三遊亭金馬の「居酒屋、紀州」

jpeg000 138今日の落語はちょっと目先を変えて、三代目三遊亭金馬の「居酒屋、紀州」。「居酒屋」は三代目三遊亭金馬の当たり芸です。酔っ払いが居酒屋に入って、そこの小僧をからかう噺ですが、小僧がお品書きを語るのが、独特の金馬節で聴かせます。
「紀州」は七代将軍家継が夭折して、その後の将軍を尾州と紀州が争う噺で、聞き違いがテーマになった短い噺です。
三代目三遊亭金馬は久保田万太郎やその弟子の安藤鶴夫が毛嫌いして過小評価した噺家です。でも実際に聴いてみたら、折り目正しい感じで聞きやすく、いいと思います。

小林信彦の「つむじ曲がりの世界地図」

jpeg000 137小林信彦の「つむじ曲がりの世界地図」を再読了。1976年に出版されたもので、1974年から1975年にかけてミステリマガジンで連載されていたもので、「パパは神様じゃない」の後の連載です。
数十年ぶりの再読ですが、この本の中に出てくる「ド・セルビイ」方式の旅行という言葉は覚えていました。それだけ印象が強かったということで、この頃の小林信彦のエッセイには切れがあると思います。「ド・セルビイ」方式の旅行とは、元々フラン・オブライエンの「第三の警官」に出てくるド・セルビイ氏という物理学者兼哲学者にちなむもので、旅に出る振りをして、実際はその期間近くのホテルなどに立てこもり、行き先に予定した場所の絵はがきやガイドブックを読んで過ごして、行ったつもりになる、そういう旅です。
このエッセイでは、本来的には「ド・セルビイ」方式の愛好者であった筆者が、ニューヨークを始め、色々な所に実際に旅した時の経験が語られます。

古今亭志ん朝の「酢豆腐、鰻の幇間」

jpeg000 136今日の落語、志ん朝の「酢豆腐、鰻の幇間」。
「酢豆腐」は三遊亭圓生のでも聴いていて2枚目。「酢豆腐」っていうより前半は「糠味噌」といってもいいかも。圓生も志ん朝も甲乙付けがたい出来です。
「鰻の幇間」は幇間の一八が素人の旦那にまんまとはめられるお噺。幇間の調子の良さを快く思っていない人が作ったお噺かもしれません。

石毛直道の「麺の文化史」

jpeg000 133石毛直道の「麺の文化史」を読了。オリジナルは1991年に出版された「文化麺類学ことはじめ」。
世界各地に伝わる「麺」という食品、食品の中でもっともグローバルな広がりをもつものの、その発祥と世界各地への伝播を、フィールドワークを行い、特に実際にその食品を食べて研究したもので、他に類がない画期的な研究と思います。
「麺」は中国の北部の騎馬民族と接触する地帯で生まれ、それから世界各地へ伝わっていった様子が描かれます。日本へは朝鮮半島経由で伝わったものと、素麺のように中国から直接伝わったものとの2種類があるとしています。
誰もが気になるのが、イタリアのパスタと中国の麺の関係ですが、一般的はマルコ・ポーロが伝えたという俗説があります。筆者はこれに対し、中国→中央アジア→中近東→イタリアという仮説を提示します。ただ起源がよそから来たものであっても、イタリアのパスタはトマトソースとの組み合わせが発明されるなど、独自の発展を遂げています。

三遊亭圓生の「鰍沢、猫怪談、汲みたて」

jpeg000 135本日の落語は、三遊亭圓生師匠の「鰍沢、猫怪談、汲みたて」です。「鰍沢」は先日、NHKの「おはよう日本」で、この落語の舞台になっている山梨県の富士川町が、この落語で町おこしを図っているという報道を見て、興味が出て取り寄せてみたものです。四代目橘家圓喬が得意とした噺で、色々と伝説的な話が残っているみたいです。ただ、実際に聴いてみると大して面白い噺ではなかったです。
「猫怪談」は、与太郎の養父が死んでしまって、お弔いをして死体をお寺に持って行く途中で魔に魅入られて、死体が踊り出すお噺。圓生師匠の与太郎の馬鹿っぷりがいいです。
「汲みたて」は清元の師匠を巡るさや当てのお噺ですが、サゲ(題はサゲから来ています)が汚いのでちょっとマイナス評価です。

池井戸潤の「仇敵」

jpeg000 128池井戸潤の「仇敵」を再読。池井戸潤については、出版されている作品はすべて読んでいると思います。Amazonで久し振りに「池井戸潤」で検索したら、新刊としてこれが出てきたので取り寄せてみたのですが、既に読んだことがあるものでした。
池井戸潤の「銀行もの」としては、典型的な作品と思います。また短編を集めながら話が連続しているという構成は、他にも「シャイロックの子供達」があります。
地方銀行の庶務行員として働く恋窪商太郎は、かつて都市銀行でエリート社員として働いていましたが、ある銀行幹部の陰謀を追及していたところ、逆にその幹部にはめられて都市銀行を退職することになります。その恋窪が、あくまで庶務行員の立場で、地方銀行の若い行員の相談に乗りながら、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)のように、銀行にからむ犯罪を追及していきます。その中にかつて自分を陥れた敵の存在を感知し、復讐のためその悪を追い詰めていく、というストーリーで、池井戸作品らしいカタルシスが結末部にはあります。
なお、この「仇敵」の中の話が、TVの「花咲舞が黙ってない」に使われているとのことです。ちなみに、私は「花咲舞」の直接的な原作になる「不祥事」はあまり評価していません。池井戸潤が描く女性は、男性から見たある種類型的な性格をしていることが多く、あまりうまいとは思えないからです。私が池井戸潤の作品で一番評価しているのは、「空飛ぶタイヤ」と「鉄の骨」です。

