NHK杯戦囲碁 一力遼2冠 対 余正麒8段 (決勝戦)


本日のNHK杯戦囲碁は、いよいよ決勝戦で、黒番が一力遼2冠、白番が余正麒8段の対戦です。一力遼2冠が先番ですが、この二人の対戦成績では、一力遼2冠が黒番の時は一力2冠より見て5勝0敗なんだそうです。余8段が決勝戦という舞台で雪辱を果たせるかという所です。ちなみに一力2冠は、今回がNHK杯戦7度目の出場で、その内5回決勝に進出、そして1回優勝、3回準優勝ですが、今回2回目の優勝なるか、という所です。一力2冠のNHK杯戦での勝率は実に8割2分だそうで、すごいですね。
さて、黒の布石は高い中国流で、懐かしい感じがしました。昔、第2期棋聖戦で加藤正夫さんと藤沢秀行さんが死闘を演じましたが、双方とも黒番を持つと中国流(高いのと低いのと両方)を採用し、中国流シリーズとも言われたのを思い出します。AIが中国流対策を打ち出してそれが有効だったので打つ人がいなくなっていたのを、解説の芝野虎丸十段が王座戦で使って以来、また打つ人が増えたということです。その後の碁の内容ですが、相手が利かしに行ったのを受けずに反発し、それで形勢が動くというのが2回ありました。まずは右下隅で白がいきなり黒の小目の上に付けていってからが激しくなり、結局黒は白4子を取ることになり、白は下辺で展開したのと、取られた4子の利きを後で利用するという分かれになりました。しばらく後に白がこの取られている4子の上にハサミツケを決行しました。ここの折衝の時に、黒が出切られるのを防ぐために下辺の白に利かしに行ったのに白が受けず中央を打ち、黒は右下隅4子に加えて下辺の白4子も取り、黒はここで大きな実利を確保しました。その代り白は中央が厚くなりました。その後、下辺の黒が攻められる展開になった時、白が下辺の白4子を復活させるぞという利かし(というより時間つなぎ)を打った時、黒は手を抜いて中央を打ち、また白の種石3子を取りました。白は当然下辺4子を復活させたので、黒の地は減り、全体で白が打ちやすい碁になりました。その碁黒は形勢不利を意識して一杯の手を打ち続けました。そして中央の白を攻めて白に活きられた後に、上辺の白に仕掛けて行きました。この仕掛けが機敏で、黒は白の3子を取って白地の中に居座るという大きな戦果を挙げ、これで形勢がまた逆転し黒のリードとなりました。といっても差は大きくなくヨセ勝負が続きましたが、結局差は縮まらず白の投了となりました。一力遼2冠は2度目のNHK杯戦優勝です。まあ今一番勢いがある棋士であるので納得の結果です。一力遼2冠には今年是非井山裕太大3冠のその大3冠の一角を崩して欲しいです。

NHK杯戦囲碁 村川大介9段 対 余正麒8段


本日のNHK杯戦の囲碁は準決勝の第2局で、黒番が村川大介9段、白番が余正麒8段の対戦でした。この碁の戦いは右上隅で白が黒の二間高ジマリの左側の石の左側に付けていった時から始まりました。星の石の左側に付けていくのは良く見ますが、左側の石に付けたのは初めて見ました。しかし両者この形は研究済みなのか時間を使わず手が進行しました。しかし途中白が取られかけていた2子を引っ張り出した辺りから難解な戦いになり、両者の考慮時間も何度か使われて行きました。結果的に白は黒の種石4子を取り込み、黒は中央で白2子をポン抜いて中央に壁が出来ました。ここだけ見れば互角の別れでしたが、元々黒の強い所で白が捌きに行っていたのを考えると白の成功でした。黒としては右辺の白を攻めつつ、どのくらい中央に地が付くかが勝負のポイントでした。しかし黒は目一杯打って中央に40目レベルの地を付けましたが、その間に白も各所で地を増やしており、逆転には至らず、白の中押し勝ちになりました。余8段は初の決勝進出です。

