本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が河野臨9段、白番が上野愛咲美女流棋聖の対戦でした。二人は意外にも初対局です。局面が動いたのは右上隅の黒の小ゲイマジマリに白が肩付きして、その後の折衝で黒が右辺に詰めを打ったのに白がすかさず打ち込んでからです。お互いに眼が無い石が2つずつ絡み合う展開になりました。その後白が上辺を大きくまとめ、更に左下隅でも相当の地を稼いだ結果、中央の黒が厚くなり、中央の白7子をしのげるかどうかの勝負になりました。白は左辺になだれ込んで左下隅の白に連絡を図りましたが、途中黒が中央で覗いたのに継げず、黒は白の2/3ぐらいをもぎ取って26目ぐらいの地を作りました。しかしこれでかなり細かく黒がやや優勢かという局面でした。次に下辺で白が右下隅の黒に対して跳ね継いだ後、黒は手を抜いて他を打ちました。ここに白から手があるかが勝負のポイントとなりました。結果として劫になり、白が左辺の黒を殺す劫立てに黒は劫を解消しました。この結果左辺は全部白地に成りましたが、今度は右辺下方から左に延びる白の一団の眼がありませんでした。白はここが劫だと、左辺の取られている黒を復活させる劫立てが黒から多数あるため、無条件活きしかありませんでした。しかし詰碁の多作者である河野9段の応手は的確で白は死に、投了となりました。上野女流棋聖は「ハンマーパンチ」の愛称で知られていますが、本局ではハンマーパンチを振るったのは河野9段の方でした。
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NHK杯戦囲碁 鶴山淳志8段 対 本木克弥8段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が鶴山淳志8段、白番が本木克弥8段の対戦でした。この碁は戦いに次ぐ戦いで見ていて非常に面白い対局でした。左辺でお互いに眼の無い石が2つずつ絡み合う戦いとなりました。そんな中、黒が左下隅で三々に一本打ち込んだのが機敏で、左辺の眼の無い黒の一団について、この打ち込みの効果で、いつでも白を2線で切って活きる保険が付いたのが大きく、中央で強く戦うことが出来ました。その効果もあって、中央を封鎖し左辺の白に活きを強要してリードしました。その後、右上隅のやりとりで白がコスミツケに手を抜いて黒が跳ね出して、ということになりましたが、白は大胆にも右上隅を捨てる作戦に出て、その代償の利きを上手く使って、上辺と左辺の眼の無かった白石同士が黒のタネ石を取ってつながることが出来、白が盛り返しました。その後の進展は一進一退で、細かいヨセ勝負になるかと思いましたが、最後に残った下辺で白が踏み込み、黒も白を遮断して打った結果、お互いに眼が無く、攻め合いになりました。しかし黒の右下隅の石は隅で1線のアテまで利かせている形で弾力性があり、結局2段劫になりました。白は劫を頑張りましたが、さすがに2つの劫を勝つのは難しく、右上隅の白を復活させる劫立てで妥協せざるを得ませんでした。劫に黒が勝って下辺を地にしたのが大きく、黒の中押し勝ちになりました。
NHK杯戦囲碁 六浦雄太6段 対 羽根直樹9段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が六浦雄太6段、白番が羽根直樹9段の対戦です。この二人は同じ中部総本部で、しかも羽根泰正門下の同門対決です。と言っても年齢差が23歳くらいありますから、どちらかと言うと師弟対決に近いです。これまでの対戦成績は2勝2敗の五分だそうです。対局は白が各所で地に辛く打ったので、自然に黒は厚くなり、白の下辺からの一団がどのくらい攻められるかがポイントとなりました。しかし下辺からの白の一団はそれなりに眼はある形でした。そこで白は右上隅の三々に入って地を稼ぎ、黒は代償に厚くなり、上辺に打ち込んで行きました。その後の戦いで白が左辺の黒の一団に対して中央のハネている所を切って行ったのが機敏で、その後左下隅から延びる黒に上手い利かしを打ち、黒が空き三角で受けなくてはならなくなり、白が若干良くなりました。しかし白も左辺の黒を攻めるのに誤算があり、形勢は揺れました。その後中央での戦いで、白は上辺の黒の半分を取る手と左下隅から中央に延びた黒を攻める手を上手く見合いにして、結局上辺の黒を半分もぎ取りました。黒はそれを承知で下辺からの白の一団への攻めに賭けました。白は無事に活きる手順があったと思いますが、秒読みで間違え劫にされてしまいました。黒の右上隅の劫立てに受けられず劫を解消して活きましたが、右上隅の損が大きく、ここで黒のリードとなりました。終わってみれば黒の4目半勝ちで、六浦6段が師匠格の羽根9段に見事恩返しした形になりました。
