片山杜秀の「近代日本の右翼思想」

jpeg000 108片山杜秀の本、今度は「近代日本の右翼思想」を取り寄せて読んでみました。この本は片山杜秀の卒論や修論がベースになっているみたいです。
片山は左翼を、過去にも現在にも存在していない理想を未来で実現させようとしてそれに走る者、と定義します。左翼の反対側が右翼ですが、それには保守と反動があって、保守は現在を重視し、反動は過去に戻ろうとします。日本の場合は、戻るべき過去は天皇制ですが、戦前は現在を見ても天皇が現前と存在しています。そこで右翼は現状を変革しようとしても、ある種の腰砕けに終わってしまい、現状を変革する試みはすべて失敗に終わります。どうせうまく世の中を変えられないのなら、やがてあきらめて自分の手で変えるのではなく、天皇がいつか変えてくれるのだという錦の御旗の革命論になります。(これが安岡正篤。片山は安岡正篤研究の専門家です。)さらに一歩進めて変えることを諦めると、現在をありのまま肯定するという気持ちになり、「中今」という考え方が生まれます。現状を肯定するようになると、頭で何か考えることは不要になり、身体論が叫ばれるようになります。という風に1945年8月までの戦前の右翼思想の流れを総括します。結局何も考えないでアメリカとの戦争に突入した背景が右翼思想の点から明らかになります。そうした過程で、西田幾太郎や阿部次郎や長谷川如是閑のような、一般には右翼とは思われていない人の思想が、こうした右翼思想の変遷に与えた影響を考察しているのが目新しいです。
一方、欠けている視点は「大アジア主義」的な見方でしょう。頭山満が孫文を支援したり、戦前の右翼には日本を超えてアジア全体のレベルで考えることが行われていましたが、この本ではそのあたりはまったく取り上げられていないですね。

宗像教授の間違い

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この漫画は、星野之宣の「宗像教授異考録」の「虫めづる姫君」の中の一場面です。(単行本に収録されたものではなく、雑誌ビッグコミック連載時の場面。)どこがおかしいかおわかりになりますか?
ここで描かれているのは説明と違ってアゲハチョウの幼虫ではありません。キアゲハの幼虫です。キアゲハの幼虫は、パセリ、ニンジンの葉、セリなどを食べ、ミカンの葉の上にはいません。昭和三十・四十年代の小学生にはほとんど常識だったことで、初歩的な誤りです。(キアゲハの幼虫の写真は、ここをどうぞ。)

三遊亭圓生の「子別れ 上/中/下」

jpeg000 114今日の落語、三遊亭圓生の「子別れ 上/中/下」です。
志ん朝の「お化け長屋、子別れ 下」を先に買ったのですが、「子別れ」の下だけを聴くのもなにかと思って、この圓生の全部揃ったのを別に買い、先に聴きました。(「子別れ」は普通は下だけが演じられ、上/中/下を通して演じられることはほとんどありません。)この「子別れ」の上/中だけを聴くと、主人公の大工の熊さんはとても嫌な奴で、笑える所がほとんどありません。特に酔っ払って悪態をつく所は、圓生のとてもうまい語りを通して嫌な男ぶりが目立ちます。この嫌な熊さんが、下になると、心を入れ替えて、酒を止めて仕事に励み、豹変します。上/中から続けて聴くと、その対照が鮮やかです。それで自分の子供の亀にある日ばったり出くわして、子供を鎹(かすがい)にして、別れた夫婦が元の鞘に収まるという人情噺の傑作です。笑うというより泣ける噺です。

小林信彦の「紳士同盟」「紳士同盟ふたたび」

jpeg000 103jpeg000 105小林信彦の「紳士同盟」と「紳士同盟ふたたび」を再読了。「紳士同盟」が1980年、「紳士同盟ふたたび」が1984年に出版されたもので、どちらも週刊サンケイ(現在の週刊SPA!)に連載されたものです。小林信彦の作品としては結構部数が出たようで、「紳士同盟」の方は、薬師丸ひろ子主演で映画にもなっています。(薬師丸ひろ子が歌う主題歌を今でも記憶しています。)ただし、映画のストーリーは原作とはほとんど無関係です。
おそらく、映画の「スティング」の影響で、日本で初めての「コン・ゲーム」(詐欺ゲーム)小説です。ジェフリー・アーチャーの「百万ドルをとり返せ!」の影響もあるかもしれません。パズラーと呼ばれる謎解きのミステリーが、ほとんどあらゆるパターンが出尽くして手詰まり感があったのに対し、コン・ゲーム小説は新しい可能性を開いたといえると思います。
出てくるコン・ゲームの内容について不満があるのは、小林信彦が得意なTV局関係と映画マニア関係に偏っていることです。この2つに関係ないのは一番最初の銀行を騙す話と、「ふたたび」の方の最後の話での絵画を使った詐欺だけです。また、騙される側として、資産家の医者である宮田老人というのがルーティーンで何度も登場しますが、実際のコン・ゲームでは同じ相手というのはタブーなんではないかと思います。

古今亭志ん生の「文七元結、藁人形、千早振る」

jpeg000 112今日の落語は志ん生の「文七元結、藁人形、千早振る」です。
「千早振る」をちゃんと聴いたことがなかったので買いました。
「文七元結」と「藁人形」は志ん生の病前、「千早振る」は1965年の録音ですので病後です。
「文七元結」はさすがにうまいですが、私は志ん朝の方が語りが丁寧で好きです。
「藁人形」は怪談までいかないのですが、なんか陰惨な噺です。乞食坊主がこつこつ貯めたお金をだまし取られて、その相手を藁人形で呪う噺です。
「千早振る」の病後の志ん生は、聴き取れないことはないですが、矢張り呂律がうまく回っていない感じで、噺がちょっと説明的です。