WE300Bの復刻版(1997年)の測定結果


ウェスタン・エレクトリックの復刻版の300Bの特性をeTracerで測定しました。その結果、昨日も書きましたが、ペア管という点では見事なほど2本の特性は揃っており、また新品からの劣化もほとんど感じられない測定値です。ただ一つ不思議なのが高すぎるプレート電流です。一応標準が60mAで出荷時の値も57.7mAでほぼ標準値なのですが、本日測った結果は標準より20%も高いです。私がこれまでこの測定器で50本くらいの中古・新品の真空管を測定した結果としては、真空管は時間が経つほどプレート電流が低下します。なのにこのWE300Bは2割も増えているのです。最初eTracerの測定条件が、WEのと違っているせいかと思って、プレート電圧とグリッド電圧、フィラメント電流・電圧を全部合わせてやってみましたが、結果はほぼ同じでした。また、手持ちの他の300Bの5種類の測定結果も大体45~60mAの範囲で、70を超えているものはありません。まあプレート電流の最大値は100mAなので、余裕が無いほど高い訳ではありませんが、理由が分からないのでちょっと気持ち悪いです。なお、プレート電流が高いほど低音が引き締まるということのようで、それは昨日の聴感とは合っています。
念のため、フルスキャンしてEb-Ib曲線を取ってみましたが、やはりプレート電流値が高めで、グラフが立っています。

追伸:その後、ウェスタン・エレクトリック自身が出しているWE300Bのデータシートに出ている、プレート電圧、グリッド電圧と、プレート電流の関係は、前2者が300V、-58Vの場合、75mAと読み取れました。これが正しい標準値だとすると、今回測定した2本はそれが4%弱低下しており、他の項目との整合性が取れています。となるとおかしいのは出荷時の測定データで、おそらく何らかの理由があって測定条件が書いてあるのと違うように思います。いずれにせよ、結論としては今回購入した2本は特性的には経年変化の影響も非常に少なく、まったく問題無いということになります。

追伸の追伸:
サンバレー(旧キット屋)のブログによると、1997年の復刻品ではなく2021年の復刻品ですが、プレート電流が60mA強~80mA後半に分布しているロットもあるとのことです。今回入手したもののデータシートは、ウェスタンエレクトリック側が別のロットのと間違えたのではないかと思います。(ちなみに最初販売店が別の球の成績書を間違えて入れたのかとも思いましたが、成績書のシリアル番号と球自体に記載しているシリアル番号は一致していました。)
追伸の追伸の追伸:
etracerの設定をプレート電圧:300V、グリッド電圧:-60Vでテストして、プレート電流が右60.7mA、左が61.5mAとほぼ標準的な値になり、また他の値もほぼ標準値となりました。いずれにせよ、今回入手した球はほぼヴァージン管だと思います。これで2本で$1,300はお買い得でした。音が期待外れだったのは、100時間くらいのエージングが必要ということでしょうね。
追伸の追伸の追伸の追伸:
元々300Bのフィラメントにかける電流と電圧は1.2A x 5Vで要するに6Wでした。かつての300Bはこのフィラメント電流で8W以上の出力を出せるという超高能率管でした。しかし今はそのノウハウが失われ、現在の300Bは本家の復刻版を含めフィラメント電流が上げてあり、WEのは1.46Aだそうです。そうすると今回測定したプレート電流72mAに1.2/1.46を掛けると59.3mAになります。おそらく試験成績書はそういった補正をかけた値でプレート電流を掲載しているのではないかと思います。

ついにご本家300Bを入手…しかし…

ついに憧れの(?)ご本家ウェスタン・エレクトリックの300Bを入手しました。といってもいわゆるヴィンテージ管ではなく、1997年8月製のご本家による復刻管です。非常に期待してアンプに装着して聴いてみましたが、その結果は「え、この程度?」という感じでした。確かに低域の引き締まりと定位はいいと思います。しかしそれに比べると中高音が床から離れてふわふわ空中に漂っているような音で、大変聴きやすい音であるのは確かですが、あまりHiFiという感じがしない音です。繊細さも、PSVANEのWE300Bの方があるように思います。PSVANEのWE300Bを聴いた時はとても気に入って、ずっと聴いていたい気持ちになりましたが、このご本家の音はちょっとがっかり感が先に立ちます。なお、eTracerで特性をチェックしましたが、左右はかなり揃っていて、また内部抵抗などもそれほど増大しておらず、あまり使われた形跡がありません。これを最初に買った人も、最初は大いに期待したけど、聴いてみたらがっかり、ということなのかもしれません。ヴィンテージのWEの音は知りませんが、この復刻版300Bの音を聴く限りにおいては、ウェスタン・エレクトリックのものだけが別格で他を圧倒する、ということは無いと思います。各社の300Bには良い所と悪い所があり、単純に順列を付けられるようなものではありません。今回のご本家の復刻版、たとえば10種類の300Bでテストしたら、まあ上位4位以内くらいには入るでしょうが、1位にはならないと思います。

