Kripton KX-5PXのファーストインプレッション(兼 渡邉勝さんへの感謝状)

KriptonのKX-5PXのファーストインプレッションです。私にとってはKriptonのスピーカーは2007年のKX-3P、2021年のKX-1.5に続いて3セット目です。今回KX-5PXを買った大きな理由の一つには、KX-1.5の音が非常に良かったので、最上位機種が欲しくなったというのがあります。
私が最初に買った本格的なオーディオ用スピーカーは、オンキヨーのM77という密閉型+ソフトドームの3ウェイスピーカーです。(1980年)そして2セット目が、有名なRogersのLS3/5Aです。(1987年)これも密閉型+ソフトドームのスピーカーです。そして今回また密閉型+ソフトドーム(KX-5PXのツィーターは正確にはピュアシルクリングダイアフラム・ツィーターですが、振動板に樹脂を含浸させたシルクを用いており、明らかにソフトドームの発展形です。)のスピーカーに回帰して来ている訳です。
その間に実は密閉型+ソフトドームの正反対の性格を持つ、バックローデッドホーンをハセヒロのキットで2台組み立て使用していましたし、更には3年くらい前にJBL4307や、オンキヨーのD-77NEのような本格的なバスレフスピーカーも買って使っていますし、またB&W 706 S2やTANNOY Autograph mini/GRのような、背面ダクトのバスレフ(低音の増強用にダクトを使うのではなく、スピーカーの背圧を逃がすことを主目的としたダクト配置のバスレフ)も買いました。
そういう訳で、密閉型(エアーサスペンション方式)、バスレフ型(ダクト前面、ダクト後面)、バックローデッドホーンというそれぞれの方式のメリットとデメリットはそれなりに理解して来ています。
どの方式にもメリットとデメリットはあるのであり、密閉型(エアーサスペンション方式)については、
メリット
1.エンクロージャーを密閉することにより、空気バネの力で比較的小形のエンクロージャーでも低域の再生限界周波数を下げることが出来る。
2.同じく空気バネの力で比較的大出力を入れることが出来る。
3.スピーカー背面の音がほぼダンプされ前面に出て来ないため、低音での再生の忠実性が高い。このため低音楽器の音程がきわめて明確である。
デメリット
1.聴感上の低域の量感はバスレフ型に比べると劣る。
2.空気バネの力が働くことにより、特に低域で細かな音が抑圧されて聴き取りにくくなる。
3.やはり低域で空気バネの力により詰まった感じの音になりやすく、過渡特性が悪くなる。
ということになります。
デメリットの3.は特にソフトドームを使った場合は低域だけでなく、中高域でもパルシブな音(例えばピアノやドラム)が丸くなりやすいということになります。日本における密閉型+ソフトドームの元祖はビクターが1970年代初頭に出したSXシリーズです。このSXシリーズはクラシック音楽ファンからは非常に高く評価された一方で、ロック音楽のファンなどからは酷評されることもある、好き嫌いのはっきり分れるスピーカーでした。このスピーカーの開発チームに参加していたのが、KriptonのKXシリーズのスピーカーの開発者である渡邉勝さんです。

