囲碁プロ棋士は戦国時代へ

将棋のタイトルは今後ほぼ藤井聡太竜王の1択の時代が続くと思いますが、囲碁は戦国時代になりつつあります。まだ井山裕太4冠王が3大タイトルをがっちり握っている所に、一力遼9段が名人戦であと一歩まで追い詰めながら逆転負けし、今度は1月から始まる棋聖戦でついに井山4冠王を倒すか、という所で何とその一力遼9段を倒す若手が早くも現れました。これは本当に驚きです。

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NHK杯戦囲碁 井山裕太4冠王 対 張栩9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が井山裕太4冠王、白番が張栩9段という豪華対決です。井山4冠王が最初に7大タイトルに挑戦した時の相手が張栩9段で、名人戦でした。この時は張栩9段が挑戦を撥ね除けましたが、翌年リターンマッチで見事に初7大タイトルを奪取しました。それ以来二人の激闘は続いています。対局は左上隅で白がシチョウに抱えていたのを、白がポン抜く手を打たないで右上隅にかかったのを、黒がシチョウアタリで右辺の白に付けて行きました。これに対白は右辺を受けずに、シチョウを抜きました。黒は当然ハネて行き、ここから戦いが始まりました。しかしその後の白の打ち方は大胆で、辺の黒一子をポン抜く代償に、種石の白2子を抜かせました。このワカレはさすがに黒が打ちやすくなったと思います。実際に黒は右辺の白を攻立てて下辺の地を大きくまとめることが出来ました。また右辺上部で黒1子をポン抜いた白も、ポン抜いたといっても単体では活きておらず、結局黒から圧迫されて、右上隅に渡る手を打たされたのはちょっと辛かったように思います。その後白も左上隅の黒に付けて行って、それを捨て石にして左辺を大きくまとめたので、思ったほど差は開いていなかったようです。しかしやはり黒のリードは変わらず、何手か黒が慎重な手を打った結果として、途中AIによる形勢が五分に戻った局面もありましたが、黒が右辺の劫を白に譲っての1目半勝ちでしたので、細かくはなりましたが、黒が終始リードを保って逃げ切った碁でした。

NHK杯戦囲碁 広瀬優一5段 対 呉柏毅5段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が広瀬優一5段、白番が呉柏毅5段の対戦でした。この碁の最初の焦点は左上隅で、黒の小ゲイマガカリに白が一間に挟んだのに、黒はなんと三間トビで、初めて見ました。白はそれに対し隅から上辺に二間に固く開いたのに、黒がその右に付けて行きました。白が跳ねた後、黒は覗いて行き、白がへこんで受けました。その後白は黒の背後に打って黒の切断を狙いました。黒はつながりには行かず、左側を左上隅に働きかけて独立で活きに行きました。その後更につながらず、右下隅を掛けて打ちました。これは白が切断に来た時のシチョウアタリでした。結局その後白は右下隅を連打し、黒が左辺でつながって安定するというワカレになりました。この収支は若干黒が良かったようです。その後左下隅から左辺にかけて黒が白を攻める展開になりましたが、ここで白はほぼ取られかけていた左辺の白一子を動き出しました。この狙いは左上隅の黒を取ってしまうことで、攻め取りながらそれは成功しましたが、その反動として左上隅方面の白がほとんど死んでしまい、AIによる形勢判断も黒の勝率が90%以上になりました。その後下辺での折衝が始まり、ポイントは白が取られている石を上手く活用して損を減らすことが出来る、あるいは振り変われるかという所でしたが、白の策動は成功せず、かろうじて左下隅の黒をなんとか取れましたが、それは劫に勝ってやっと取ったので、手をかけた割りには見合わないものであり、ここで黒の勝勢になりました。その後上辺や右辺、中央での折衝がありましたが、黒が中央にも追加で20目以上の地を付けて、白は地合で追いつけず白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 藤井秀哉8段 対 小池芳弘6段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が藤井秀哉8段、白番が小池芳弘6段の対戦です。序盤は黒がやや実利指向でしたが淡々と進み、局面が動いたのは白が右辺に打ち込み黒が上から詰め、白が右下隅の黒の二間ジマリの間に付けていってからです。ここの折衝で白は下辺の方の2子を捨て、右辺に展開しました。ただ白の右辺の一団はまだ完全に治まっていませんでした。黒は右下隅の厚みを生かして下辺を目一杯広げました。しかし白も右下隅で取られている白2子の利きを頼りに下辺に打ち込みました。ここで黒が左下隅で白が星から両方に小ゲイマで開いている所へ星下に付けていったのがタイミングの良い様子見でした。この黒は部分的には活きていませんでしたが、下辺に黒が来ると渡りを見てサガリが先手になれば活きることが出来ました。下辺で起きた競い合いは、黒が右辺の白と下辺の白を割いて行くことにより、カラミ気味の攻めになり、分断された黒も下辺で活きたので、ここでの収支は黒のリードとなりました。ただ中央で分断された黒と上辺の黒1子を連絡させずに上手くカラミ攻めに持ち込み、上辺を大きくまとめれば白にもチャンスがありました。しかし黒は左上隅で取られかけていた黒2子を活用し、上辺を破ることに成功しました。そうなると白の最後の望みは左辺を大きくまとめることでしたが、これも黒が中央と左上隅から無理せずに寄せて、白にチャンスを与えませんでした。最後右辺の白に1線に置いていって眼を取る手がありましたが黒は決行せずにヨセて左下隅も活き、結局白が投了しました。

