中里介山の「大菩薩峠」第5巻

中里介山の「大菩薩峠」の第5巻を読了。ここまで再読してきて、少し中里介山のストーリーの進め方がわかってきたように思います。それは、これだけの長大な小説でありながら、登場人物があまり増えないということで、その代わり限られた登場人物がまるで順列組み合わせの全てのパターンをたどるかのように、それぞれがある意味ご都合主義の偶然で絡み合うようになり話が進みます。例えば、間の山のお君の愛犬であるムクは、東海道を旅している時に龍之助と同行するようになります。その時はそれだけだったのですが、この巻で笛吹川が氾濫して龍之助が家ごと急流に流されて死にかけた時に、それを助けたのはムクです。後で、龍之助は偶然夜中に駒井能登守の子を宿して気がふれてしまったお君を辻斬りの犠牲にしようとしますが、ムクが立ちはだかってそれを阻止します。さらにはこの巻では米友が吉原にて血を吐いた龍之助を助けて一緒に暮らしたりします。こういった登場人物(登場動物も)の間の不思議な縁の展開がこの小説の眼目のように思います。
この巻ではまた、軽業師だったお角が、安房に渡ろうとして船が難破し、洲崎の浜に半死半生で打ち上げられていたのを、駒井能登守が助けると、これまたご都合主義的偶然で話が展開します。しかし、この安房の国の巻では新たに茂太郎や盲目の法師の弁信が登場します。
これでようやく全体の1/4を読了です。

カラヤン/ベルリンフィルのベートーヴェン交響曲全集(1961年~62年録音)

カラヤン/ベルリンフィルのベートーヴェン交響曲全集(1961年~62年録音)を聴きました。カラヤンのベートーヴェン交響曲全集には、映像とライブを除くと、フィルハーモニア管弦楽団との最初の全集(所持)、そしてこの60年代の全集、70年代の全集(所持)、80年代の全集となります。そのうち、1960年代のがカラヤンがまだ50代で元気が良かった頃のものです。1970年代になるとカラヤンは音楽の外面的な美しさというか、アンサンブルの磨き込みや滑らかさに注力するようになり、その反面強いアクセントが失われた感じになり、私は1970年代のカラヤンのベートーヴェンはあまり好みではありません。また、私が最初に買ったクラシックのLPはカラヤン/ベルリンフィルの「運命・未完成」で、その運命はこの1960年代の全集のものです。当時アンチカラヤンもたくさんいて、この60年代の全集は録音テープ継ぎ接ぎで作ったとか文句言われたものですが(実際ヘッドフォンで注意深く聴くと、テープの継ぎ目でノイズの感じが変わるのが実感できました)、今聴くととても懐かしく感じます。その5番と9番が良い出来だと思います。
カラヤンという指揮者は、作曲家の柴田南雄さんに言わせると、「その時々の時代の要求に応じて演奏スタイルを変え続けてきた」指揮者になります。このことはジャズのマイルス・デイヴィスも同じことが当てはまると思います。(どちらもそれぞれの分野で「帝王」と呼ばれました。)1960年代の時代の要求とは、1950年代までの表現主義的・ロマン的なスタイルとは打って変わった、かっちりして楽譜に忠実な柴田さん式に言えば「新古典主義」的演奏ということになりますが、それだけではなく、1960年代という熱気にあふれていた時代のエネルギー感も反映していると思います。

昭和37年のトヨペットの広告

また「歴史読本」の裏表紙の広告で、昭和37年8月号のものです。トヨペットクラウン1900デラックスの広告です。何と、オートマです!この時代にもうオートマがあったとはびっくりです。また面白いのが、「右足でアクセル・ペダル、左足でブレーキ・ペダルを踏むだけで…」と左足ブレーキをはっきりと打ち出していることです!
ちなみに馬力は1900ccで90馬力と、さすがにこれは今の車に比べると控えめです。
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昭和37年の日立のステレオの広告

「歴史読本」の昭和37年2月号の裏表紙に、日立のステレオの広告があったので、ちょっと紹介。
(1)価格が53,500円。調べてみたら、この当時の大卒初任給が1万7千円くらいです。その3倍くらいということは、今の大卒初任給が20万円として、60万円くらいの感じでしょうか。一般向け(マニア向けではなく)と考えるとちょっと高いかなという気がします。
(2)日立マークの下に青で「日立」の文字が入っているのがちょっと珍しいような。日立マークの右に「HITACHI」とあるのはよく見ましたが。
(3)ラジオ・プレーヤー2点組み合わせ。となっているのが面白いです。すなわち初期のステレオチューナーは、単にモノラルチューナーを2台組み合わせただけだったということです。
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白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第8回)

白井喬二の「捕物にっぽん志」の連載第8回を読了。「人物往来 歴史読本」の昭和37年1月号です。この回は1回の読み切りで、一休禅師のお話です。京都の寺社奉行の蜷川新左衛門が、一休禅師のことを民衆の心を惑わす売僧(まいす)ではないかと疑って部下を偵察のために貼り付けます。そんな中、一休禅師は贔屓筋となんと遊郭に出かけます。そこである絶世の美女の傾城を巡って二人の遊侠の徒が喧嘩をします。それを一休禅師が仲裁しますが、その後何と一休禅師はその傾城と床を共にし…というお話です。もちろんオチがついていますが、白井が一休禅師を取り上げたのはこれが初めてのように思います。