前置きが長くなりましたが、今回のKX-5PXについては、驚くべきことに上記の密閉型(エアーサスペンション方式)の欠点がほぼ解消されています。
1.低域の量感 → 低域は40Hzぐらいまで素直に伸びており、聴感上不足を感じることはありません。
2.細かな音 → KX-5PXは細かな音が非常に良く聞こえます。例えばホールエコーが減衰して消えていく様子がかなりの部分まで聴き取れます。
3.詰まった音 → 既にKX-3Pの時からこの欠点は解消されており、周波数全域において詰まった感じはほとんどありませんし、ピアノの音にいたっては、エンクロージャーのピアノ塗装仕上げもあって、もっともピアノらしい音を聴かせるスピーカーです。低域についても詰まったというより適度な弾力感がある音です。これはブチルゴムエッジの採用、アルニコマグネットでのコイルの移動距離の大きい磁気回路とクルトミュラーのコーンによる軽い振動板、2種類の吸音材による空気バネの抑制など、様々な技術の複合で実現していると言えると思います。ちなみに昔の密閉型スピーカーは反りのあるレコードを再生しても、バスレフと違って空気バネの力でウーファーが揺すられることはほとんどなく、従ってアンプのサブソニックフィルターは不要でしたが、KX-1.5やこのKX-5PXはそれなりにレコードの反りまで再生します。
以上のような密閉型(エアーサスペンション方式)の欠点の解消を私は「渡邉マジック」と呼びたいと思います。渡邉さんは、1960年代半ばにコーラル音響に入り、その後ビクターに移って、2000年代初め頃からKriptonに移り、一貫してスピーカーユニットとスピーカーシステムの開発に携わって来られました。渡邉さんがSXシリーズ以来一貫してこだわり続けているのが、
1.密閉型+ソフトドームという構成
2.ウーファーのコーンにクルトミュラーの紙を使うこと
3.スピーカーの磁石にアルニコマグネットを使うこと
です。もちろん価格の安いモデルでは、2、3は必ずしも採用されていませんが、このKX-5PXはまさにこの3つが採用されており、渡邉さんが長年に渡って改良を続けたいわば集大成となっています。
またもう一つ特筆すべきなのが、KX-5Pから採用された砲弾型イコライザー付35mm口径ピュアシルクリングダイアフラム・ツィーターです。これはハイレゾのソースに対応するためということで、高域の周波数を伸ばすために採用されています。従来のソフトドームだとドーム頂点部とドームの周辺部で出た音が相殺しあって高域が伸びないということのようで、それを解消するために、振動板部を同心円状に二重にし、また中心に金属のイコライザーを立てた構造になっています。Kriptonのスピーカーはこのツィーターを採用してから、音が大きく変わったと思います。このツィーターは最高域が伸びた結果として可聴領域での抜けが良くなり、聴感上はかなり華やかな感じの音となっています。更にはKX-5PXの特性表を見ると、明らかに5KHz辺り(クロスオーバーは4KHz)にピークがあり、若干ではありますがハイ上がりの音です。なので、ポピュラーのいわゆるオンマイクの録音の女性ボーカルだと、若干サ行の子音がキツく響く場合もあります。(これはおそらく使い込んでいくと解消されると予想します。)しかしながら全体的に音を明るい方向に持っていっており、好ましい方向の変化だと思います。
低域については、低音楽器の音程の明確さがこれほどはっきり感じられるスピーカーというのも初体験で、オーケストラ音楽については、低音の上に組み立てられた音響・和声をきわめて正確に味わうことが出来ます。
音像については、大きさはTANNOY Autograph mini/GRの10cm同軸スピーカーの音に比べれば若干ですが大きめですが、一般的に言えば問題ない大きさで、実在感も優れています。音場については細かな音が良く聞こえることが音場感の良さにつながっており、音場は広く特に高さが良く再現されます。
結論として、このスピーカーは日本におけるスピーカー作りのマイスターである渡邉勝さんが完成させた、ほとんど密閉型(エアーサスペンション方式)の完成型に近いスピーカーと言って良いと思います。ジャンルも選ばず、ほとんど万人に推奨出来るスピーカーです。以上を渡邉勝さんへの感謝状とさせていただきます。

評価機器:
SACDプレーヤー
・デノン DCD-SX1
USB-DAC
・デノン DA-310USB
プリアンプ
・SPEC RPA-P5
パワーアンプ
・SPEC RPA-W5ST x 2台(バイアンプ接続)
アナログプレーヤー
・VPI Classic Turntable
カートリッジ
・オーディオテクニカ AT-OC9XSH
MC昇圧トランス
・オーディオテクニカ AT3000T
フォノイコライザー
・フェーズメーション EA-300
CD、SACD、ハイレゾ音源、LPにて評価。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA