NHK杯戦囲碁 大西竜平7段 対 仲邑菫女流棋聖(2023年5月14日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、ついに来ました、黒番が大西竜平7段、白番が仲邑菫女流棋聖の対戦です。仲邑女流棋聖は14歳で初出場の最年少記録を更新しました。この碁の布石は黒白とも平行型の2連星で、かつそれにもかかわらず白が三間髙バサミをしたりでダイレクト三々がまったくないという、昭和の香りがする布石でした。戦いは上辺で始まり、黒が攻められながらも白の三間ビラキの間に打ち込み戦線を拡大しました。そんな中、左辺から左上隅にかかっていた2子が、黒が中央を押して白がそれに合わせて伸びた結果、白の包囲網に取り込まれて半分死んでいました。碁の流れで黒がこの2子を引っ張り出すことになりました。黒は尻尾を捨てるかと思いましたが結局強く全部を助けたので、行きがかり上白はこの黒全体(写真での左辺の黒7子)を取りに行きました。しかし黒が考慮時間を3回連続で使って白の包囲網の弱点を突いて全部を活きに行ったのが強く、白も切られて左上隅の石に眼が無く、無理矢理取りに行くと攻め合いになり黒勝ちのため、やむを得ず活き活きの形で収束しましたが、白は後手になり、白の大きな地が見込めた箇所を先手でガラガラに荒されたということになり、ここで形勢は黒に大きく傾きました。後は黒が薄い所を先に固めて行って白に付け入る隙を与えず、地合いで盤面12目程度の黒のリードが最後まで縮まらず、白の投了となりました。こうして仲邑菫女流棋聖の初挑戦は残念な結果になりましたが、今後どのような活躍をしてくれるかが楽しみです。

NHK杯戦囲碁 西健伸5段 対 林漢傑8段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が西健伸5段、白番が林漢傑8段の対戦です。この碁での戦いは白が黒の勢力圏である下辺に打ち込み、黒が上からボウシしてから始まりました。下辺は元々スソアキだったので黒は白を右下隅に渡らせて打つかと思いましたが、この碁での西5段は積極的で、白を分断しました。白が中央に逃げて行くと黒の左下隅からの棒石も危なくなりますが、黒が白の飛んでいる石に付けて行って白を分断したのが良く、白1子を取ってこの棒石は完全に活きました。しかし白も下辺と中央の黒を分断し、かなり複雑な戦いになりました。この戦いの中で黒は劫で再度白を中央で分断しました。この劫は白は勝つしかない劫でしたが、黒からの何手目かの劫立てが小さく、白が劫を解消して一安心しました。この辺りで黒は中央左下の白のいわゆる「犬の顔」の真ん中に置いたり、一間トビに割り込んで白のタネ石を取って下辺と左辺をつなげておく手が大きかったのですが、何故か黒は打たず白に繋がられてしまいました。白はその後左側の黒へ寄り付きながら左上隅を大きくまとめたので、勝勢になりました。なお、左上隅はもしかすると三々に付ける手があったかもしれませんが、黒が別の場所に付けて結局持ち込みになってしまいました。この結果白の勝ちがほぼ確定し、黒の投了となりました。

故橋本昌二9段の直筆署名入り本(「松和・雄蔵」)

日本囲碁体系13の「松和・雄蔵」をAmazonのマーケットプレイスで購入したら、何と監修者の故橋本昌二9段の直筆署名入り!
おそらく持っていらした方が亡くなって遺族が処分したのだとは思いますが、私としてはこういうサイン本が古書市場に出ているのを見るのはちょっと悲しいです。
橋本昌二さんは、王座を2回、十段を1回取った関西棋院の強豪で、NHK杯戦でも3回優勝されています。

