平凡社版完訳四大奇書「西遊記」下巻を読了。この日本語訳の底本になっているのは、康熙33年(1694年)刊行の「西遊真」とのことですが、バランスの良いダイジェスト版であり、しかも分量的には文庫本で4~5冊分ある量であり、一般的には岩波文庫の10巻本まで読まなくても、こちらで十分だと思います。しかも、岩波文庫版と本版の違いは、岩波文庫の方に漢詩とか本筋と関係のない蘊蓄などが追加されているのが主みたいです。
全100回を通して、結局三蔵法師は合計81回もの災難に遭います。9X9というのに意味があるみたいです。よくもまあこれだけ登場させたというぐらい大小の妖怪が登場し、三蔵法師を食べようとしたり、婿にして関係を結ぼうとしたりします。そのかなりの部分が単なる動物が化けたものではなくて、何らかの仏様か道教の道士の元から逃げ出した何かであって、大抵の場合特殊な武器を持っていて、悟空を悩ませます。結局、悟空達が自分達だけで解決できることはほとんどなく、多くの場合仏や道士達の力を借りて妖怪を退治します。そういう戦いを通じて、悟空達も次第に成長していき、始めばらばらだった三蔵法師と三人の弟子と竜が化けた馬のチームのチームワークも良くなっていきます。この辺り、ちょっとビルドゥングスロマンとしても読めます。
実際の玄奘三蔵が持ち帰った経典は675巻らしいですが、西遊記では1万5千巻以上ということに誇張されます。どう考えたってそんな量を馬一頭で持ち帰ることは不可能と思います。また、実際のお経はすべて梵字(サンスクリット語)で書かれていますので、それをいきなり読める訳ではなく中国語への翻訳が必要で、実際に玄奘三蔵はインドから帰った残りの日々をすべて経典の中国語訳に費やします。しかし、結局持ち帰った経典の内1/3だけを翻訳しただけで人生を終えます。
ともかく、この歳になって、子供向け版ではなく、ちゃんとした西遊記をきちんと読めたのは良かったと思います。