キャプテン・スカーレットの”Dangerous Rendezvous”

キャプテン・スカーレットの”Dangerous Rendezvous”を観ました。今回のミステロンズの狙いは何とスペクトラムの本部基地であるクラウドベースで、真夜中に爆破すると予告します。一方、前回月面のミステロンズ基地から持ち帰ったエネルギー源のクリスタルを研究し、それを使ってミステロンズと通信出来ることが判明します。カーネル・ホワイトはそれを使ってミステロンズにそもそもこちらがミステロンズの火星の基地を攻撃したのは誤解からということを説明し、和平を提案します。2時間後、ミステロンズから返事があり、アイスランドのある荒地に通信装置も武器も無しで一人を寄越すようにということで、キャプテン・スカーレットが志願します。スカーレットはその地点に近付くと飛行機は放棄し、パラシュートで脱出するよう命じられます。会見ではミステロンズ側の映像は見ること出来ず声だけが流れます。しかしそれはキャプテン・ブラックで、彼はテープレコーダーで同じメッセージ(そちらが始めた戦争でありミステロンズは復讐を継続する)だけが流れ続け、ブラックは姿を消します。録音に気がついたスカーレットがガラスを割って録音機を見ると、その側には例のエネルギー源のクリスタルがあり、点滅を始めていました。すぐに爆発することを悟ったスカーレットは不死身の力でなんとか脱出します。スカーレットはホワイトベースにあるクリスタルも同様に爆発することを察知し、それこそがミステロンズの予告の正体であることを見破ります。しかし通信装置を持っていないため、至近の通信基地まで行って、そこでリード線を切断した上で、接触と切断を繰り返してモールス信号をホワイトベースに送ります。間一髪でホワイトベースに伝わり、クリスタルが窓から捨てられて、ギリギリ助かるという話です。
しかし通信基地の装置が真空管だったのは笑えました。この番組は1960年代だからその時代に真空管はいいとして、近未来の設定の筈が未だに真空管というのがちょっとミスマッチでした。何となくKT88のプッシュプルぽかったです。(笑)ドラマの中で、ミステロンズのクリスタルを解析して通信装置を作った科学者がスペクトラムの通信システムについての説明を受けて「何て最先端の仕組みなんだ!」と感嘆する場面があり、最後の真空管はわざとそれと格差を付けたんだと思います。

TU-8200Rのデュアルモノ、各種出力管の比較に最適

TU-8200Rのデュアルアンプは出力管の聞き比べには非常に便利であることを発見しました。
真空管はご承知の通り、ヒーターまたはフィラメントが温まるまで時間がかかり、真空管をすぐ差し替えても、本来の音を聴くには待たないといけません。しかし、このデュアルアンプなら、スピーカーを接続していないチャネルに次にテストする真空管を刺しておけば、ヒーターは暖められますので、スピーカーの接続と入力のチャネルを切り替えれば、すぐ新しい真空管のテストが出来ます。
なお、このTU-8200Rは自動バイアス機構が入っているので、EL34、6550、KT66、KT77、KT88、6L6GC等がバイアス調整無しで差し替え可能です。左右の回路は独立していますので、左右で別の真空管を刺してもデュアルモノの構成では問題ありませんでした。(あくまで待機状態としてです。1台のアンプの左右に別の真空管を刺して鳴らすのはさすがに止めた方がいいと思います。)

写真はJJ製EL34とGenalexのKT77(ロシア製)を比較しているもの。JJのEL34はまだ買ったばかりでちょっと高音が強すぎてキンキンする感じです。それに対しKT77は、高音の品位が高いです。(KT77というのはKT88とかの類似管ではなく、EL34の高級グレードとして企画されたものです。但しビジネスとしては失敗して、マイナーな存在です。