古今亭志ん朝の「碁どろ、お若伊之助」

jpeg000 134今日の落語、志ん朝の「碁どろ、お若伊之助」です。
碁どろ、は碁に夢中になっている二人の所に泥棒が入ったが、この泥棒も大変な碁好きで、盗ったばかりの荷物を放り出して、二人の碁を見物して口を出し始める…という噺です。志ん朝はうまいですが、たぶん囲碁は知らないですね。でも、囲碁が出てくる落語は、この「碁どろ」の他に「笠碁」や「柳田格之進」もあります。江戸時代は今よりずっと碁をたしなむ人が多かったということですね。
「お若伊之助」は、志ん朝の録音としては2枚目。前に聴いたのが、2001年4月の録音で亡くなる半年前です。今回の録音は1979年2月のものです。親分が根岸と神田を何度も行ったり来たりするのがおかしい噺です。志ん朝は今度の録音の方が生きが良くて勢いがあります。

小林信彦の「ドリーム・ハウス」

jpeg000 126小林信彦の「ドリーム・ハウス」を再読了。1992年の作品です。ある作家が、死んだ母親が残した土地に新しい家を建てて恋人と住もうとして巻き起こる様々な事件をホラー風に書いた小説です。
小林信彦の作品で、明示的に主人公がちゃんとした作家(放送作家ではなく)というのはこの作品以前では珍しいのではないかと思います。この作家の独白で興味深いのは、モデル無しに人物を造形することが不得意と言っていることで、これは私が小林信彦に対して感じていたことと一致します。小林信彦の小説に出てくる人物は、まったくフィクシャスなものが少なく、どこかにモデルがいるようなものが多いように思います。
この作品については、文芸評論家の福田和也が「52点」という低い点をつけているみたいです。私はそこまでは悪くないんじゃないかと思って読み進めていましたが、唐突な終わり方には疑問を感じました。また、「世界でいちばん熱い島」に続いてまたしてもフェティシズムが取り上げられていますが、「世界でいちばん熱い島」と同じくフェティシズムを素材として使う必然性が感じられません。この「フェティシズム」は主人公の高校の同級生というDDの特性として使われていますが、このDDの性格がいまひとつはっきりしません。にも関わらず、さらにはこのDDの偽物が登場しますが、この偽物の謎については最後まで明らかにされていません。この作品が文芸誌に掲載された後、読者からそれについて質問があったようなのですが、それに対し作者は後書きのようなもので「読者のレベルが低い」のようなことを述べており、傲慢さに鼻白みました。
なお、新築の家で裏庭が大雨で崩れるというのは、小林信彦が葉山の家で実際に経験したことが元になっています。
「東京で家を建てるのにまつわる苦労」を書こうとした着想は評価できても、全体としては求心力に欠けていて、成功した作品とは言い難いと思います。

NHK杯戦囲碁 新垣朱武九段 対 中野寛也九段

jpeg000 1432週間ぶりのNHK杯戦の囲碁です。本日は黒番が新垣朱武九段、白番が中野寛也九段の対局です。左辺で戦いになり、黒は分断されて苦しくなりました。そこからの黒の打ち方が良く、両ノゾキで白を分断し、どさくさに紛れて下辺への利かしも打ちました。結果、黒は左辺で白の三子を取って生き、どさくさに紛れての下辺も結局白が受けている暇がなくて、突き出して大きく取り込んでしまいました。これに対し、白は左上隅から延びた黒石を取り込んだので、一応勝負の形にはなりました。しかしながら黒は各所で地を持って、最終的には100目を越えました。結局、黒の5目半勝ちで終わりました。

フラバァ続編(Son of flubber)

SON-OF-FLUBBERDVDで先日観た「フラバァ」の続編、「Son of flubber」(邦題:フラバァデラックス、1971年の再映時には新フラバー)を視聴。続編に傑作なし、で前作よりはかなり劣りますが、それなりには楽しめました。前作では非常に弾性の強いゴムであるフラバァを発明したレイナード博士ですが、今回は、そのガス版であるフラバァガスを発明します。前作では、フラバァをバスケットシューズの底につけた選手達がバスケットボールの試合でぴょんぴょん跳ねて活躍するのが爆笑シーンでしたが、今回はアメリカンフットボールです。博士はフラバァユニフォームを開発し、選手の一人に着せます。その選手を味方が抱えて放り投げると、その選手は空中を飛んで行き、ゴールまで一直線です。その選手の活躍で1点差まで迫ったのですが、あと少しという所で、ユニフォームのガスが抜けてしまいます。でもその選手はフラバァガスのチューブをもう一本隠し持っていて、それをユニフォームではなく、ボールに注入します。そのボールを蹴って、「98ヤード」のフィールドゴールに成功して、逆転勝ちします。(ちなみにフィールドゴールの実際の最長記録は64ヤードです。)最後の場面で、そのボールが人工衛星の間を飛んでいる様子が描かれます。宮下あきらの漫画で、投げたボールが人工衛星に当たって落ちてくる、というのがありましたが、それに先行するギャグです。