NHK杯戦囲碁 井山裕太棋聖 対 伊田篤史8段

本日のNHK杯戦の囲碁は、準決勝の2局目で、黒番が井山裕太棋聖、白番が伊田篤史8段の対局。序盤、黒が左下隅の白に一間高ガカリし、白がそれを2間に高く挟み、黒が大ゲイマにかけて、これは通称「村正の妖刀」と呼ばれる難解定石です。井山棋聖は、アルファ碁が打った、従来は黒が悪いと言われていた手を打ち、隅の地を取りました。これに対し白は厚みを得て下辺が大きな模様になりました。この白の模様と黒の上辺から右辺にかけての模様のどちらがどのくらいまとまるかが勝負になりました。白は上辺の黒にボウシし、さらに隅につけていきました。その後、上辺の黒に打ち込んで、攻め合い含みの激しい戦いになりました。白は包囲する黒に切りを入れ、その効果で中央に脱出出来ましたが、切った石を取られて、この黒をはっきり生かしてしまいました。その後白は右辺に侵入し、先に隅に付けていた石を活用して劫に持ち込みました。この劫は黒が勝ったのですが、白はその代償に下辺を大きく囲い、見た感じでは白地の方が多く、白有望かと思われました。しかし黒は各所で白の薄味をついて追い上げ、左上隅で大きな劫に持ち込みました。この劫は白が負けると左辺の白の眼持ちも必要になる大きな劫で、白は何とか劫には勝ちましたが、代償に上辺の黒地に侵入した白を取られてしまいました。この収支ははっきり黒が得で、ここで勝負がつき、黒の中押し勝ちになりました。来週はいよいよ決勝戦で井山裕太棋聖と一力遼7段の対戦です。どちらが勝っても初優勝です。特に井山棋聖はあれだけタイトルを独占していながら何故かNHK杯戦だけは、これまで準優勝が最高ですので、今回はかなり気合が入ると思われます。なお、井山棋聖は棋聖戦で河野臨9段を4勝2敗で下して5連覇を達成、3人目の名誉棋聖の称号を得ました。

読売新聞社の「第十三期棋聖決定七番勝負 激闘譜 挑戦者本因坊武宮正樹 棋聖小林光一」

読売新聞社の「第十三期棋聖決定七番勝負 激闘譜」を読了。第十一期に続き、棋聖小林光一に、武宮正樹世界囲碁選手権者が挑んだ七番勝負です。棋聖=日本一、世界囲碁選手権富士通杯=世界一ということで、日本一対世界一の戦いと言われました。しかし、ここでも武宮は十分な力を発揮することなく、初戦のニューヨーク対決で1勝を上げただけで、後は4連敗し、敢え無く小林の軍門に降っています。武宮は合計で三度棋聖に挑戦し、その内趙治勲名誉名人との戦いはかなりいい所まで行ったのですが、小林光一名誉名人との戦いは2回ともいい所なく敗れ、結局武宮の棋聖奪取はなりませんでした。

読売新聞社の「第十一期棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖小林光一 本因坊武宮正樹」

読売新聞社の「第十一期棋聖決定七番勝負 激闘譜」を読了。小林光一名誉名人が、第十期で趙治勲名誉名人から棋聖を奪取して、最初の防衛戦で、相手は武宮正樹9段。武宮はこの当時、小林の碁のことを「地下鉄碁」(石が下に下に行って、また景色が悪い)と評していて、二人の仲はかなり険悪でした。しかし、この時の武宮は不調で、ほとんどいい所がなく、1勝4敗で敗れてしまいます。特に第2局は武宮らしくなく、石が下に下にもぐっていくような碁でした。なお、この時の第1局が棋聖戦初のアメリカ対局で、ロサンゼルスで行われました。1986年でバブルの走りの頃です。

