ヤフオクで、「大法輪」をまとめて445冊という信じられない出品があり、25,000円で落札できました。これで今まで読んだ分を合わせて、「天海僧正」を全85回の内70回分、「外伝西遊記」については全35話全部を読むことができます!ただ、段ボール6箱分らしいので、置く場所をどうするかが悩みの種ですが。
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鶴見俊輔の「大衆文学論」
鶴見俊輔の「大衆文学論」を古本で購入。例によって白井喬二の所だけを読みました。読んですぐ「ああ、これはダメだ」と思いました。何かと言うと、白井喬二に関しては「富士に立つ影」しか読んでいなくて、しかもストレートに最初から読んだのではなく、尾崎秀樹が書いた荒筋を読んでから読んだということです。私に言わせれば、白井喬二の作品を一作しか読んでいなくて、「大衆文学論」などと題した本を出さないで欲しいということです。共感できたのはただ一点、「富士に立つ影」が映画よりもTVに向いているという指摘だけです。前から思っていますが、NHKは誰も聞いたことないような女城主の話を大河ドラマにする前に、「富士に立つ影」や「新撰組」を大河ドラマにすることを、プロジェクトチームを作って検討すべきと思います。
白井喬二の作品をかなり読み込んでいるのは、戦前では中谷博がいますが、戦後は誰もいません。特に戦前と戦後の両方の作品をきちんと読んでいる人を今まで一人も見つけられていません。白井喬二の長男でNHKの大河ドラマ「花の生涯」と「赤穂浪士」のプロデューサーであった井上博は、白井作品を全部読んでいたそうですが、既に故人です。
中里介山の「大菩薩峠」第7巻
中里介山の「大菩薩峠」第7巻を読了。駒井能登守の子を宿したお君は、男の子を産み、お松が「登」と名付けます。しかし、お君は産後の肥立ちが悪く亡くなってしまいます。それを知らされた宇治山田の米友と、駒井能登守の両方が悲しみにくれます。一方龍之助は、お若の妹お雪に連れられて、信州の白骨温泉を目指して旅立ちます。
この巻の感想では、この文庫本(ちくま文庫)の注釈について文句を書いておきます。この文庫本では必要な語句に注釈がなく、どうでもいい語句に注釈が付いているのが目立ちます。例えば、この巻の102ページで「鎮西八郎」に注がついていますが、この本を読むくらいの人であれば、「鎮西八郎為朝」のことであることはすぐにわかります。その一方で同じページにある「御厩の喜三太」(おんまやのきさんだ)については何も注釈がありません。少なくとも私は「御厩の喜三太」をWikipediaで調べてみるまでは知りませんでした。(Wikipediaによれば「義経記」に登場する架空の人物で、普段は主人である義経に対面する事もない最も身分の低い下男であったが、源頼朝の命を受けた土佐坊昌俊が京の義経亭を襲撃した際、郎党が出払っていた館に唯一残っており、弓を持って奮戦した、とのことです。)また163ページに出ている茂太郎が歌う外国語混じりの不思議な歌である「宮原節」にも何の注釈もありません。その一方で「大塩平八郎」とか「レーニン」の類いに注が付いているので煩わしく感じます。
白井喬二の生誕128年目
本日は白井喬二の生誕128年目です。白井喬二は1889年の9月1日に横浜で生まれました。
白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」(3)
白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」、また古書店で「大法輪」のバックナンバー15冊を入手し、その分を読みました。連載の、第4、25、30、32、49,52~55、65、71、78~80、82回の分です。
前回まで14回分でしたから、今回のを入れて29回で、全体の35%までになりました。お陰で話が大分つながってきました。前回までは「地味な話」と思っていましたが、今回の分を読んだら、さすがに白井喬二らしい面白さが随所に出てきたように思います。
まずは、天海がまだ随風という名前だったころ、武田信玄の元を訪れて、そこで法話の講師となり、挑戦してくる他の僧の論争をことごとく論破していく様子が実に白井らしいです。