TU-8200Rデュアルモノラル

半年くらい前に全段差動プッシュプルアンプというのをヤフオクで落札してその音を経験しました。私なりの感想は、定位とか音場とかは非常にいいけど、音色そのものにはあまり魅力が無い、でした。それで定位とか音場の良さは、要するに回路的にクロストークが0になるようにしているからだと思いました。であれば、シングルアンプで、モノラル2台で聞けば、全段差動プッシュプルアンプの定位の良さと、シングルアンプの音色の良さが両立出来るのではないかと考えました。それで実験として、手持ちの真空管アンプでは一番安いエレキットのTU-8200R(6L6GCシングル)をもう1台購入して、それでデュアルモノをやってみました。結果は、
(1)音場の自然さ、音像の明確さ、音が前に出る等の全段差動PPの特長がちゃんと出ました。
(2)副産物で音の力強さが増しました。考えてみれば当然で、同じ電源で半分の出力段しか使ってないのですから、余裕が出るのは当り前です。
(3)音色はもちろんシングルアンプの快い音そのままです。
ということで、実験は大成功です。TU-8200Rはキット状態でなら6万4千円ぐらいで買えますので、2台でも13万円未満です。それでかなりのレベルの高い音を聴くことが出来ます。
後さらにステップアップとしては、BTL接続にして、チャンネル毎の出力を倍にするというのがありますが、個人的にはあまり回路を複雑にするよりシンプルなままの音を楽しみたいと思います。

PCL86→結局VALVO

各社のPCL86の音を比べたのではなく(超三結アンプで真空管の聴き比べをするには、30分ランニングした後バイアス調整をしなければならないので大変です)、中の構造を比較して見て、素人目かも知れませんが工作精度とか丁寧さという意味で一番高レベルに作られていると思ったのが、ドイツのVALVOです。今はもう無い会社ですが、品質の良さでは定評があって、テレフンケンのよりも良いと言われていたり、実はテレフンケンの一部のハイグレードの真空管はVALVOのOEM品だったみたいです。それでPCL86超三結アンプのPhilips製PCL86を取り外して、このVALVOを付けました。バイアス調整をし直して聞いてみたら、また少し発振が出るようになりましたが、スピーカーケーブルにフェライトコアのノイズフィルターを巻いたら、ほぼ問題ないレベルになりました。それで音質ですが、Philipsがやや大人しめで、超三結らしい高音のきらめきが抑えられていましたが、このVALVOでまたきらめきが蘇りました!ちょっと癖がある高音といえばそうなのですが、耳には非常に快い高音です。PCL86の主流はPhilipsの方なんでしょうが、異端もいいものだと思います。そんな訳で、またeBayでVALVOのPCL86を何本か落札して取り寄せ中です。

なお、超三結というのは三極管で五極管に100%のNFを掛けているので、真空管を変えても差が出ないと思っていらっしゃる方がおられたら、それは違うと申し上げます。PhilipsとVALVOで音ははっきり違います。これはプラセボではなく、ある程度の耳がある人だったら誰でも分かると思います。

PCL86-各ブランド毎のハードウェア形状比較

PCL86の各ブランドを良く見ると、ハードウェアの形状という意味で結構色々違っています。6つの部分にて仕様を比較してみました。結果的にどことどこのが同じ仕様、同じ製造場所の物なのかが分かったように思います。
結論としては、以下のようになりました。異なる仕様の数は10種類でした。
1.PhilipsとSiemensは同じ仕様、それに準じてEIとMullardは上部ゲッター部材の形状のみ異なります。これら4社は同一グループと言って良いと思います。
2.Mazda(UK)はPhilipsとはまったく異なります。これに対しMazda(仏)は両者の混ぜこぜ仕様です。
3.Lorenzは10本はPhilipsと同じ。SELで1本、ITTで1本だけ異なる仕様のものがあり、それもSELとITTでそれぞれ違います。
4.HaltronとTungsramは同一仕様。
5.EdicronとEuropa80も同一仕様。
6.ValvoとPolampはPhilipsとも異なり、またこの2つ双方でも違います。

私がPCL86を使っているのは超三結アンプで、超三結は真空管による差が出にくいと言われています。(100%NFをかけたのに近いため。)しかし、これだけハードウェアの形状が違うと音も当然変わってくると思いますし、実際にこれまで数種類試した限りでは確実に音の差はあります。

P.S. 最初上部の円盤またはリングを放熱用かと思っていましたが、これは蒸発型ゲッターといって高周波加熱でタングステンやバリウムを蒸発させてガラスの内側にゲッター層を作り、これが余分なガス類を吸着して真空度を保ちます。また、同じく上部のフィンみたいなのも、私は放熱フィンかと思いましたが、おそらくこれもゲッターです。リボン型のゲッターは真空管の初期からありました。現在でもサエスという会社から、ストリップ型ゲッターというものが販売されています。→(2022年1月21日追記:と思ったら、グリッドが熱くなりすぎるとそこから電子が出てきて{グリッドエミッション}真空管としての動作がおかしくなるので、それを防止する放熱フィンがJJの300Bの一世代前のものなんかに付いています。そちらかもしれません。)

