ワールド碁チャンピオンシップ DeepZenGo 対 井山裕太棋聖

ワールド碁チャンピオンシップの、DeepZenGoと井山裕太棋聖の対局を、ニコニコ動画で鑑賞。DeepZenGoが先番で、3手目でいきなり白にかかっていったのが珍しく、その後白は上辺を中心に打ち、黒4子を大きく取り込んで成果を上げました。その後も右下隅の地を取り、また左下隅にも白が侵入して、うまくさばいて左辺に地を作りました。この辺りまで白が良かったと思いますが、黒も中央が厚く、かなり細かい勝負になってきました。そのため、白の井山棋聖は右上隅で劫を仕掛けました。この劫立てで、右辺を打ったのが小さく劫は黒が勝って振り替わりとなりましたが、この収支は黒が得でした。結局終わってみれば、黒の5目半以上の勝ちで、井山棋聖の投了となりました。DeepZenGoは中国・韓国の棋士には連敗したのですが、ヨセで乱れなければどちらも勝っていた対局でした。開発者の話によると、主にネット碁でチューニングしたのが、ネット碁では細かいヨセになるような対局が少なく、ヨセに関するチューニングが十分できていなかったということです。この辺りをきちんと修正すれば、少なくとも人間の棋士にはもう負けなくなるように思います。

王銘エン9段の「囲碁AI新時代」

王銘エン9段の「囲碁AI新時代」を読了。アルファ碁と、Zen及びそのディープラーニングを採り入れた強化版であるDeepZenGo、そしてアルファ碁の強化版であるMasterを取り上げ、棋譜を分析したものです。王9段といえば、隅よりも辺を重視する独特の棋風を持ち、その打つ囲碁は「銘エンワールド」として高く評価されています。また、ゴトレンドという台湾の囲碁ソフトの開発チームにも参加しています。Masterはアルファ碁の強化版ですが、王9段に言わせると、どちらかというとスマートな打ち方であったアルファ碁に対し、より戦闘的になったということです。また厚みを高く評価するアルファ碁に対し、より地に辛くなったということです。それに対し、日本発の囲碁ソフトであるDeepZenGoは、ディープラーニングを採り入れてかなり強くなりましたが、元々Zenが持っていた戦闘的でねじり合いに強いという特長が残っているとのことです。もうすぐ井山裕太棋聖とDeepZenGoの対戦があるので楽しみです。また、印象的だったのは人間がコンピューターに棋力で抜かれたのについて、写真が出てきて絵画がそれまであった「どれだけ似せられるか」という点から開放されて自由になった、というのを挙げていることで面白い比較だと思います。また、これからのコンピューター囲碁の課題としては、これまでは人間の棋譜を参考にしていますが、今後はどれだけコンピューター独自の手を打っていくようにするかだ、ということです。そうなって初めて囲碁の打ち方の本当の革命が起きるのだと思います。

直木三十五の「南国太平記」(下)

直木三十五の「南国太平記」(下)を読了。島津斉彬とその世継ぎを呪う牧仲太郎と、その師匠である加治木玄白斎は呪術で激しく戦いますが、年老いた玄白斎はついに仲太郎の呪いの前に命を落とします。妨げる者のいなくなった仲太郎の呪術は、最後に残った斉彬の世継ぎの哲太郎をも呪い殺してしまいます。それどころか、仲太郎の呪いは今度は斉彬本人を襲います。しかしながら、斉彬は自分の世継ぎを全て呪い殺されてもお由羅一派を恨んだりせず、斉彬を慕ってお由羅一派を除こうとする軽輩の武士達(西郷や大久保も入っていました)に対し、「藩のため国のためもっと大きなことをせよ」と説き、彼らに深い感銘を与え、後の明治政府でこれらの軽輩の武士達が活躍するきっかけを作ります。そして斉彬は藩主になってわずか7年で49歳の生涯を終えます。この「南国太平記」では呪殺となっていますが、現在ではお由羅一派による毒殺ではないかとされているそうです。
Wikipediaの「直木三十五」の所にはまったく書かれていないのですが、この「南国太平記」は昭和5年から6年にかけて書かれたもので、いわゆる「エログロナンセンス」の時代です。その影響はこの作品にも見られ、特に「グロ」が強く出た作品です。それは、(1)呪殺という陰惨な手法をその方法も含め詳しく描写したこと(2)斉彬派で蜂起が発覚して切腹を余儀なくされた高崎五郎右衛門の切腹のシーンを克明に描写したこと(3)切腹して墓に入れられた斉彬派の武士を島津斉興は、墓を暴いて獄門にさらすように命じますが、その暴かれた死体の様子を生々しく描写したこと、などの点で明らかです。
全体にそういう「グロ」趣味のせいもあるのかもしれませんが、大衆小説にしてはさわやかさに欠ける作品です。ただ島津斉彬という人物の英明さ、偉大さは十分に描写されていると思います。