この天海の論争の力がさらに如実に表れるのが、徳川家康が亡くなった時のことで、家康の自身の葬り方についての遺言が三重になって、どのように処理すればいいか大騒ぎとなる中で、天海が政治力と論争力を発揮します。梵舜という、ある意味で天海と政治力を張り合う僧侶が家康から、吉田神道で葬るように仰せつかったと主張します。これに対し、天海は家康が元気な時に、死後は山王一実神道に従って祭るようにと言われたと主張します。家康の直接の葬儀自体は、梵舜の主張を認めて吉田神道によって久能山に葬ったのですが、その後永久に家康を祭るのに対しては、天海が山王一実神道で日光に祭ることを強く主張します。吉田神道で明神として祭るという説の梵舜に対し、豊臣秀吉が死後明神で祭られて、その後その神社が次々と取り壊されたことを挙げて、梵舜に対して豊臣に加担して謀反を起こすのかと脅迫し、結局山王一実神道での日光で祭ることを承知させます。
さらに面白いのは、天海がそもそも仏門に入ったのは、父葦名景光をその家老の峰淵玄蕃が秘かに毒殺し、その敵を討とうとして玄蕃を襲撃するのですが、それが失敗して竜興寺の僧舜幸法印に預けられ、僧侶となったのがきっかけです。連載第52回では、その玄蕃(ずっと獄中にいましたが98歳になってもまだ元気でした)を梵舜が江戸に呼び寄せ、家康の前で天海の父親殺しの話を暴いて、天海を陥れるのに利用しようとします。しかし、その玄蕃はある意味とんでもない人物で、悪の権化として、一切の善を否定し自分の悪行をまったく反省しない、一種の逆の意味の悟りを開いたような人物として描写され、天海と対照の位置に置かされます。
ともかく、白井は、一般的には「黒衣の宰相」と呼ばれているように、三代の徳川将軍の後ろにいて何か陰謀をふるっていたようなイメージのある天海を徹頭徹尾立派な僧侶、立派な人物として描いています。そこが非常に白井らしいです。
白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」(2)
白井喬二の「黒衣宰相 天海僧正」を、「大法輪」連載の10回分読了しました。連載の第42~43、45~47、61~63、73~74回です。先日読んだのが連載第5~8回ですから、これで合計14回分です。全体の連載回数が83回ですから、約17%を読んだことになります。
連載の第42回では、既に天海は徳川家康のブレーンのような存在になっています。天海がどのようにして家康の信用を得るようになったのが興味がある所ですが、そこは判然としません。天海の業績として特筆されるべきなのは、細川藤孝(幽斎)と共に、徳川幕府の政治の根幹を成す、各種の諸法度と呼ばれる法律を整備したことではないかと思います。家康の軍事的な才能はTVの大河ドラマなどでも良く扱われますが、実際は政治的な才能の方が上だと思いますが、その政治的才能は天海や幽斎のような適材に仕事を任せていることにも現れていると思います。
ただ、14回分読んでの率直な感想は、話がかなり地味だということです。白井はこの天海という出生の謎に包まれた人物のかなり地道な評伝に徹しているように思います。ただ、最終的な評価は全83回を通して読まない限り差し控えるべきで、将来リタイアして毎日国会図書館に通って「大法輪」のバックナンバーを読んでいくしかないですね。
白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第22回)
白井喬二の「捕物にっぽん志」の連載第22回を読了。「歴史読本」の昭和38年3月号です。この回1回で完結しているお話で、明治9年に起きた「萩の乱」の首謀者である前原一誠を扱ったものです。まずは白井のお父さんがこの乱の時に官軍の警備隊士であって、前原一誠を捕らえるのに参加していたことが語られます。そして法廷で前原一誠が常に堂々とした態度であった事が語られます。
しかし、反乱の首謀者としての前原一誠ははなはだお粗末としか言いようがなく、身内の部下が木戸孝允のスパイとなって情報が筒抜けになっている事に気がつかず、また神風連の乱や秋月の乱、そして鹿児島の西郷隆盛との連携もうまく行かずあっという間に鎮圧されてしまいます。もっとも前原の先祖は尼子十勇士の一人だということで、父親との関わりもあって白井は同情を込めて描いています。
白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第20回)