NHK杯戦囲碁 六浦雄太7段 対 一力遼2冠(天元・碁聖)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が六浦雄太7段、白番が一力遼2冠の対戦でした。この碁の焦点は右辺で、黒が頑張り過ぎて、ケイマを分断され右辺と中央と別々にしのがなければならなくなったのが疑問で、全体に白が厚い中で以後黒は中央を攻められ続けました。黒も反撃を狙いつつ凌ぎ、白に決定打は与えなかったものの、それでも右上隅が元々黒の二間ジマリだったのが白地に転じ、上辺から左上隅にかけても大きな白地が見込めそうになりました。上辺の折衝で白が置いていって先手で切り上げ右上隅の大きな押さえに回ろうとしましたが、黒が逆に置き返したのが好手で差が縮まりました。また下辺左方でも、ケイマのすべりで白地を削減し、更に中に付けていったのがまた好手で、白は全体の眼の心配をする必要があり、黒がまた先手でヨセました。しかし、終始攻勢にあった白の寄り付きは大きく、最後は黒の投了となりました。これでベスト4が揃いました。来週は今日勝った一力遼2冠と今期ユニークな布石で勝利を重ねている山下敬吾9段との準決勝で楽しみです。

NHK杯戦囲碁 井山裕太大3冠 対 余正麒8段


本日のNHK杯戦囲碁は、黒番が井山裕太大3冠、白番が余正麒8段の対戦でした。この碁の焦点は、左上隅から上辺にかけてお互いが競い合いになり、戦いが中央にまで拡大しました。特に中央で黒が跳ねた所を白が切っていって戦線が拡大しました。解説の趙治勲名誉名人によると、黒は右上隅で白の肩付きした所にしたから跳ねていくことによりこの切りを促し、その心は切られた黒石を逃げていくことで自然に左辺の白模様を消す、という高度な戦術でした。しかし黒が中央で白に付けていった所からお互いにダメが詰まった石がもつれあった戦いになり、結局は上辺から中央に延びていた白6子が黒に取られ、白はその代償で中央で2箇所ポンヌキをすることが出来るという振り替わりになりました。しかし白のポンヌキが実現している訳ではなく、黒からは延びを狙ったり、利かしに使うことが出来るため、この別れは黒が優りました。また黒が上辺中央の白を取ったため、右上隅で白が肩付きした石から展開して来た一団が攻められることになりました。しかし黒は優勢を意識して白を活かして打ちました。また下辺から左辺にかけても、黒は白模様に踏み込むことはせずに下辺を盛り上げることで満足しました。このまま終れば黒の名局でしたが、右辺で波乱が起こり、先ほどの攻められていた白石が何と右辺の黒を取ってしまいました。この代償で黒は下辺を盛り上げることが出来ましたが、実利の損が大きくここで形勢不明になりました。その後左辺のヨセで黒が自分の連絡に不備があるのをうっかりしており、後手で守ることになったため、白が先手で大きなヨセに回り、ここで逆転しました。結果として白の1目半勝ちで、余8段は苦手の相手の井山大3冠から貴重な1勝をもぎ取り準決勝に進出しました。

NHK杯戦囲碁 張栩9段 対 村川大介9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が張栩9段、白番が村川大介9段の対戦でした。本局はプロらしい変化に継ぐ変化の連続で面白い碁でした。まずは右上隅で白が上辺からかかったのに黒が挟み、白が両ガカリしてという展開でしたが、白は黒に上辺側の石に付けられたのに手を抜いて右辺に足早に展開しました。黒は右辺の白に右下隅からじっと迫ったので、白は右上隅に手を戻し隅を地にしました。その後白は上辺も地模様にしたので、黒は左上隅でかかって挟まれて一間に飛んで白からケイマに煽られていた所を5線を押して厚みを築きました。黒はその厚みをバックに右辺の白に肩付きし、攻めました。白は強くは戦わず、4子を捨てて打ちました。しかしその後、白は右上隅を2線に下がり、更に右辺の下方でほとんど取られていた石から下がり、取られた石の活用を図りました。しかし黒は利かされと考え右辺を受けず、上辺で当たりにし、白1子をポン抜きました。この結果取られていた白が復活し、逆に黒8子がまだ攻め取りの可能性を残しながらも取られてしまいました。しかし同時に上辺の白地が消え、また左上隅の白がいじめられセキ活きで地0目になったので形勢は互角でした。その後白は右下隅に手を付けましたが、劫にする手がありましたがそうせず、結局隅を捨てて下辺に展開しました。これで勝負は黒の左辺と白の下辺の大きさ勝負になりましたが、白は囲い合いではなく左辺の消しに回りました。その後黒が左下隅に打ち込み、下辺左方で抱えられている1子の下がりを狙いました。ここの折衝で白は中央が薄いのを補強せずに下辺で地を確保しました。黒は左辺の白と右下隅からの白のどちらかを取るぐらいでないと地合では厳しくなりましたが、黒にも薄みがあり、妥協して白を活かしてしまい、戦果としては左辺の白数子ぐらいでした。そこで左下隅の黒を再度動き出しましたが、白は無理せず黒を活かして打つ方針でした。ところが黒にオオポカが出て、手順を間違え、活きていた石が死んでしまいました。これで白の大きなリードとなり、結局白の9目半勝ちとなりました。