斉藤康己の「アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか」

斉藤康己の「アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか」を読了。といっても、斜め読みで、AIの歴史みたいな所はかなり飛ばして読みました。「アルファ碁」とは何かというと、この本によれば、「畳み込みニューラルネットワーク+モンテカルロ木探索」だということです。2000年代に入って囲碁ソフトが飛躍的に強くなったのはモンテカルロ法を採用してからですが、私はいくらコンピューターが進歩したといっても、囲碁の膨大な手数を全部試して勝敗を判定するなんて、一定の時間内に可能なのか、疑問に思っていました。この本によると、モンテカルロ法といっても、全ての手を読んでいるのではなく、ツリー検索と組み合わせて有望そうな手の周辺だけを読んでいるとのことでした。それが「モンテカルロ木探索」です。ここまでは今までの囲碁ソフトも同じですが、アルファ碁の特長はそれに「畳み込みニューラルネットワーク」を組み合わせたことで、KGSというネット碁会所での強い人の棋譜データ16万局分を学習して、「次の一手」をできるだけ正しく打つようにしたものです。この意味でアルファ碁の打ち方は人間の延長戦上にあり、決して突飛なものではありません。実はモンテカルロ木探索無しでも、アルファ碁は80%以上の確率でプロ棋士とほとんど同じ「次の一手」を打つそうです。アルファ碁に悪手が少ないのは「ニューラルネットワーク」のお陰で、また時に人間に理解ができない手を打つのは「モンテカルロ木探索」の結果でないかということです。
この作者は囲碁の実力は10級とのことなので、囲碁の方から見ての深い分析はありません。プロ棋士から見た本として、王銘エン9段の「囲碁AI新時代」が3月15日に発売予定であり、予約しています。
なお、先日たまたまFacebookで「巡回セールスマン問題」の話をしましたが、実はこれを解くアルゴリズムと囲碁ソフトのアルゴリズムは一部共通性があるとのことです。

直木三十五の「南国太平記」(上)

直木三十五の「南国太平記」(上)を読了。直木賞に名前を残す直木三十五の代表的な作品です。幕末の薩摩藩の「お由羅騒動」(藩主島津斉興の後継者として側室お由羅の子・島津久光を藩主にしようとする一派と嫡子島津斉彬の藩主襲封を願う家臣が対立して争ったお家騒動)を描いた小説です。ちなみに、最初に「お由羅騒動」を詳しく調べたのは、江戸研究家の三田村鳶魚で、直木の「南国太平記」はそれを断りもなく利用して書いたもので、三田村は激怒します。そしてその報復として直木を含む当時の大衆時代作家の作品の歴史考証のおかしさをばったばったと斬りまくった、「大衆文藝評判記」を出します。白井喬二もこの被害にあった内の一人です。この「大衆文藝評判記」の影響で、後の司馬遼太郎のような歴史考証のしっかりした時代小説を書く作家が登場します。しかし、私に言わせれば、そのことは逆に初期の時代小説が持っていた荒唐無稽な面白さを奪ってしまうことになります。(まあ、山田風太郎のような歴史考証と荒唐無稽さを両立させた、稀有な例外も現れましたが。)
まだ上巻なので、どのように話が進むかはまだ途中ですが、久光派と斉彬派の争いは、表面的な暴力によって行われるのではなく、久光派が、薩摩藩に代々秘かに伝わる「呪術師」の力によって、斉彬の三人の子供(幼児)を呪い殺す、というある意味陰惨なものになっています。これに対し、その呪術師の師匠が登場し、逆に斉彬の子の無病息災を祈る、ということで呪術対呪術の戦いになります。この先どうなるかわかりません。