白井喬二の「捕物にっぽん志」連載第20回を読了。この話は20回、21回の2回の連載ですが、残念ながら第21回の分は入手できていません。読み始めて、ピストルを持った尊王攘夷の義賊「三日月小僧」というのが出てきて、あれ、と思いました。この「三日月小僧」は確か白井喬二の他の作品で出てきた筈です。と思って調べてみたら、「露を厭う女」でした。例の、横浜岩亀楼の女郎の喜遊(亀遊)が、アメリカ人相手をするように申し含められた時に、「露をだにいとふ大和の女郎花 ふるあめりかに袖はぬらさじ」という歌を残して自害した、という有名な話に基づく小説です。話の内容も「露を厭う女」とほとんど同じで、箕作周庵の娘のお喜佐が、父親の病気による借金のため、横浜岩亀楼の女郎に身を堕とし、そのお喜佐を慕っていた勤王の志士の采女正が何とかお喜佐を救おうとする話です。采女正は身請けする大金を持っていないため、やむを得ず三日月小僧である清次に頼み、清次が旅先で大商人に強盗を働く所で終わっています。何故晩年の白井喬二がまたこの話を題材に取り上げたのか理由はよくわかりませんし、話の進行がほとんど同じで新しさがありません。
白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第16回~18回)
白井喬二の「捕物にっぽん志」第16回~18回は、大岡越前もので、タイトルが「白子屋おくまの巻」となっています。なかなか読み応えがある巻で、まずは四谷の寛全寺の僧柳全は寺にある本堂の奥柱に耳を当てると、不思議な声がするのを知るようになります。ある日、その柱で「油町の方角は」という声を聴きます。その後があるのですが、聴き取ることができません。柳全は大岡越前の部下で檀家である田中兵庫にこの柱の話を伝え、半信半疑の兵庫にも柱の声を体験させます。そして柱のお告げに従って油町をめがけて出かけていき、そこで一夜の宿をある商家に頼んだが断られ、やむを得ずその商家の大八車の下に潜って一夜を明かそうとします。そうすると夜中にその商家に泥棒が入って500両を盗み、なおかつその隣の商家にも押し入って、そこの女中を殺し、金目の物を奪っていきます。この時、たまたま500両を盗まれた商家の娘のお菊の許嫁であった吉三郎がお菊の元に忍んで来ていて、犯人と疑われます。また、柳全自身も犯人の一味だろうという事で、奉行所に引っ張っていかれます。
ここから先が大岡越前の名裁きということになり、500両を欲していたということを手がかりに、白子屋に目をつけます。白子屋の亭主は真面目な働き手でしたが、その女房のお常が浪費家であったため、家運が傾きます。それを補うため、500両の持参金付きで、娘のおくまの入り婿として又七を迎えます。お常は番頭と不義の仲になっており、おくまも淫蕩な母親の影響で外に男がおり、二人にとっては又七が邪魔で仕方がありません。そこで…という展開で、大岡越前守がよく真実を見抜いて吉三郎の冤罪を晴らすというお話です。その話の進行の中で、寛全寺の柱のお告げがまた効果的に使われています。
白井喬二の「捕物にっぽん志」(連載第14回)
「日本の古本屋」とヤフオクで、また昭和37年の「人物往来 歴史読本」を4冊入手。7、9、10、11月号です。白井喬二の「捕物にっぽん志」の連載第14回、16回、17回、18回に当たります。15回が欠けていますが、この14回~18回は大岡越前ものです。14~15回が一つの話で、16~18回がまた一つの話です。で14回は、大岡越前の配下の同心大倉芳輔が、深川の万年町で早駕籠にぶつけられて手を怪我し、そこの近くでたまたま見つけた中島立石に手当をしてもらいます。立石は名医で抜かりなく手当が済みましたが、芳輔は立石が元武士ではないかと疑い質問してみますが、立石は慌ててそれを否定します。帰って上役に報告してみると、それは赤穂浪士の討ち入りの前に、大石内蔵助から預かった金を持ち逃げした小山田庄左衛門ではないか、と言われ、立石を調べるように申しつけられます。芳輔は庄左衛門が大石からもらったという則光の名刀を手がかりに、庄左衛門の妹に偽の使者を送って裏を取ります。やはり立石が庄左衛門ではないかという確信を得て、立石の元を訪れてみたら、立石の家は親子三人が押し込み強盗に皆殺しに会っていた、という意外な展開です。15回が手に入らないのでこの先どうなるのかはわかりません。