栗田信の「醗酵人間」

栗田信(くりた・しん)の「醗酵人間」を読了。戦後SF最大の怪作と呼ばれているそうですが、何というか超C級作品でした。主人公の九里魔五郎は、墓場から蘇り、お酒などの醗酵物を口にすると、体が膨張して、かけられた手錠などは簡単に引きちぎり、怪力になって無敵になり、挙げ句の果ては宙に浮かんでしまうという設定。膨張すると「こけっか、きっきっ」という怪しい叫び声を上げます。それで海外メディアに報じられるときにつけられた名前が「ヨーグルト・マン」、ここでがくっと脱力します。ヨーグルトは確かに発酵食品ですが、膨張したりはしないと思うんですが…どうもこの作者の趣味はよくわかりません。かと思うと、九里魔五郎が捕まえた人間を拷問するのに、「ワサビ責め」という手法が使われていて、何でも手ぬぐいにすり下ろしたワサビを塗り込めて、それで相手の口を覆う拷問だそうで、これをやられると二三日血尿が止まらないそうです。本当かな…「醗酵人間」以外にも、中篇が2作、短篇が4作収められていますが、さすがに他の作品を読む気はしませんでした。

読売新聞社の「第十期棋聖決定七番勝負 激闘譜」

読売新聞社の「第十期棋聖決定七番勝負 激闘譜」を読了。趙治勲棋聖(当時)対小林光一名人(当時)の対決。実はこの対戦が始まる直前の1986年1月6日に、趙治勲棋聖は「助かったのが奇跡」と呼ばれる程の交通事故に遭い、両足と左腕を骨折します。この時の棋聖戦の第1局は1月16日からで、事故に遭ってわずか10日しか経っていません。対局に出られないと、不戦敗になります。しかし不屈の闘志で趙治勲棋聖は対局に出、この時は小林光一名人の好意もあって椅子対局になりましたが、負けはしたものの車椅子で2日の碁を打ちきりました。それどころか、続く第2、第3局は趙棋聖が連勝しました。特に第2局は見事な碁でした。相手の小林光一名人は、対戦相手を怪我人だと思っていては勝てないと悟り、この後奮起して3連勝し、棋聖位を奪取します。これによって趙治勲さんは無冠に転落し、逆に小林光一さんはこの後棋聖位を8期連続で獲得し、名誉棋聖の資格を得ると共に、秀行さんの連覇記録も抜きます。しかし、趙治勲さんも、一旦無冠には転落しましたが、8月に碁聖位を奪取、翌年には天元を取り、さらに1989年には武宮正樹9段から本因坊位を奪取し、3大タイトルに復帰します。この後、棋聖と名人を併せ持った小林光一さんが、大三冠を目指して、趙治勲さんの持つ本因坊位に連続3回挑戦して、趙治勲さんに阻まれたのは既に記しました。

朝日新聞学芸部編の「第21期囲碁名人戦全記録」

朝日新聞学芸部編の「第21期囲碁名人戦全記録」を読了。第20期で、武宮正樹は見事小林光一の名人8連覇を阻止して初の名人になりましたが、その最初の防衛戦は趙治勲で、結果から先に書けば趙治勲が4勝2敗で勝ち、自身2度目の大三冠(棋聖・名人・本因坊の同時保持)を実現しました。この2人の対局となると、かなりの確率で武宮の大模様と趙治勲の実利という展開になり、局面が進んで趙治勲が武宮正樹の大模様の中にドカンと打ち込んで、その石が生きるか死ぬかの勝負になります。この時は第2戦では武宮が見事趙の石を屠り、第6戦では趙が見事にしのいで、名人を奪取しています。ただ、武宮宇宙流は、それまでよりも構えが小さく手堅くなり、明らかに趙の打ち込みを牽制するようになっているという変化がありました。