読売新聞社の「第二十二期棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 挑戦者碁聖依田紀基」

読売新聞社の「第二十二期棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 挑戦者碁聖依田紀基」を読了。依田紀基が碁聖を3連覇した勢いをもって、初の三代タイトルである棋聖位をかけて、趙治勲名誉名人に挑戦した戦いです。依田紀基は若い時から名前が通っていて、よく故藤沢秀行名誉棋聖の教えを受けていました。で、初めての二日制の七番勝負になりましたが、依田の方が二日制の対局に慣れていない感じで、出だしから3連敗します。しかし、そこから盛り返して2勝しますが、第6局では依田が形勢を楽観していて、守りの手を打って負けてしまいます。結果的に4勝2敗でしたが、内容を見れば依田は決して趙治勲名誉名人に負けていなかった感じです。その事は2年後の名人戦で、趙治勲名誉名人に勝って初の名人位を獲得したことからもわかります。

角井亮一の「アマゾンと物流大戦争」

角井亮一(物流代行会社経営兼物流コンサルタント)の「アマゾンと物流大戦争」を読了。
2016年の9月に出た本ですが、残念ながら既に情報は古くなっており、例えばAmazonがアメリカで自前で物流をやり出したことには、触れられていません。でもまあその前の状況はわかって、アメリカではWeb通販の配送はUPSのシェアが非常に高いのですが、AmazonはUPSの比率を30%以下に抑え、USPS(米国郵便)を積極的に使っていたみたいです。その使い方は、一番手間のかかる仕分けの所をAmazonが行ってそれからUSPSに荷物を渡していたみたいです。
また、私は以前Facebookのポストで「Amazonの次のターゲットはスーパーマーケット」と書きましたが、アメリカでは既にAmazonと小売り最大のウォルマートが激戦を繰り広げていました。Amazonは株式の時価総額では既にウォルマートを抜いていますが、小売り業としての売上ではまだ世界12位に過ぎません。(日本ではイオングループがかろうじて16位です。)ウォルマートはAmazonに対抗して、Amazonと同様のサービスを展開する「ジェット・ドットコム」を買収、とかなり熾烈な争いをしています。
それでは日本はどうかというと、日本のネットスーパーでは、私が使ったことがあるイトーヨーカドーがネットスーパーとしては売上が一番大きいそうです。ただ、私が使っていた時は、店舗型のネットスーパーでしたが、今は別に物流センターを設けてのセンター型に変わっているみたいです。
興味深いのが、楽天も自社で物流をやろうとして、結局大赤字を出して現在ほとんど撤退状態なのだとか。(楽天物流)それに対して、自社物流をやって成功している例としてアスクルが出てきます。しかしアスクルも先日埼玉の物流センターで大火事を出して、その物流戦略に疑問が出されている今日この頃です。また、これは知らなかったのですが、ヨドバシカメラもエクスプレスメール便という一番早く着くサービスについては、自社で物流をやっているんだそうです。
日本に話を限定すると、今、日本のAmazonが日本の宅配便の個数に占める割合は、推定で十数%に既になっています。この数字は、福山通運や西濃運輸といった弱小の宅配会社数社の合計を合わせたものより大きくなっています。アメリカで物流を自社でやり始めたように、今後は日本でも自前での物流の比率が増えていくと思われます。今回のクロネコヤマトの騒動、長い目で見れば、日本発の物流サービスが、アメリカ発のロジスティクスを最優先にする企業の進化についていけなくなって、撤退を余儀なくされたターニングポイントと位置付けられるのかもしれません。

