市川崑監督の「雪之丞変化」

市川崑監督の1963年の作品、「雪之丞変化」を視聴。雪之丞と闇太郎の二役をやっているのが長谷川一夫で、長谷川一夫の映画三百本記念で、市川崑監督の初の時代劇です。とにかく役者が素晴らしく、浪路が若尾文子、軽業のお初が山本富士子、雪之丞の師匠の菊之丞が市川中車、島抜け法印が勝新太郎、門倉兵馬が船越英二、そして敵の土部三斎(原作では「つちべ」ですが、映画では「どべ」と呼ばれています)が中村鴈治郎とオールスターキャストです。それはいいのですが、この時長谷川一夫はもう55歳で若女形の役としてはさすがに老けすぎです。長谷川一夫が最初に雪之丞を演じたのは、昭和10年で、この時のものが観たくなります。女優陣は、若尾文子が可憐で実に美しく、また山本富士子のおきゃんな感じのお初もいいです。ただ、原作にあった雪之丞と闇太郎の友情が十分に描けていません。また復讐の過程も原作で5人の敵を映画では3人に減らしてしまって、ちょっとあっさりしすぎです。またストーリーの展開も、雪之丞の独白に頼っている部分が多く、もっと映像で見せて欲しかったです。

稲垣浩監督の「無法松の一生」(1958年版)

稲垣浩監督の「無法松の一生」、1958年版を観ました。1943年版が日本の軍部と、占領軍GHQによって、二度に渡って検閲を受け削除を受けた無念を晴らすため、稲垣監督が敢えてリメイクしたものです。キャストは松五郎が三船敏郎、吉岡未亡人が高峰秀子と当時としては最高のものと思います。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しています。1943年版と比べてどこがカットされたかが良くわかります。日本の軍部がカットを命じたのは、要するに松五郎が吉岡未亡人に思いを寄せているとわかる所すべてです。車引き風情が軍人の未亡人に思いを寄せるなんぞはけしからん、という訳です。GHQがカットしたのも理不尽で、敏雄が学芸会で「青葉の笛」を唄う所や、提灯行列で学生が軍歌を歌う箇所などです。カットされた箇所を除いて比較して、1943年版と1958年版はどちらも素晴らしい甲乙付けがたいものだと思います。この作品、原作である「富島松五郎伝」も読んでみようと思って、取り寄せ済みです。

稲垣浩監督の「無法松の一生」(1943年)

稲垣浩監督の「無法松の一生」(1943年)を初めて視聴しました。新しいブルーレイプレーヤーを買った記念(?)です。これまでこの有名な映画を観る機会がありませんでした。また、戦前に内務省によって、また戦後にGHQによってと2度も検閲を受けてずたぼろにされた作品ですが、それでも名作ですね。阪妻は先日「狐の呉れた赤ん坊」を観ましたが、その主人公ともちょっと共通点があって、こういう役はぴったりはまっています。吉岡夫人を演じていた園井恵子は、広島の原爆に遭って亡くなってしまったということですが、物語の舞台となっている小倉も、寸前の所で原爆の惨禍に遭う所だったのを考えると、複雑な気持ちです。(長崎に投下された原爆は当初は小倉に落とされる筈でした。)この映画のクライマックスで出てくる小倉祇園太鼓の暴れ打ちは、創作で実際のものとは違うそうです。山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズはこの作品の影響を受けているそうで、主人公の車寅次郎という名前も、松五郎が車屋だったところからつけたそうです。

丸根賛太郞監督の「狐の呉れた赤ん坊」

jpeg000-25丸根賛太郞監督の1945年(戦後)の作品、「狐の呉れた赤ん坊」を観ました。橘公子の実際の銀幕での姿を見たくて買ったDVDですが、実に泣けるいい映画でした。戦後の撮影でGHQにチャンバラを禁じられているため、斬り合いのシーンは一ヵ所も出てきません。荒くれ者が子供を可愛がるというのは、同じ阪妻の「無法松の一生」と共通しています。最後のシーンで、善太がある大名のご落胤であることがわかって、本当の父親である大名に会いに行くために、大井川を渡ろうとして、蓮台に載せた立派な駕籠が用意されているのに、善太が「ちゃんの肩車がいい」と言うのが泣かせます。(善太を拾って育てた張り子の寅は大井川の川渡しの人足です。)
目的の橘公子もまあ可愛かったです。

