左上隅で付けた時に、白が手を抜いて中央を打ったあたりからです。勢いで白は黒を切った石を伸びていって左辺で策動を図りましたが、黒が的確に受けて結局白の左辺の石は攻め取りにもならない持ち込みとなり、ここで黒がリードしました。その後の焦点は、右下隅からの黒がどこまで攻められるか、また白の上辺の地がどのくらいまとまるかでしたが、途中で白が受けの手を連発しました。ここで白が取られている中央左の一子(6の10)を引っ張り出して、左辺の石を攻め取りにさせるとかを狙ってほしかった所です。黒はリードした後は、手堅くまとめ白にまったく付けいる隙を与えず、結局白の投了となりました。藤沢女流本因坊はこれで自身初のベスト8進出です。以前謝依旻7段がやはりベスト8に進出してそこで敗れましたが、こうなったらもっと上を狙って欲しいところです。
NHK杯戦囲碁 井山裕太王座・碁聖 対 田中康湧4段(2023年11月26日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が井山裕太王座・碁聖、白番が田中康湧4段の対戦です。序盤では、黒が白の地模様だった左下隅に潜り込んで地を稼いだのに対し、白がお返しとばかりに左上隅では地を稼ぎました。その左上隅の戦いで、白2子が半分取られたような格好になり、これが動き出せるかどうかがその後の焦点になりました。ただこの石を動いてしまうと、左上隅が劫になってしまう可能性があり、白からのタイミングが難しかったようです。その後右辺の折衝で白が引いていれば無難だったのを伸びたため、黒がハネ込んで白を切断して行きました。ここの折衝の結果、黒が上辺を分断して左側とつながったため、先ほどの白2子の動き出しがほぼ意味が無くなり、ここで黒がリードしたようです。その後も黒が下辺に仕掛けていったりして難しい局面が続きましたが、最後白が左辺で稼いだのに対し、黒が左辺から右辺にまで延びる白の大石を切断しました。その結果白は両方で逃げてどちらも無事でしたが、その利きで黒は上手く下辺の白地を減らせましたし、最後は右側の白の連絡していた石3子を上手く取り込んでこれが決め手となり、黒の中押し勝ちとなりました。
NHK杯戦囲碁 山下敬吾9段 対 鶴山淳志8段(2023年11月19日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が山下敬吾9段、白番が鶴山淳志8段の対戦です。山下9段は今回は変わった布石はやらない、と言っていましたが、黒5手目で、小目の石に肩付くという、初めて見た打ち方をしました。これを白が4線に這えば白の地が多く白がいいのでは、と思いましたが、白は上方へ3線を這いました。なので結局ナダレ定石の前半みたいな形になり、簡明に別れました。その後白が左上隅で三々に入ったのを、黒は2段にハネて、隅の実利を取りました。これは山下9段にしては珍しい打ち方です。この後、右上隅の黒が攻められ気味に、白が右辺に展開したのを、黒は本日2回目の肩付きで、白が出たのを黒が押さえて、白が切って戦いが始りました。白は黒を当てた石を押していって、いわゆる車の後押しで、その結果黒は壁が出来て中央がいい模様になりました。その代わり右上隅が薄くなりましたが、山下9段も強く白を包囲する打ち方をし、双方眼がなく攻め合いになるかと思われました。しかし結局活き活きになりましたが、白は隅に潜り込んで地を辛く稼いでおり、また黒はヨセコウ残りを嫌って一手入れたため後手になり、右辺から白が中央に進出して黒模様が消え、ここでの戦いの軍配は白に上がりました。しかし黒も左下隅の白に迫りながら左辺を模様化しました。この時左下隅の白が中央に一間に飛んだ構えに隙があり(AIはケイマを推奨していました)、黒が中から覗いて白を割いて行きました。白の下方は黒2子を取って活きましたが、黒が左辺の白の分断に成功し、黒が打ちやすくなりました。その後黒が左辺の白を攻める前に上辺にもたれていったのを、白は受けないで中央を補強したため、白の上辺も分断され、なおかつ中央の白を切り離す手が残り、実際に後でそうなりました。左辺と中央で激しい戦いが続いている最中、白は形勢不利とみて局面を複雑化させるため、下辺に打ち込みました。しかし結果としてはこの手は不発で、中央で一手遅れたため、黒は白の左辺と中央を劫付きですが切り無して戦果を上げました。最後白は左辺と中央を連絡する劫を仕掛けました。この劫は一旦は白が勝ち、そこで継いでいれば穏やかでしたが、白は更に黒2子を切って当たりにし、劫を大きくしました。黒が劫立てに右辺下方で切って行ったのを白は受けずに劫を解消し、左辺は白が分断して大きな戦果を挙げました。しかし黒が右辺下方で切って行った手は結局は手になり、攻め合いは黒勝ちで右辺の白が全部死に、白の投了となりました。見応えのあった見事な対局でした。