NHK杯戦囲碁 一力遼7段 対 井山裕太棋聖 (決勝戦)

本日のNHK杯戦の囲碁は、いよいよ決勝戦で一力遼7段の黒番、井山裕太棋聖の白番です。どちらが勝っても初優勝になります。対局は右上隅で黒がかかって来た白を一間に挟んだのに、白が両ガカリで挟み返したのが珍しい打ち方でした。上辺の白は黒石一子を抱えて治まりましたが黒は当てと継ぎを利かしました。この後、白はこの黒3子を攻撃目標にして全局を組み立てていきました。白は左辺の黒にもたれていき中央を厚くし、上辺から中央に延びる黒を狙っていきました。黒はこの大石から左辺に向かって一間に飛びましたが、これがある意味疑問手で白に上からのぞかれてしのぎが見えなくなりました。黒は包囲している右側の白にアヤを求めて打ち、結果的には白の包囲網を破り、白2子を取って活き、上辺3子も連れ戻すことが出来、ここでは黒が優勢になったかと思いました。しかし白は右辺の黒模様になだれ込んでおり、また黒が活きたことにより薄くなった左上隅も下がりを打って頑張りました。手を抜いた右辺の白は攻められましたが、井山棋聖はここで見事にしのぎました。その後黒の一等地である右下隅の折衝になりましたが、ここでも白の打ち方が冴え、かなり黒地を減らすことに成功しました。その後、逆に黒が下辺の白地を荒らしにいきましたが、井山棋聖は無難に切り抜けました。これで白が勝勢になりました。その後白は右下隅の黒をいじめ、黒が頑張ったので結果的に劫になりましたが、この劫に負けても包囲している白は活きており、ここで黒の投了になりました。井山棋聖はNHK杯初優勝です。これで国内の公式タイトルを全て一度以上獲得したことになりました。スーパーグランドスラムとでもいうべきでしょうか。この後、井山棋聖と一力7段はアジアTV早碁選手権に出場になりますが、頑張って欲しいものです。

鹿児島の菓子「春駒」

獅子文六の「海軍」の中で、主人公が鹿児島の菓子「春駒」を食べるシーンがあり、懐かしくなって取り寄せてみました。(私は高校の3年間は鹿児島市で過ごしました。)さすがのAmazonでも扱っていなくて、「明石家」という、これまた鹿児島の菓子でもっとも有名な「軽羹」で有名な店のWeb通販で買いました。「春駒」は元々「ウマンマラ」(馬のアレ)と呼ばれていましたが、島津久光が「春駒」に改めたのだそうです。他の地域のお菓子でいえば、外郎(ういろう)に近いですが、米粉と小豆を練って固めた素朴な味です。

読売新聞社の「第二十一期 棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 九段小林覚」

読売新聞社の「第二十一期 棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 九段小林覚」を読了。二人の三年越しの棋聖戦での対決の最後の年。1年目は小林覚が勝利して棋聖位をもぎ取り、2年目にすかさず趙治勲がタイトルを奪い返し、決着の3年目。この棋聖戦が始まる直前までの二人の対戦成績は小林覚から見て18勝19敗とほぼ互角でした。しかしながら、第1、2局と趙が連勝し、小林が第3局で一矢報いたものの、第4、5局とまた趙が連勝し、ある意味あっけなく趙の防衛が決まりました。最終局は小林にとっては惜しい一戦で、ヨセに入るまで白の小林がリードを保っていましたが、左下隅へのハネツギにかけついだのが一路違っていたためにその後黒からの先手のヨセを喰い、折角の好局を逆転されてしまいました。趙治勲名誉名人はこの前年、二度目の大三冠を達成しており絶好調でした。小林覚は敗れたとはいえ、全盛期の趙治勲名誉名人に互角に近い所まで戦ったということで、十分評価される内容だと思います。小林覚九段は、2007年の第31期棋聖戦でも挑戦者として登場しますが、この時も棋聖位は奪取ならず、今の所棋聖位は1期だけに終わっています。