中里介山の「大菩薩峠」第16巻を読了。この巻でようやくというか少し話が進展しだします。まず、甲州の有野村でお銀の父親の元で世話になっている与八は、地蔵菩薩を掘り子供たちに教えという生活からやがて木食上人の生まれ変わりとして地元の人に敬われるようになります。
一方で、仏頂寺弥助と丸山勇仙の二人は、旅の途中で自分達の人生に何の意味があるのかを迷い始め、何と二人とも自殺してしまいます。人生の意味というより、この二人の登場人物に何の意味があったのかを読者が迷うことになります。
そして、長い間曖昧にされてきたお雪ちゃんの妊娠疑惑がこの巻ではようやく追及されていきます。まずはお銀様が、お雪ちゃんが自分の子供を堕胎してそれを後家のおばさんの墓の横に埋めてきたのだろうと決めつけお雪ちゃんを問い詰めます。一方で偶然病気になったお雪ちゃんを介抱した道庵が、お雪ちゃんに「性教育」を施す積もりで子供を産む上での注意点のようなものを話ますが、お雪ちゃんは異常な興味を見せ、逆に道庵に堕胎は悪かどうか、また堕胎の具体的なやり方についての質問を浴びせます。そしてお雪ちゃんが道庵に妊娠したことがあるのかどうかを問われ、青ざめる、という所でこの巻は終わっています。
途中、作者の述懐で、この小説がもう執筆開始から30年も経っていることが述べられます。ブラームスは第1交響曲を構想から完成させるまで21年かけましたが、それを上回る恐るべき気の長さです。30年かけて話がここまでしか進んでいないというのも逆の意味ですごいと思います。
白井喬二の「湖上の武人」
白井喬二の「湖上の武人」を読了。昭和2年の3月から5月にかけて「文藝倶楽部」に連載されたものです。
大塚麗八郎はかつて江戸勤めの武士ですが、今は猪苗代湖の畔に家を構え女房の実家からの仕送りで悠々と暮らしています。その子嵯峨之介は、ある時磐梯塾という藩校の友人から、父親の麗八郎がかつて江戸にいた時、「蜥蜴八郎」というあだ名を付けられていた、と聴きます。嵯峨之介はそれを嘘だと思いますが、事実でした。麗八郎はかつて剣の腕で名を上げるために、何度か斬り合いをしましたが、何故かその度に「尻」を斬られ、それがついに五度に及んだため、「蜥蜴八郎」というあだ名を付けられたのでした。その麗八郎の元に、江戸での同僚が所用があって旅行に来たのに出会います。嵯峨之介はこの同僚に問い質して、「蜥蜴八郎」というあだ名が根も葉もないことを証明してもらおうとします。麗八郎は慌ててその同僚に、真実をしゃべらないよう頼みに行きますが、その時にその同僚の仕事を邪魔に思う狼藉者がその同僚を襲います。同僚は斬られて死に、その後その狼藉者と麗八郎の斬り合いになります。麗八郎は善戦むなしく最後は斬られるのですが、その斬られた所が今度は尻ではなく肩先であったので「良かった」と思って終わります。何ともとぼけた、しかし白井喬二らしい話ではあります。
白井喬二の「葉月の殺陣」
白井喬二の「葉月の殺陣」を読了。1929年(昭和4年)9月に講談倶楽部に掲載されたもの。これも平凡社の白井喬二全集の第5巻に収録されたもので読みました。お話は由井正雪の反乱の残党である天間昌五之介が主人公です。昌五之介が江戸を逃れて赤穂あたりをうろついている時に、後ろから呼びかける者がいます。最初は自分の事では無いだろうと思っていた昌五之介ですが、「天○先生」と呼びかけるのを聴いて、やっぱり自分だと思います。しかしそれは「天堂先生」で天間ではありませんでした。しかし、昌五之介は結局その「天堂先生」になりすまし、依頼された敵討ちの助太刀に参加することを承諾します。参加したのはいいのですが、どちらが味方でどちらが敵かも判別できず、敵味方構わず斬りまくり、結局双方から恨みを受けることになり、昌五之介は逐電します。宇野から高松に渡ろうとして船に乗り込みますが、その船の中で、昌五之介は自分では無いだれかが自分と間違えられて敵討ちの時のどさくさの恨みで討たれそうになっていると噂話で聴きます。その時船を海賊が襲います。昌五之介はその海賊の船に乗り込んで宇野に戻り、その勘違いされた人間を見ようとします。その人間はあっさりと斬り殺されてしまいますが、その後昌五之介は最初に自分が間違えられた「浮田天堂」の家を見つけます。そこを覗いてやろうと一手御指南を申し込みます。しかし名前を聞かれてうっかり本名を名乗ってしまいます。天堂との立ち会いの後、天堂は昌五之介が由井正雪の残党であると叫び、結局天堂の門人達との斬り合いになり、最後は捕り方もやってきて、昌五之介は斬り殺されるという話です。人の取り違えが二度起きる訳ですが、最後は本名をばらしてしまって殺されるというだけの話で、今一つの出来の作品と思います。
ウィリアム・ストランク・ジュニアの”The Elements of Style”
