古今亭志ん朝の「火焔太鼓、坊主の遊び」

jpeg000 221今日の落語、古今亭志ん朝の「火焔太鼓、坊主の遊び」。
「火焔太鼓」は志ん生が得意な噺で、私も前に志ん生で聴いています。志ん生と志ん朝が同じ噺を語った場合、多くの場合は私は志ん朝の方を好ましく思うのですが、この噺に関しては志ん生のとぼけた味の方が勝るように思います。この志ん朝の録音は1966年で志ん朝がまだ若い時のもののためか、勢いだけで演じているような感じで味わいがイマイチに思います。
「坊主の遊び」は、頭を丸めているご隠居さんが、吉原に女郎買いに出かけて、敵娼が酔っ払って寝てしまったので、その頭を剃刀で剃ってしまう、というちょっとひどいお噺。あまり語られることがなく珍しい噺のようです。

白井喬二の「帰去来峠」

jpeg000 225白井喬二の「帰去来峠」(ききょらいとうげ)を読了。1933年(昭和8年)の作品で「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」に連載されたもの。
いわゆる「猿飛佐助」物ですが(この作品では「佐介」の表記)、主人公的な人物が少なくとも三人出てきます。つまり野武士の生駒八剣と、その八剣に父親を殺された鯉坂力之助、そして猿飛佐介です。
物語は、真田幸村の真田家と、平賀源信の平賀家は、一触即発の状態で対立していましたが、両家に「銅鈴」と呼ばれる宝器がそれぞれ伝わっています。しかし、両家ともその鈴には「舌」と呼ばれる音を出す部分が欠けています。この「舌」を手に入れて音を出すと、この鈴の上には、真田家、平賀家のそれぞれの城にまつわる秘密が浮かび上がってくるとされるため、この「舌」をどちらが手に入れるかが、両家の戦いの行方を左右することになります。鯉坂力之助の父親はその「舌」を首尾良く見つけて持ち帰ろうとしていたのですが、帰りの山中で追い剥ぎとなった生駒八剣に殺され、「舌」を奪われてしまいます。このため、鯉坂家は、論敵であった砂田胡十郎からあらぬ非難をあびせられ、力之助は胡十郎と「舌」の行方を巡って争うことになります。そういう訳で、最初は力之助と胡十郎の争いで、それに生駒八剣がからむのですが、途中から中々見つからない「舌」の行方を巡って、猿飛佐介が山の中から召し抱えられて、「舌」の争奪戦に加わります。「舌」はしかしながら、平賀家の帆足丹吾という一騎打ちの得意な武将の手に落ち、佐介と丹吾が対決します。この対決は引き分けに終わりますが、丹吾は何とか「舌」を平賀家の城に持ち帰ります。佐介はそれを取り返すため、単身平賀家の城に忍び込みます。ここがこの小説のクライマックスですが、平賀源信の娘でお呱子(おここ)というのが出てきて、男勝りで才気煥発で勇気もあり、忍術書を研究して佐介対策を立て、佐介をあわやという所まで追い詰めます。
佐介のキャラクターが、山育ちで、真っ正直で思ったことを何でもずばずば言ってしまい、また世の中の不正を許せないと思うという感じで、「富士に立つ影」の熊木公太郎と、「盤嶽の一生」の阿地川盤嶽を併せたようなキャラクターとなっています。
後面白いのが、作中に歴史上の有名な築城家に言及する所があります。赤針流熊木伯典、賛四流佐藤菊太郎、と自身が「富士に立つ影」で創作した人物をちゃっかり歴史上の人物みたいに紹介しています。

春風亭柳枝の「子ほめ、喜撰小僧、堪忍袋、元犬、宗論」

jpeg000 216今日の落語は、八代目春風亭柳枝の「子ほめ、喜撰小僧、堪忍袋、元犬、宗論」。
八代目春風亭柳枝は初めて聴きましたが、大変端正な語り口でそれでいておかしみがある、という語り口です。才能のある人でスピード出世をして5年くらいで真打ちに昇進していますが、53歳で若死にしています。
「子ほめ」は前座噺で一番よく語られるもの。
「喜撰小僧」は、「悋気の独楽」という噺の前半部を独立させたもので、小僧が長唄の「喜撰」を歌いながら女将さんの肩たたきをするので、このタイトルになっています。
「堪忍袋」は、明治時代に作られた噺です。
「元犬」はこれぞ落語というナンセンスな設定で、白犬が21日間の願をかけて人間になるが、色々とトンチンカンなことをしでかす噺です。
「宗論」はこれも明治時代に作られた噺ですが、商家の旦那が浄土真宗を信じ、その息子の若旦那がキリスト教信者で親子で論争をするという、ある意味ぶっ飛んだ落語です。

