ロバート・L・フォワードの「竜の卵」

ロバート・L・フォワードの「竜の卵」を読了。ハードSFとして、お友達のKさんのお勧めによるもの。感謝。前半ちょっとかったるい部分はありましたが、通して読んでみるとなかなかの作品と思いました。まず、表面の温度が8000℃、そして重力が地球の370億倍という、中性子星(パルサー)上に生物が発生しているという設定がすごいです。解説によると先行作品としてハル・クレメントの「重力の使命」があり、また1970年代に、パルサー上の生物の可能性は科学者の間で指摘されていたそうですが、しかしそれを実際に書くのはかなりの難度だと思います。フォワードはそれを見事にやり遂げています。また、いわゆる異星人とのファーストコンタクト物なのですが、パルサー上の生物であるチラーが人間より100万倍の時間感覚で生きているという設定が秀逸です。このために、コンタクト当初は遅れていたチラーが人間側が与えた情報を元に、人間時間でほんの数日の内にあっという間に人間を追い越してしまいます。ただ、マイナーな欠陥を指摘すると、たとえばチラーの姿形に関する描写が曖昧で、今一つ文章だけでその姿を具体的に思い浮かべることがうまくできなかったことです。もっともナメクジみたいなものかという予想は大体あたっていましたけど。「デューン」もそうだったですけど、本文だけで語りきれないで、巻末のおまけで解説するというのは、どうも私にはフェアではないように思えます。また、イエスキリストを思わせるような予言者が登場して、民衆に殺害されますが、このお話は全体の中では取って付けたような印象を受けます。そうは言っても、1960年代初めに生まれた私は、子供の頃色んなアニメとか漫画で(当時は平井和正、辻真先、豊田有恒、眉村卓、そして筒井康隆に至るまでの若いSF作家が黎明期のSF設定のアニメに台本を提供していました)、「科学技術の進歩による明るい先進的な未来」というのを刷り込まれているせいか、こうしたちゃんとしたSFを読むとちょっと安心します。