読売新聞社の「第一回/第二回 世界囲碁選手権富士通杯」

読売新聞社の「第一回/第二回 世界囲碁選手権富士通杯」を読了。この棋戦は1988年から2011年まで24回実施され、いわゆる国際棋戦としては最初のものです。この第1回/第2回は両方とも武宮正樹が優勝しました。武宮正樹は同時期にTVアジア選手権でも4年連続優勝し、「世界最強の男」と言われました。また、第1回も第2回も決勝戦は武宮正樹 対 林海峰でした。ちなみに小林光一名誉名人は、第1回では2回戦で武宮正樹に敗れ、第2回では韓国の曺薫鉉に2回戦で負けています。趙治勲名誉名人はどうかと言うと、第1回では1回戦で林海峰に負け、第2回では2回戦で中国の劉小光に負けています。お二人の名誉のために書いておくと、第4回では趙治勲名誉名人が、第10回では小林光一名誉名人がそれぞれ優勝しています。この棋戦の代々の優勝者を見ていくと、日本の棋士の凋落振りがわかります。第1回から第5回までは日本で活躍する棋士が優勝していますが、その後韓国と中国の争いになり、前述の小林光一名誉名人が第10回で優勝した(準優勝は王立誠)のを除くと、その後は第17回で依田紀基が準優勝しただけで、後は決勝まで進出できていません。

NHK杯戦囲碁 張栩9段 対 一力遼7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、張栩9段と一力遼7段の対戦です。準決勝の第1局で、今期のNHK杯戦も今日を入れて、後3試合です。一力遼7段はまだ19歳ですが、張栩9段に3勝1敗と勝ち越しています。対戦は張栩9段が3手目を目外しに構えたのが張栩9段独特の布石でした。白が右上隅にかかった時、黒は一間に目いっぱいに挟みました。普通白は三々に入るのですが、白は一間飛び、黒が隅を受けた後、挟んだ黒にかけました。黒が這えば穏やかでしたが、右下隅の黒が目外しでいい所にいることもあって、黒は出切りを敢行しました。白は黒を押さえ込んで、ここで戦いが始まりました。黒は中央で白石を当たりにする手を打ちましたが、白はそれを受けず、右辺の黒を押さえ込んでいきました。結果的にこの手が正解で右辺の攻め合いは白の一手勝ちとなり、黒の勢力圏内で二十数目の白地が出来ました。また右下隅の黒の目外しがきわめて中途半端な手になってしまいました。これで白が優勢になりました。その後白は右下隅を侵略しましたが黒は捨て石で締め付けて、下辺を大模様にし、挽回を図りました。黒は左上隅の白石にうまく寄り付いて、右辺から伸びた白石を締め付けて攻め取りにさせることを狙いましたが、白は安全第一で黒につけいる隙を与えませんでした。黒は下辺の大模様をかなりまとめたのですが、やはり右辺の損が大きく、終わってみれば白の8目半勝ちという大差でした。一力遼7段はこれで決勝進出で、NHK杯戦出場3回で、決勝進出2回というのは素晴らしい成績です。昨年の天元戦では井山裕太棋聖に一歩及びませんでしたが、近い将来一力遼の時代が来ると思います。

デミアン・チャゼルの「ラ・ラ・ランド」

「ラ・ラ・ランド」観てきました。映画としては心に残るものがないし、ミュージカルとしても記憶に残る名曲が無かったですね。
そういう訳でどうでもいい「気付き」のコメント。
ヒロインのミアが乗っている車がプリウス。昔はハリウッドのセレブが競ってハイブリッドカーに乗るという時代がありましたが、この映画では明らかに、売れていない女優の卵が乗るのに丁度いい安い車という感じで使われていました。
主人公のセブはオーディオマニアでもないのに、今時レコードプレーヤーを使っていましたが、使われていたカートリッジがオーディオテクニカでした。さすがカートリッジの世界シェアNo.1です。
またセブがバンドに参加して、それが売れて雑誌が取材に来るんですが、そのカメラマンが使っているカメラがSONY製。日本だとあり得ないですね。