小林信彦の「和菓子屋の息子 -ある自伝的試み-」

jpeg000 223小林信彦の「和菓子屋の息子 -ある自伝的試み-」を再読了。「小説新潮」に1994年3月号から1996年3月号まで連載され、1996年8月に出版されたもの。
「自伝的試み」であって、ノンフィクションであり、「東京少年」や「流される」などの「自伝的小説」とは違います。しかしながらその辺りの境界線は流動的です。作者は集団疎開を描いた「冬の神話」を「東京少年」で書き直し、また父方の祖父を描いた小説「兩國橋」を「日本橋バビロン」で書き直しといったことを延々とやっていて、そういう「しつこさ」が小林信彦の特徴の一つです。
作品は、小林信彦の母親の玉が青山という山の手から、両国という下町へ嫁に行く所から始まり、1988年にその玉が亡くなる所で終わります。ですが、中心となっているのは小林信彦が生まれた昭和7年から太平洋戦争の終わる頃までです。その頃の「中流の上」の下町の商家の暮らしや町の様子が描かれています。小林信彦は生まれ育った両国という町を戦争で無くし、それにも関連して生家であった九代続いた名門の和菓子屋「立花屋」の終焉という二重の喪失を体験しており、基調としては詠嘆的にならざるを得ません。小林信彦の弟の小林泰彦がイラストを描いており、当時の様子を理解する助けになっています。

三遊亭圓生の「三人旅、小言幸兵衛、洒落小町」

jpeg000 209本日の落語、三遊亭圓生の「三人旅、小言幸兵衛、洒落小町」。
「三人旅」は、そのタイトル通り、三人で旅する噺で、圓生が演じているのはその一部です。中山道の宿屋で「おしくら」と呼ばれる女を買う噺です。
「小言幸兵衛」は家主の幸兵衛が、家を借りたいとやってくる人に対し、色々と難癖をつけて断る噺ですが、このCDでは仕立屋の所だけが語られています。
「洒落小町」は、亭主の浮気が頭に来ている女房が、在原業平の妻の例を教えてもらって、和歌で亭主を諫めようとするけど、間違えて別の歌を使ってしまう噺です。

NHK杯戦囲碁 鈴木歩7段 対 余正麒7段

jpeg000 233本日のNHK杯戦の囲碁は黒が鈴木歩7段、白が余正麒7段です。鈴木7段は1回戦で淡路修三9段を見事破っての勝ちあがり、余7段は1回戦シードです。対局は序盤鈴木7段が右下隅に厚みを築きます。それに対し白が左下隅にかかって行きましたが、黒はこの白を攻める展開になりました。結果的に白は黒の包囲網の中で治まり、黒は中央で厚みを築きました。上辺が黒模様になったので白は上辺に打ち込みました。この白を攻める過程で、黒は左上隅の白に対し、地をえぐって攻めましたが、白はここで挟み付けを打って黒の厚みを分断しました。その後の折衝で大きな劫になりました。白は左上隅に潜り込んだ黒の眼を取る劫立てを打ち、黒はそれを受けずに劫を解消しました。黒の課題としては左上隅で取られた黒をうまく利用して締め付け、上辺の白を取ってしまうことでしたが、結果的にうまくいかず、ここで白が優勢になりました。ヨセでは白は固く打ったので黒は頑張って追い上げ、一時はかなり形勢が接近しました。しかしながら、白が左上隅から上辺に渡ろうとしたのが大きく、黒はこれを劫で阻止しようとしました。しかし劫立ては白の方が多く、劫は白が勝ってここで白が再度優勢になりました。終わってみて、白の2目半勝ちでした。今期のNHK杯戦で女流が3人2回戦に進みましたが、2人が敗れ、残りは謝依旻6段のみとなりました。

