モダン日本の昭和16年3月号を入手。これも白井喬二の小説が目当てですが、載っていたのは「玉の輿(侍匣)」で、「侍匣」に収録されていたもので既読でした。
そういう意味で空振りでしたが、ただこのモダン日本を昭和12年のものと比べてみると差は歴然としています。まず紙質が明らかに低下してこちらの方が若いのに色落ちも激しいです。また、昭和12年8月号に水着のグラビアが載っているのに対し、昭和16年3月号は「空ゆく若人 グライダー部隊」という色気も素っ気もない記事が載っています。本文も「ヒットラー総統の私生活」とか「座談会・傷痍軍人が職域より叫ぶ翼賛の声」とかの戦時色丸出しのものがかなりの部分を占めています。モダン日本は戦時中は敵性語である「モダン」を嫌って「新太陽」に名前を変えたみたいですが、いつからかは不明です。
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白井喬二の「昼夜車」(2)
白井喬二の「昼夜車」、モダン日本の昭和12年8月号の回を読了。先日読んだ3月号が第15回でしたから、この月のが第20回にあたります。前号までのあらすじがついているので、大分話の見通しがついてきました。主人公の大瀬影喜は、女性問題で主家を追われていましたが、実はそれは冤罪であるとのことで、再度300石で取り立てるという使者がやってきます。しかし、影喜に許嫁のお美津を取られた松次郎があれこれ言い立てたのと、実際に不義の仲でお美津と同居していることが使者に知られ、使者は一旦引き上げます。そこに、一度影喜を襲って失敗している刺客が、再度影喜を狙ってやってきますが、影喜は逃げ回って相手を疲れさせて撃退してしまいます。その後使者が再びやってきて、500両のお金を差し出して…という所でこの回は終わります。この次の回がたぶん最終回なんですが、どういう決着になるのかまるで見当がつきません。
ちなみにこのモダン日本の昭和12年8月号ですが、80年経過しているのが信じられないくらいの美本で状態が良いです。
山形県鶴岡市/藤沢周平記念館
白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第9回)
「人物往来 歴史読本」の昭和37年2月号を入手。白井喬二の「捕物にっぽん志」の第9回が載っています。この9回は一話完結の話です。これがまた不思議で、いかにも白井喬二らしい極めて怪しげな文献(そんな文献が本当にあるのか不明)に基づいたもので、戦国時代に摂津の人である佐振延吉という武士のなれの果ての人が当時の中国(時代的には明)に渡るのですが、その目的が「中国の遊侠の徒を調べて、その遊侠道を日本に持ち帰る」ということなのが、極めて変わっています。お話はその延吉が明で見聞きした珍しい体験を四話記載したものです。どういう積もりで「にっぽん志」の中にこのような不可思議なお話をはさんだのかがよくわかりませんが、実に白井らしいお話ではあります。
白井喬二の「昼夜車」(1)
白井喬二の「昼夜車」の連載全21回の内の、第15回の分を読了。「モダン日本」に1936年1月-1937年9月の間連載されたものです。掲載誌の「モダン日本」は戦後こそカストリ雑誌に落ちぶれますが、元は文藝春秋から出たれっきとしたもので、1931年に文藝春秋から独立したものです。とはいえ、最初から路線は「エログロナンセンス」だったようです。誌名に「モダン」がつくように、モダニズムの趣味が横溢しており、表紙は洋装の女性です。外国女優のグラビアなどもあります。
「昼夜車」は1/21を読んだだけですので全体像はまるでわかりませんが、主人公の大瀬影喜は昼は勘定寺家という呉服屋に用心棒として勤め、夜は山口同心の見張り役として勤める二重生活でそれがタイトルの元になっています。影喜は腕の立つ無骨な男ですが、女性問題で主家を追われた、と登場人物紹介にはあります。
この年のモダン日本はもう一冊取り寄せ中で、それを読めばもう少し話の内容がわかるかもしれません。
中里介山の「大菩薩峠」第5巻
