白井喬二の「源平盛衰記」(上)

jpeg000-46白井喬二の「源平盛衰記」(上)を読了。昭和元年10月から昭和4年2月まで「時事新報」に連載されたもの。白井喬二としては、一番脂ののった頃の作品で読み応えがあります。上巻では、平家が西国の海賊を退治して次第に勢力を増していき、そして保元の乱で源氏の半分を倒し、そして平治の乱で残りの源氏も片付け、平家の天下になるまでを描きます。白井の源平話は人物に重きを置くもので、鎮西八郎為朝、悪源太義平などが実に魅力的に描かれています。また平清盛のちょっと変わった性格もよく描写されていると思います。今回読んだ版は昭和5年のもので、たぶん初版ではないかと思います。大衆小説家による源平の話には吉川英治の新・平家物語などもありますが、もう少し白井作品も再評価されてしかるべきではないかと思います。

白井喬二の初期短篇(「寶永山の話」収録のもの以外)

jpeg000-44白井喬二の初期の短篇から、「寶永山の話」に収録してあった話を除いた物を読了。学芸書林の全集の第9巻です。具体的には、「忠臣の横顔」「湯女挿話」「倶利伽羅紋々」「兵学美人行」「瓦義談」「指揮杖仙史」「名器殿物語」「或る日の大膳」「薫風の髭噺」「職追い剣」「広瀬水斎の諷刺」「美泥」「生命を打つ太鼓」「敵討つ討たん物語」「唐草兄弟」「銭番論語」「月兎逸走」「白痴」「密状霊験記」の19作品。「寶永山の話」の短篇がすべて収録されている訳ではなく、「月影銀五郎」と「目明き藤五郎」は収録されていません。大正12年から昭和6年までの、白井喬二としては一番活躍していた時代の作品が収められています。
「寶永山の話」を読んだ時の「奇妙な味」という感想は今回も一緒です。「兵学大講義」に出てきた兵学者諏訪友山の若い頃の話を描いた「兵学美人行」、湯女が禁止されたその最後の日の様子を描いた「湯女挿話」、幕府の鋳銭所の役人同士の意地の張り合いを描いた「銭番論語」など、白井らしい一ひねりした作品が多いです。白井の本領は長篇だと思いますが、今回の作品群を読んで短篇も決して悪くないなと、考えを変えました。

桂米朝の「帯久、天狗さし」

jpeg000-45本日の落語、三代目桂米朝の「帯久、天狗さし」。上方落語の2枚目です。先日聴いた桂文枝は、私的にはイマイチでしたが、この米朝のは良かったです。「帯久」は、松平大隅守という奉行の名裁きのお噺。帯久という強欲な商人が、和泉屋与兵衛という同じ呉服屋に何度も無利子でお金を借りて、最後に借りた百両を大晦日に返しに行ったはいいが、大晦日の忙しさで取り紛れののどさくさで、一旦返して帳面には返却とつけさせた百両を黙って持って帰ってしまう。そのうちに和泉屋は火事に遭って没落、今度は和泉屋が帯久に金を借りに行くけど、強欲な帯久はまったく貸さない。和泉屋が頭に来て、帯久の店に火を付け、それでお奉行様のお裁きになります。あまり笑える所のない噺ですが、退屈せずに聴けます。
「天狗さし」は、「天狗のすき焼き」の店を出そうとする男の荒唐無稽なお噺です。

NHK杯戦囲碁 高尾紳路9段 対 林漢傑7段

jpeg000-48本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が高尾紳路9段、白番が林漢傑7段の一戦です。高尾9段は現在名人戦で井山7冠に挑戦中で出だし3連勝で好調でしたがその後2敗し、現在3勝2敗です。対局は黒が右下隅で地を稼ぎ、黒が下辺に打ち込んできた白を左下隅に連絡させないように遮った所でいきなり劫になりました。黒は劫材が足らないかと思いましたが、左上隅の星の白に直接付けていく手を劫材にしました。高尾9段の解説によると、この手は以前は損劫だと思っていたのが、例のアルファ碁がいきなり付けていく手を打っていて、必ずしも大きな損にはならないということがわかって打ってみたそうです。結局劫は黒が勝ち、その代わり白は右上隅を連打しましたが、元々右上隅は黒が2手打っていましたので、劫の結果は黒が悪くなかったようです。その後白は上辺に打ち込んでいきましたが、折衝の中で黒が左上隅に利かす手を打ったのに白が手を抜きました。それはいいとして、黒が左上隅に置いていったのに対する白の対応が間違いで、この隅は5手寄せ劫ぐらいで、ほとんど白の丸取られとなりました。元々白地が10目くらいあった所が30目ほどの黒地になってしまい、ここで勝負は決まりました。その後白は下辺の黒に寄り付いていき、また劫になり、白は下辺と右下隅を大きく荒らしましたが、逆転には至らず、結局黒の中押し勝ちでした。