白井喬二作品についてのエントリー、リンク集

このブログ「知鳥楽」においての白井喬二作品及び白井喬二に関わるトピックについてのエントリーは2019年9月時点で合計200を軽く超えております。このために記事を参照される方の便宜を考え、リンク集をここに作成し公開することにしました。
インターネット上での白井作品についてのレビューはこれまで私が見た限りではごく限られた作品(せいぜい「富士に立つ影」、「新撰組」、「盤嶽の一生」程度)についてのものしか見当たりませんし、書籍でも大衆文学に関する書籍はこれまで10数冊程度読みましたが、これだけのレベルの白井作品を紹介したものは私の知る限り皆無です。大衆小説の実質的な命名者でありかつ創始者でもあり、実質的にこの分野を矢継ぎ早に発表した初期の傑作群で確立させた作家ながら今はほとんど忘れられている、白井喬二について少しでも理解を深めていただけたら幸いです。(このブログで新たに発見した白井作品については適宜Wikipediaの白井喬二のページの書誌情報に反映しています。{2019年8月付記:Wikipediaへのコンテンツ追加は中止しました。今後はそちらは更新しません。書誌情報はこちらを参照ください。}この書誌情報は国立国会図書館の検索、古書店検索サイト(「日本の古本屋」)での検索、そしてヤフオクでの検索で得られた情報を集めたもので、白井自身の著作(自伝である「さらば富士に立つ影」と評論集の「大衆文学の論業 此峰録」)の巻末に載っているものよりも更に詳細になっており、他で得られない唯一のものです。)

(尚、以下のリンク先のレビューは、白井喬二作品の多くが現状入手困難であることを考え{白井喬二の著作権保護は2050年まで有効なので青空文庫にも現時点では何も収録されていません。また雑誌や新聞掲載だけで終わり、単行本未刊行の作品も多数あります。古書店での入手も限定的で手間とお金がかかります。}、その多くがある程度ストーリーを明らかにするものになっております。その点をあらかじめご承知の上、参照願います。)