NHK杯戦囲碁 山下敬吾9段 対 高尾紳路9段


本日のNHK杯戦の囲碁は準々決勝の第1局で、黒番が山下敬吾9段、白番が高尾紳路9段の平成四天王同士の対戦です。この二人はなぜかNHK杯での優勝がなく、今期はどちらも今度こそ、という気持ちではないかと思います。布石は山下9段がまた見せてくれて、初手が5の5、3手目が右下隅大高目という新鮮な構えです。白は右上隅の5の5の構えに右辺から臨み、黒の右辺の構えが大きくなるのを牽制しました。しかし黒は右辺で上から白を圧迫しました。白は中央に顔を出しましたが、右辺で黒から出切る手が残り、黒はすぐに決行し、白2子を取って右上隅の一団が安定しました。白は黒1子を抜きましたがまだ一眼で黒から攻めを見られてました。その攻めを防ぐ意味で白は右辺の黒の開きに打ち込みました。これに対して黒は白の渡りを遮り最強の手を打って来ました。白は直接戦うのは不利と見て、右下隅に置いて行きました。白が右下隅から出切って行った時、黒は切った石を当てましたが、実は黒は白のシチョウが成立しているのを見落としていました。しかし白はシチョウに抱えるのは黒から左上隅にシチョウアタリを打たれて良くないと考えたようで、隅で延びました。結局右下隅は黒が白の4子を取って20目ぐらいの地を作り、代償で白は右辺を渡って黒地を減らし、また下辺で黒を圧迫しました。この分かれは、元々大高目で地がつきにくかった右下隅で黒が実利を稼ぎ、更に右辺と下辺で白の眼の無い石が残り、黒の有望な局面になりました。この後、黒は当然2つの弱石のカラミ攻めを狙い、白がしのぎながら逆襲を狙うという展開になりました。一時は白が左辺の黒を切り離して攻め、形勢不明になりかけましたが、左上隅の三々に黒が打ち込んだ石を巡って、結局劫になりました。この劫立てで黒が右上隅に打ったのに白は受けずに劫を解消しましたが、右上隅から黒に上辺にケイマにすべられ、また左上隅も黒が一部活きて、これで黒の優勢がはっきりしました。結局黒の中押し勝ちになりました。山下9段は斬新な布石で3連勝であり、自信を深めたのではないかと思います。

NHK杯戦囲碁 高尾紳路9段 対 瀬戸大樹8段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が高尾紳路9段、白番が瀬戸大樹8段の対戦です。四隅が対抗の星打ちで始まりましたが、右上隅で白が三々に入った後の変化が珍しく、黒が右辺で白を突き抜いて好形になり、白は黒の1子を切って取った後に上辺に延びて、自然と黒の右辺、白の上辺という模様の張り合いになりました。その模様の接点で黒がハネたのをすかさず白は切り、黒もまた切り返し、戦いが始まりました。しかし白は結局3子を捨て、その代償に上辺と左上隅の模様を拡げました。黒はすかさず左上隅に付けて行きました。しかしその後の折衝で黒は連絡を断つのと左辺の断点を切るのとの見合いの手を白に打たれ、黒は左辺を優先して継ぎ、最初に付けた所の黒3子は取られました。しかし黒はそこからが上手く、取られた石を使って中央を補強し、その後中央の白について出切りを敢行し、中央の白を切り離しました。白は右辺を荒らしたい所でしたが、中央をまず逃げる必要がありました。中央を逃げた後、待望の右辺打ち込みに回りましたが、右下隅をある程度荒らしましたが、黒が右辺を大きく地にし、黒が優勢になりました。その後、また中央の白が攻められ、白は左辺の黒を攻めて逆襲しようとしましたが、黒に逆襲されて中央のタネ石を取り込まれてしまいました。こうなると中央の黒地も大きくなり、また弱い石が無くなりました。白は中央の石の尻尾の部分を下辺になだれ込んで活きましたが、代償に中央と連絡した左下隅の白の一段を攻められ、ほとんど眼2つにされたのは辛かったです。既に地合は大差で黒が良く、右下隅の折衝で若干白が得をしましたが、黒が堅実に打った結果であり、この後白は投了しました。これで3回戦が終了し、来週から準々決勝です。