手持ちのPCL86のブランド

手持ちのPCL86のブランド別。これだけ持っている人はそんなにいないと思います。入手先はeBay、ヤフオクと、イーケイジャパン(エレキットの会社)の販売サイト(エレキットにPCL86シングルアンプがあるのでその保守部品として売っています。但しマッチドペアでは販売されていません。)。
1.LORENZ/ITT ドイツのLorenzがITTに買収されたもの。Lorenzの真空管は第二次世界大戦のドイツ軍の通信機器にも使われたようです。戦後はラジオ用がメインのようです。
2.LORENZ 1.と同じでしょうが、ITTが書いていない箱もあります。
3.POLAMP ポーランドの会社。現在一番多く出回っているものです。会社(国営電球メーカー)はもう無くなっており、出回っているのは昔(1960~1970年代)製造したものだと思います。東欧では真空管のカラーTVがかなり後まで製造されていたみたいで、箱単位で未使用のが売られている場合があります。(PCL86のような複合管は、白黒TVに比べ大量の真空管が必要なカラーTV用として開発された例が多くあります。PCL86の原型である6GW8{ECL86}はまさにカラーTVの音声出力用に開発されたみたいです。PCL86でヒーターが14Vになったのは、トランスレスのラジオ用ではないかと思います。トランスレスのラジオでは、使う真空管のヒーターを直列に接続して、100V、115V、250Vにしていました。なので少しでもヒーター電圧が大きい方が使いやすかったようです。例えば日本の1960年前後のトランスレスのラジオは整流管を含めて5本の真空管を使い、そのヒーター電圧は12V+12V+12V+30V+35Vで合計101Vでした。)
4.Mullard イギリス。技術的にはフィリップスから供与を受けたものではないかと思います。
5.Edicron これもイギリスの商社で製造はどこか別の国と思います。EIその他複数の製造元があるようです。
6.SIEMENS ご存知ドイツのシーメンス。
7.Philips オランダ。おそらくPCL86の元祖だと思います。
8.HALTRON イギリスの商社のブランドのようです。
9.VALVO ドイツ製です。会社はもうありません。品質の良さで定評があったようです。一部のテレフンケンの真空管はVALVOのOEM供給品だそうです。
10.TUNGSRAM ハンガリー。真空管製造のもっとも古い会社の一つのようです。
11.EI ユーゴスラビア。音の工房のアンプキットに付いていたものなので箱はありません。このEIも比較的沢山市場で見かけます。テレフンケンの製造ラインを引き継いだという話と、逆にテレフンケンの偽物として流通していたという話があります。
12.MAZDA(1)MAZDAはGEの真空管・電球のブランド名です。日本では東芝がいわゆるマツダランプを販売していました。これはMazda Electroniqueというフランスの電球会社の製品のようです。
13.MAZDA(2)販売はThorn-A.E.I. Radio Valves & Tubes, Ltd.で調べてみたらBrimarの子会社みたいです。
14.EUROPA80 ドイツのゾーリンゲンの会社。商社だと思います。
その内、ハードウェアとしての構造上実質的に何種類あるか、調べてみるつもりです。

各社PCL86の内部構造の違い

以前オークションで集めた色んなブランドのPCL86を良く眺めて見ると、同じ規格の真空管にもかかわらず、各社でかなり構造が違うことに気が付きました。例えば真空管の一番上の円盤みたいになっている部分がシーメンスだと文字通り中が詰まった円盤ですが、EI(ユーゴスラビア)だと、金属の輪っかです。またその円盤部を支える縦の金属部も、ITT Lorenz(ドイツ)、Tungsram(ハンガリー)、Polamp(ポーランド)で3社3様で太さがまるで違います。またITT LorenzとTungsramは中にロット番号と思われる数字が入った四角のプレートが入っていますが、ITTがほぼ正方形を垂直に立てているのに、Tungsramのは45度に傾けて立てています。こういう物理的な構造の違いって、必ず音質の差となって現れると思います。いつか全部聴き比べして違いを評価してみたいですね。このPCL86というのは真空管の時代の最後期に作られたもので、技術的には色々と進んでいたみたいです。

PCL86の超三結アンプ、発振音解消

音の工房のPCL86超三結アンプ(キットの部品大幅改)ですけど、KriptonのKX-1.5をつなぐと、かすかですがボリューム位置によって「ピィー」という発振音がします。スピ-カー端子にスパークキラーを並列につないでみましたが、効果がありませんでした。試しに出力管(PCL86)を現在のITT LorenzからPhilipsに交換してみたら、これがバッチリで、見事に発振音は消えました。