ウィリアム・ストランク・ジュニアの”The Elements of Style”を読了。英語学習の重点をリスニングとリーディングから、スピーキングとライティングに移していこうとしている過程で、ライティングの基礎テキストとしてまずこれを読んだもの。初めて読んだのではなく、以前日本語訳(「英語文章ルールブック」)を読んでいます。この本を知ったのは、順番としては、「プログラム書法」から。「プログラム書法」は有名なカニーハン・プローガーの美しく分かりやすいプログラムの書き方の本で、プログラマーなら一度は読むべき本です。この原題が、”The Elements of Programming Style”で、これが”The Elements of Style”のもじりなんだよ、ということでこの本にたどり着きました。英語のライティングの本としては古典であって、1918年に初版が出ています。そのエッセンスを一言で言うと、「簡潔で、力強く、誤解の余地の無い英語を書きなさい」ということに尽きるかと思います。逆に言えば、曖昧さや複雑さ、主張の弱さが攻撃されていますので、文学の文章の書き方の本ではないです。昔のWord Perfectなんかのワープロソフトには、英文法チェッカーがついていましたが、それに指摘させると、「受動態を使うべきではない」とか出てきましたが、そういう指摘の元がこの本です。
白井喬二の幽閉記(2)
白井喬二の「幽閉記」を読了。昭和5年の日曜報知に10回くらい連載されたもので、以前1~6回と8回の分だけを読んでいます。幸いなことに、平凡社の白井喬二全集の第5巻に収録されていて、全部読むことができました。お話は、かつて権勢を誇ったけれど、ある時殿様の不興を買って6年間も高楼の中に閉じ込められている氷駿公について、関口と大久保という二人の武士がそんな人生なら死んでしまった方がましか、いやそれでも生きていた方がいいかを論争します。結局決着は付かず、二人は直接氷駿公に聴いてみよう、ということになり、10日の内にそれぞれが高楼に登って氷駿公に問いかけるということになります。それで関口が夜中に高楼に登ってみたら、そこに閉じ込められていたのは氷駿公ではなく、大坪園勝郎というまだ30歳くらいの若い武士でした。その武士はかつて藩内を騒がせた桃林事件の首謀者が自分であったことを告白します。
その後のお話は、桃林事件の後藩内に発生した朱蘭組という謎の集団と、氷駿公の妾であったお多摩、また氷駿公の部下であった早月郷太郎などがからんで進んでいきます。お多摩と郷太郎は高楼の中から氷駿公を救いだそうとしますが、中にいたのは大坪園勝郎で、この園勝郎がかつてお多摩に思いを寄せ、それが受け入れられなかったから桃林事件を起こすことになったと告白します。一方で関口と大久保はお多摩らの氷駿公救い出しの現場に居合わせ犯人と間違えられて捕まってしまいます。
そういった感じで話は進むのですが、最後は何故か登場人物の多くが殺害されて、氷駿公は一体どこに行ったのかの謎も一切明かされないまま終わってしまいます。ちょっとすっきりしない展開で、出だしは良かったですが、成功作とは言い難いと思います。
中里介山の「大菩薩峠」第15巻
中里介山の「大菩薩峠」第15巻を読了。この巻で面白かったのは、質屋に蛇を持ち込んで、本当は名刀だけど自分以外が見ると蛇になる、と言って金をだまし取るという話が出てきたことで、白井喬二の「十両物語」に出てきた話です。どうやら白井喬二の創作ではなく、ある程度知られた話だったようです。
それは置いておいて、この巻も話が進むような進まないような不思議な展開で、宇治山田の米友は道庵先生を見限ってお銀様にくっつきますし、そこにお雪ちゃんもやってきて、何と龍之助も一緒になるというご都合主義的展開です。一方で駒井能登守は蒸気船を操って奥州の月の浦までやってきます。そうしている内に裏宿の七兵衛は、伊達家の秘宝を盗み出しますが、瑞巌寺に隠れている内に捕まります。しかし護送される途中で逃げ出します。また能登守の船に乗っていたマドロスともゆるも駆け落ちで船を逃げ出します。
駒井能登守の目的は、どこか外国の地に行って平和な国を築くことですが、一方でお銀様も不破の関で地元の士族から土地を買って、そこに自分の理想の地を建設しようとします。そういった感じで何か一種のユートピア小説めいて来たのがこの巻です。これで3/4を読んだことになります。後5巻です。
白井喬二の「紫天狗」
白井喬二の「紫天狗」を読了。大日本雄弁会講談社の「講談倶楽部」の昭和25年の秋の大増刊(8月発行)です。ヤフオクで落札したものです。「日本の古本屋」よりも最近はヤフオクの方が白井喬二の新しい作品が見つかる確率が高いです。お話は沙門明智という怪しげで好色な聖者と称する男が、奇跡を行う振りをして人々をだまして金儲けや女漁りをするのを、篠原兵馬という若い武士(紫天狗)が懲らしめるという話です。しかし結末で沙門がやっつけられるのがあまりにもあっさりしすぎで、これは失敗作と思います。とある後家さんと兵馬の師匠である中山陣兵衛の娘の胡夜(こよ)という二人の美女が登場してどちらも沙門に苦しめられますが、さして劇的な展開もなく終わってしまいます。
