NHK杯戦囲碁 潘善琪8段 対 清成哲也9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が潘善琪8段、白番が清成哲也9段の対戦です。布石で黒が左上隅と左下隅の向かい小目に対して同じように一間に高くかかり、白が両方でツケ引いて、黒が左辺の真ん中に一石二鳥で開いたのに対し、白はその上方の三間の間に積極的に打ち込みました。白黒双方で眼が無い石が2箇所ずつの戦いになりました。白は左辺から上辺に逃げた黒を追い込んで中央を厚くしました。その厚みを活かして右上隅の黒を攻め、黒も白の間を割いて反撃しましたが、白は黒の2子を取り込み、逆に上辺の黒が活きたので種石としての価値が薄くなった中央の白3子を捨てて右辺に模様を築きました。その後黒は下辺で好形を築き、白が右辺で対抗するという流れになりました。その後白が左辺の黒を攻めて形を決めに行った時、黒が当てたのを劫にはじく手段が残りました。しかし白は左辺と左上隅を渡る手を打ちましたが、これはある意味緩着で劫に勝てば渡る必要のなかった所でした。黒は先手を取って他を打った結果、黒のリードとなりました。その後右下隅の劫争いの最中、黒は右辺に進出し、白地を減らしました。しかしその連絡が薄く切断する手があるのを勘違いで無いと思い込んでおり、後で白にその薄身を付かれ右辺の数子を取り込まれて地にされたのは損が大きく、ここで白が優勢になりましたが、形勢の差は微小でした。その後下辺での白からのハネツギに右下隅で1線に飛んで効率的に受けたのは結局疑問手となり、後から白にこの薄みを付かれ中央で上手いヨセを打たれ、これで白のリードがはっきりしました。終わってみれば白の3目半勝ちでした。

NHK杯戦囲碁 藤井秀哉8段 対 王銘エン9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が藤井秀哉8段、白番が王銘エン9段の対戦です。この碁の最初の焦点は左辺、左下隅、下辺の攻防で、黒が左下隅の三々に打ち込んだのが好手で、白は下辺の方を下がって受けましたが、黒が左辺に渡って黒の根拠が強化されて同時に白の根拠が奪われました。その後の展開で黒が一見取られた振りをしている下辺の2子からハネて動き出したのがうるさく、結局黒は下辺に展開し、更にまだ眼が無い白を狙っていました。中央の戦いの結果、黒の右辺の模様が大きくなりましたが、白は右下隅から手を付けて行きました。ここでの戦いは黒が少し緩んだため、隅は黒が取りましたが、白はそれを捨て石に中央に進出し、同時に右辺の黒地を限定して、やや白が盛り返しました。しかしその後黒が左辺の白地を削減に行ったのに、中央の関係で白が左辺を受けられず、黒に左辺を割られ、かつその後上辺にも進出し、取られかけていた黒1子を生還させました。こうなると右辺の黒地が大きく、白の逆転の余地はなく、白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 山城宏9段 対 謝依旻6段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が山城宏9段、白番が謝依旻6段の対戦です。山城9段は参加者中最年長の62歳です。山城9段というと、昔本因坊戦だったかと思いますが、趙治勲名誉名人と7番碁を戦ったことを思い出します。布石ではAIの判定では黒がややリードで、特に右辺に大模様を張りました。白はその黒の模様を早い段階で肩付きなどで消しに行くという選択肢がありましたが、他を打ち、右辺はさらに黒に打たせました。そして右上隅で黒が星から両方に小ゲイマに開いた格好の所に対し、星の右側に付けて行きました。ここだけで活きることは出来ず、捨て石にして上辺か右辺での利きを利用しようという白の作戦でした。結果的にこの作戦が奏功し、3子にして捨てた白石を黒は完全に攻め取りにしなければならなくなり、上辺での利きが有効で、AIの判定は白のリードに変わりました。しかしその後黒は右辺から中央の模様を更に拡げました。ここで白は浅く臨み、軽く消す方針でしたが、黒が中央から上辺にケイマで煽ったのを受けられず中央を飛んだため、黒は上辺に進出して白地を減らすことが出来、また黒が盛り返しました。結局中央の白とその左側の黒がどちらも眼がなく激しい戦いになりました。その戦いの中、白は左辺を2つに割って上下の黒を攻めました。左辺下の黒は比較的簡単に活きましたが、上方の黒が白に包囲されると眼が不確かで、黒は後手で活きに行く手はありましたが、敢えて白との攻め合いの道を選びました。しかし、これはどこかに誤算があったようで、攻め合いは白の方が数手長く、左辺上方の黒が全部取られてしまいました。これで地合は白が大きくリードしました。更に中央は白と黒で活き活きになり、その結果白は右辺の黒模様を大きく消すことが出来ました。黒は最後まで打ち続けましたが、逆転のチャンスは無く、白の11目半勝ちに終りました。