NHK杯戦囲碁 村川大介9段 対 鶴山淳志8段(2023年4月30日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が村川大介9段、白番が鶴山淳志8段の対戦です。この二人は先期も当たり、その時は鶴山8段が勝っています。布石は黒が向かい小目から二間高ジマリで、また右下隅と左下隅で黒が三々に入ったので、左辺が白模様となりました。そこに入っていった黒を白が攻める展開になりました。それに関連して、白が左上隅の黒の根拠を奪って攻め、黒が単純に活きる手を打たず外の白を切って行きました。白は上辺の黒に切りを入れ、白2子の犠牲で中央の黒6子を取りました。その後左辺の黒への白の攻めとなり、その攻防が下辺に及び、黒は裂かれ形を承知で下辺に出て行き、その結果左下隅で劫になりました。しかし劫は黒が勝ち、左辺から中央の黒のしのぎが焦点になりました。しかし黒は先ほど下辺に突き出した壁を頼りに、中央の白を切って行き、逆に左辺下方の白への逆襲を敢行しました。ここから先は左辺下方の白と下辺右方の黒との攻め合いになり、形勢はまったく不明になりました。しかし右下隅の白を黒が取りに行ったのがミスもあって失敗し、下辺右方の黒は取られてしまいました。それでも黒は右上隅の地を大きくまとめて追い上げました。しかしその後中央の黒の眼が無くなり、また左辺の攻め合いになりましたが、白は下辺の6子を捨て、その結果下辺右方の黒が復活しまし、さらに左下隅の白が黒を取っていた所もセキになりましたが、その代償で中央の黒が攻め取りとはいえ取られて、差は縮まりませんでした。結局白の8目半勝ちでした。

古碁の棋譜

隠退生活に備えて買い込んでおいた古碁の棋譜、少しずつ並べています。道策-大仙知-元丈-知得-丈和-幻庵因碩-秀和-秀策-秀甫-秀栄という分る人には分るラインナップです。
まだ引退した訳ではありませんが、囲碁並べは(書籍と碁盤・碁石を揃えた後は)費用0で楽しめる趣味です。今のプロ棋士、例えば関航太郎天元なんかはAI同士の対局を眺めながら勉強しているみたいですが、私は人間同士の碁、特に古碁にはまだまだ学ぶものが多いと思います。

百田尚樹の「幻庵」

百田尚樹の「幻庵」(げんなん)を読了。これは週刊文春の連載時に読んでいて単行本は未購入ですが、文庫本化されていたため購入しました。「幻庵」とは江戸時代の囲碁の家元四家の内の井上家の十一世の幻庵因碩(げんなんいんせき)のことです。囲碁史上で、名人の実力がありながら名人になれなかった、ならなかった人四人を囲碁四哲と呼び、幻庵因碩はその一人です。幻庵因碩が活躍した文化文政から幕末にかけての時代は、日本で囲碁が非常に盛んになり、同時に棋士の実力も非常に向上した時代です。しかし同時に、特にこの幻庵因碩と本因坊丈和がある意味暗闘を繰り広げます。この両者は70局以上も対局している好敵手(この本では悪敵手と表現されています)ですが、丈和が名人碁所願いを出した時、本来はこの幻庵が争い碁を申し込んでそれを阻止すべきだったのですが、丈和に「6年後に名人を譲るから今回は推薦して欲しい」と言われて騙され、まんまと丈和が名人になります。これがこの人の人生での最初の大きなミス。二番目の大きなミスは、その丈和と対局して名人から引きずり降ろすチャンスが回って来たのに、自分で打たずに、自分より段位が低い弟子の赤星因徹に代わりに打たせたこと。確かにその当時の因徹は幻庵因碩とほぼ並びかけていた実力の持ち主で、仮に丈和が負けた場合はより低段のものに負けたということで名人引き下ろしがやりやすくなるという計算でした。その期待通り因徹は丈和相手に前半は見事な碁を打ちリードしますが、結核を患っていた因徹は対局の労苦に耐えられず徐々に丈和に形勢を挽回され、最後はミスもあって終に逆転負けに終わり、その瞬間血を吐いて倒れその後わずかな間に死んでしまいます。(天保吐血の局、と言います。)三回目はミスではなくチャンスだったのですが、丈和がある理由で名人で無くなったため、今度こそ幻庵因碩にチャンスが回って来ます。しかしそこに立ち塞がったのが、本因坊家跡目の秀和で、とうとう幻庵因碩は秀和の黒番に勝つことが出来ず、名人になれませんでした。ついでにその秀和も壮年期には実力的には他を圧倒していましたが、幻庵因碩の二代後の因碩との対局で実力的には劣る相手に白番で1目負けという痛恨の敗けをくらい、幕末で幕府が何かと忙しくて碁どころではなかったのもあって、秀和もまた名人になれませんでした。(ちなみにヒカルの碁で有名な本因坊秀策はこの秀和の弟子です。)
という具合にこの時代の各棋士の暗闘は本当に面白いので、この小説もなかなか面白いです。(最近の百田の本は買わないようにしていますが、これは例外。)囲碁を知らなくてもそれなりには理解出来ると思いますが、やはり囲碁を知って読んだ方がずっと面白いです。