NHK杯戦囲碁 横塚力7段 対 張栩9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が横塚力7段、白番が張栩9段の対戦です。右上隅で白が上辺からかかったのに黒は手を抜いて左上隅のダイレクト三々、白はそれで出来た厚みをバックに右上隅の星の黒に両ガカリし、その後白は上辺も右辺も両方打った感じで、黒は代償で中央を厚くしましたが、やや黒が甘い感じでした。黒はその実利の損を取り戻そうと右辺の白に迫りました。そのすぐ後白が右下隅の黒の二間ジマリに対して星に付けていって策動しました。その折衝の途中で白は上辺を包囲している黒の断点を覗きましたがこれは左下隅の攻防でのシチョウアタリでした。黒は継がずに右下隅を打ちました。この後の白の打ち回しが巧妙で、まずは右下隅で損を減らすための利かす手を打ってから上辺での切りに回りました。その後白が右下隅で更に利かしを打った時、黒が白5子を取る受け方が問題で受けた後に更に当てを利かされ、白はその後下辺で2線に付けて渡ることが出来、黒は白の下辺と左下隅の連絡は妨げましたが、下辺の白が地を持って活き、ここではっきり白が優勢になりました。その後黒は中央に大きく地をまとめましたが、序盤の損が大きく、白の数目のリードを縮めることは出来ず、コヨセの段階で黒の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 許家元8段 対 余正麒8段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が許家元8段、白番が余正麒8段の対戦です。この二人の戦績は許8段から見て8勝2敗と許8段が大きく勝ちこしています。しかし先期のNHK杯戦でも3回戦でこの二人が対戦し、余8段が勝っています。この碁の最初の焦点は右上隅で、黒の小ゲイマジマリに白が肩付きしたのに黒が手を抜いて左上隅の三々に入りという面白い変化になりました。白が右上隅の黒を包囲気味に付けていった時に、黒はハサミツケで応えました。白は普通上に延びるのですが、下からハネたのが白の工夫で、黒は白が1子抜いた後に当てましたが、白は切って劫にしました。劫材は白には左上隅と右下隅にいくつかあり、黒はありませんでした。なので白が右下隅に劫立てしたのに黒は受けず劫を解消しました。代償で白は右下隅で黒のケイマを突き破りました。この別れは白が良く、しかも右上隅にはまだ手が残っていて、白は上辺の白が攻められた時に1線で渡って当てるという手をすぐ決行しました。結局右上隅の白と上辺の白が連絡しました。ただこの白には隅で後手1眼しかなく、黒はこの白への攻めにかけました。その後左上隅の白3子もカラミで攻められる形になり、黒にもチャンスが回って来ました。しかし白が上辺の黒の構えに置いていったのを黒は強く突き当たって受け、左上隅との連絡をさせないようにしました。しかし結果から見てこれが打ち過ぎで、白が準備した後この置いた石を動き出し、上辺で大きな攻め合いが発生しました。この攻め合いは上辺だけ見れば見れば黒が有利そうでしたが、中央が薄く白に切られて収拾が付かなくなり、結局白は上辺の黒を取って左右がつながり、どこにも弱い石が無くなりました。ここで黒の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 村川大介9段 対 洪爽義4段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が村川大介9段、白番が洪爽義4段の対戦です。最初の攻防のポイントは右下隅で白の低いカカリに黒が挟み、白がケイマにかけて黒が這ってという展開になりました。その後黒が白の再度のカケに出切っていって、激しくなりました。しかし結局黒は白に右下隅に沿う手を打たせたことに満足して切った2子は捨てて右辺の模様を築きました。その後黒が左下隅にカカり、白が挟んで、黒が中央下部の白に一本利かしを打ってから左下隅でカケました。これを白が出切って行きました。その後黒に疑問手が出て、一転切られた右側は捨て気味に左辺に付けて行きました。しかし結局白が左辺も頑張ったので、黒も右側を活きに行くことになり、黒が一応両方上手くしのいで、形勢はやや黒が良いかという感じでした。その後白は左辺から中央の黒を攻めましたが、黒も左上隅の三々に入り地を取りながらしのぎました。後は右辺の黒模様がどの位まとまるかでしたが、白は深く入らず浅く消しました。その判断は間違っていなかったと思いますが、その後黒がその消しの白の連絡を切りに来た時に上辺の黒の一間ビラキに割り込んだのが疑問手で、黒は白1子をポン抜いて厚くなり、その結果右上隅の二間ジマリがそのまま地になりました。この結果黒がわずかにリードとなり、終わってみれば黒の2目半勝ちでした。