NHK杯戦囲碁 六浦雄太7段 対 依田紀基9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が六浦雄太7段、白番が依田紀基9段の対戦です。まずは右上隅で初めて見た展開になりましたが、黒は時間をほとんど使わず打ち進めたのに対し、白は4回考慮時間を使わされました。その内容は黒が上辺から掛かった白にコスミツケて一間に高く開いたのに、白がすぐに右辺で3線に打った後、黒が手を抜き、白が大ゲイマで滑ったのに黒が外から付けて反発した所から始まりました。結果として黒は右辺の3子を上手く捨てて、逆に上辺の白2子を制しました。黒は2の2の置きが先手で打てるため、白地は大きくありませんでした。AIの形勢判断も黒のリードとなりました。次に戦いは右辺と右下隅になりました。ここの折衝の結果は右辺の白3子が取り込まれて右辺と右下隅が黒地になり、代償で白は下辺を割って下辺左の黒3子を攻める展開になりました。ここでAIは黒の確定地が大きく、黒3子のサバキも難しくないということで、大きく黒のリードとなりました。しかしその後の白の追及も厳しく、形勢はまだ不明でした。しかし白が途中で中途半端に地を確保することに方針を変えたのが疑問で、上辺から下辺まで黒がつながり、不安な石が無くなりました。白はその後、右上隅で狙いのハネだしを決行し、差を詰めましたが盤面で10目以上の黒のリードは変わらず、最後は下辺からの白の生死に関わる劫を仕掛けられ、謝れば活きはありましたが、逆転の余地は無く、黒の中押し勝ちになりました。

NHK杯戦囲碁 谷口徹5段 対 富士田明彦7段


5月2日(日)の(旅行中だったので録画で視聴)NHK杯戦囲碁は。黒番が谷口徹5段、白番が富士田明彦7段の対戦でした。布石で左下隅の白に左辺からかかった黒がコスミツケられて立ち、白が一間に開いて、黒は三間に開けば普通ですが、欲張って(?)左上隅に左辺からかかりました。白は隅を受けずに左辺に打ち込みました。この進行自体は普通なのですが、黒の立った2子が攻められる展開になったのはどうかと思います。また、黒は右上隅で一間に飛んだのを利用して上辺に打ち込みました。白は上から包囲する手を打ったので、ここで黒が素直に渡っておけば普通でした。しかい黒は渡らず左に二間に開きましたが、すかさず白から右上隅にコスミツケを打たれ渡りが無くなりました。こうなると上辺の黒も攻められる石になりました。更に黒は下辺の白模様に深く4線に打ち込みました。白はボウシして攻めましたが、ここは黒がまあ上手く打って、下辺の打ち込んだ石は取られましたが、代償で右辺をかなりまとめることが出来ました。後は左辺から伸びる石と上辺の一団を上手くしのげるか、ですが、これが白から見て典型的なカラミ攻めになり、黒は苦心惨憺しました。中央は放置気味で上辺の一団を逃げ出し、右上隅の白を取ってしまおうと頑張りましたが、白にしのがれ、そうなると中央に取り残された左辺からの一団がほとんど死んでおり、仮に活きたとしても白地が多いということで、黒の投了となりました。谷口5段は初出場でしたが、ちょっと緊張していたのか手が伸びませんでした。

NHK杯戦囲碁 結城聡9段 対 大竹優5段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が結城聡9段、白番が大竹優5段の対戦です。右上隅で白のかかりに黒が上辺で低くはさみ、白が小目の黒にかけて黒が出切るといういきなり激しい戦いになりました。切り結んだ後、黒は上辺のハサミが低かったため、切った石との連絡に一手必要でした。その間に白は右上隅に手を入れて活き、しかし黒は眼が無いため、この別れは中央で黒が白1子をシチョウに抱えて厚いとはいえ、白の成功かと思われました。しかしここで黒が取られている黒の下側で1線に下がったのが好手で、この手ですぐ黒が活きた訳ではありませんが、白が黒の眼を取りに行くとダメが詰まり、右辺に開いた石に付けられて右辺を切り離され、締め付けられてしまいます。なので白が右辺に手を入れ、黒が活きて結果として中央が厚い分、黒のリードとなりました。その後白は上辺の黒の地模様に侵入を図りました。途中黒が妥協して地の確保に走ったので、一応黒地を割った形にはなりましたが、まだ一眼しかなく、攻めを見られていました。その後白は下辺も黒模様の消しに向かい、黒は間を割いて、白の上下の石をカラミ攻めにするという理想的展開になりました。しかし、自分の右下隅からの石と中央の石の連絡の不備を突かれ切断されたのは誤算で、右下隅からの黒が活きる上で下辺の白から1線の下がりまで先手で利かされ、下辺の白が簡単に活き形になったのは誤算でした。こうなると白は上辺からの石をただ活きるだけでなく、上辺で黒の連絡を断ち、また中央で切りを入れるという逆襲に転じました。しかし収束を間違えて継ぐ所を間違えて、中央の白の活き死にが問題になりました。ここで黒は全部の白を取ろうと頑張ったのが敗着で、活かして左辺で得を図れば勝ちでした。しかし取りに行った黒があちこち薄く、逆に白が黒2子を取り込んで活きたので、これで白の勝ちとなりました。大竹5段は初出場で初戦を勝ち取りました。

