NHK杯戦囲碁 伊田篤史9段 対 今村俊也9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、高校野球のため13:30よりの放送。黒番が伊田篤史9段、白番が今村俊也9段の対戦です。
布石では、白が下辺に打ち込んで中央に逃げ出した弱い石を持ちながら、上辺に模様があり、黒は下辺の白を攻めながら右下隅から右辺に模様を張っていきました。白が上辺の白模様と右辺の黒模様の接点となる所を飛んでいった時、黒は上辺に打ち込んで行きました。白が受けずに右辺をコスんだ時、黒は更に上辺右の白の中に打ち込みました。これが上手い手で左側の黒か右上隅の黒かにどちらかに渡れました。結局白が右上隅をハネ、黒はいい形で左側の黒と連絡しました。右上隅の黒が心細くなったため、黒は活きに行きましたが、代償で中央の白が厚くなりました。ここで白は右下隅に付けて黒ハネに切り違えました。黒が一目抱えた後、隅に下がっていれば小さく活きることが出来ましたが、それだと小さいということで、当てて行きました。黒は当て返してこの白全体を取りに行きました。その後白が当てたのが間違いで結局ここの白は全て取られ右下隅が味良く黒地になりました。代償で白は右辺を少し侵略しましたが、元々そこに大きな黒地は見込めなかった所であり、この分かれは明らかに黒優勢でした。そこで白としては局面を複雑化して乱戦に持ち込むしかなく、左上隅の黒を攻めると思わせながら、左下隅から延びた黒の中央に飛んだ一子の左側に付けて行き、黒が上からハネたのに左に延びたのが、実に鋭い勝負手でした。黒はこの白2子を取り込むことが出来ず、この白が中央に逃げ出したため、左下隅からの黒に二眼無くなり、一気に勝負模様になりました。しかし眼のない石が絡み合う複雑な局面で白が間違え、結局左上隅の黒が活きて白の投了となりました。しかし敗れたとはいえ、今井9段の鋭さが出た対局でした。

白井喬二の「梁川庄八」と「梁川庄八諸国漫遊」(講談の小説化)

ヤフオクで落札した「白井喬二自選集」(輝文堂、1942年)の中の「梁川庄八」を読了。梁川庄八は戦前の講談で有名だった仙台藩出身の豪傑のようです。1926年に映画にもなっています。白井の小説では、泥亀という盗賊を捕らえる話と、そもそも親の仇である茂庭周防を討ち取る所で話が終わっています。終わり方が中途半端だったので買ってみたのが左のもので「長編講談 豪傑智勇 梁川庄八諸国漫遊」で、大正6年の出版です。この2つを比べると、大衆小説が最初「新講談」って呼ばれたのは良く分かります。講談の方が白井のより話としては面白く、特に庄八の母親が女性ながら大変な力持ちで、器量は良くないのですが、庄八の父が酒が入った状態でからかって、最後はその女性を妻にするエピソードがなかなか面白いです。庄八は茂庭周防を討ち取った後自首して牢に入れられますが、最終的には脱獄して、日本全国を旅します。そして行く先々で義に加担して大暴れします。「諸国漫遊」というと水戸黄門が有名ですが、この頃の講談には明智光秀のとか猿飛佐助の諸国漫遊というのもあったようです。梁川庄八は日本人が好きな義に厚い豪傑です。しかしながらGHQの封建思想の抑圧によって戦後はまったく忘れられてしまったようで、ググってもほとんど情報が出てきません。白井のこの小説はそれほど出来がいいものではありませんが、少なくとも梁川庄八という忘れられたキャラクターを教えてくれるきっかけにはなりました。尚、立川文庫では「柳川庄八」という表記になっています。