井上寿一の「戦争調査会 幻の政府文書を読み解く」

井上寿一の「戦争調査会 幻の政府文書を読み解く」を読了。先の戦争で不思議なのは、いわゆるPDCAが十分行われないで、今後また間違えないようにする、という意識が徹底しなかったことです。しかし、1945年11月に幣原喜重郎が、その当時の政治家、官僚、軍人から聴き取り調査を行い、学識経験者が40回の委員会を開いて、戦争の原因と敗因を調査しようとしていたのを初めて知りました。この試みはしかし、当時別に東京裁判が進行中で、戦勝国の立場から日本を裁くということで、それ以外に日本が独自で自分達の過去を調査することが、また将来の戦争につながるんではないかというほとんど言いがかりみたいなクレームがイギリスやソ連から入り、アメリカは反対ではありませんでしたが、それらの国の反対を論駁出来ず、途中で調査会は解散になります。そのため調査は途中で終っているのですが、まあ興味深いのはポイント・オブ・ノー・リターンがどこだったかということで、アメリカとの戦争を決定づけたのが、三国同盟と南部仏印駐留だったとしています。一部の委員は戦争の原因を明治維新にまで遡ることを主張しますが、そこまでやると発散してまとまらないということで採用されなかったようです。東京裁判の結果として、戦争の責任者の多くが戦犯として処刑され、それらの人から聴き取りをすることも不可能になります。私の個人的意見ですが、日本人は当時も今も、目先の、せいぜい1年先くらいのことについては比較的に計画的にやってやり遂げますが、5年先、10年先といった戦略を立てるのが下手のように思います。当時、将来に文明の衝突的に日米が対決すると予想していた人は多くいましたが、まさかそんなすぐにアメリカと戦うことになるとは予想出来ていなかったと思います。残念ながらこの本で知った新しいことというのはあまり多くありませんでした。