NHK杯戦囲碁 瀬戸大樹8段 対 山下敬吾9段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が瀬戸大樹8段、白番が山下敬吾9段の対戦です。瀬戸8段はこれまで6戦して山下9段に勝っておらず、苦手のようです。先期山下9段は初手天元、5の5など意欲的な布石でベスト4まで行きましたが、今回はタスキの星から天元と、また面白い布石でした。この布石のポイントですが、天元の石がどのくらい働くかですが、結果的に攻めと守りの両方に十分働き、成功でした。この碁の最初のポイントは左下隅から左辺にかけての折衝で、黒が上手く左下隅に入りこんで、なおかつ左辺の黒地も値切ることに成功したので、ここで白のリードとなりました。しかし勝負を決定付けたポイントは右上隅でのお互いに眼の無い石の競い合いでした。しかし白は天元の石の働きもあって右上隅からの白の眼の無い一団が黒2子を取って治まり、逆に黒の右上隅からの一団が眼が無く追い立てられ、右辺と右下隅に白地を作りながら攻められたのが黒の敗因でした。結果として盤面で持碁の白の6目半勝ちでした。山下9段の意欲的な布石が成功した一局でした。対して瀬戸8段はちょっと打ち方が固すぎて効率として白に遅れたという感じでした。
NHK杯戦囲碁 清成哲也9段 対 富士田明彦7段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が清成哲也9段、白番が富士田明彦7段という、ベテラン対若手の対戦です。序盤で右下隅で黒が右辺からかかった石を挟まれたのに、黒は挟み返しました。そしてかかった石のサバキで、隅の白に付けていって跳ねてという常套手段ですが、白の切りに当然継ぐのかと思ったら何といきなり劫に受けました。普通序盤に劫立ては無いのですが、この場合左上隅に付けていくのが有効な劫立てで白が受けたので、黒は劫を取り返して右上隅の白の劫立てに受けずに劫を解消しました。これは黒が一本取って、AIの判定も黒優勢になりました。白の劫立ての右上隅で攻防が始まりましたが、黒が右辺で跳ねて、右辺の黒に連絡したのに対し、白は上辺でハネました。その後黒が頑張ってので、白は取られていた石を担ぎ出し、結果として黒は絞られて団子になり、白は断点は残るもののかなり中央方面が厚くなりました。これで形勢はまた互角に戻りました。それから黒は左上隅を動き出しました。ここで白は黒に2箇所断点がある所を外を切りました。この場合切った方を取れ、で白1子は取れましたが、隅の黒2子は取られました。なおかつ白1子を取った黒がまだ活きておらず、かつ回りの白が厚いので、黒は上手く活きなければいけませんでした。しかし黒は手を抜いて白に封鎖させてから活きにいき、それほど屈辱的ではない延びで活きることが出来たため、このあたりは互角の形勢が続きました。形勢が動いたのは、左下隅で白が隅にケイマにすべって根拠を得に行ったのに、黒が2線に付けて行った所でした。お互いが切り合った形で、黒は左辺を活きる必要があり、結局左下隅の黒が眼が無く追い立てられる形になりました。白はこの黒を攻めつつ中央を厚くして行きました。それに対して黒も上手く右辺から中央に進出しましたが、取られかけていた下辺の白石が復活することになり、左下隅からの石がまた狙われる形になりました。このままこの石の活きを図りつつ、かつ中央の白地を削減するというのは困難で、結局ここで黒の投了となりました。
NHK杯戦囲碁 蘇耀国9段 対 井山裕太三冠