白井喬二の「桐十郎の船思案、蜂の籾屋事件、傀儡大難脈」

jpeg000-41白井喬二の「桐十郎の船思案、蜂の籾屋事件、傀儡大難脈」を読了。学芸書林の全集の6巻について、メインの「神変呉越草紙」と「怪建築十二段返し」「江戸天舞教の怪殿」は既に読んでいて、残りのものを読んだものです。「桐十郎の船思案」と「蜂の籾屋事件」は1920年に発表され、「傀儡大難脈」は1925年に発表されたもの。最初の二つは名与力の桐十郎が活躍するものです。捕物帖の元祖は、岡本綺堂の「半七捕物帳」で1917年が最初ですが、白井も捕物帖を書いていて、今回読んだ3作品ともそうです。
「桐十郎の船思案」は桐十郎が追っかけていた土竜小僧の次郎蔵が、桐十郎がいつも釣り船を借りてその上で思案を巡らす習慣があったのを、その釣り船の船頭に化けて桐十郎と対面し、犯行を予告して桐十郎と対決するというお話しです。ちょっと日本版「ルパン対ホームズ」みたいな趣があります。
「蜂の籾屋事件」も桐十郎ものですが、その手下が蜂を使って捜査する、という所が非常に目新しいです。日本式ミステリーとしてなかなか読ませます。
「傀儡大難脈」は、捕り物名人の千面小三郎の活躍を描きますが、小三郎は何と25年も人形師に化けて事件を追い続けます。その事件というのが、何とユダヤ人陰謀説です!その陰謀で諸業の相伝秘状をことごとくその家から失わせる、というのがあって、それに人形師の小宇津大源と煙管師の村田菊吾がからみます。人形を操って色々な型を演じさせる場面があり、白井の蘊蓄が奔出して、実に初期の白井らしい作品です。

桂文枝の「立ち切れ線香、三十石、喧嘩長屋」

jpeg000-42今日の落語、五代目桂文枝の「立ち切れ線香、三十石、喧嘩長屋」。今回初めて上方落語にしてみました。ですが、いまいち好きになれないですね。五代目桂文枝の語り方があまり相性が良くないんでしょうか。特に「喧嘩長屋」はやかましくて下品で、という感じで良さがわかりません。「立ち切れ線香」はちょっとほろっとさせる噺です。三十石はなんだか京都の観光案内みたいな噺。

白井喬二の「石童丸」

jpeg000-39白井喬二の「石童丸」を読了。白井喬二が72歳の時に、「小説新潮」に発表したもの。謡曲「苅萱」に題材をとって、白井流にアレンジしたもの。「雪麿一本刀」と同じく、白井作品としては結構エロチックな場面があり、石童丸の父の加藤新太郎繁氏が、正妻以外に美人の妾も持つようになり、正妻と結婚する前は性のことについてはまるで無知であったのに、この妾とのつきあいで「性の達人になった」という描写があります。この妾に対し、正妻が激しく嫉妬し、ついには妾を殺そうとします。この正妻と妾の争いで世をはかなんだ繁氏は、高野山に行き、出家して僧になります。一方で妾は一人残された後で、石童丸を産み、繁氏の行方を捜し続けます。長い間かかってようやくそれらしき僧を高野山に探し当てましたが、石童丸の母は病気になり、会うことができず死んでしまいます。残された石童丸はその僧にようやく会って、父であるかどうか問いただします。しかしその僧は、石童丸の父とは一緒に住んでいたが死んでしまったと答えます。石童丸はしかしそれを信じず、その僧が父だと思い、自身も出家してその僧の弟子になります。その僧と石童丸は30年一緒に暮らしましたが、とうとう最後まで親子の名乗りはしなかった、という話です。

桂三木助の「三井の大黒」

jpeg000-40今日の落語、三代目桂三木助の「三井の大黒」。
三木助が得意とした噺らしく、三木助の1960年の最後の高座もこの「三井の大黒」だったそうですが、これは1956年の録音です。
名人の左甚五郎にまつわるお噺で、落語というより何か講談を聴くような感じです。甚五郎が身分を隠して大工の棟梁の所に居候して世話になるけど、隠していても自然と実力が出てしまって、みたいなお噺です。

白井喬二の「上杉謙信」

jpeg000-39白井喬二の「上杉謙信」を読了。上杉謙信と武田信玄の戦いを描いて、いわゆる川中島の戦いがクライマックスになります。
ただ、前半は上杉家の武将の鬼小島弥太郎とその友である甘粕備中守(後に甘粕近江守)が、若き謙信である長尾景虎と三人で不犯の誓いを立て、一生女人を遠ざけるとしていた所へ、鍛冶屋の娘の小衣が弥太郎に恋します。弥太郎も困惑しつつもまんざらでもない所があったのですが、甘粕備中守もあろうことか小衣に恋してしまいます。その結果二人で競い合うようなことになり、二人は手柄を求めて甲斐の国に間者として忍び込みます。二人は結局武田方の武将二人を斬り殺して、甲斐の国を脱出して越後に帰って来ますが、このことが原因で弥太郎は味方から甲斐に通じているという疑いをかけられ…(以下省略)というのが川中島の戦いの前までの話になります。いざ信玄との戦いになると、鬼小島弥太郎も甘粕近江守もそれぞれ鬱憤を晴らすような大活躍をします。
謙信と信玄の戦いを描いた作品では、海音寺潮五郎の「天と地と」が有名で、NHKの大河ドラマや映画にもなりましたが、この白井喬二の「上杉謙信」も悪くないと思います。信長や秀吉や家康ではなく、この謙信と信玄こそ、戦国時代のスーパースターで、川中島の戦いこそ、その二人ががっぷり四つに組んで戦った素晴らしい戦いだったと思います。

三遊亭圓生の「鼠穴」

jpeg000-38今日の落語、三遊亭圓生の「鼠穴」。
放蕩して一文無しになり、兄から商売の元手を貸してもらおうとしたが、兄が貸してくれたのはたった三文。それでも気を取り直して、その三文で細々と商売を始め、こつこつ貯めて増やして、何年か後には何とか倉を三つ持つ店を構えることができた。兄の家に金を返しに行き、その晩泊まったら、店が火事になり三つの倉も全部焼けて元の一文無しに。兄にまた金を借りようとしたが、少額しか貸してくれず、それではと七つの娘が吉原の禿に身売りして二十両をこしらえる。しかし、その金を盗まれてしまい、もう駄目だと思って首を吊って…その時目が覚めて、という夢落ちの噺です。何か後味が良くないし、笑える所もほとんどなくて、これ本当に落語?という感じです。