白井喬二の「若衆髷(わかしゅわげ)」(完読)

白井喬二の「若衆髷(わかしゅわげ)」(サイレン社、1936年5月20日発行)を読了。昭和8年から9年にかけて、新潮社の雑誌「日の出」に連載されたものです。主人公は、平井権八で、歌舞伎では白井権八として知られています。一般的には平井権八(白井権八)は郷里因幡から江戸へ出てきてからが知られています。フィクションですが、幡随院長兵衛と知り合いになり、そこで居候になり、「権八」といえば居候の隠語になるくらい有名です。江戸に出てからの権八は辻斬りで130人もの人を殺した大悪人ですが、遊女小紫と深い関係になり、権八が処刑された後小紫は自害し、後に比翼塚という二人を偲ぶ石碑が作られ、現在は目黒不動瀧泉寺にあります。白井喬二は、この悪人の鳥取時代を描きます。白井も生まれは横浜ですが、両親共に因幡藩の士族であり、自身も13歳の時に鳥取に戻ります。そういう意味で同郷の有名人であり、また「白井」権八と呼ばれることもあって、親近感を抱いていたのかもしれません。この物語での平井権八は色の白い、明晰な、正義感の強い若者として描かれています。しかし、たまたま「喧嘩買い」と呼ばれる武士からはみ出た不平不満の者の集まりの一人である辻堂寺覚之助を裁くことになったことから、因幡藩の中にはびこっていた腐敗を知ることになり、正義感からの行動が結局自身の転落を招くことになります。白井喬二の眼はこの若者に同情的であり、決して本来の大悪人ではなく、やむを得ない運命の変転により転落していく人生を克明に描いていきます。この物語は権八が江戸に出る直前で終わっており、言って見れば権八の前半生の話で終わっています。なかなか読み応えのある作品でした。