木谷美春さんの「木谷道場と七十人の子どもたち」

木谷美春さんの「木谷道場と七十人の子どもたち」を読了。筆者は囲碁の故木谷實九段の奥様です。木谷實の内弟子で、木谷道場で育った囲碁棋士を木谷一門と言いますが、私が囲碁を本格的に打つようになった1981年頃、碁界を席捲していたのは藤沢秀行や林海峰を除くとほとんどが木谷一門の棋士でした。思いつくままに挙げると、石田芳夫二十四世本因坊、大竹英雄名誉碁聖、「殺し屋」故加藤正夫名誉王座、趙治勲名誉名人、小林光一名誉棋聖、小林覚9段、武宮正樹9段、故岩田達明9段、故大平修三9段、春山勇9段、上村邦夫9段、小林千寿6段、佐藤昌晴9段、等々、文字通り綺羅星の如く、という形容がピッタリで、後にも先にもこれだけの棋士を輩出した一門はありません。1981年頃のタイトル戦の多くは、木谷一門同士の争いでした。美春さんはその一門の子供達、タイトルにあるように実子7人を入れて70人近くもなる子供達の面倒をみて皆から「お母様」と慕われた方です。元々信州地獄谷温泉の宿屋の出身で、美人姉妹の一人として文士などに知られていたようで、ある時ここを訪れた故木谷實9段が一目惚れして求婚したようです。呉清源と木谷實の二人でいわゆる「新布石」を産み出したのもこの地獄谷温泉で、奥さんの実家ででした。戦後の食糧不足の時代は自ら畑仕事をして食べ物を作り、これだけの数の子供達、中には趙治勲名誉名人のように6歳で韓国から日本にやってきた者や、小林兄弟の末っ子の覚9段のように4歳で入門した人もいます。おそらく非常な苦労があったと思いますが、この本では淡々と描写されて、楽しい思い出だけが語られているように思います。この本を読んだだけで、何だか半目ぐらい囲碁が強くなった気がします。なお、美春さんはこの本の執筆中に亡くなられ、出版をご自分の目で見ることがなかったそうです。合掌。

NHK杯戦囲碁 蘇耀国9段 対 秋山次郎9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が蘇耀国9段、白番が秋山次郎9段の一戦でした。序盤での差し手争いで黒が何手もかけて左上隅の白にプレッシャーを掛け、それに対し白が手を抜いて右下隅から下辺を打つという展開になりました。黒は結局左上隅の白を中央に追い出して攻める展開になりました。そんな中、黒が6の10にふわっと白を包囲した手が好手だったと思います。白はこの手に対し5回連続で考慮時間を使いましたが、隅で活きに行かず、黒の包囲網突破を図り、激しくなりました。黒は白の連絡の不備をとがめ、白にダメを連絡させようとしましたが、白は隅は単独で活き、中央は開き直って逆に左辺の黒を攻める方針でした。しかし黒は左辺で白に1子を噛み取らせて簡単に活かしたのが疑問で、形勢は互角に戻りました。その後黒が左上隅に利かしに行った時、白が上辺左の黒3子を手を抜けば取るぞと利かしに行ったのが問題で、黒は3子を捨てて先手を取り、待望の下辺の飛びに回り、ここで黒が優勢になりました。その後白は色々策動しましたが、左下隅で黒が切りを入れ捨て石にしたのが下辺と左辺の両方で利き、結局活きていた左辺の白が見合いの手を打たれ死んでしまいました。その後白は下辺の一部を破りましたが、盤面で15目以上の差が付いており、白の投了となりました。
ところで、AIによる形勢評価ですが、今は物珍しいので興味本位で有り難がられているのでしょうが、その内反対意見も出て来るのでは、と思います。碁は逆転のゲームであって、形勢が80:20になったから終わりというものでは無いと思います。特にNHK杯戦のような早碁では。