「仁義なき戦い 完結篇」

jpeg000 213「仁義なき戦い 完結篇」視聴。
この第五部は笠原和夫の脚本ではありません。で、脚本の出来不出来を言うより、どこまで腹をくくって事実を抉って脚本化するかという点で笠原脚本よりも劣るように感じます。
また、配役もかなり変に感じます。第2部の主人公だった北大路欣也が復活するのはまあ許せるとしても、第4部で殺されたばかりの松方弘樹がいきなり別の役で復活するのは違和感ばりばりです。(しかもすぐまた殺されるし…)第2部では千葉真一が演じた大友勝利がこの部では宍戸錠ってのもイマイチかな。(宍戸錠は日活作品ではいいけど、他社作品ではイマイチという評あり。)また、柔道一直線の桜木健一が、格好いい所のまったくないチンピラ役で登場し、最後に殺されて、それで広能が引退を決意するというのも、何だかなあ、です。やっぱりこの作品は第4部までかなと思います。

「仁義なき戦い 代理戦争・頂上作戦」

jpeg000 212jpeg001 12「仁義なき戦い」第3作代理戦争と第4作頂上作戦を続けて視聴。まだ第5作完結篇が残っていますが、笠原和夫が脚本を書いたのは第4作までです。
「代理戦争」の名前の通り、広島・呉の地元のやくざの戦いながら、バックにいた神戸の山口組と本多会の代理戦争が描かれています。ただ、小林信彦の「われわれはなぜ映画館にいるのか」に出てくる笠原和夫の解説によると、何故広島で争う必要があったかについては、中国地方進出を模索する山口組と下関の合田一家の争いが背景にあるということです。
個人的には、役者の豪華さに酔いしれます。菅原文太、成田三樹夫、小林旭、松方弘樹、梅宮辰夫、田中邦衛、金子信雄、山城新伍といった綺羅星のごとき役者の見せる、裏切りにつぐ裏切りの群像劇に心を奪われます。

「仁義なき戦い 広島死闘篇」

jpeg000 210「仁義なき戦い 広島死闘篇」視聴。
第1作の主人公の広能が、いきなり脇役になっていたのには戸惑いましたが、解説読むと、正当な続編の「代理戦争」が間に合わないので、その合間に作られた番外篇みたいです。
でも、番外篇といっても、非常に魅力的です。特に北大路欣也が演じる山中正治と、千葉真一が演じる大友勝利がとても格好いいです。(元々この配役は逆だったみたいですが。)梶芽衣子もとても色っぽくて良いです。

シン・ゴジラ

gozilla01シン・ゴジラ観てきました。傑作というほどではなかったですが、まあまあ楽しめました。それに、第1作へのオマージュが感じられたのが良く、特に伊福部昭の音楽がそのまま使われているのが良かったです。伊福部のゴジラ第1作の音楽はあまりにも有名ですが、あの低音部の繰り返しは技法的にはバッソ・オスティナート(執拗なバス)と呼ばれ、バッハが受難曲で、キリストの十字架を背負っての道行きの場面で使っている技法です。つまり伊福部昭はキリストの十字架を背負ってとぼとぼ歩く場面に使われた音楽をゴジラの歩みに転用したのです!

全体に悪くはなかったですが、よく振り返って見ると、結局第1作のリメイクに過ぎないような気がしてきました。確かにマニアが評価するのは第1作だけなので、それしかないような気もしますけど。
結局新しい何かを付け加えたかというと、
(1)ゴジラが段階的に進化していくという設定
(2)JRの列車(新幹線と在来線)を使った攻撃
の2点ぐらいかな、と。

フラバァ続編(Son of flubber)

SON-OF-FLUBBERDVDで先日観た「フラバァ」の続編、「Son of flubber」(邦題:フラバァデラックス、1971年の再映時には新フラバー)を視聴。続編に傑作なし、で前作よりはかなり劣りますが、それなりには楽しめました。前作では非常に弾性の強いゴムであるフラバァを発明したレイナード博士ですが、今回は、そのガス版であるフラバァガスを発明します。前作では、フラバァをバスケットシューズの底につけた選手達がバスケットボールの試合でぴょんぴょん跳ねて活躍するのが爆笑シーンでしたが、今回はアメリカンフットボールです。博士はフラバァユニフォームを開発し、選手の一人に着せます。その選手を味方が抱えて放り投げると、その選手は空中を飛んで行き、ゴールまで一直線です。その選手の活躍で1点差まで迫ったのですが、あと少しという所で、ユニフォームのガスが抜けてしまいます。でもその選手はフラバァガスのチューブをもう一本隠し持っていて、それをユニフォームではなく、ボールに注入します。そのボールを蹴って、「98ヤード」のフィールドゴールに成功して、逆転勝ちします。(ちなみにフィールドゴールの実際の最長記録は64ヤードです。)最後の場面で、そのボールが人工衛星の間を飛んでいる様子が描かれます。宮下あきらの漫画で、投げたボールが人工衛星に当たって落ちてくる、というのがありましたが、それに先行するギャグです。