NHK杯戦囲碁 大竹優5段 対 林漢傑8段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が大竹優5段、白番が林漢傑8段の対戦です。この碁は激しい戦いは無く、中盤から終盤直前まで互角の形勢が続くというある意味玄人好みの渋い碁でした。まずは右上隅で黒が白の一団を追い立てましたが、白は右上隅の黒にプレッシャーをかけつつ上手く右辺の白に連絡しました。その後白は左上隅の黒に急所のハサミツケを打ちました。黒は左辺の活きを重視し、3子をあっさり捨てました。黒はそれに対して下辺の黒から中央に飛び、左下隅の白にプレッシャーをかけました。しかし黒も上辺から延びる一団に眼が無く、結局白は中央の黒2子を取って左下隅と中央がつながって活きました。黒も上下がつながって安泰になり、やや黒のリードとなりました。黒はしかしその白の連絡の不備を付いて、左辺でケイマ2つの所をハネ出して行きました。しかしここの折衝で分断された白が下方でまず左下隅で先手でハネツギを打ち、その結果下辺の黒地にある程度侵入出来ました。また中央と左辺も何とか連絡し、黒は取られていた2子を生還させましたが、この収支は白の得が大きく白のリードとなりました。それでも黒はそのつながった白の切断との見合いで白3子をもぎ取って中央に地を作りましたが、下辺の損を取り戻すまでには行きませんでした。結局白の2目半勝ちでした。

NHK杯戦囲碁 洪爽義4段 対 大西竜平7段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が洪爽義4段、白番が大西竜平7段の対戦です。布石で左上隅で白が実利、黒が厚みの分かれになりました。しかし黒の厚みはシチョウで白1子を抱えていることによるもので、シチョウアタリからの動き出しを狙われるという借金がありました。これが現実化したのが白が右下隅の黒の一間ジマリの左に付けていったのが、シチョウアタリでした。白が跳ね返したのに黒が当てたのが悪手で、白が継いで黒が下を継いだ後、シチョウが成立しなくなっており、白はすぐに左上隅の動き出しを決行しました。これについて黒は左上隅を受けずに右下隅を連打して白の3子を取り込みましたが、白は左上隅の黒の全てを取り込むという、派手な振り替わりになりました。この結果は明らかに白が良く白の優勢になりました。戦いは次に右辺に移り、右辺の白を黒は攻めましたが、右上隅の黒も眼が無く、白はさして苦労せず右辺で活きました。右上隅の黒は隅の白を劫を絡めながら圧迫しましたが、最終的に白は左辺からの大模様をまとめる手で妥協し、右上隅は黒地になりました。こうなるとほとんど碁盤を2分した100目レベルの巨大な地の対抗になりましたが、AIの形勢判断は常に白の優勢であり、ヨセで白がかなり妥協したり、手入れ不要の所に手を入れたりして堅く打って、結局白の2目半勝ちでした。