NHK杯戦囲碁 今村俊也9段 対 鈴木歩7段


本日のNHK杯戦囲碁は、黒番が世界一厚い碁の今村俊也9段、白番が鈴木歩7段の対戦です。鈴木7段は旦那さんの林漢傑8段もNHK杯戦に出場しており、夫婦での出場です。
対局は左辺に黒が展開していたのに白が打ち込んでから動き始めました。黒が左上隅で厚みを作って、さらに左辺で一目を噛み取ったのがどうだったか。左辺は確かに安定しましたが、その間に白に2回当たりを打たれて凝り形になったと思います。ここでAIの評価も黒白30:70になりました。その後黒が右辺、白が下辺に展開した後、白は右上隅の星に付けて行き、隅の地を稼ぎました。その代償で右辺の黒模様が立派になりましたが、白は軽くケイマで消しに行きました。黒は受けずに下辺左の白に肩付きしましたが、白は受けず右辺で黒に付けて行きました。ここで黒が割り込んだのがどうだったか、白は1子を捨てて右辺をいい形で割ることが出来ました。この結果、AIの評価は黒が急落し、20%を割りました。しかし今村9段は諦めず、下辺左の肩付きした黒を動きだし、白が途中緩手を打ったこともあって、下辺で居直り、形勢をある程度挽回しました。さらに左下隅から延びる白と左辺の白の分断を図り、これが一時は成功してAIの評価は五分五分に戻りました。しかし下辺で一手かけて引いたのが緩手で、白から8の16の切りという好手を打たれてしまいました。この手に対して黒は受けなければなりませんでしたが、白はこの切りが働いてそのまま左下隅と左辺の白を切り離す手を防いでおり(黒が切りに行くと逆にダメヅマリで取られてしまう)、先手で切り上げ中央に回りました。この結果、AIの評価値もほぼ白勝ちになり、その後右辺から延びる白を狙い続けましたが、右上隅で白から逆襲の出切りを打たれ、白を取りにいった数子が逆に取り込まれて投了となりました。うーん、やっぱり私はAIの形勢判断はあまり見たくないですね。どしてもそれによって先入観を持ってしまいます。

NHK杯戦 孫喆7段 対 西健伸5段、ついでに囲碁フォーカスの新講師


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が孫喆7段、白番が西健伸5段の対戦です。今日から新しい期ですが、今期からAIによる形勢判断が表示されるようになりました。(将棋も同じです。今調べたら山口祐さんという方が開発したAQというAIみたいです。将棋も同じ人のもののようです。)まあ面白いですが、自分なりに形勢を判定してみる楽しみが減るのと、90:10とかの形勢になるとほぼ逆転の可能性がなくなり、興ざめの部分もあります。この碁の焦点は右辺で黒白で2石ずつ4箇所眼が無い石が絡み合うという展開になった局面です。更に白が右上隅の三々に置いていって、更に複雑になりました。その関係で右上隅が手残りでしたが、黒は右上隅と右下隅で大きく地を稼ぎ、右辺でも上手く立ち回って優勢になりました。劣勢の白は左上隅の黒の急所に置いて行き、その利きで左辺の地をまとめ、更に右辺から中央に延びる黒の大石を2つに切断しました。切り離された右側は簡単に活きましたが、左側をしのげるかが勝負になりました。白は右上隅で利かしを打ち、更に左上隅で取られている石を利かしに使って中央を取りに行きました。しかし左上隅で白が黒8子くらいを当たりにした時、黒は手を抜いて中央を補強しました。これが好判断で、白は8子を抜き、更に1手かけて残った左辺の黒も取りましたが、右辺の白が中央の黒が活きると眼が無く、死んでしまいました。この結果は黒のかなりの得であり、以後黒の優勢が覆ることはありませんでした。白は右上隅を活きましたが、右辺の大石を取られた損は大きく、結局黒の12目半勝ちに終わりました。

それからこのNHK杯戦囲碁の前にやっている囲碁フォーカスですが、今期から講師が上野愛咲美女流最強位、進行役が下島陽平8段となっています。女流棋士が講師で男性棋士がアシスタントというのはこれまでと逆で初めてではないかと思います。NHKもなかなかやりますね。またこれまでの講座の多くが布石中心で正直な所一応有段者の私にはあまり面白くなかったのですが、今回の講座は「上野愛咲美のハンマーパンチ」ということで、攻めの講座で、これも楽しみです。