紀田順一郎の「内容見本にみる出版昭和史」

紀田順一郎さんの「内容見本にみる出版昭和史」を読了。さすがに紀田さんの書籍に関する本は情報がきわめて豊富です。
雑駁な印象を順不同に書くと、
(1)家にあった唯一の文学全集が角川書店の「昭和文学全集」であっただろうことがほぼはっきりしました。この全集の第1回配本が「横光利一」で「旅愁」が収められていました。私は小学校6年生の時に山口県下関市から福岡県宗像市(当時宗像町)に引っ越したのですが、その関係で家の近くに大きな書店がなくなり、同じく図書館もなくなって読む本が不足していたので、仕方なく家にあった字の小さいこの全集に手をつけました。獅子文六の「てんやわんや」や「自由学校」もこの全集で初めて読みました。この頃の全集というものは読むためのものではなく、応接間の本棚に飾るためのものだったように思います。
(2)白井喬二の全集を戦後に出した学芸書林が、かなり先端的で意欲的な文学全集を出していた出版社であったことがわかりました。もっとも商売は下手で、白井喬二の全集の第2期を出すことなくつぶれてしまうのですが…
(3)全集を中心として、日本の出版社のピークが、私の幼年・少年時代と重なる1960年代後半から70年代前半であったことがよくわかりました。そういう時代に育った者としては、今の出版業界の状況は寂しい限りです。
(4)白井喬二の平凡社の全集は、古書に精通している紀田さんでも「もはや入手不可能」とされています。
(5)諸橋博士の、大漢和辞典を編む上での苦労は本当に感動ものです。