NHK杯戦囲碁 横塚力7段 対 張栩9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が横塚力7段、白番が張栩9段の対戦です。両者は先期のNHK杯戦で今年の1月に対戦しており、その時は張栩9段が考慮時間を1回も使わないで勝っています。布石は上辺で白が理想的な構えを取ったのに黒が左上隅で左辺からカカリました。それに対して白は何とツケで、以前はこれは置碁の下手の手でした。しかもそのツケにハネてツケノビ定石になるのではなく、白は上方に伸びて地を取りに行きました。結果として白が厚み、黒が実利という展開でしたが、白は黒がハネてカケついだ所を覗き、その石を引っ張り出す攻めを狙っていました。その攻めを緩和するため黒が中央に飛んだのを白が受けなかったので、黒は上辺に大ゲイマで踏み込みました。これに対し白は強く遮って行きました。この後の折衝で白は上手く黒の連絡の不備を付いて、黒にただつながるだけの手を打たせ、結果的に上辺と左上隅は無事で、黒の左辺からの一団はまだ切断を狙える形で、白が優勢になりました。白はその後左辺の黒への攻めを見ながら左辺と左下隅も地にし、上辺から中央にかけても厚みを築き、容易に負けない形になりました。黒がその上辺から中央に展開した白に迫ったのに白が手を抜いて右下隅に先着したので黒はここの白をイジメに行きましたが、白も問題なく応じて大きな損はなく治まりました。その後左辺で白が3線に這い込んで黒に断点を継がせようとしたのに手を抜いて右下隅を打ったため、若干黒が盛り返しました。しかし白は左辺からの黒の一団を攻め、結局白が切断を決行した結果、切り離された中央の黒は単独で活きなければならなくなりました。しかし黒のシノギに誤算があり、左上隅の黒の活きと見合いにされてじまい、中央の黒が全滅し、黒の投了となりました。張栩9段がまったく危なげなく打ち回し勝利した一局でした。横塚7段のリベンジはなりませんでした。

NHK杯戦囲碁 高尾紳路9段 対 謝依旻7段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が高尾紳路9段、白番が謝依旻7段の対戦です。意外にもこの二人は今回が初手合いです。対局は、黒が厚めに打って模様の碁かと思いきや、左辺で二間にじっくり開いて地でも負けないという体制でした。右辺から右下隅で黒が低い中国流より真ん中の石を一路右下隅に寄せて打っていた(最近の流行)のを、白は堂々と左下隅に一間高ガカリしました。黒がケイマに受けた後、白は小目の黒に付けて行きましたが、黒はハネ出して行きました。白は右辺の黒に横から付けるかと思いましたが、上から付けました。そして結果として黒が隅の白を取って地にし、白は右辺で黒1目をポン抜くという分かれになりました。この結果は若干ですが黒の実利が優るかと思いました。(「ポン抜き30目」という格言がありますが、中央でならその位あるかもしれませんが、辺部ではいいとこ十数目ぐらいかなと思います。黒の右下隅は20目以上で最終的には30目近くになりました。)その後黒が左下隅を付けてハネるという、最近流行の手で治まりに行きました。それに対して白は下辺で黒の断点を覗いて継がせてからケイマし、下辺で居直りました。黒は薄いのを承知でこの下辺の白を攻めました。結果として下辺の白は黒2子を取ってほぼ活きましたが、代償として黒も左下隅の白を封鎖し、中央が黒っぽくなりました。そうなると焦点は黒の中央がどのくらいまとまるかで、白は右辺と上辺から黒地の削減を図り、更に中央で黒の断点を切って行きましたが、結果から見てこれが失着だったようです。白は上辺で白地を作りましたが、黒は中央で白の数子を取り、中央から右辺を大きくまとめました。こうなると白にはこの中央の黒地に対抗出来る地は無く、しばらくヨセを打った後、白の投了となりました。謝さんはNHK杯戦でこれまで羽根直樹9段と2回対戦していますが、2度とも敗れています。平成四天王の壁は厚いようです。これで今期は女流棋士はいなくなりました。