NHK杯戦囲碁 平田智也8段 対 志田達哉8段(2023年11月12日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が平田智也8段、白番が志田達哉8段の本格派同士の対戦です。この碁は渋い展開でしたが、左辺の攻防で、白が付けて黒がはねたままになっていたのを、白が切って行きました。ここの折衝で白は黒3子を取ってかなり地を増やしましたが、その代わり黒は中央を突っ切った形になり、上辺から中央に展開している白の大石へ黒がどのくらい攻められるかがポイントでした。しかし白は上辺で左側の白に渡る手を見せました。しかし黒はそれを妨げる手を打たず、結局白は全てがつながり、弱い石がほとんど無くなりました。でもそれで白が優勢になったという程ではなく、白は黒の右辺の模様をあっさり確定地にさせたので形勢は非常に微細でした。ヨセの段階でAIは左辺の白地と見える所に手があるという主張をしており、それを決行するという前提で黒が勝率80%程度という判定をしていましたが、結局黒も白もそれを決行したり守ったりしなかったため、一手毎に形勢が入れ替わるという終盤でした。その左辺の手は黒から打てば劫にはなるということみたいですが、劫材が黒が多い訳でもなく、微細な形勢でそれを決行出来ない、しないのはまあ仕方がないかと思います。結局白が左辺を守る展開となって、最後は白の半目勝ちでした。なお、志田8段は普段は無表情で、対局中にたまに「ニヤッ」とすることがあるのですが、本日の対局ではその「ニヤッ」を何でも見ることが出来ました。それだけ対局に没入していたのかと思います。
NHK杯戦囲碁 大西研也5段 対 富士田明彦7段(2023年11月5日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が大西研也5段、白番が富士田明彦7段の対戦です。序盤で黒が、右辺の白の二立三析の構えに上から詰めた後、右上隅の折衝の途中で、構えの内側に付けて行きました。しかし黒は強く戦わず結局三子を捨てて外側からノゾキを利かし、また当てを利かしたことで手を打ちました。その次に左下隅から下辺にかけての戦いになり、黒は何とか下辺の一団を右下隅に連絡し、また左辺下方でポン抜きの後の白5子を取り込みましたが、その代償で下辺上方の白が厚くなり、先ほど右辺で利かした黒3子がほぼ飲み込まれてしまいました。トータルではここで白のリードとなりました。次に左上隅、上辺、中央の争いになりましたが、一時は黒が取られている石を上手く活用して中央に厚みを築き、上辺の白を攻める展開になって形勢を盛り返しましたが、一手中央で守りの手を打ったのが逸機で、白に上辺を連打され、白は上辺にかなりの地をもって治ることが出来、ここで白が勝勢になりました。しかし形勢は細かく、その後ヨセで黒にも逆転のチャンスがありましたが、結局白の中押し勝ちとなりました。富士田7段は、本因坊・名人の両リーグに入り、また天元戦でも挑戦者決定戦まで行ったということで、一流棋士の道を進みつつあります。
NHK杯戦囲碁 余正麒8段 対 藤沢里奈女流本因坊(2023年10月29日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が余正麒8段、白番が藤沢里奈女流本因坊の対戦です。この対戦は黒が2手目で左下隅の三々に入り、白もまたその後数手で右上隅の三々に入るといういかにも今風の戦いになりました。しかし次第に白は各所で地を稼ぎ、黒が白を積極的に切りに行き、切り離した弱石を攻めるという展開になりました。一時白は左下隅からの石、下辺の石、右辺の石、と三方に弱石を抱え、三方がらみみたいな形で攻められました。左下隅で劫になり、これに黒が勝った結果、黒の左下隅、下辺、中央、右下隅の石は全てつながり、地合では白が良かったものの、中央でコミ分くらいの黒地をつければ黒が勝ち、という形勢になりました。しかしこういう碁形は藤沢女流本因坊の得意な碁形であり、その後の黒の寄り付きを白は上手くかわし、微細な勝負になりました。こうなると藤沢のあだ名である「半目の女王」の通り、白のヨセは正確を極め、黒に付けいる隙を与えず、見事に白の半目勝ちとなりました。余正麒8段という最強クラスの棋士の一人を女流棋士が倒したということで、少なくとも日本に関しては、男性棋士と女性棋士の差はほとんど無くなりつつあります。