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が蘇耀国9段、白番が井山裕太三冠の対戦でした。右上隅で白が黒の星の構えに三々に入っていた所に、後に黒が左辺の白の攻めをにらんで、隅をはねてからツケコシて行きました。ここで井山三冠が途中で切りを入れました。この切った石をシチョウに取る狙いで、黒が白の左下隅の大ゲイマジマリに付けて行きました。黒は左下隅で捨て石を使って締め付けないし利かしを狙いました。しかしそれにこだわって左下隅の白に置きを打ったのが打ち過ぎでした。すかさず白が左辺でハサミツケて眼を作るかあるいは左上隅に連絡を図りました。結果的に黒の置きは一手損の持ち込みとなり、形勢は白のリードとなりました。但し、左辺で劫になったのを白が争わず固く打ったため、黒はその間に左辺の厚みを活かして左上隅から中央に延びる白を切断し、白数子を取り込んで戦果を上げ挽回しました。次に焦点は上辺と右上隅になりました。右上隅の黒が白に包囲され、活きるだけだったら簡単でしたが、黒は隅の劫を頼りに中央を強化して打ちました。ここで井山三冠が右辺の黒に割り込んだのが劫材を作る好手で(解説の山下敬吾9段はその意味を理解していませんでした)、この準備の後、黒を取り掛けに行って劫になり、黒は劫材が足らず、右上隅を取られてしまいました。この後ヨセが続きましたが、結局白の中押し勝ちとなりました。
NHK杯戦囲碁 呉柏毅5段 対 芝野虎丸王座
本日のNHK杯戦囲碁は、黒番が呉柏毅5段、白番が芝野虎丸王座戦の対戦です。二人は共に洪道場出身です。現在の地位は芝野王座戦の方が上回っていますが、呉5段もこれからの追い上げが期待されます。
対局は下辺の戦いで白が黒に対して厳しい手を打ったのに対し、黒は直接動いてもうまくいかないとして、一転して上辺で右上隅へかかりっぱなしの白を攻めに行きました。白は隅に潜り込んで活き、なおかつ黒の包囲網を切る狙いが残りました。その狙いをにらみながら白は右辺に打ち込みました。ここからの黒の打ち方が、強気の連続で、ほぼ最強手と思われる手を打ち続けました。その勢いに負けじと白も目一杯打って、本来なら断点を継ぐ所を敢えて2線に飛び込み、右上隅の黒を攻めようとしましたが、自分の方も2つに切断されてしまいました。ここからはギリギリの激しい攻防が続きましたが、結果だけを言えば右上隅を取りに行った筈の右辺の白は攻め取りと劫残りとは言え逆に取られてしまい、更には中央でも白の一団が取られてしまい、黒の強気の作戦が成功した形になりました。白も上辺や左辺をまとめて地で対抗しようとしましたが、さすがに取られた石が多すぎ、結局ヨセの途中で白の投了となりました。呉柏毅5段は一回戦でも志田達哉8段を撃破しており、今大会のダークホースになりつつあります。対して芝野虎丸王座はちょっと手の伸びを欠いた、らしくない打ちぶりでした。
NHK杯戦囲碁 許家元十段 対 孫喆7段
本日のNHK杯戦囲碁(オリンピックによる深夜放送がやっと終ったと思ったら今度は高校野球で1時間遅れの放送)は、黒番が許家元十段、白番が孫喆7段の対戦です。最初の戦いは下辺~右下隅~右辺で始まりました。黒が右下隅に右辺からかかった石をそのままにしていたのを白が右辺ではさみましたが、黒はすぐそれに応対せず下辺に打ち込みました。黒はそちらを数手打った後右辺に戻り忙しく打ちました。その後下辺でまた白に付け、白のハネにじっと延び、白が這い込んで黒が曲がった所で白は右下隅に戻って黒を切って両アタリにしました。その後黒は右辺もまた担ぎ出し結局下辺の石と右辺がつながりました。この辺りの打ち回しは元々白が強いところだった所だということを考えるとやや黒が上手く打ち回したようで、AIの形勢判定でも黒リードとなりました。その後中央でお互いに眼が無い石がからみあった局面で白は黒を封鎖したのに黒が切って白1子を取って中央に顔を出しました。しかし白1子を取った所は欠け眼にされたので、まだ黒は活きていませんでした。黒が左辺方面に脱出した後、白は中央の黒1子をゲタで取っておけば固かったですが、左辺での逃げ出しを優先しました。すかさず黒がその1子からコスミました。ここで白はそのコスんだ黒の上に付ければ、種石の1子を取ることは出来ましたが、黒から絞られます。それを嫌って付けを打たず左側の一団を逃げる手を打ちました。黒はそこでコスんだ石から飛んで堂々と逃げ出しました。その後の展開は、白が右側の大石を攻められ逆襲で右辺に打ち込んで黒の石を攻め、攻め合い含みになりました。しかし結局白は右側の白を活きる手を打ち、右辺の黒は右上隅に連絡して生還しました。その後白は中央の黒を攻めたり色々しましたが、結局は右上隅に侵入した白が全滅してしまい、黒の中押し勝ちとなりました。十分に考える時間があれば結果は違ったかもしれませんが、許十段の決断の早さと読みが優りました。