中里介山の「大菩薩峠」第14巻
中里介山の「大菩薩峠」第14巻を読了。この巻でも前巻に続き動きがあり、お雪が飛騨高山の新任の代官に見初められ、拐かされてその屋敷に連れ込みます。龍之助がその後を追って代官屋敷に忍び込み、出てきた代官の首をはねて、その首を橋の上に放置します。それだけでなく、その代官の淫蕩な妾であったお蘭を連れて出奔します。まったくお雪の妊娠疑惑はどうなったのかまったく語られませんが、お雪はその後尋ね当てて来た弁信と一緒に旅に出てしまいます。一方で駒井能登守はようやく蒸気船を完成させることが出来、お松やお君の忘れ形見の登、清澄の茂太郎やマドロスを乗せて、船を出帆させます。
という具合に話は進展しましたが、さてこの後どのようにまとまるのか、あるいはまとまらないのか、おそらくまとまらないのでしょうが、ともかくそのダラダラした展開を焦らずに楽しむことが読み続けるコツのようです。これで全体の7割を読了したことになります。
TOEIC L&R 試験の参考書
TOEICを今回までで5回受けましたけど、その勉強で参考書を15種類くらい買っています。その中で3つ紹介しておきます。
1.TOEICテスト公式問題集
まあこれは基本中の基本ですね。特に昨年から問題形式が変わったので、新しい問題形式に慣れておかないと本番で大変です。この公式問題集で取れたスコアと本番のスコアはあまり一致しませんが、解くのにかかる時間はほぼ本番と一緒です。結構値段が張りますが、必買でしょう。
2.植田 一三 TOEIC(R)TEST 990点満点英文法・語彙 (アスカカルチャー)
リーディングの部の文法問題を克服するのに一番役に立った参考書です。というかこの問題集の文法問題は、TOEICの本番テストよりはるかに難しいです。TOEICで850点未満の人は手を出さない方が無難です。でも英語学習の最終目標がTOEICではない人にはお勧めです。私はこの問題集を3回繰り返してやりました。その結果、TOEICのリーディング前半の文法問題はほとんど間違わなくなりました。
3.神崎 正哉 990点満点講師はどのようにTOEICテストを解いているか
これは試験本番の時の問題の解き方のノウハウです。リスニングの試験の時は一つの問題を解き終わったら、写真選択でなければ次の問題の文をあらかじめ読んでおくことなど、実戦的ノウハウがいっぱい詰まっています。
NHK杯戦囲碁 本木克弥8段 対 呉柏毅 3段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が本木克弥8段、白番が呉柏毅3段の対戦です。本木8段は今年本因坊戦の挑戦者になりました。結果は井山6冠王に歯が立ちませんでしたが、トップ棋士の仲間入りをしました。対する呉柏毅3段は1回戦の戦いを見た感じではとても切れ味の鋭い手を打つ棋士という印象です。布石は穏やかに進行してお互いに自分の領域を確保して、戦いはなかなか始まりませんでした。白は左辺、左上隅、上辺の黒模様を消しに行き、この白への攻めがどの位利くかがポイントになりました。ここが一段落した後、呉3段は下辺の白から右辺の黒に付けて行き、下辺の白模様を盛り上げようとしました。一連の折衝の後、白は右辺の黒に対してツケ一本だけを利かしましたが、結果的にはこれはあまり良くなかったようです。その後黒は白が下辺から付けてはねている石を切りました。この場合、白からのフクラミが右辺に通常は利いていて、切った黒は取られてしまうのですが、黒は白のフクラミに受けずにウッテガエシで白2子を取り込み中央が厚くなりました。しかし白も右下隅を大きく地にしたので、ここではいいワカレでした。その後白は左上隅と上辺の黒にツケを2つ打ち、両方を切り違えて手がかりを求めました。結果的に白は黒2子を取り込んで上辺を破り、かつ弱かった白石をはっきり活きましたので、ここでは白がポイントを上げました。その後黒は下辺の白を消しに行ったのですが、白が反発してその石の右側に付け、黒がはねた時白が切って戦いになりました。ここで黒が左辺から両ノゾキのようなマガリを打ったのが絶妙のタイミングで、白はどちらも受けずに下辺の黒をポン抜きました。黒は覗いた石から下に出て切りを入れ、隅の黒石を動いて攻め取りにさせました。この結果、黒から左辺で1線の石まで締め付けが利き、左辺の黒地が確定し、黒が優勢になりました。下辺から中央で白はポン抜きましたが、黒も右下隅で2子抱えていて厚いため、このポン抜きが働くことはありませんでした。ヨセでは白は下辺の白地を十数目増やしましたが黒もその代わり中央の地をまとめ、盤面で10目以上の黒のリードでした。白は投了し、黒の中押し勝ちとなりました。