※富士に立つ影
裾野篇 江戸篇 主人公篇 新闘篇 神曲篇 帰来篇 運命篇 孫代篇 幕末篇 明治篇 総評
読み直し(2回目)
裾野篇 江戸篇 主人公篇 新闘篇 神曲篇 帰来篇 運命篇 孫代篇 幕末篇 明治篇 総評
※新撰組
新撰組 上
新撰組 下
※盤嶽の一生
盤嶽の一生
盤嶽の一生(続き)
由公の回顧録(「嶽の一生」別篇)
怪建築十二段返し
神変呉越草紙、柘榴一角
金色奉行
翡翠侍
珊瑚重太郎
金襴戦
帰去来峠
神曲 左甚五郎と影の剣士
※国を愛すされど女も
国を愛すされど女も(上)
国を愛すされど女も(下)
さらば富士に立つ影
兵学大講義
忍術己来也
※祖国は何処へ
民人篇 革新篇 尖端篇 心影篇 島嶼篇 海奴篇 異邦篇 結晶篇 寸終篇 総評
寶永山の話
※雪麿一本刀
雪麿一本刀(上)
雪麿一本刀(下)
東遊記
※南総里見八犬伝
南総里見八犬伝(上)
南総里見八犬伝(下)
上杉謙信
石童丸
桐十郎の船思案、蜂の籾屋事件、傀儡大難脈
初期短篇集(「寶永山の話」以外)
※源平盛衰記
源平盛衰記(上)
源平盛衰記(中)
源平盛衰記(下)
露を厭う女
桔梗大名
※瑞穂太平記
瑞穂太平記(上古篇、大化篇)
瑞穂太平記(奈良篇、平安篇)
瑞穂太平記(源平篇)
瑞穂太平記(続源平篇、中興篇)
瑞穂太平記(戦国篇)
白井喬二 戦後作品集 天の巻 坂田の金時
白井喬二 戦後作品集 地の巻 石川五右衛門
白井喬二 戦後作品集 人の巻 明治媾和
沈鐘と佳人
坊ちゃん羅五郎
続坊ちゃん羅五郎
天晴れ啞将軍
霧隠繪巻
男一匹
満願城
地球に花あり
隠密道三道中記
第二の巌窟
至仏峠夜話
古典の小咄
薩英戦争
釈迦・日蓮
後の月形半平太
孔雀屋敷
大衆文学の論業 此峰録
維新櫻
斬るな剣
従軍作家より国民へ捧ぐ
文学者の発言
捕物時代相
伊達事変
伊賀之介飄々剣
河上彦齋
洪水図絵
ほととぎす
小説ベスト10
戦国武将軍談
中江藤樹・孔子
西郷と勝安芳・孫文
小村寿太郎・汪精衛
北条時宗・忽必烈
伊藤博文・袁世凱
侍匣
唐手侍
華鬘(げまん)の香爐(贋花)
わが憂国の教壇記(エッセイ)
国民童話 自然のめがね 科学知識篇
維新の志士を憶ふ(エッセイ)
盟路
綺羅の源内
修羅春告鳥
春雷の剣
江戸市民の夢
築城秘話(エッセイ)
宇都宮釣天井の真相(エッセイ)
十両物語
※幽閉記
幽閉記(1)
幽閉記(2)(完読)
独楽の話(エッセイ)
※外伝西遊記
外伝西遊記(1)
外伝西遊記(2)
外伝西遊記(3)(完読)
白井喬二の作品での女性の主人公
※黒衣宰相 天海僧正
黒衣宰相 天海僧正(1)
黒衣宰相 天海僧正(2)
黒衣宰相 天海僧正(3)
黒衣宰相 天海僧正(4)
黒衣宰相 天海僧正(5)(完読)
※陽出づる艸紙
陽出づる艸紙
陽出づる艸紙(2)(つるぎ無双)(完読)
天誅組(18回中2回のみ読了)
白井喬二と「万能児、万能人間」
東海の佳人(一部未読)
白井喬二と佐渡金山
無辺と瓢吉槍
※豹麿あばれ暦
豹麿あばれ暦
豹麿あばれ暦(2)(完読、但し中断作品)
人肉の泉(連載第1回目)
人肉の泉(連載第9回目)
先覚者(後半未読)
本能寺前夜の織田信長
※捕物にっぽん志
捕物にっぽん志(1)
捕物にっぽん志(2)
捕物にっぽん志(3)
捕物にっぽん志(4)
捕物にっぽん志(5)
捕物にっぽん志(6)
捕物にっぽん志(7)
捕物にっぽん志(8)
捕物にっぽん志(9)
捕物にっぽん志(残り全部)
守綱雨
平凡社の白井喬二全集全15巻の内容
平凡社の白井喬二全集の第5巻の「中篇集」の内容
平凡社の白井喬二全集の第15巻の「随筆感想集」の収録内容
学芸書林の「定本・白井喬二全集」の収録内容
東亜英傑伝 一 豊臣秀吉・成吉思汗
東亜英傑伝 七 山田長政・張騫
電碁戦後日、実話の罐詰、掌篇フースーヒー(エッセイ)
※昼夜車
昼夜車(1)
昼夜車(2)
元禄快挙(未完作品)
想い出の中谷 博
紫天狗
葉月の殺陣
湖上の武人
名工自刃(漫画原作)
桃太郎病
虞美人草街
「国史挿話全集」と「日本逸話大事典」の関係
随筆感想集(平凡社の全集第15巻収録)
捕物源平記
竹林午睡記
登龍橋
大膳獵日記
巷説怪猫の城 -久留米城-
風流名士手帖(エッセイ)
魂を守りて 金属工芸に躍進の大器岩井清太郎伝
2017年11月7日時点での白井喬二未読作品
柳沢双情記
「富士に立つ影」の映画(1942年)
Kyoji Shirai and Niju-ichi-nichi kai
The life of Kyoji Shirai and his works (1)
The life of Kyoji Shirai and his works (2)
玩具哲学(エッセイ)
Fuji ni tatsu kage (A shadow standing on Mt. Fuji)
信長と鉄火裁判
「富士に立つ影」を高く評価した人達
白井喬二のポートレート(昭和7年)
民主のおもかげ 福翁自伝の話(エッセイ)
若衆髷(わかしゅわげ)(連載2回分)
若衆髷(わかしゅわげ)(完読)
小説義塾(エッセイ)
春月を語る(エッセイ)
Bangaku no Issho (The life of Bangaku)
筒井女之助
新藤兼人と「盤嶽の一生」
逍遙の歴史小説論と現代のそれと(エッセイ)
Shinsen-gumi
山中貞雄監督の映画「盤嶽の一生」のプログラム
TVドラマの「盤嶽の一生」の第1回
梁川庄八
読切小説 白井喬二自選集(梁川庄八、相馬大作、関根弥次郎、風流刺客、平手造酒、般若の雨)
梁川無敵伝 他七篇(「梁川無敵伝」、「鬼傘」、「鉄扇の歌」、「大膳猟日記」、「柳腰千石」、「後藤又兵衛」、「心学牡丹調」、「殖民島剣法」)
ロンドン爆撃(シュタッケンベルク原作)
白井喬二著作書誌情報
江戸から倫敦へ(連載一回分のみ)
仕事部屋を覗く3 白井喬二氏
銀の火柱(厨井道太郎名義)
山中貞雄監督の「盤嶽の一生」のシナリオ
時代日の出島(連載三回分のみ)
白井鶴子(喬二の奥さん)の「我が良人(をっと)への衷心よりの願ひ」
鳳雀日記、他のエッセイ(雑誌「騒友」掲載)
「大衆文学はどうなるだろうか」(「新潮」1933年4月号の座談会)
国民文学論
熊木公太郎も白井喬二の分身?
白井喬二の未読本(龍ケ崎市歴史民俗資料館蔵)
麒麟老人再生記――久米城クーデター余聞
私の歴史文学観(エッセイ)
彦左一代・地龍の巻
日本刀(「序曲」のみ)
彦左一代・天馬の巻
強い影武者
名乗り損ねた敵討(戯曲)、紙城(エッセイ)