中里介山の「大菩薩峠」の第5巻を読了。ここまで再読してきて、少し中里介山のストーリーの進め方がわかってきたように思います。それは、これだけの長大な小説でありながら、登場人物があまり増えないということで、その代わり限られた登場人物がまるで順列組み合わせの全てのパターンをたどるかのように、それぞれがある意味ご都合主義の偶然で絡み合うようになり話が進みます。例えば、間の山のお君の愛犬であるムクは、東海道を旅している時に龍之助と同行するようになります。その時はそれだけだったのですが、この巻で笛吹川が氾濫して龍之助が家ごと急流に流されて死にかけた時に、それを助けたのはムクです。後で、龍之助は偶然夜中に駒井能登守の子を宿して気がふれてしまったお君を辻斬りの犠牲にしようとしますが、ムクが立ちはだかってそれを阻止します。さらにはこの巻では米友が吉原にて血を吐いた龍之助を助けて一緒に暮らしたりします。こういった登場人物(登場動物も)の間の不思議な縁の展開がこの小説の眼目のように思います。
この巻ではまた、軽業師だったお角が、安房に渡ろうとして船が難破し、洲崎の浜に半死半生で打ち上げられていたのを、駒井能登守が助けると、これまたご都合主義的偶然で話が展開します。しかし、この安房の国の巻では新たに茂太郎や盲目の法師の弁信が登場します。
これでようやく全体の1/4を読了です。
白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第8回)
中里介山の「大菩薩峠」第4巻
中里介山の「大菩薩峠」第4巻を読了。新しく甲府勤番となった駒井能登守は、馬を買いに馬大尽の許を訪れ、そこでお君を見初めます。お君は病気で江戸に残っている駒井能登守の妻にそっくりでした。お君をもらい受けた駒井能登守は、お君を溺愛します。一方で、牢に入れられていた宇津木兵馬は、同じ牢にいた浪士と共に脱牢します。逃げる場所に困った脱牢組は駒井能登守の屋敷に逃げ込みますが、そこで能登守と対決してみれば、脱牢者の一人と能登守は顔なじみでした。馬大尽の娘で顔にひどい火傷の跡があるお銀は、ふとしたことから神尾主膳の別荘にいた龍之助と知り合います。龍之助が目が見えなくてお銀の顔を見ることがないということにお銀は安心して、二人は男女の仲になります。しかし、その後二人は東山梨の八幡村に逃れますが、そこは龍之助が斬り殺した亡妻のお浜の実家でした。龍之助はお浜への思いから、また辻斬りを始め、お銀も龍之助の冷酷無残な正体を知ります。一方で駒井能登守は、自分の寵愛しているお君が被差別部落の出身であることを、お君が伊勢にいたころを知っていた神尾主膳に曝露され、甲府を去ることになります。
といった感じで、まだまだこの辺りはストーリーに一応の進展がありますので、読み進むのは苦痛ではないです。とはいえまだ全体の1/5を読んだに過ぎません。
中里介山の「大菩薩峠」第3巻
中里介山の「大菩薩峠」第3巻を読了。この巻辺りから、主人公の机龍之助は、甲府で神尾主膳と何故か仲良くなり、その別荘に住み着きますが、夜な夜な辻斬りを行うという修羅の姿として描かれるようになります。何故かしりませんが、段々登場の割合は減っていき、主人公とはいえ影が薄くなっていきます。
一方、龍之助を敵と付け狙う宇津木兵馬は、甲府で神尾主膳の元にいる龍之助を訪ねようとして、裏宿の七兵衛とがんりきの百蔵が、甲府御勤番の金を盗み出したのと同じになり、あろうことかその犯人と間違われて囚われの身になります。
また江戸にいた、米友はお君の行方を求めて甲府にやってきて、物語の舞台が江戸から甲府に移ります。
一方で甲府で、代々の馬長者の娘のお銀が登場しますが、このお銀は姿はお君にそっくりですが、顔にひどい火傷を負っています。
その他、神尾主膳の上役として江戸から駒井能登守が赴任しますが、神尾主膳より年が若く、主膳は面白くなく何かと嫌がらせをしようとします。
中里介山の「大菩薩峠」第2巻
中里介山の「大菩薩峠」第2巻を読了。この巻では宇治山田の米友が登場します。米友は背は子供のようだけど、顔は老人のよう、そうして体は筋骨たくましく、槍の名人というキャラクターで、龍之助とは対照的に天真爛漫で正義感が強い人物で、暗い展開が多いこの小説の中では一種の息抜き的な存在になっています。この巻で米友は無実の罪に問われ死罪で崖から突き落とされますが、道庵先生の手によって治療され奇跡的に助かります。しかし片足を骨折して跛になります。
物語のもう一つの流れとして、兄宇都木文之丞の敵として龍之助を付け狙う宇津木兵馬が、いつ龍之助と対決するかがありますが、作者はこれを徹底的に引っ張ります。確か私が記憶している所では、前回私が読んだ範囲ではまだ敵討ちは実行されなかったように思います。この巻ではまた、悪旗本の神尾主膳が甲府に配流されて、この地でまた悪を行おうとして龍之助と衝突します。
まだ全体の1/10を読んだに過ぎません。先は長いです。