NHK杯戦囲碁 一力遼碁聖・天元 対 佐田篤史7段
本日の(深夜2:15より放送)NHK杯戦囲碁は、黒番が一力遼碁聖・天元、白番が佐田篤史7段の対戦でした。この碁での最初の焦点は左下隅で、白の星に黒が三々に入ってからの大変化でした。黒が2本這って白がケイマしたのに黒が付けて白が押さえて、という変化で隅の黒と白の両方に眼が無く、結局黒の先手セキという別れになりました。これは既に定石化された手順とのことで二人とも時間を使わないで打ち進めました。しかし、あらかじめ調べていないでこれをすらすら打てる人はアマチュアにはまずいないと思います。いきなりの三々入りが元々昔はなかったので、この定石(?)も当然ありません。昔はプロはこのような大型定石は盤面のかなりの部分が形が決まってしまうので嫌って避ける人が多かったのですが、まあ時代の変化ですね。この別れは既にAIで互角とされているものであるため、当然AIによる形勢判定も五分でした。ちなみに一力碁聖・天元は最初の頃はダイレクト三々は打ちませんでした。しかしその後かなり研究したようで今はダイレクト三々の本まで出しています。
次の局面で焦点になったのは、黒が右下隅から下辺にかけて潜航艇のように低く打ち込んでからで、黒はただ中央に逃げていくだけの手を打たず、ここで治まるような打ち方をしました。この部分が一段落して次に黒は上辺の白の間が開いている中に打ち込んでいきました。白が当然包囲してきたのに黒は最強の手を打ち続け、最終的に活き形を得ました。しかし黒は後手で活きに行かず、右側の白を切って行きました。この積極策が劫を奏し、白は分断された左側を活きに行かなければならなくなり、結局上辺で黒が覗いたのに白は継ぐと全体を攻められてもたないため、妥協した手を打ち、黒は後手で活きるのではなく、白の種石を取ってつながる、という大きな戦果を挙げました。ここでAIの判定も黒の勝率が80%以上になり、白は打ち続けたものの、地合の差が大きく、黒の中押し勝ちになりました。
NHK杯戦囲碁 安達利昌7段 対 洪爽義4段
本日の(オリンピック中継のために、またも月曜日の早朝2:15からの放送)NHK杯戦囲碁は、黒番が安達利昌7段、白番が洪爽義4段の対戦でした。布石は黒が地を稼ぎ、白が厚みを築いて中央に模様を張るという展開になりました。この中央の白模様を黒が消しに行った以降がこの碁の最初の焦点でした。黒は白模様の中で堂々と居直りました。さらに下辺で白から当てられていた所を継ぎ、この結果白には断点が2つ出来ました。この断点は左側を守っていれば、右側は切られてもゲタで取れるので本来は問題なかった筈です。しかし白は左側を掛け継ぐのを一種の利かしと捉えて、継がずに中央で黒一子をアタリにしました。しかしこの手が疑問ですかさず黒は白を切って行きました。この瞬間AIの判定がそれまで白有利から一気に黒有利に変わりました。黒は下辺左でほとんど取られかけていた2子も動き出し、この結果下辺の白は3つに分断されました。しかし白は中央の黒を攻めることで、自分の方を守る代りにしようとしました。結果、中央で大きな劫が発生しました。白の劫取りに黒は下辺で劫立てし、白が受けずに中央を制し、黒は代償として下辺の白を取りました。結果として派手な振り替わりになりましたが、下辺右側の石も弱いまま残ったので、この時点で黒が優勢になりました。しかし黒はその下辺右側の石を攻めようと追いかけ回しましたが失敗し、その間に地を損して形勢は非常に微細になりました。そして黒がヨセで両先手の箇所を打ち損ねたりした関係で、はっきり白の優勢になりました。最後右辺で黒は劫でねばろうとしましたが、黒が左辺で取られていた石を活きようとした手が無効で、白に劫を解消されて、黒の投了となりました。