太宰府天満宮

jpeg002 8jpeg000 231jpeg001 13会社で所属している業界団体の1年に1回の総会で、九州(福岡)に行ってきました。おそらく40年ぶりくらいの太宰府天満宮です。来年のTOEICでの高得点獲得を祈りました。台風12号の接近が懸念されましたが、何とか保ちました。

白井喬二の「金襴戦」

jpeg000 220白井喬二の「金襴戦」(きんらんせん)読了。
「珊瑚重太郎」と一つの巻に入っていた小説ですが、白井喬二の作品としては、今一つよく分からない作品です。大正14年に婦人公論に1年間連載されたものです。白井喬二の自伝によれば、何故かこのあまり出来がよくないと思われる作品が、太平洋戦争の時に陸軍恤兵部により兵隊に慰問品として送る小説として7-8回も選ばれて、大変な部数が前線に送られたとのことです。「戦」とついているのが兵隊向けと思われたのか、遊女が出てくるのが兵士の慰めになると思われたのか、理由は不明です。
お話は、飛騨の山奥の村で、金襴(金色の派手で高価な織物)を織っているのですが、その染め加工の時に出る鉱毒で、下流の村の農作物が被害を受け、金襴の村と下流の村で戦いになるという話です。主人公が、蝉の抜け殻を集めて漢方薬屋に売るという実に変わった職業の男なのですが、この主人公が白井喬二の主人公にしてはまるでいい所がなく、物語の冒頭で山の中の牢に捕らわれた死刑囚から伝言を頼まれるのですが、それを伝えるのをすっかり忘れてしまいます。その事が金襴の鉱毒を巡る戦いの直接的な原因になってしまいます。また、この男は、湯屋の遊女が人買いの男を殺したのに立ち会い、その遊女を連れて逃げるのですが、途中で遊女に心中を迫られまれ、遊女を置いて一人で逃げてしまいます。白井喬二はこの物語にきちんと結末をつけないまま終わらせてしまいます。

「仁義なき戦い 完結篇」

jpeg000 213「仁義なき戦い 完結篇」視聴。
この第五部は笠原和夫の脚本ではありません。で、脚本の出来不出来を言うより、どこまで腹をくくって事実を抉って脚本化するかという点で笠原脚本よりも劣るように感じます。
また、配役もかなり変に感じます。第2部の主人公だった北大路欣也が復活するのはまあ許せるとしても、第4部で殺されたばかりの松方弘樹がいきなり別の役で復活するのは違和感ばりばりです。(しかもすぐまた殺されるし…)第2部では千葉真一が演じた大友勝利がこの部では宍戸錠ってのもイマイチかな。(宍戸錠は日活作品ではいいけど、他社作品ではイマイチという評あり。)また、柔道一直線の桜木健一が、格好いい所のまったくないチンピラ役で登場し、最後に殺されて、それで広能が引退を決意するというのも、何だかなあ、です。やっぱりこの作品は第4部までかなと思います。