NHK杯戦囲碁 中野泰宏9段 対 孫喆7段(2023年4月23日放送分)


本日のNHK杯戦囲碁は、黒番が中野泰宏9段、白番が孫喆7段の対戦です。中野さんはお父さんから譲られたという和服で対局、そして孫7段は師匠から贈られたネクタイを着けての対局です。布石では黒が3隅を取り、代わりに白が左辺に大模様を築きました。黒が浅く消しに行ったのに白は受けず、逆に右上隅の黒の開きに肩付きしました。そのため黒は左辺に三間飛びで入り込み、白がこれを攻める展開になりました。黒が左下隅の三々に打って白に受けさせた後、そこを劫にするのを含みに黒はコスんで左辺白を攻める気配を見せましたが、白に切られて逆襲されると単につながる手を打ちました。この辺りが一貫しておらず、黒のサバキは重く成功したとは言い難かったです。左辺が一段落した後、黒は右辺から中央に二間飛びして、中央の白に攻めを見せました。白は取られている石を活用して当たりを打ち、右辺侵略の手がかりを得ようとしました。また右辺上方の肩付きで黒が受けなかった所を白が押さえ、そして曲がりを打った時に、黒が右上隅を小ゲイマで受けたのが問題だったと思います。すかさず白に筋となる付けを打たれ、結局右辺と右上隅が見合いになり、白が右上隅を大きく侵略しました。後は中央の白5子がどうなるかでしたが、黒はそちらを取る前に、中央の白を切断に行こうとしました。しかし黒が断点を継いだ後、白にカケのような手を打たれて攻められると、あっさりその石を捨て、白の5子取りに回りました。こちらも打ち方に一貫性がなかったように思います。中央が取られてしまった結果、左辺からの黒の大石に寄りつきが生じ、色々と生きるための手を打つことになりました。この結果として白地が増えました。また残った上辺も、白が取られている5子への利きを利用してまとめたので、地合は盤面でいい勝負になり、黒はコミを出せませんでした。結局白の中押し勝ちとなりました。

NHK杯戦囲碁 瀬戸大樹8段 対 藤沢里奈女流本因坊


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が瀬戸大樹8段、白番が藤沢里菜女流本因坊の対戦です。この対戦から対局者はマスク無しとなりました。(ここまで長かったです…)布石は双方最近の標準的な打ち方で、どちらも弱い石が無く、戦い無しでヨセに入るかという予想でしたが、右下隅で黒が隅に対してカケを打っている白石に迫ってから急に激しくなりました。黒が白を分断したのに、白は隅にケイマで滑って安定を図ったのに、黒が突き当たり、白が伸び込みました。この突き当たりで黒のダメが詰まったため、白からの下辺の出切りが成立し、黒は白一子を取っても活きておらず、攻め合いを目指して下辺で激しい差し手争いが始まりました。途中で黒が右下隅に利かしに行ったのに白は手を抜き下辺を取り切りました。代償で黒が右下隅を取り切れれば互角だったでしょうが、まだ白から劫にする手が残っており、ここで形勢は白に傾きました。それでも黒は右辺上方の模様を拡げて対抗しようとしましたが、白も深めに消しに行き、ここでまた戦いになりました。そのさなかに白は右下隅の劫を決行しました。劫立ての関係で右下隅の黒は本来あったセキで活きる手が無くなってしまい、結局お互いが取るか取られるかの大きな劫になりました。結局黒は劫に勝って隅を取り切りましたが、代償で右辺から上辺に延びる石が切断されました。こうなると黒は上辺だけで活きる必要がありましたが、もがいても2眼は出来ず、黒の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 呉柏毅5段 対 小池芳弘7段(2023年4月9日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が呉柏毅5段、白番が小池芳弘7段の対局です。序盤で黒は右辺に模様を築きましたが、白は小ゲイマ2つで手堅く活きるスペースを確保した後、右上隅黒への覗きから逆襲に転じ、上から白を攻めに来た黒2子を取り込むという大きな戦果を上げ、ここで白が優勢になりました。しかし黒もじっくり打って下辺を大きくまとめ、一時は形勢不明に戻りました。しかしヨセで黒が左上隅で白を切って白1子を取り込んでから、白がそこの利きを上手く使いながら左辺の切りに回り、白が左辺の地を増やしながら、同時に中央に付きそうだった黒地を最小限に削減しました。その後右上隅で劫になり、黒が勝って戦果を上げましたが、それでも地合いは盤面でもどうかということになり、黒はコミを出せず投了となりました。