NHK杯戦囲碁 張栩9段 対 大竹優7段(2023年10月22日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が張栩9段、白番が大竹優7段の対戦です。対局前にちょっと驚いたのは、張栩9段はノーシードで1回戦からの出場なのに、大竹7段がシードで2回戦からということです。(多分本因坊戦リーグに入ったからでしょう。)時代が変わりつつあります。碁の内容も、大竹7段は、ぬるいと思われるくらい、張栩9段が利かしに来たのを丁寧に受け続けました。そうした打ち方が出来るのはそれでも遅れない、という形勢判断がしっかりしているのかなと思いました。この碁での最大の焦点は左下隅で、白が隅に入られないように外側で1手打った後に黒は隅に入って行きました。そして小さく活きるのは簡単でしたが、それをせず劫にしてかつ外側の白との攻め合いを目指しました。AIの推奨は隅は軽く打って捨てて外側から利かして左辺の模様を大きくするでした。結果論ですがそういう打ち方の方が良かったようです。結局黒は下辺の白、左辺から伸びる白のどちらとも攻め合いに持ち込むことが出来ず、隅の黒は打っただけ取られここに27-28目くらいの白地が出来、これが最後まで響きました。その後のAIの形勢判定はずっと白優勢でしたが、最後のヨセで実は左辺からの白を切り離す手があり、それを決行したら白の一部を取り込むことが出来逆転でした。張栩9段は感想戦で真っ先にそれを言っていましたので、見落として後から気付いたのか、あるいは何か嫌な図が見えたのかは分りませんが、時間は余していたので、じっくり読んで決行すべきでした。最終的に白の3目半勝ちで、大竹7段は初めての3回戦へ進みました。
NHK杯戦囲碁 羽根直樹9段 対 酒井佑規4段(2023年10月15日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が羽根直樹9段、白番が酒井佑規4段の対戦です。右下隅でツケヒキ定石で黒が一間飛びではなくケイマしていた所を白がツケコシの味を見て利かしに行き、その後のやりとりの中で白がハサミツケという手を放ち、黒が反発して渡らずに下辺に打込み、その辺りから結構面倒な戦いになりました。結局上辺方面が黒で白4子くらいが取り残され、逆に下辺方面は白で黒3子が取り残されました。黒が右辺の白に活きを催促して利かしに行ったドサクサに紛れて、白は上辺方面の石の逃げ出しを図りました。それは成功しましたが、黒は左上隅の白と上辺の黒の分断に成功しました。その後黒は更に下辺の3子を動き出し、ここはまた難解な攻め合いになりましたが、紙一重で白が黒を取りました。しかし白も黒2子を抜くことが出来、左辺から左上隅方面でどのくらい黒地を付けられるかが勝負になりました。結局白はここでも最強に頑張り、2手寄せ劫残りではありましたが、ほぼ活きて優勢になりました。黒は結局劫材が続かず投了となりました。酒井4段はこれで3回戦進出で次は芝野虎丸名人です。今大会のダークホース的存在になりつつあります。
NHK杯戦囲碁 六浦雄太8段 対 伊田篤史9段(2023年10月8日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が六浦雄太8段、白番が伊田篤史9段の対戦です。
布石では白が右下隅で黒の一間ジマリの横に付けて行き、結局はそこの石を捨て右辺に足早に展開しました。また左下隅で黒がケイマのカケを2回続けて打ったのに、白が直接受けずに隅を固く打ち、その後シチョウアタリとして中央でノゾキを打った後、ツケコシて行ったのがいい手で、白は下辺の黒地を減らして中央で居直りました。この辺りずっと白が優勢でしたが、中央で黒も白も眼の無い石が出来た時、黒が勝負手で白の連絡している石にコスミツケて切って行きました。これで白は切られた一団を活きる必要がありましたが、際どく黒が覗いて行き、そこを継ぐと白の一団に活きがあるのか、ということになり、結局白は継がずに一団の活きを優先しましたが、黒が切りに回って白の6子くらいを取り込んで20目以上の実利を得、これで黒の逆転となりました。結局白の投了となりました。六浦雄太8段はこれまで伊田9段に公式戦で6連敗でしたが、初勝利を上げて3回戦に進みました。