NHK杯戦囲碁 広瀬優一5段 対 村川大介9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が広瀬優一5段、白番が村川大介9段の対戦でした。先週の対局では、「四隅取らせて碁は勝ち」という内容でしたが、何と今週も黒の広瀬5段が2隅で三々に入って四隅を取り、典型的な実利対厚みの展開になりました。白は上辺から左辺にかけて大模様を張りました。黒はそれを承知で中央で押して白の壁を作らせて自分も厚くし、右辺の白に打ち込んで行きました。白は右辺はあまり頑張らず半分くらい捨て気味に打ちました。そこが一段落した後、黒が下辺から延びる白のケイマで飛んでいる所の連絡の不備を利かしに行きました。白はそれを直接受けずに下方の石から下辺にケイマして反発しました。その攻防は白が上手くやってポイントを上げました。しかし左下隅で白から劫にする手が残っていたのですが、白は劫材は有利と見て、すぐに仕掛けました。それで黒の劫材で右辺の白を切り離す手に受けずに劫を解消しました。白は最初に黒が利かしに行った手を無駄にして手入れを省いたので有利と判断したのでしょうが、黒が色々味が悪かった右辺を全部地にしたのも大きく、形勢は互角に戻りました。白はもう少し劫を頑張った方が良かったと思います。後は白が大模様をどれだけまとめられるかが勝負でしたが、白は上手く黒の右辺からの侵入を止めたと思いきや、黒の上辺左の2線の置きが良い手で、左下隅との連絡と、白が右側で抱えている黒の逃げ出しの見合いで白は抵抗出来ず、上辺左が黒地になり、なおかつ先手での白2子取りも打て、黒が勝勢になりました。結局黒の7目半勝ちになり、この碁は四隅を取った方が勝ちになりました。広瀬5段はタイトル経験者に対して見事な勝利で3回戦に進みました。

NHK杯戦囲碁 鈴木歩7段 対 余正麒8段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が鈴木歩7段、白番が余正麒8段の対戦でした。序盤の右下隅の折衝で白が黒1子をシチョウに抱えました。黒はすかさずシチョウアタリで左上隅に付けて行きました。しかし黒は跳ねる場所を誤り、左上隅の地をかすりましたが、白が全体に厚く打ちやすい碁になりました。更に左上隅で白を切った後の打ち方も疑問で、幸便に白に3子にして捨てられ、締め付けられてしまいました。この後の左下隅への下辺からのカカリからの折衝で、黒は結局4隅を取りました。昔の格言では「4隅取られて碁は負け」でしたが、武宮正樹9段の宇宙流が登場してからは、「4隅取らせて碁は勝ち」に変わりました。この碁でも結局その通りになり、黒は左辺の石のシノギが正攻法過ぎて重く、下辺に取り残された1子を活用することも、右辺でシチョウを逃げ出す狙いも左辺への白の攻めで自然に消えてしまったのは黒が辛かったと思います。結局左辺の黒はギリギリ活きましたが、犠牲が大きく、白が下辺から中央に大きな地を作ってリードになりました。更に中央から右辺にかけての石も攻められ、黒にとって辛かったのはこの黒を活きたとしても地合は白が良く、黒の希望の無い碁形となり、黒の投了となりました。