NHK杯戦囲碁 瀬戸大樹8段 対 河野臨9段

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番瀬戸大樹8段、白番が河野臨9段の対戦。これまでの2人の対戦成績は河野9段から見て4勝3敗とほぼ互角で、トップ棋士の一人である河野9段にほぼ互角というのはすごいと思います。対局は4隅すべて小目でしかもその全てでかかってという、ありそうであまりない布石でした。右上隅の攻防が焦点になりましたが、攻められている白が黒1子を取ってはっきり活きにいったのに対し、黒がその1子を逃げ出した打ち方が疑問で、白はうまく立ち回って中央と上辺を見合いにしたのが上手く、結局黒は中央に一手入れる間に上辺を突き抜かれ、眼二つで活きなければならなかったのは非常に辛く、形勢は大きく白に傾きました。黒は中央を押して行って厚みを築き、左辺の白に打ち込んでいきました。しかし白の1子のしのぎは容易で、簡単に地をもって治まりました。しかし、白が逆に打ち込んでいった黒1子を攻めにいったのがある意味打ち過ぎで、狭間をつかれて逆襲され、黒は左辺を分断し、左下隅にも利かすことが出来て、先手で切り上げ下辺の黒模様を盛り上げる手に回っては、黒がかなり挽回しました。しかしまだそれでも白が優勢だったと思いますが、寄せで河野9段は形勢を楽観していたのか、手堅い手を打ち過ぎました。中央の黒には薄みがあり、白はそこを追及してうまく得を図ることが出来た筈ですが、実際には黒がうまくまとめて8目程のいい地をもって治まりました。結果として黒の半目勝ちという大逆転劇でした。勝ち碁をきちんと勝ちきることがいかに難しいかを如実に示した一局になりました。

カール・シューリヒトのベートーヴェン交響曲全集

カール・シューリヒトのベートーヴェン交響曲全集を聴きました。最初から全集として企画されたものではなく、1941年から1956年までの色んなオケとの録音を集めたもの。(モノラル録音)Amazonでわずか1,892円で買いました。(5枚組)1番から8番まではトスカニーニの名盤を聴いたすぐ後ということもあって、特に印象に残ったものはなかったのですが、9番を聴いてぶっ飛びました。第4楽章の出だしで、猛烈なスピード+金管の最強奏。トランペットがついていけていなくて音を外しています。こんなぶち切れたような演奏を聴いたのは初めてです。シューリヒトというと、「玄人好みの指揮者」「枯淡の境地」という感じで、特に最初聴いたブルックナーの7番(ハーグフィル)とかモーツァルトのハフナー交響曲(ウィーンフィル)はそんな印象でした。しかし、シューリヒトは一説によると、2回と同じ演奏はしなかった人ということで、今回の第9は今までのシューリヒトのイメージを粉々に打ち砕くようなインパクトがありました。この9番を聴くためだけで、1,892円は本当に安いです。この9番は1954年の録音で、オケはフランス国立放送管弦楽団です。

中里介山の「大菩薩峠」第4巻

中里介山の「大菩薩峠」第4巻を読了。新しく甲府勤番となった駒井能登守は、馬を買いに馬大尽の許を訪れ、そこでお君を見初めます。お君は病気で江戸に残っている駒井能登守の妻にそっくりでした。お君をもらい受けた駒井能登守は、お君を溺愛します。一方で、牢に入れられていた宇津木兵馬は、同じ牢にいた浪士と共に脱牢します。逃げる場所に困った脱牢組は駒井能登守の屋敷に逃げ込みますが、そこで能登守と対決してみれば、脱牢者の一人と能登守は顔なじみでした。馬大尽の娘で顔にひどい火傷の跡があるお銀は、ふとしたことから神尾主膳の別荘にいた龍之助と知り合います。龍之助が目が見えなくてお銀の顔を見ることがないということにお銀は安心して、二人は男女の仲になります。しかし、その後二人は東山梨の八幡村に逃れますが、そこは龍之助が斬り殺した亡妻のお浜の実家でした。龍之助はお浜への思いから、また辻斬りを始め、お銀も龍之助の冷酷無残な正体を知ります。一方で駒井能登守は、自分の寵愛しているお君が被差別部落の出身であることを、お君が伊勢にいたころを知っていた神尾主膳に曝露され、甲府を去ることになります。
といった感じで、まだまだこの辺りはストーリーに一応の進展がありますので、読み進むのは苦痛ではないです。とはいえまだ全体の1/5を読んだに過ぎません。

中里介山の「大菩薩峠」第3巻

中里介山の「大菩薩峠」第3巻を読了。この巻辺りから、主人公の机龍之助は、甲府で神尾主膳と何故か仲良くなり、その別荘に住み着きますが、夜な夜な辻斬りを行うという修羅の姿として描かれるようになります。何故かしりませんが、段々登場の割合は減っていき、主人公とはいえ影が薄くなっていきます。
一方、龍之助を敵と付け狙う宇津木兵馬は、甲府で神尾主膳の元にいる龍之助を訪ねようとして、裏宿の七兵衛とがんりきの百蔵が、甲府御勤番の金を盗み出したのと同じになり、あろうことかその犯人と間違われて囚われの身になります。
また江戸にいた、米友はお君の行方を求めて甲府にやってきて、物語の舞台が江戸から甲府に移ります。
一方で甲府で、代々の馬長者の娘のお銀が登場しますが、このお銀は姿はお君にそっくりですが、顔にひどい火傷を負っています。
その他、神尾主膳の上役として江戸から駒井能登守が赴任しますが、神尾主膳より年が若く、主膳は面白くなく何かと嫌がらせをしようとします。